Open wide your mouth



轟音が辺り一帯に響き渡ると、一機の旅客気が着陸する。
久しぶりに海外から帰国したミリアリアは、出口で荷物を受け取ると急ぎ足で空港の外に出た。
「やっぱり、オーブはいい国だわ」
長時間のフライトですっかり固まった体を解すように背伸びをすると、
ガラガラとスーツケースを転がし、駐車場へ向かった。


「元気だった?」
愛車のボディーをポンポンと叩き、ドアロックを開錠し、後部のハッチを開く。
長期にわたって出かけていたのにもかかわらず、わりと小ぶりのスーツケースとショルダーバッグを放り込んだ。
バンっと勢い良くハッチを閉じ、雨ざらしだった車からついた手の埃をパンパンとはたくと、
「ミリアリアじゃないか!」
後方から聞き覚えのある声がかかり、振り返る。
「あぁ、ピエトロ!久しぶり」
フリージャーナリスト仲間のピエトロという名の青年が、手を振りながら近づいてきた。
「ミリアリアも、今帰国?」
ミリアリアよりも大きなジュラルミンケースを脇に置くと、彼女に手を伸ばす。
「ええ、あなたも?」
彼の手を握り、微笑んだ。
「南半球に行ってきたんだけどさ、まあ、たいして収穫はなかったよ。君は?」
「私もよ、同じ飛行機だったのかしら?」
握手をした手を引こうとしたが、ピエトロは離してくれなかった。
一瞬、ギョッとする。
彼は欧州の陽気な国の出身者なのだが、今はオーブに拠点を置いて活動を続けている。
何度か現場で一緒になる事もあり、互いに情報交換などをするようになっていたが、
お国柄か、少々コミュニケーションの取り方が馴れ馴れしくて、
ミリアリアはそんな彼が少し苦手だった。
「来週、もう一度トライするんだけど、君、そっち詳しかったよね?」
ミリアリアは頷きつつも、手を離さない彼に対して苦笑した。
「そっちの話をしがてら、今夜、食事でもどう?」
声色が少し変わったかと思うと、空いた手を腰に回してきた。
ミリアリアは、ぞわぞわと背筋に悪寒が走り、手を払いのけたい衝動に駆られるが、
仕事仲間だ。今後も顔を合わせる事もある。
ぐっとこらえると、やんわりと腰に回された手に、自分の手を添え離すよう促した。
「ごめんなさい、今夜は予定があって」
「明日は?」
腰にある彼の手をはずすように軽く押すが、離れない。
これじゃはたから見たら、再会をした恋人同士に見えない事もない。
「ごめんなさい、明日も」
すると、握っていた手の方が離される。
「残念、じゃ、また今度ね」
肩を落としてそう言うと、腰に回された手に力が込もり、体を引き寄せられ、こめかみに口付けられた。
自分で体が強張ってしまった事に気付いたが、なるべく自然に笑顔を作る。
「ええ、また」
その言葉を合図にやっと体を開放され、電話してという仕草をしながらピエトロはもと来た通路を戻っていった。
ミリアリアは全身の力が抜け大きく息を吐くと、後部ハッチにもたれる。
「いけない」
腕時計に目をやり、慌てて運転席に向かった。
すると、そこには既に誰か座っている。
話をしているうちに、知らない人間に乗り込まれてしまったか?
「だれ!?」
驚きのあまり声を上げる。
全開の窓から、浅黒い男の肘だけが出ていた。
「おれ、お帰り」
ひょっこりと顔を窓から覗かせると、折りたたまれた腕を伸ばし手を挙げた。
「ディアッカ?」
知っている顔で、ホッと胸をなでおろす。
「おどかさないでよ、いつからいたの?」
ミリアリアは、運転席横に近づき、体を屈ませる。
「さっきから、乗れよ」
見られていたんだろうか?なんとなく気まずい雰囲気だったが、気を取り直して助手席に乗り込んだ。
するとディアッカは無言のままエンジンをかけ、発進させた。
「早かったのね?」
「うん」
会話が続かず、沈黙になる。
ちらりと横目で彼の顔を盗み見るが、サングラスをしていてよく表情が分からない。
さっきのあの光景を全て見られていたのなら、彼にとってあんまり気分のいいものではないだろうケド
仕事仲間と話をしていただけだ、別に自分に非はない。
(そうよ、あれは挨拶よ)
「さっきのダレ?」
話しかけられ、精一杯の笑顔を作って返事をしてみる。
「あ、うん、フリー仲間よ。お互いに情報交換してるの」
「ふーん」
ミリアリアの想像どおり、機嫌は良くなさそうだ。
恋人同士の関係になってからこっち、二人は互いの故郷を離れることなくそれぞれで暮らし、
それぞれの仕事をそれぞれの意志で続けている。
だからといって互いに意地を張り合っているわけではなく、むしろ、互いの想いを尊重しあっていた。
そうしてプラントと地球という、究極の遠距離を続けて数年、今日は何ヶ月ぶりかの再会だった。
「今夜どうする?出かける?それとも買い物して、たまには家で食事しようか?」
「・・・どっちでもいいけど、家で食事がいいかな」
やはりよろしくない。
いつもは何ヶ月も会えなかった時間を取り戻すかのように話が途切れる事が無いのに、
今日は会話なっていない。
さっきのあの状況を、一部始終見られていたのだろうか?
だったら声を掛けて、助けてくれればいいのに。
自分が困っていた様子は、ディアッカならわかっただろうに。
少し腹がたったが、窓の外を流れる美しい故郷の景色を見ていたら、なんだかバカバカしくなった。


