ディアッカ・エルスマン


連合からの攻撃を逃れ、アークエンジェルはクサナギと共に宇宙へと上がった。
クサナギがドッキングしている様子をモニターで見ながら、
オーブはどうなってしまったのか、 お父さんお母さんは、無事に避難できたろうか、
これから私たちは、どうするのか。
そんなことをぼんやりと考えていると、「交代だよ」とサイに声をかけられた。
我に返り「ありがとう」と返事をしてブリッジを出る。
食事の時間だけれど、なんだか食欲が無い。
でも喉の渇きはあったので、スポーツドリンクでも貰って 部屋で少し横になろうとミリアリアは思った。
フロアボタンを押してエレベーターの壁にもたれると、自然にため息がこぼれる。
疲れていてるかといえば、ひどく疲れている。
アラスカでの戦闘からこっち、ゆっくり休める時間なんて無かった。
このあいだまで学生だったのに、突然、戦争に巻き込まれ軍人になってしまった。
訓練も何も受けている時間すら無かったのだから、
戦闘に次ぐ戦闘による緊張の連続で、身も心もボロボロになるのはあたりまえだと思う。
これがコーディネーターなら普通の女の子でも違うのだろうケド、私はただのナチュラルだ。
『バカで役立たずの、カレシでも死んだか〜?』
ふと、以前、言われた言葉を思い出してしまった。
胸の真ん中がグっと痛くなり、涙が溢れ出てきた。
「トールは役立たずなんかじゃない」
目をぎゅっと閉じ、頭を左右に激しく振って目を開けた。
「そうだ、アイツ・・・」
バスターは、アークエンジェルに収容されたんだ。
なんとなく気になって食堂へは行かず、そのまま格納庫へ向かった。


格納庫の入り口にたどり着き、キョロキョロとあたりを見回してみると、
バスターの足元に、艦長とフラガ少佐、 そして、その二人に向き合うように赤いパイロットスーツを着たアイツが立っていた。
何を話しているかは距離があるので聞こえないが、 きっと今後の事を話し合っているのだろう。
近づく事も出来ずじっと見ていると、突然、アイツの顔がコッチを向き、目があった気がした。
気のせい?と思った瞬間ニッコリ笑った。
左右後方を見まわしても誰も居らず、 再び彼らの方を見ると、艦長とフラガ少佐も同じようにこちらを向いていた。
(なんか、ヤダ)
急に恥ずかしくなり、この場所から立ち去ろうとすると、
「ミリアリアさん!」
遠くから艦長に声をかけられる。
「なんでしょう?艦長」
俯き気味に振り返り返事をすると、艦長がフワフワと近くまで流れてきていた。
「休憩時間に悪いんだけど、彼に部屋を用意してあげてくれないかしら?  私たち、これからクサナギで打ち合わせなの」
まだ、話し込んでいるフラガ少佐とディアッカから、ミリアリアへ視線が移る。
そんな申し訳なさそうな顔で言われては、断る事ができない。
「・・・はい、わかりました」
「空いている部屋ならどれを使ってもらっても構わないから。  それが済んだらあなたも休んで」
弱弱しく微笑んで、後から追いかけてきたフラガ少佐と共に去って行った。
元正規の軍人とはいえ、このところの想定外のコトが多すぎて艦長も疲れているのだ。
女性の身でよく持ちこたえていると思う。
「なあ」
突然声をかけられ、跳ね上がる。
スグ隣で腰に手を当て、少し屈んで覗き込むようにアイツが立っていたのだ。
「オレの部屋、早く案内してヨ」
あまりの近さに思わず身を引いてしまう。
「なんだよソレ、傷つくな〜。ま、どーでもいいけどさ、  早くコレ脱ぎたいんだよね〜」
到底、傷ついてるような顔でなく、パイロットスーツの首元を緩めながら言った。
「こっちよ」
一言だけ言い放って、通路へ促した。

