本能





それはなんとも不思議な光景だった。
愛しの恋人が、キッチンで何が出来あがるのか全く想像が付かない食材を前に
小難しい顔をしながら腕組みをし、ブツブツと言っていた。
多分、物凄く不安そうな顔に見えたのだろう、彼女は自分の存在に気付くと「ダイジョブだから」と一言言い放ち、
アッチへ行けと手を振られ渋々キッチンを離れた。



それは数分前のこと。
ほとんど寝るためにだけにしか使っていない自分の部屋へ
突然押しかけるように玄関先にやってきた彼女が、両の手一杯に紙袋を抱えて言った。
「キッチン貸して!」
このあいだ二人でレストランで食事をした時だった。
何かの話の流れから、お互いに忙しい身。
外食ばかりで体に良くないという話から、料理が出来る出来ないの話題になり、
彼女が今度、手料理をご馳走してくれるという事になった。
実際、彼女の手料理は口にしたことはなかったし食べてみたいと思ったが、
それは何時という細かなことまで決めるわけでなく、
なんとなく口約束だけで終わったはずだった。
それが突然、ひょっこりとプラントの自分の住居に彼女がやってきた。
「オマエさぁ、来るなら来るって連絡ぐらいしてこいよ。もし居なかったどうするつもりだったんだよ」
「別に居なかったら居なかったで、作って置いておけばいいじゃない」
「そうだけど、何日も戻らないコトだってあるんだぞ」
「もう、いいじゃない!居たんだから」
まったもってくおっしゃるとおりで、彼女のヤル気満々のオーラに負けを認め、お望みのキッチンへ通した。
「相変わらず生活感ないわね」
確かに、ここでコーヒーを飲むためにお湯を沸かすことはあっても、
何か料理をしたことなどなくて、シンクもガスレンジもオーブンも新品同様だ。
ミリアリアは材料をアイランドテーブルにドサリと置き、
背中に背負っていたバッグを下ろしファスナーを開くと、何やらビニールに包装されたものを取り出した。
パリパリと丁寧に包装を開き、袋から引き出した布切れをバーンと自分に向けて広げて見せた。
中から現れたのは淡いオレンジ色をしたシンプルな形のエプロンだった。
「カワイイでしょ?」
彼女はニッコリ笑ってさっさとそれを身に付けると、鼻息を荒く作業に取り掛かった。