大通りから一本裏に入ったところに、ミリアリアが一人暮らすアパートがある。
ディアッカは手馴れた手つきでハンドルを切ると、半地下になっている駐車場へ車を滑り込ませた。
ミリアリアはリモコン操作して入り口のシャッターが下がったのを確認すると、ドアノブに手を掛ける。
するとガシャという音とともにドアロックがかかった。
ミリアリアは一瞬驚いたが、何かの手違いかと思いドアのロックを自分で外す。
またしてもガシャリと、再び、全ドアロックがかかる。
なんのいたずらか?不思議に思ったミリアリアは、苦笑しつつ運転席に座るディアッカを見た。
「どうしたの?」
突然、サングラスを外さないままこちらを向いていたディアッカが身を乗り出し、ミリアリアに覆いかぶる。
「な、なに?」
彼の行動に驚いたミリアリアは、目を見開いたまま動けずにいた。
ディアッカは助手席シート横に手を伸ばすと、静かな電子音とともにゆっくりとシートが倒れていく。
彼はひょいとコンソールを乗り越え助手席に移動し、ミリアリアにのしかかった。
「ちょ、なんなの?」
体を起こそうと軽くディアッカの胸を押したが、びくともすることなく、無言のまま見下ろされる。
まったく状況が飲み込めないミリアリアは、ただ呆然とするしかなかった。
「ねえ、どう・・・」
唇を塞がれた。
ただでさえ少し薄暗い駐車場だ。サングラスをしたままの彼の表情は、全くわからない。
いいしれぬ恐怖を感じたミリアリアは、精一杯抵抗を試みる。
顔をそらし、抗議の言葉を発しようにも、しつこく追い回され声すら出すことができない。
めいっぱい首を反らせ、やっとの思いで唇から逃れたかとホッとするのもつかの間、
今度はすぐに、Tシャツの裾から手が差し込まれると一気に、下着ごとめくり上げられる。
「ちょっと!なにするの?」
ディアッカは少しだけ体を離し
「チェック」
と薄く口元が笑うと、再び唇に吸い付き、大きく手を動かし目の前の体を弄り始める。
「や、・・・、やめ・・・!」
どんなに抵抗しようも、ただでさえ狭い車内、思うように力が入らない。
唇を割って入り込んできた舌の感触に、ミリアリアの理性が壊れそうになる。
(こんな場所で・・・)
暫くぬらぬらと口腔内をなめまわされると、満足したのか唇を開放される。
すると今度は、柔らかく生暖かい感触が首筋を這って、徐々に胸元へおりてゆくのが分かった。
「やめて!こんなの・・・っ!」
怒りよりも、快感に負けてしまいそうになる。
胸の片側は舌で派手に音をたてながら舐め上げられ、もう片方の胸は大きな手のひらによって揉み撫で回された。
「あっ・・・」
抗議の声を上げるつもりが、艶かしい声色に変わってしまった自分に驚く。
何ヶ月ぶりの行為だからか、知らず知らずのうちに、意識がそちらに移行していく。
ふと片方の膨らみから熱が引いたと思うと、ジーンズのホックをはずされ、
下着の上から既に熱くなり始めていた部分を撫でられた。
「ちょっと!・・・やめてっ!」
ミリアリアはその骨ばった男の手をそここから引きずり出そうと、掴むが簡単には動かない。
布の上から何度も割れ目に沿ってこすりあげる。
「あっ、イヤ!」
必死の抵抗もむなしく彼女の手を振り払われると、細く長い指が下着の中に入り込み、湿った部分に直接触れた。
「あぁっ!」
全身が痺れる。
するりといとも簡単に滑り込んだその指は、蜜の溢れる入り口に差し込まれた。
「いやぁ!」
めいっぱい体をよじり、それから逃れようにも全くかなわず、
それどころか、どんどん秘所の奥深くに入り込んでいく。
激しく内部を掻き回すその行為に、ミリアリアは抵抗できなくなっていた。
「ああぁ・・・んっ」
狭い密室、音の広がらないこの空間は、淫らな響きが耳元で聞こえるかのような錯覚にさえ陥る。
朦朧とする意識の中、薄く目を開き、助手席の窓を見やると、
彼女の体から発する熱のせいか、窓がうっすら曇っている。
自分の腕があたったのか、その曇りを拭いとった部分がある。
そこから見える先には、先ほどおろしたシャッターがあり、まだ高いであろう太陽の光が隙間から差し込んでいる。
シャッターのすぐ横には居住フロアから駐車場へ続く扉がある。
今にも開きそうなその扉に、心臓がいっそう早まった。
「おねが・・・、もうやめ・・、あっ」
頼る場所を求めていた手が、目の前の男の胸元を握り締めると、
激しく左右に首を振り、もう限界と告げる。
すると、あと少しで達しようというところで、突然、溢れ出るその部分から指が引き抜かれる。
(えっ?)
一瞬、何が起きたのか分からないミリアリアに、ディアッカはクスリと笑う。
ミリアリアは自分の下半身に目をやると、
腰を浮かせ、彼の骨ばった手へと、自ら快楽を求めるようにその部分を擦り付けるのが見えた。
そこに集中していた全身の熱が、一気に顔にのぼってくる。
「や・・・っ!」
あまりの羞恥に顔をそらすと、耳たぶに柔らかな感触があたる。
「愛してるよ」
ディアッカはその言葉を合図に、割れ目の先にある突起物を軽く指で挟むと
再び、びしょびしょになっているその部分に数本の指を差し込んだ。
「あぁ!」
内壁をなぞり、前よりもいっそう激しく、
ミリアリアの感じるポイントを、何度も何度も突き上げる。
「いきなよ」
「やっ・・・、あああっ!」
ミリアリアは大きく声を上げ、シートと男の体の間の狭い空間で体を仰け反った。



