観戦記
2012/01/31 エバトン 1-0 マンチェスターシティ |
試合前のリバプール市内
グッディソン・パークでの初観戦に出かける前に、サウスポートにある友人の店によることにしました。いつもアンフィールドでお世話になっている友人一行のうちの一人です。地元の人だから、隣人のスタジアムのことも良く知っています。今からグッディソン・パークに行くと告げると「ものすごい古いスタジアムだ」と教えてくれました。アンフィールドも古いけど、もっともっと古いのだ、とのことでした。ふむ。どんなものかと期待がわきました。
更に、リバプール市内にエバトン・ファンがたくさんいるだろうか、と聞いたところ、「リバプールとは違ってエバトンはインターナショナルなチームではないので、市内にはあまりファンはいないだろう」とのこと。
さすが地元の人、で、その友人の言葉はことごとくあたっていました。リバプール・セントラル駅に付くと、出口に一人エバトンのシャツを着た人が立っていたのが市内で見た唯一の青いシャツでした。
更に、Liverpool Oneにあるエバトン・ツー(Everton Two)という話題のクラブショップに入ったところ、なんと客は私一人でした。店の広さはその左2軒隣にあるリバプールと同じくらいでしたが、その中に客が一人、しかもマッチディ、という状況を考えるとなかなか感動的でした。
そこからセントラル駅に向かう途中の大きな書店の2つのショーウィンドウには、1つはビートルズ、もう1つはエバトンとリバプールの書籍などが飾られていました。リバプール市が誇る人気グループがこの3者なのだということが良くわかって、ほんのりした気持ちになりました。
この町は、私が初めて訪れた1980年代半ばからずっとそうでした。逆に言うと、当時はビートルズを全面的に押す動きは今より遥かに少なかったため、リバプールFCとエバトンFCの二大フットボール・チームがこの市の「お国自慢」みたいになっていたわけです。
それから26年経ち、ビートルズの取り上げ方こそは大きくなったものの、2つのチームが常に肩を並べてショーウィンドウに飾られる様子はずっと変わりません。
隣のマンチェスター市は違いました。90年代はずっと、シティが低迷していたせいでしょうか、ツーリスト・インフォメーション・センターに行ってもユナイテッドのプロモーションだけが目に付き、まるでマンチェスター市には1つしかフットボール・クラブがないように感じました。もちろん、それは逆に、真相ですが、その唯一のクラブの方が「お国自慢」に入っていないということは奇妙だと、真剣に思いました。
もっとも悲しかったのは、マンチェスター市内にホップ・オン・ホップ・オフ・バスが出来た時に、その停車場所にはオールド・トラッフォードだけが入っていて、メイン・ロードは入っていなかったことでした。シティ・ファンはどう思ったことだろうか、と今でもふと感じます。2004年にシティがシティ・オブ・マンチェスター・スタジアムに引っ越してからは、ホップ・オン・ホップ・オフ・バスもシティのスタジアムにも止まるようになり、次第に観光客向けのプロモーションにもシティとユナイテッドが肩を並べるようになりました。
それに比べると、リバプール市はずっと、市内の2つのクラブが仲良く(コマーシャル上は、ですが)肩を並べてきたわけです。
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スタジアム行きのバス
さて、市内での用事をすませていよいよスタジアムに向かいます。セントラルからサンドヒルまで行き、連絡バスに乗ることにしました。ストーク戦でアンフィールドに行った時と同じバスです。その時にはサウスポートから「アンフィールドまで」と言って日帰り往復の切符を買ったのですが、今回は先に市内に行くつもりだったため、サウスポートから「リバプール市内まで」と日帰り往復の切符を買って、サンドヒルズを通り越してセントラルまで行きました。
市内での用事を済ませてスタジアムに向かう時には、セントラルから2駅ですがサンドヒルズまで行き、そこから乗り継ぎバスに乗ろうと思ったのです。そのため、セントラル駅でまずはバスのチケットを追加で買うつもりでいました。
サンドヒルズの駅で降りて、前回同様に乗り継ぎバス乗り場に向かいます。決して少なくない乗客が同じ方向に向かっています。スタジアムへの行き方として、地元の人に聞くと大抵はこのルートを勧められますが、実際によくよく見ると、地元の人はこのルートを使う人は多いようです。というよりは、我々のような外国人観光客はライム・ストリートからだとクイーンズ・スクエアのパス・ステーションから直行のバスか、もしくはタクシーを使いますが、地元の人はサンドヒルズまで電車で行って乗り継ぎバス、というルートを好むようです。私の印象ですが、この乗り継ぎバスに乗っている人は殆どが地元の人(サウスポート方面のマージーサイドの住民)のように見えました。
自分もサウスポートに滞在している最中にスタジアムに行ってみると、やはりこちらの方が遥かにラクだという気がしみじみしました。電車は1時間に4本の頻度で殆ど正確なタイミングで通っているし、乗り継ぎバスも便が多く、道路を走る距離も短いため交通渋滞による遅れなどが少なくて済みます。
ともあれ、この日、サンドヒルズのバス乗り場に着くと、やはりバスは3台連なっていました。バス乗り場にはちゃんとスタッフがいて、適度に乗客が詰まると順番に発車するようになっています。そのスタッフに電車の切符を見せて、乗り継ぎバスの切符はいくらですかと尋ねると、なんと追加料金は不要と言われました。
後から値段を調べたところ、ストーク戦で「アンフィールドまで」と言って買った切符は£4.70、グッディソン・パークに行った時と同様に、スタジアムではなく通常のリバプール市内への日帰り往復は£4.20と、僅かですが50ペンスの差がありました。ただし、切符そのものを見ると、印字されている文字をじっくり読まない限りは両者の差には気付きません。後日よーーく考えたところ、グッディソン・パークではバスのスタッフが切符を見ただけで乗り継ぎバスの料金込みだと思いこんで、追加料金不要と言ったのではないだろうか?という気もしました。地元の人に聞いてもみんなはてなマークになっていたので真相は不明です...
