夢で逢えたら



カランと音を立てて、ビールの空き缶が転がった。
もう何本目かと、指差し数えてみる。
「なんだ、まだ四本じゃない」
決してお酒に強いほうではないけれど、なんだか今日はまだ飲めそうな気がして、キッチン目指し歩きだす。
冷蔵庫を開けると、ひんやりとした冷気が熱を持った皮膚にあたって気持ちがよかった。
きちんと陳列された缶ビールを一本取り出し、なにか食べようかと辺りを見回してみる。
たまには手料理でもふるってあげようと買い込んできた食材が、無造作にダイニングテーブルに放置されたままだった。
すぐに口にできるものはないかとガサガサ袋の中をあさるが、調理しなければ食べられないものばかりで、ガックリと肩を落とす。
「張り切りすぎよね、・・・バッカみたい」
山のように積まれた食材の袋を指で弾いた。
するとゴロリと音をたて、一本のビンが袋から転がり出た。
それはアイツと二人で飲もうと購入した、暑い国のワインだった。
ビンを持ち上げ、天井からぶら下がる照明にかざして、濃い赤色の液体を見てみる。
「・・・飲んじゃおかな」
ビールを元あった場所に戻し、引き出しからワインオープナーを探し出して栓を抜いた。
シンク横のスペースに、グラスを置いてトクトクと勢いよく注ぐ。
周りに飛び散った水滴を乱暴に手で軽く拭い取り、反対の手でグラスを持ち上げると、一気に飲み干した。
「フフ、値段の割にはおいしいじゃない」
空になったグラスとボトルを抱え、フラフラとリビングに戻ると、ソファを背に床に座り込み、また勢いよくワインを注ぐ。
想像以上に美味しかったので、今度はゆっくり味わうように少しずつ口に含んだ。
テレビからは何やら楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
クイズ番組っぽいけれど、内容がよく分からない。
「・・・あ」
そういえば、アイツに何種類もお酒を混ぜて飲むなと言われていた事を思い出した。
悪酔いするからだと。
でもビールとワインだ。そんなに何種類でもないし。
グラスを目の前に持ち上げ、クルクル回してみる。
こんな美味しいワイン、一人で飲むなんてもったいない。
こんな日に限って、帰ってこないなんて。
クイとまた一口飲み干すと、テレビから流れてくる笑い声が遠く聞こえなくなっていった。