リビングでテレビをつけてスポーツ観戦をしていたが、
時折キッチンから聞こえてくるガタゴトいう物音や、「あ」とか「わ」とかいう声が気になって集中できない。
追い出される時に渡されたコーヒーカップを手に、気付かれないようにキッチンを覗いてみることにした。
軍から支給されている住宅とはいえ、一人身には必要ないような広いキッチン。
シンクとは別に、アイランドテーブルが設置されていて、収納も多く水周りも多分条件としては問題ないのだと思う。
普段は素っ気もなんにもない場所に、色とりどりの野菜や魚介類、見た事もない調味料の数々が。
そして何よりもそこにミリアリアが自分のためにエプロンを身につけ、料理をしているという現実に、
嬉しいようなくすぐったいような感覚あちこちに走り、顔がにやけてきた。
彼女の動きを目で追ってみる。
レタスの葉を数枚もぎ取り、手で細かく千切りながらボウルの中へ落としていく。
蛇口を捻り水を出すと、シンク下の戸棚を空け覗き込んで閉じ、口元に手をやり何かを考えながら
キョロキョロ辺りを見回し、今度は頭上の戸棚に手を伸ばした。
するとどんなに精一杯伸ばしても取っ手に手は届かず右へ左へ空を切っていた。
「くぅ・・・」
とミリアリアは声を漏らし、背伸びをやめて「はぁ」と息を吐いたところで、彼女の頭上で扉を開いてやった。
「何がいるの?」
彼女はギョッとした後、ムっと顔をしかめた。
「もう、驚かさないでよ。ザルがないかと思って」
備え付けの戸棚から一度も使われたことのないザルがいくつか重なっているのを見つけ、彼女の手にのせてやった。
「ありがと。さ、邪魔よ!行った行った!」
またしても犬か何かを追い払うように手を振られ、仕方なくシンクから離れた。
それでもリビングに戻る気にもなれず、出て行くフリをして入り口付近で腕組みをして壁に寄りかかった。
どうせ何もすることがないし、何よりも彼女がそこで料理をしている様子を見ていたかった。
ミリアリアはオレが取ってやったザルをさっと水洗いをすると、ボウルに入ったレタスをソコへ移した。
次にまな板と包丁を取り出したまねぎを刻み始めた。
トントンとテンポのよい音に、結構できるんだなと感心し彼女の後姿を見つめた。
くるりと跳ねた髪がリズム良く少し揺れている。
その時、エプロンをした女性がキッチンで料理をするという姿を、初めて目の前で見ていることに気付いた。
袖口と裾に花柄の刺繍がしてある薄いブルーの七部丈のカットソーに、
ふんわりとした綿でできた白い膝丈ほどのスカート。そして淡いオレンジのエプロン。
そんな気など全くなかったはずなのに、意識した途端に思わず喉がなってしまった。
(バッカ、殺されっぞ)
もうすっかり冷めた残りのコーヒーを口に含み、リビングに戻ろうとしたその時だった。
「いたっ!」
その声に振り返りシンクに駆け寄った。
背後からそっと覗き込むと、俯く彼女の左の人差し指からは、ぷうっと赤い雫が噴出していた。
それを彼女が自分の口に含むよりも先に、俺の口がくわえ込んだ。
「っ!ちょっと!」
ミリアリアは顔を真っ赤にさせながら、口をパクパクさせている。
チュウっという音を立てひとしきり吸い終えた後、両手で彼女の指を引き抜くと、傷口はそんなに大きくはなかった。
「あ、ありがと。ダイジョブよ」
彼女は俯き気味にシンクへ向き直ると、気を取り直したかのように今度はセロリを刻み始めた。
一心に料理をする彼女の頬は未だピンクに染まったままだ。
なんだかもったいないような気がして、ミリアリアの背後に立つと腰に両腕を巻きつけ、体をぴったりくっつけた。
「ひゃっ!なっ、何よ!危ないじゃない!」
首を捻り睨みつけてくる彼女の首元に顔を埋めると、一層大きな声を上げた。
「なんかさー、手伝う事ないかなーっと思って」
腰に回した両手で腹の辺りを撫で回すと、小さいながらも抗議の声をあげ、首を竦めて体を捩じらせた。
「なんにも・・・、ないわよ。あっちに行って!」
「あれ?もう感じちゃってんの?エッチ」
「誰が!」
片手は腿を、もう片手は胸の膨らみを撫で回し、服の上からこの辺りにあるであろう頂をきゅっと摘み上げると
「あっ!」と声を漏らした。
「ちょっ・・・と、はな・・・して。あぶな・・・んっ」
ほんの少しイタズラするつもりが、思いのほかミリアリアの反応が良いのでついつい調子にのってしまった。
彼女は必死に体を強張らせ、声を殺している。
軽いスカートを捲り上げ直に腿の内側を弄りながら、首筋から耳朶へと舌を這わせては所々チュッと吸い上げ跡を残す。
「ミリアリア・・・」
耳の入り口をぐるりと舐め回すと、彼女はもう我慢が出来ないとばかりに体を仰け反らせ大きく声をあげた。
よくよく考えてみると、お互いにとんとご無沙汰だったことに気付く。
体に触れただけで彼女は甘く鳴き、自分は既に中心部分に熱い塊が形を成していた。
それでもまだ彼女は両膝を合わせ脚を閉じて最後の抵抗をする。
「頼むよ、イイデショ?」
「・・・ダメ」
体をビクビクと震わせながらも受け入れる気配のない腿を撫で回すのを諦め、
背後に手をまわし尻の割れ目に沿って一気に熱い部分へ指を滑り込ませた。
「やあぁん!」
いきなり確信に触れられ、シンクに倒れこみそうになる彼女の体を空いた手で支える。
指を前後に動かすと、布越しに篭りがちながらもはっきりグチャグチャと淫らな音が耳に届いた。
「ミリィのエプロン姿に欲情しちゃったんだ。今、しよ?」
返事のないのをいいことに、彼女の体に張り付く下着を少しだけ下ろし、
自らもはちきれんばかりのソレをズボンの中から引きずり出すと、
ミリアリアの腰を突き出す形に持ち上げ自身をソコへあてがおうとした瞬間、視界の中で何か光るものを感じた。
瞬時に焦点をソレに合わせて驚く。
鼻先でキラリと光るソレは、先程までセロリを刻んでいた包丁の刃先だった。
「今はイヤ!」
刃の奥に焦点を移すと、むうっと口をへの字に結び睨みつける瞳があった。
「へぇ」
ニヤニヤと笑ってみせると、刃先との距離が縮まった気がした。
そん所そこらの男なら飛び上がって後ずさるんだろうケド、ソレを見た自分は中心で自身が熱く跳ねていた。
「そんな脅し、余計に興奮するんですけど」
「変態!」
その言葉を合図に、一気に貫いてやった。
「あぁっ!」
鼻先を刃が掠める。
(やばっ)
刃先が当たると思った一瞬の恐怖と、彼女の中に入り込んだ快感。
なんともいえない興奮がザワザワと全身を走りぬけた。
激しく出し入れを繰り返し自らを追い立てる。
彼女はイヤイヤと首を振り、ギリリと音がするのではないかと思うほどきつく包丁を握り締め、快感に絶えている。
鋭利な刃先を見て思い出す。
アークエンジェルの医務室で切りつけられたあの時、ミリアリアは本気でオレを殺そうと刃を振り下ろした。
が、今は、悦びに耐えながら理性と戦い、俺に向かって刃先を向けている。
今の彼女にはできやしない。
本当に?
イヤもしかしたら、腕を突き出し頬を切り込まれるかもしれない。
背筋がゾクリとする。
堪らない。
ミリアリアに変態と言われるのも仕方がない。とんだマゾヒストだ。
どうしようもなく暴れてしまいたい衝動をぎりぎり押さえ、それでもきっといつもより激しく愛液にまみれるソコへ腰を打ち付けている。
「はぁ・・・、ゴメン、もうイっちゃいそうだよ・・・」
目の前には包丁を握ったまま、腰をくねらせ、よがるミリアリア。
そこへ憎しみに目を見開き鬼のような形相の彼女にナイフを振り下ろされる瞬間がフラッシュバックした。
ガラン!
その音に、自分は目を閉じていた事に気付く。
ミリアリアはとうとう耐え切れず、包丁を落としシンクの端を握り締めていた。
腰を抱えていた片手を前にまわし、茂みの中から肉芽を引っ張り出し摘み上げる。
「やあぁん!」
ミリアリアはガクガクと足を震わせ、背を反り、大きく声をあげた。
塊をぎゅうぎゅうと締め上げられたその時、ディアッカは動きを止めると、柔らかな尻肉を撫でながらゆるゆると腰を擦り付けた。



