どうして・・・



一日の勤務を終えてのようやく食事。
やっと最近食欲が出てきたのに、この状況ではハシならぬフォークがすすまない。
トレーの上でコツコツとフォークでレタスをつつく。
なぜならコイツ、ディアッカが私の前に席を陣取り、涼しい顔して食事をしているからだ。
食べづらい。ものすごく食べづらい。
誰かの前で食事をすることが、こんなにも恥ずかしいと思うことはあっただろうか。
なんでディアッカの前でゴハンを食べる事が恥ずかしいんだろう。
今までで、食事をするときに恥ずかしかった思い出はないかと、過去を振り返ってみる。
そういえばトールと初めてデートをしたとき、おしゃれなカフェでランチをした。
サラダのレタスが大きくちぎられた形で出てきて、
そのまま口に運ぶととんでもなく大口を開けなければいけない。
必死でナイフとフォークで折りたたんで口に入れた。
物凄く時間を掛けてサラダを食べ終え、
パスタに取り掛かったら今度は上手くフォークに巻きつけられなくて悪戦苦闘した。
スプーンの上でクルクルとパスタを巻きつけるが、量の調節が上手くできない。
多く巻きすぎて、これでは口に入りきらず、一度ほどき、
再度挑戦してみたものの、今度は少なすぎて口に入る前にお皿にパタパタと落ちてしまう。
なんでスープパスタなんか注文したのか物凄く後悔をした。
ふと目の前を見ると、トールのお皿は既に空で、「ゆっくり食べなよ」と優しく声を掛けてくれた。
けれど結局、半分以上残してしまった。
食べ方が汚いと嫌われるんじゃないかとか、口元を見られるのが恥ずかしいとか、
あの時は色んなことが頭の中をグルグルと巡って、どんな味のパスタだったか覚えていない。
ドキドキして、胸が一杯で、食べ物を飲み込んでも常に胸の辺りでつかえて、
お水で流し込むしかなかった。
大好きなケーキも食べられなかったな。
ただ、トールが目の前にいるだけで、お腹が一杯だった。
「そーいうの、お行儀悪いっておかーさんに叱られなかった?」
はっとしてトレーの上に目をやると、トマトときゅうりは穴だらけ。
レタスは既にパリパリ感はなく、水気を帯びてグチャグチャになっていた。
「なに?食欲ナイの?食べないとまた痩せちゃうよ?」
「あ、アンタに関係ないでしょ!」
アンタの前だとゴハンが食べづらいの!とは言えず、思わずどもってしまう。
なんだか顔が赤くなっているような気がして、
俯いたままコロッケを小さく切ってフォークで口に運ぶが、
口の中が乾いていて、パサパサのポテトが上手く飲み込めない。
コップを手に取り、お水で一気に流し込むと、胸の辺りでつかえてむせこんだ。
「ごちそーさん」
突然、自分のトレーにイチゴとオレンジが転がり込んできて、驚いた。
「フルーツとか女の子好きでしょ?食べなよ」
「ディアッカは嫌いなの?」
「そうじゃないけど」
そう言い残し、空になったトレーを持って席を離れた。
パイロットなんだからバランスよく食べて健康管理にも気をつけないといけないのに。
私がちまちま食べてる様子が、食欲無いように見えちゃったのかな。
(意識しすぎよ、バカみたい)
ミリアリアは、今までチビチビ食べていたのがウソのように食べ物を口に運んだ。
「おっ、いい食べっぷり」
その声に食事の手を止め、顔を上げると、
コーヒーが入ったカップを手にディアッカは再び彼女の前に座ったのだった。