ピンと筋が延びた首の痛みが和らぎ、固まっていた筋肉が柔らかい物に包まれる。
(ワインを飲んでいて、それから・・・)
もっと気持ちのいい場所がないかと重たい頭を動かすと、懐かしい香りがした。
その匂いがもっと欲しくて手を伸ばしてみる。
指先に暖かな感触を感じ、ゆっくりと瞼を開く。
ぼんやりと見えてくる景色に、紫色の目だけがまるで獣のように薄暗い部屋の中で光っていた。
(夢・・・?)
もっと近くで見たくて両腕で手繰り寄せる。
抵抗することなく近づくそれに、唇で触れることができると胸の辺りがじんわりした。
柔らかい瞼の上をゆっくりなぞり、そのまま鼻筋に沿ってすべらせ柔らかな唇にたどり着く。
離すまいと腕を首に巻きつかせ自ら舌を差し入れると、待ち構えていたかのように絡め取られた。
(熱い)
ぬらぬらと互いに味わいながらも、ミリアリアはシャツから覗く褐色の肌を見つけ唇を離しそこへ吸い付く。
鎖骨の上を唇を這わせ、シャツのボタンを一つ一つ外していくと
わき腹から手を差し込み、しっとりした肌を撫で回す。
少し弾力のあるその感触がたまらなく気持ちが良かった。
おもむろにミリアリアは目の前にある体を軽く押してみる。
するとそれは容易く離れゆき、そのまま押し上げ自分の隣へ仰向けに倒す。
彼女は熱を持った肌の上を確かめるように手を滑らせながらその大きな体のしかかると、
男のシャツの襟元を両手で掴み再び口付けた。
少しずつ唇をずらし、顎のラインを舌でたどり熱い筋肉の上を移動させる。
そうして小さく硬くなった部分を見つけると、チロチロとそれを舐めあげた。
彼女の下にある体が、ぴくりと反応する。
しばらくそれを堪能した後、腹筋に沿って下腹部へ舌を動かし、へその周りをクルリと一周させると、
再びその筋の上を舐めながらもう片方の硬くなった部分をチュっと音を立て吸い上げた。
また、ピクリと体が動く。
ミリアリアは愉快な気分になり、手を下腹部へ動かし薄い生地の中から、
既に大きく自らの存在を主張するそれを引きずり出した。
一旦、体を離しそれを両の手で支えながら、ゆっくりと顔を近づけ、舌を出して口の中へ押し込む。
「・・・っ」
頭上から、息を呑むのが聞こえた。
頭にはやんわりと両手が添えられ、ミリアリアは時々強く吸い上げながら何度も出し入れを繰り返す。
顔を傾けそおっと頭上を見上げると、男は薄く目を開きこちらを見下ろしていた。
そのまま目線をそらすことなく、大きく反りたつそれに沿って舌を這わす。
お酒の力を借りているとはいえ、少々挑発的すぎたかと冷静に考える自分が別にいた。
けれどやめられなかった。
それどころか、いつもよりも丁寧に舐め続けた。
そのうちに、一滴、白い液体が目の前にこぼれ落ちてきた。
思わず「フフ」と声が出てしまう。
すると突然、両脇に手を差し込まれると、そのまま勢いよく持ち上げられ、男の体の上に馬乗りに座らされる。
ミリアリアは夢から覚めたようだった。
男は呆然とする彼女を下から見上げ、ももの内側に沿って撫で上げ下着の中に手を差込むと、
既に疼き始めていた部分に直に触れる。
「あっ・・・!」
ミリアリアは大きく声をあげ弾かれたように背中をしならせると、指がゆっくり動かされ始めた。
内からは蜜がどんどん溢れ、その熱い液体を利用し前後に滑らせる。
気持ちがいい。
ミリアリアは目を閉じ、しばしその指の動きに酔いしれた。
触れるか触れないかの刺激を与えられることよって、手や足先がチリチリと痺れる。
布越しとはいえ静かな室内では、はっきりとその水音が耳につき、彼女を淫らな気分にさせた。
堪らずミリアリアは、自らスパッツに手を掛け勢いよく下着ごと脱ぎ捨て、
膝を立てて再びその男の上に跨ると、すぐ目の前に紫色に光る獣の目があった。
男はうろたえるミリアリアの腰に手を回し引き寄せると、まさに雫が落ちようとするその部分に容赦なく彼自身を押し込んだ。
「ああっ!」
いきなり訪れた衝撃に後ろへ倒れそうになるが、がっちりと支えられる。
ミリアリアも不安定な体制を立て直すべく男の肩に腕を回す。
男はそのタイミングを見計らって、大きく回しながら中を押し広げるようにゆっくり腰を動かし始めた。
「や・・・あっ!」
しっとりと濡れてはいるものの、突然に入り込んでくるそれに少々痛みが走る。
その動きから逃れようと、肩を押し腰を浮かそうとするが、しっかりと押さえ込まれた腕によって白と黒の肌がぴったりと貼りついたまま離れない。
それどころか更に深くえぐられる。
「ちょっ・・・、待っ・・・て、あぁん!」
ゆっくり慣らすように腰を動かされ、次第に痛みが悦びに変わっていく。
肩に回した腕に力を込めて縋り付くと、片手で顎をつかまれ舌をねじ込まれた。
「んっ・・・ふっ」
荒々しく動き回る舌に、彼女なりに必死に応える。
与えられる快感と酸素が足りないせか、だんだんと意識が朦朧としていく。
首に巻きついた彼女の腕の力が和らいだのを感じ取った男は唇を開放し、ミリアリアは大きく息を吸い込んだ後、男の耳元に唇を寄せた。
その直後、自ら地雷を踏んでしまったことに激しく後悔することとなる。
腰に回された腕に力が入ったかと思うと、今度は前後に擦り付けるような動きが加わった。
「あぁっ!」
突然の激しい動きにミリアリアは目を見開き、男の顔を見やると、
眉間にしわを寄せ苦しげな表情をしながらも口元はうっすらと笑みを浮かべ、いっそう大きく揺さぶられた。
ミリアリアは男の耳元で言ってしまったのだ。「もっと」と。
「あっ・・・あっ・・・」
男は片手で腰を離れないようにしっかり固定すると、もう片方の手でミリアリアのTシャツをめくり上げ、
目の前に現れた硬く突起したものを口に含み吸い上げる。
「やあぁっ・・・・!」
全身が痺れ、早くも彼女は繋がった部分をひくひくと痙攣させ始め、限界と信号を送りだしていた。
「まだ、ダメだよ」
男は短く息を吐き、まだだといわんばかりにさらに強く腰を押し当てる。
彼女は離してと腕を突っぱねるが、聞き入れてもらえるどころか、既に達しているのに一番感じる部分を外さず突き続けられる。
「ディアッカ!おねが・・・もう・・・、ああっ!」
体中の毛穴から汗が吹き出るかのように熱い。
頭を激しく左右に振りながら、体を弓なりにしならせ、筋肉が盛り上がった肩にきつく爪を食い込ませた。
(息ができな・・・!)
すると突然動きが止まり低く呻く声がしたかと思うと、拘束されていた腕が緩み体が開放された。
「・・・反則」
ディアッカはそのまま後ろへ大の字になって倒れこむ。
馬乗りの状態のミリアリアは、胸に手を当て呼吸を整えると、体を重ねるようにうつ伏せに倒れこんだ。



「混ぜて飲むなって言っただろ?」
「うん・・・」
ミリアリアは絶頂をむかえた事によって一気に酔いが醒め、急に羞恥心が膨れ上がってしまっていた。
手や足の指先から冷えて感覚がなくなっていく。
(私ったら、何やってるの?)
自分の下でまだドクドクと早鐘のように脈打つ胸に、顔を押し付けた。
すると暖かく大きな手がゆっくりとミリアリアの頭を撫でると、頭上からは「はぁ」と盛大な溜め息が聞こえた。
「他に言う事はないの?」
「・・・メリークリスマス」
ミリアリアは気だるい体をゆっくり起こし、そっとディアッカの唇に口付けた。
「メリークリスマス。・・・こういの、またしてくれる?」
それはそれは嬉しそうに笑っているので、ミリアリアはイヤと即答ができなかった。
「・・・考えとく」
暫くの沈黙の後、そう答えると体を引き寄せられ、再び深く口付けられた。