全て吐き出しゆっくり体を離すと、ミリアリアはズルズルと床にへたり込んでしまった。
「おっと」
横抱きに体を持ち上げると、俯いたまま彼女は何かを呟いた。
「ん?」
「ヒドイ・・・」
いつも勢いでヤっちゃった後は、物凄い剣幕で怒る彼女だが、今日は何か様子が違う。
「あーっと、ゴメン・・・」
抱えたまま顔を覗き込む。
「せっかく暗記してきたのに・・・、レシピ飛んじゃったじゃない。もう知らない」
ミリアリアは心底落ち込んだ表情をしていた。
「なんて料理名?」
「・・・ラなんとかユっていうソースみたいなの。それも忘れちゃった・・・」
しょんぼりした顔も、なんとも可愛らしい。
「じゃあさ、こうしよう。後で調べて二人で作ろう。」
口はへの字のまま、チロっと上目遣いに見上げてくる。
「よし、決まり。とりあえずアッチ行こう」
「アッチって?」
「寝室」
「なんで寝室なのっ?」
「端末が寝室にあるから。ミリアリアはホントにエッチだなぁ」
「バカ!」
ミリアリアは体をバタバタさせるが、有無を言わさずキッチンを後にした。



結局、二人が調理に取り掛かる頃には、野菜の葉がしんなりとなっていた。






昔々に読んだマンガのネタをちょっとパクってます。某様のお話を読んで触発されました。ちょっとやりすぎたかなぁ・・・。反省。
実はもっと男性向きな内容のバージョンも考えたけどほんとやりすぎになっちゃうからヤメトキマス(汗)