さて、バスに乗ってグッディソン・パークに向かいました。
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スタジアム近辺
試合は20:00キックオフなので、着いた時にはもう暗かったのですが、着いた瞬間に、明らかにアンフィールドとは違う場所に止まったことがわかりました。
同じ道沿いですが、止まる位置がアンフィールドに比べてぐッディソンの方は100メートルくらい先、つまりグッディソン・パークのスタジアムの目の前まできて止まります。アンフィールドだとバス停からスタジアムが見えないのに対して、グッディソンの方は、バス停を降りると目の前がスタジアムです。この近さは、アンフィールドとは比べ物になりません。うむ...このバスはエバトンの回し者なのだろうか?と一瞬、感じたのも無理はないと思います。
ともあれバスを降りて、クラブショップの横を通ってスタジアムに向かいました。クラブショップは市内の方とは違い、さすがに混んでいました。このショップは、できたばかりの頃にはスタジアムと独立した建物ということでイングランドの中でも珍しかったのでした。今は、リバプール市程度の大都市にあるクラブはたいてい、市内にクラブショップがあるので全く珍しくはなくなりましたが。
クラブショップの前を通り、道路を渡ってスタジアムに行きます。その交差点の角にチャイナ・レストランがありました。窓に大きくポスターが「マッチデイ特価£4.99」とあります。中をのぞいてみると満席でした。このレストランは、マッチデイが稼ぎ時なのかもしれません。
スタジアムの入り口に来ました。ふだんは閉まっている門が空いており、マッチデイでなければ見られない風景に出会いました。道沿いには所せましと出店が並んでいます。試合に向かうファンで混雑しており、いい雰囲気になってきました。これまでアンフィールドの試合の時に「ついでに」グッディソン・パークに寄った時には見られなかったものです。「グッディソン・パークにファンがたくさんいる」
試合開始までまだ1時間近くありました。夜でしたが、とにかくスタジアムの外周を写真を撮りながら一周することにしました。途中、スタンドとスタンドが隙間がある個所に行きつきました。DWスタジアムみたいです。
プログラム売り場と出店のクラブショップを通り過ぎたところで、写真を取り歩いていたらたまたま写真に入った3人組のグループがこちらに気づいてニコニコ笑いながら「オー・バロテッリーーー」とチャントしてきました。なんと、アウェイ・サポーターでした。「あら、シティのファンだったんですね。失礼」と言うと、笑って手を振ってくれました。なかなかいい感じのアウェイ・サポーターです。
アウェイ・スタンドを過ぎたところで、自分のスタンドの前を通りました。スチュアードさんが(外国人が珍しかったのでしょうか)、みんな親切にしてくれました。グッディソン・パークでこんなに親切な待遇に遭うとは期待していなかったので、結構感激しました。
ふとゲートの横を見ると、次のホーム戦であるチェルシー戦のチケットの宣伝ポスターがいたるところに貼ってあります。なんか、こんなに宣伝しなければ売れないのだろうかとふと哀愁を感じました。ちなみに、このチェルシー戦のポスターは、試合中にスタンドのジャイアント・スクリーンにずーーーっと「チェルシー」とでかでかと宣伝文句が表示されていたのです。ちらっと見ると、いったいこのスタジアムはどこのクラブなのか勘違いしそうでした。
スタジアム近辺には、意外に出店の数は多かったのでした。アンフィールドと変わらないか、むしろ多いくらいの印象でした。なかなかこれも予想外でした。
四方回って最初の道に出たところに、有名な教会がありました。地元のエバトン・ファンの知人に聞いた話ですが、以前、クラブがこの教会を買い取ろうとしたことがあったそうです。グッディソンもアンフィールドと同じく、住宅地に囲まれているからスタンドの拡張は無理です。その中でもこの教会が最も難しい問題だったとのことでした。
さて、スタジアム一周を終えて、ゲートをくぐって中に入ることにしました。さきほどのスチュアードさんが笑顔で迎えてくれて、中に入りました。私はエバトンのクラブショップの袋を持っていましたが、荷物チェックもありませんでした。
中に入ると、なんとトイレの数も非常に多いのに驚きました。女子トイレの数です。ただし、多くの女子トイレが付き出たような形で立っているので、あとから(女性ファンが増えた頃に)増設したのかもしれないと思いました。ともかく、一か所に個室が2つずつあります。個室の数を単純に比べると、アンフィールドより多いのでは?というくらいです。これも感激しました。おかげで、一度も列に並ばずにすみました。
