『赤城義臣伝』と『通俗演義赤城盟伝』

田中光郎

 山本卓氏は『忠臣蔵初期実録集』の解説で、『赤城義臣伝』と『通俗演義赤城盟伝』の関係について別稿を予定している旨を書いておられたが、すでに発表されていたことに最近気がついた。(関西大学学術レポジトリ
 短いものではあるが、目録を比較し、あわせて片島深淵が独自の記述をしていることについて指摘し、示唆に富んだものになっている。瑞光院関連の記事についていうと、「自叙」に独自取材をしていることを書いているので、深淵の創作に出るものではないと考えたほうがよいとは思うが、どんどん伝説が膨らんでいることは間違いなかろう。
 近松茂矩は『昔咄』(義人纂書所収)の中で、片島の『赤城義臣伝』出版にかかわったことを書いており、これにより跋(後叙)の筆者が(署名はないものの)茂矩であったことが確認できる。また、その材料として「秘蔵せし赤城盟伝幷演義、浅見安正が忠士筆記、室直清が義人録等四部をよせて助けて編集の功をなさしめ」云々とあり、『通俗演義赤城盟伝』を片島に提供したのは近松だったらしい。茂矩の発言をどこまで信用してよいか不分明ではあるが、『義士文通』流布の手掛かりになるかも知れないのであわせて書いておく。