Podvik Op.60-11 12 Romansov |
勲功 12のロマンス |
Podvik est i v srazhenje, Podvik est i v borbe, Visshij podvik v terpenje Ljubvi i molbe. Jesli serdce zanylo Pered zloboj ljudskoj, Il nasilje skhvatilo Tebja cepju staljuj, Jesli skorbi zemnyje Zhalom v dushu vpilis, S veroj bodroj i smeloj Ty za podvik beris: Jestu podviga krylja, I vzletish' ty na nikh, Bez truda, bez usilja, Vyshe mrakov zemnykh; Vyshe kryshi temnicy, Vyshe zloby slepoj, Vyshe voplej i krikov Gordoj cherni ljudskoj! |
戦いにあって勲功があり 争いにあっても勲功がある でもよりすばらしき勲功は忍耐 そして愛と祈り もしも人々の悪意を受けて 心を痛めつけられた時でも もしも鉄の鎖よりも強い 荒々しい感情に縛り付けられた時も そして底なしの悲しみが 胸を突き刺すときでさえも 勲功を果たすべく尽くすのだ 堂々と、心からの信念を持って 勲功は空を飛ぶ羽を持つ そしてお前はそれに乗って飛翔するのだ 努力も 苦しみもなく 地上のあらゆる闇の上を 束縛の牢獄の屋根の上を 盲目の怒りの上を 悲鳴と泣き言の上を 驕り高ぶった群衆の |
この詩のテーマである“Podvik”(英語でいうとFeat)という言葉はしっくりとくる日本語が見つからず翻訳に困ってしまいました。既訳でも「いさおし」であったり「勲功」であったり、はたまた「偉業」という題を当てていたりしてこれはという言葉は見つけきれていないようです。というのも日本語ではこういう自己の信念に基づいて何かを達成する、ということに対する適切な言葉がないからでしょうか。「偉業」でも「功績」でもこれらの言葉にはどこか他人の目や評価が入ってきてしまう感がありますが、ここで歌われているのはそんなちっぽけなものではなく、もしそれを評価するのだとしたらそれは神様だけがされることなのでしょう。結局私も諦めて「勲功」にしてしまいましたが、そんな気持ちを汲み取っていただけると有難いです。最近面白いブログ記事を見つけたのですが、企業において今や常識のようになっている「コンプライアンス」という言葉、正しくは「コンプライアンス&エシックス(倫理)」なのだそうですね。つまり法や規則を守ってさえいればあとは何をやってもいいよ、というのでは全然十分ではなくて、そこには人としての、あるいは社会としての倫理・規範がなければならない、のですけれども日本の社会ではここがすっぽりと抜け落ちてしまっている。「そりゃルールは守っているかも知れないけれど、そんなことをしたらお天道様に対して恥ずかしいよ」という歯止めがどんどんなくなってきている社会ではこの歌の意味はもはや理解できなくなってきているのかも知れません。
そうは言いながらも、そんな倫理観・使命感で生きている人も世の中にはいなくなったわけではありません。表層的なものを見て、あるいは誰かに踊らされて俗人たちは“Podvik”に向けて努力するそんな人たちをああだこうだ責めたり揶揄したりします。最近はNetも匿名が普通になってきて(それ自体は悪いことではないですが...)、「偉ぶった卑怯者ども」が自分だけ安全圏においてこれ以上ないような醜い言葉で他人を罵倒している。そんな心無い仕打ちに傷付いたすべての人を力強く励ますようなホミャーコフの詩です。そしてチャイコフスキーの音楽です。初めは低い声で沈鬱に重苦しいのですが、段々と力強く飛翔していく、そう「ちっぽけな諍いなどはるかに越え」て...
私自身はまだそんな目に遭ったことはありませんが(というよりも誰もかまってくれない...まあ倫理観も使命感もあんまりないのでいいんですが)、ちょうど通り魔の犯罪が増えているように、いつ何時そんな卑怯者どもにカラまれるかはわかりません。そして今、そんな仕打ちに苦しんでいるすべての人にこの歌を捧げたいと思います。でも同じことをやりかえしたらダメですよ。
この曲はバス歌手のための曲ということでなかなか最近は聴ける録音がありません。ロシアの名バス歌手、エフゲニー・ネステレンコの歌ったMelodia盤が素晴らしいのですが、彼の運命もまたこのような俗事のいざこざによって左右されてしまったかのように、最近は彼の姿も、そして録音も見かけることはなくなってしまいました。彼のこの歌を聴くたびにそんなことを思って何とも言い難い気持ちになります。
Amazonなどで検索すると、今容易に手に入るのはホロフトフスキーの歌ったものくらいしかないみたいですね。でもこれも魅力的な歌だと思います。
( 2006.01.29 藤井宏行 )