更に、スタンドのバーは意外にすいていました。この試合は、ほぼ満席に近い程入ったのですが、でもバーは意外にすいています。よくよく見ると、バーは複数個所ありました。なるほど。これが混雑を避けている理由か、と思いました。
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古いスタジアム
さてスタンドに入りました。自分の席は階段からすぐそばでした。トイレに行く時に便利だと思いました。
自分の席に付いて、スタンドを見回すと、そのスタジアムの古さに驚愕しました。これはすごい。友人が「古いよ」と言った理由が実感できました。アンフィールドは、メイン・スタンドだけが柱があるスタンドですが、なんと、ここはほとんどすべてのスタンドが柱だらけなのです。
しかも、私の席はアンフィールドのメインスタンドとすらも比べようがないようなすごい視覚障害席でした。私の席からゴールまでの間に、太い柱が最低3本はあったと思います。ゴールを見るためには体を左右に乗り出してみなければなりませんでした。すごい席でした。
もっと驚いたのは、一階席だったのですが、屋根が非常に低く、私の席からピッチを見ると、ボールが上に上がった時にはボールが屋根に隠れて見えなくなります。試合中、何度もボールが消えました。スタジアムの中にいるのに、ピッチ方向の視界は上半分が屋根で覆われており、垂直方向には柱がある、という、なんだか昔話の古い映画館にいるような気になってきました。これは凄い。ファンが応援するためにスタジアムに来るという目的でなく、単に試合を見るという目的だけだとしたら、テレビの方が良く見えるのではないだろうか、という気がしました。
このスタジアムでは、ファンが新しいスタジアムを求める理由も理解できるとしみじみ感じました。エバトンもリバプール同様、スタジアムにはずっと苦戦していて、2つ目の案も却下になったところです。スタジアムだけを比べると、マンチェスターの2つのクラブとは比べ物になりません。リバプールの2つのクラブはこの先どうなるのだろうか?という気がふとしました。
ちなみに、私の席はアウェイ・スタンドのすぐ近くでした。直接見ることはできなかったものの、声はびんびんに響くという感じの近さでした。今回は各スタジアムで(リバプールのアウェイ戦を除くと)全てホーム・スタンドでしたが、殆どの試合でアウェイ・スタンドの近くに陣取りました。チケット購入の際に、選択肢がある試合では意図的に選んだというのも真相ですが。
というのは、やはり試合中のファン同士のやり取りを見るのも楽しみのひとつだからです。
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試合中のスタンドの反応
さて、試合開始前のラインナップ発表の時から既に、ホーム・スタンドからの元エバトンのレスコットに対する強烈なブーイングが始まりました。試合中、ずーーーっとレスコットが集中攻撃を受けました。なんとなく、気の毒になりました。もちろん、アウェイ・スタンドからはその都度、レスコットの歌(「レスコットはプレミアリーグのNo.1」)で反撃しました。それにしても、古巣のファンにブーイングで迎えられる選手はちょっと気の毒だと思いました。
試合内容は、エバトンの強烈な守りが戦略勝ちしました。シティは全くだめだめで、こんな情けないプレイは...先日のボルトン対リバプール並みだなあと感じました。
ちなみに、私の前の席に座っていた男性二人組が、少なくとも一人は明らかにシティ・ファンでした。よくよく見ると、その二人組のうちの一人はエバトン・ファンで、友人と一緒に来ていたという感じでした。このシティ・ファンの方の人は、試合中のところどころのプレイに対する反応で、ばればれでした。
かく言う私も、思わずシティの主将バンサン・カンパニーに拍手をしてしまったので、周囲の目にはあやしく映っていたかもしれません。もちろん、通常の習慣に従い(アウェイ・スタンドにいる時は別ですが、この時はホーム・スタンドだったので)、ここでもホーム側を応援することに決意していました。
しかし、この試合唯一のゴールの瞬間に、立ち上がらなかったのはその人と私だけでした。というか、決意はしていたものの、やはりゴールの瞬間はがっかりの方が「決意」に打ち勝ったわけです。でも、私は一瞬遅れてしぶしぶ立ち上がりました。前にいるシティ・ファンの男性は顔を手でおおって下を向いていました。