居住フロアまで、無言で案内をした。
後ろに、黙ってついてきているのを気配で感じ取り
「ココを使って。着替えを持ってくるから、中で少し待ってて」
一つの部屋のドアを開け、倉庫へ向かうため入り口から離れる。
「連合の軍服はカンベンな」
アイツはそう言い捨て、手をひらひらと振りながら部屋へと入っていった。
内心、はぁ?っとも思ったが、彼は元は正規のザフト軍人だ。
それなりのプライドがあるのだろう。
幸い、オーブの服がこちらにも多少積んである。
(それならアイツも袖を通す気になるか)
倉庫で何枚か腕に抱え、部屋へ向かった。

「お待たせ」
声をかけながら部屋へ入ると、アイツはベッドの上で足を投げ出し、仰向けに寝転がっていたが、
私に気付くとサンキュと言いながら起き上がり、パイロットスーツを脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと、いきなり脱がないでよ!」
持ってきた服を抱えたまま、背を向ける。
ゴソゴソと脱ぎ捨てる音の後、手に持っていた着替えを抜き取られた。
「いくつか持ってきたの。サイズがあうかどうか・・・」
しばらくの沈黙の後
「こんなもんじゃない?」
声がかかる。
振り返ると、ピッタリではないけれど、サイズ的にはまあちょうどいいカナ?くらいだった。
「じゃあ、私はこれで」
部屋の入り口に向かう。
「腹減ったんだけど、食堂ドコ?オマエは?メシ食った?」
「オマエ〜?」
「スミマセン、あなたサマ!」
あれ?前にもこんな事やりとりあったっけ?そんな事を考えながら部屋を出て指をさす。
「食堂はこっち。 それからオマエじゃなくて、ミリアリアよ」
突き放すような、かわいくない言い方だった。
「覚えてるよ。俺はディアッカ、ヨロシク」
目の前に手が出てきたが、咄嗟にどうしていいかわからず無視して歩き始めた。
「知ってるわ」
また感じ悪く言ってしまったと思ったが、遅かった。
「あ、そ」
彼は短く答えて、後ろについてきた。
「・・・どうして戻ってきたの?」
唐突だが、聞いてみたかった事だった。
オーブが連合に攻撃される時も、宇宙へ上がるときも、 ザフトの基地へ移動するチャンスはあったはずだ。
「ミリアリアに、会いたかったから」
その言葉に立ち止まり振り返ると、顎を上げ人を小バカにしたように、ニヤニヤと笑っていた。
「ふざけないで。まじめに聞いてるのよ」
顔が熱い。
睨みつけながら言うと、彼は大きな声を張り上げて笑い出した。
「冗談だよ」
尚も腹を抱えて笑っている。
(聞いた自分がバカだったわ。)
からかわれたことで、頭が爆発してしまいそうだったけれど必死で抑え、 笑う彼を置いて大股で歩き出した。
「あ、おい!悪かったよ!そう怒んなって!」
無視して歩く速度を速める。
「アスランとキラと、話し合って決めたんだよ。  自分の目で見て、考えて、何が正しいか、一緒に探そうってさ」
彼はいつの間に追いついたのか気が付くと肩を並べて歩いて、 チラリと横目で顔を覗き込むと、さっきとは違う真剣な目で話している。
男のクセに綺麗な肌だなあと、関係ない事を考えながら見ていると、
「その前に言ったことは、あながち冗談じゃないんだけど?」
パチパチと長い睫が何度か瞬きして、こちらへ向いた。
ドキリと心臓が鳴り、顔が再度熱くなるのが自分で分かってしまった。
調子を狂わされる。
(なに赤くなってんのよ。)
心の中で呟きながら更に速度を速め、半ば走るような状態で食堂へ駆け込んだ。
「着いたわよ!あー、お腹すいた!」
何故か、本当にお腹が空いていた。
「オレも」
振り返ると、ディアッカというキレイな肌の男がニッコリ笑っていた。