「こんなところで、なにすんのよ!誰か来たらどうすんの!」
荒い呼吸と心臓をようやく落ち着かせると、目の前にいる男を睨み付ける。
「だから、チェック」
そう言いながら、ディアッカはサングラスをはずすが、全く悪びれた様子はない。
「ミリアリア、人がいいからさ、あーいう押しが強いタイプに弱いじゃん?」
チュッと、音を立てて唇にキスをする。
「そんなに怒んないでよ、気持ちよかったクセに」
唇がふれたまま愉快そうに笑うディアッカに、わなわなと怒りと恥ずかしさが同時にこみ上げる。
ミリアリアは両手を伸ばすと、目の前の顔の頬を思い切り爪を立てて抓りあげた。
「いっへーっ!」
彼が身を引いた一瞬の隙に覆いかぶさったその大きな体を突き飛ばすと、
素早くドアロックをはずし、車の外に飛び出る。
「もう!だいっ嫌い!」
ミリアリアは急いで身なりを整えると、駐車場入り口に向かって大股で歩き出した。
ディアッカも頬を撫でながら車から降りる。
「ごめーんって!ちょっとふざけただけじゃーん!」
「知らない!バカー!」

その晩、ディアッカがミリアリアの機嫌が直るのに、四苦八苦したのは言うまでもない。