そのゴールの後は、ホーム・スタンドからアウェイ・スタンドに向かって立ち上がって手を振る、どこでもおなじみの揶揄のジェスチャーが出ました。その後で、なんと「マンチェスターはXXだらけ(Manchester is full of s**t)」チャント。これって、マンUファンの定番「マージーサイドはXXだらけ(Merseyside is full of s**t)」のぱくりではないか、と頭を抱えてしまいました。考えようによってはものすごくひねったパロディ、というところでしょうか。しかし、隣人ユナイテッドの定番チャントのパロディを受ける羽目に陥ったシティ・ファンが気の毒になりました。
ちなみに、エバトン・ファンのチャントはすべてリバプールの「リーーーバプーーール、リーーーバプーーール」というやつと「リバプール、リバプール、リバプール...」というやつと全く同じチューンで、文言を「エバトン」に変えただけの吹き替えでした。歌は1曲だけありましたが、ほとんどがこの2種類のチャントだけでした。
対するシティの方は、ホーム同様にブルー・ムーンを始め選手個人の歌が次々に、切れることなく続きました。
ところで、既に日本でも話題になっていると思いますが、40分頃に発生したピッチ侵入男は、みんなびっくりでした。前にいたシティ・ファンの男性が、隣の友人に「あれ、何?」と質問するも誰も回答を持っておらず。後でニュースで「この侵入男は前科があるプロテスター」と報道されましたが、事件の瞬間はみんなはてなマークでした。試合は5分中断しました。
ハーフタイムには、いつものようにトイレに行ったのですがしかし列が全くなかったため、すぐに席に戻ってきて、余興をしっかり見ました。新戦力の、レンジャースからサインしたばかりのNikica Jelavicのお披露目式がありました。センターサークルに立ち、場内アナウンスが紹介し、スタンドから温かい拍手を受けていました。エバトンの新戦力....なんとも珍しい組み合わせでしょう。
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試合後&やはりビターズ!?
試合後、出口への階段から近い席だったため、殆ど混雑にも会わずすぐに外に出られました。そのままスタジアムを出てバス乗り場に向かいました。
アンフィールドからとは違い、スタジアムからバス停までは非常に近いため、すぐにバス乗り場に着きました。更に、スタジアムから連絡バスの乗り場までに、たくさんのバスを見ました。普通のLime Street St行きのバスが3台、道の逆側には、逆方向行きのバスが3台並んでいました。その少し先に、連絡バスがこれまた3台並んでいました。すごいサービスの良さです。これならば何の問題もなくサンドヒルズの駅まで行けそうです。
と思いながら連絡バスの列につくと、バスの背面に「peoplesbus.com」と書かれているではありませんか。むむむ。まさに、このバスはエバトンの回し者ではないかとピンと来たのですが、それは正解でした。なんと...
ちなみにこの時もダブルデッカーだったので、上に行きました。ほぼ満席になって、バスは間もなくスタートしました。乗客はみな、エバトンの勝利を祝い、にこにこ笑いながら喜びの会話を交わしていました。当然のことだと思います。
発車して間もなく、前の方で誰かが「アンディ・キャロルが得点した!」と叫びました。その瞬間に、全体が「えっキャロルが得点した?」とざわめきが起こりました。私は後ろの人に「リバプールが勝ったの?」と質問すると、その人は顔をしかめて「そうらしい」と、いかにも悔しそうに答えてくれました。それから、乗客はみんな一斉に首を横に振って、沈黙してしまいました。
なんと...自分のチームがリーグ・リーダーに勝った試合の直後に、リバプールが勝ったというニュースを聞いて急に沈んでしまうとは....。リバプール・ファンがエバトン・ファンのことを「ビターズ」と呼び、「ビターズとは、エバトン・ファンではなくアンチ・リバプール」と言って笑うのはジョークだと思っていたのですが、真相でした。本当に、自分たちのチームの勝ちよりもリバプールの結果の方が重要なのだ、とビターズの実態を知って、私は心の中で爆笑していました。
以上、簡単ですがエバトン対マンチェスターシティの観戦記です。
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