Pust' otzvuchit Op.17-3 10 Romansov |
やさしい調べが 10のロマンス |
Pust' otzvuchit garmonichnoje, nezhnoje pen'je, V pamjati vsjo jeshchjo zvuki revnivo drozhat. Pust' otcvetajet fialka, prozhivshi mgnoven'je, V venchike blednom khranitsja jejo aromat. Svetlyje rozy, skonchavshis', tolpoj pogrebal'noj, Iskrjatsja v pyshnykh buketakh, kak v nebe zvezda. Tak ja s toboj razluchjon. No tvoj obraz pechal'nyj V serdce mojom, ubajukannyj, dremlet vsegda. |
やさしい調べが 穏やかに消え去っても 心の中には いまだにその音は鳴り響く 命枯れて スミレの花がしおれても 記憶の中には その芳香は香り続ける 美しいバラがその死を迎え 棺の中に積まれても その花束の輝きは永遠に続くだろう 空の星のように あなたが永遠にいなくなっても あなたの思っていたことは 私の心の中でやすらぐ、いつまでもまどろみ続ける |
プロコフィエフなどがその詩によく曲をつけているロシアの詩人バリモント(Konstantin Dmitrevich Bal'mont (1867-1942))は外国語にも堪能だったのだそうで、自作の詩ばかりでなく、こんな風に外国の詩をロシア語訳して紹介していたのだそうです。それで彼がイギリスの詩人シェリーの有名な詩”Music,when soft voices die”を訳したこんなロシア語の詩には、ロシアの作曲家タネーエフがとても美しいメロディをつけました。
彼のOpus.17(1905)、10曲からなるロシアン・ロマンスですが、そんな風にシェリーの詩をバリモントが訳したものをたくさん歌曲にしてくれています。
タネーエフの作風はというと、チャイコフスキーの流れを汲むとてもロマンティックなものですから、このシェリーのような耽美的な詩にはまさにピッタリ。できれば原詩で聴きたいところかも知れませんが、どうせロシア語なので多くの方は歌詞を聴き取れるわけでもないでしょうし、普通日本語の対訳から意味を取るでしょうから(私もです)、それはないものねだりということで...
でもロシア語の詩も、韻の踏み方はとてもきれいですね。歌になったときの響きもとても素敵です。
Hyperionレーベルにあるサヴェンコのバス、ブロークのピアノによる”English poet in Russian Songs”にこのシェリー-バリモント/タネーエフの歌曲が4曲収録されており、この美しい世界を実際の音として体験できます。これに限らずバイロンやシェイクスピアの印象的な詩に、グリンカやムソルグスキー、ショスタコーヴィチなどのロシアの作曲家がどんな音楽を付けたのか、がたくさん聴けてたいへん興味深い録音でした。
今回バリモントのロシア語訳を読んで面白かったのは第2連。原詩でははっきりと書いていないのですが、ここは愛する人の死のイメージなのでしょうか。
私の誤読の可能性もあるのですが、バリモントの詩がそう読めたのでそんな雰囲気で訳してみました。
なお、シェリーの原詩はこちらです。そう言われてみれば「愛する人のベッドにバラの花束を積み上げる」、ってのは葬送のイメージがありますね。
ここで死ぬバラとは恋人その人のことでしょうか。
「あなたが行ってしまったあとでも when thou art gone」というのも死のイメージを感じましたので、けっこうこれが正解なのかも。今までそういう意味に読めていなかった私の鈍感さにちょっと恥ずかしさを感じます。
Music,when soft voices die,
Vibrates in the memory -
Odours,when sweet violets sicken,
Live within the sense they quicken.
Rose leaves,when the rose is dead,
Are heaped for the beloved's bed;
And so thy thoughts,when thou art gone,
Love itself shall slumber on.
( 2006.02.03 藤井宏行 )