2011/10/05 ECJのプレミアリーグのテレビ放送判決 |
10月4日のECJ(European Court of
Justice/欧州司法裁判所)の判決がイングランドの先の高等裁判所の判決を実質的に覆したものとして話題になっています。
これは、イングランドのポーツマス市にあるパブ(Red,
White and Blue)のオーナー、カレン・マーフィー(Karen
Murphy)が、ギリシャの衛星放送のデコーダを使ってパブ内でイングランド・プレミアリーグのテレビ放送を流していたことに対してプレミアリーグが中止を求めてイングランドの高等裁判所で勝訴したものでした。敗訴したマーフィーさんは、プレミアリーグに対して£8,000(約100万円)を支払う義務を課されたものでしたが、これを欧州司法裁判所に持ち込んで逆転判決を得たというものです。
事件の背景 プレミアリーグは、試合のテレビ放映権を国ごとに販売しています。イングランドではスカイ(Sky)とESPNの2社のみがプレミアリーグの放映権を持っています。ギリシャではNovaというテレビ局が持っているようです。
更に、プレミアリーグを見るために、各国の視聴者が支払う料金は国ごとに異なっています。個人の視聴者の料金も異なると思われますが、パブなどの放映権は、イングランドでは月間£480であるのに対してギリシャでは£180と3分の1程度の価格になっています。
もちろん、ギリシャの衛星放送を見るには、専用のデコーダを設置する必要があります。そのための設備費用は報道では明確な数字がでていませんが、合計でもギリシャの方が安いような印象です。
土曜日の3時の試合 ただし、今回のマーフィーさんの事例のように、イングランドのパブがギリシャ(EU内の他国)のテレビ放送をわざわざ契約して流している最も大きな理由は、「土曜日の3時の試合はイングランドではテレビ放送できない」ルールにあります。
イングランドのプレミアリーグは、基本は土曜日の3時である(テレビ放送の都合で他の時間や日月にずれる試合もある)ことは別のページで書きました。その「メイン」である土曜日の3時の試合がイングランドでテレビ放送できない理由は、プレミアリーグが「ファンに(テレビ視聴ではなく)スタジアムに行って試合を生で見ることを奨励するため」伝統的に課しているルールです。
つまり、イングランドでは放送されない土曜日の3時の試合を見たいファンのためにパブが外国の(EU内の他国の)テレビ放送を流すということが実態として行われていたことが、今回の事件の発端でした。
今回の判決の最も重要な点は、 ・イングランドのプレミアリーグが、EU内の国が正式に得たテレビ放送権を、EU内の他国の住民がそれを視聴することを制限することがEUの法に触れる →つまり、EU内の市民は、EU内のどの国の放送でも自由に契約して視聴することが出来る ということです。この背景は「プレミアリーグの試合そのものは著作権の対象にならないから、これを国ごとに制限することは不可」という原則です。
ただし、プレミアリーグが「制限できるコンテンツ」として、(試合そのものはダメだけれども)、プレミアリーグのテーマソングやプレミアリーグが独自に編集したハイライトビデオ(毎試合、放送開始直後に放映されるもの)、プレミアリーグのロゴ、その他プレミアリーグの制作物であるビデオ、などに関しては、それを使うためにはプレミアリーグの許可が必要、と規定しました。
今回のECJ判決は、プレミアリーグ側の敗訴ですが、ただし、ECJ判決をEU各国の裁判所にて「自国に適用される」必要があり、まだこのマーフィーさんの事件は完了したものとは言えません(ただし、ECJの判決に抵触する判決を下すことは基本的にできないとされています)。
更に、プレミアリーグ側が今後どのような措置を取るかについてはまだ不明瞭な部分があります。判決の中の後者の部分に関しては特に不明瞭です。
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