Believe
「ふう……」
雲一つない青空。辺りに広がる草原。その草原に横たわる金髪の少年、ラムザはその心地良い空気を味わっていた。
ここはライオネル城から南東にある貿易都市ウォージリス。ゴルゴラルダ処刑場でのガフガリオンの罠を何とか退けたラムザ一行は、態勢を立て直しライオネル城に向かうべく一度ここに戻ってきていた。
武器、防具、回復アイテムの調達。一通り整い、翌朝再出発と決まったところでそれまでは各自自由行動となった。
そんなわけで、ラムザは貿易都市らしい喧騒さから身を離し、街外れの草原で一人のんびりと横たわっていた。
ジークデン砦の悲劇で全てを棄てて逃げ出し、何をすべきかを見出せぬまま傭兵として過ごした日々。それからディリータとの再会をはじめ色々なことがあったが、ようやく何をするかを見出した。だから、今まで『逃げ』を示していたルグリア姓から再びベオルブ姓に戻し、私利私欲を以って動いている兄たちを止めんとしていた。たとえ、それで戦うことになったとしても……。
----そのためにも、まずはオヴェリア様を救出しないと……!
利用されている者を守りつつこの一連の行為を止める。それが立て直しの最初の一歩だ。そしてラムザは忘れていない。その決意を支えてくれた大事な言葉があったことを……。
『今さら疑うものか! 私はおまえを信じる!!』
正直ラムザはあの時不安だった。城塞都市ザランダで自分の妹の話が出た時も内心動揺していたからだ。自分はベオルブの人間であることを隠しているんだ、と。
それゆえ、ゴルゴラルダ処刑場で聞かれた時もオヴェリアのことに関しては本当だったとはいえ、隠していたのは事実だったから申し訳なさもあった。
それが、何の迷いも、何の掛け値もない澄んだ言葉だった。ジークデン砦からずっと暗闇を歩いてきたラムザにとって、それがどれだけの光になったことか。
「ありがとう……」
軽くつぶやいたその時だった。
「何が『ありがとう』なんだ?」
「う、うわあああッ!!」
その当人、アグリアスの声に驚いたラムザは驚いて跳び上がった。そして……。
「あ……」
横たわっていた草原が傾斜の高いところだったのに気付いたものの時既に遅し。必死にバランスを整えようと腕をバタバタさせてもがくも、崩れた態勢を直すことは出来ずにそのまま体は前へと傾いてしまった。
崩してしまい草原の傾斜を玉のように転がっていってしまった……。
「う、うわああああ!!」
態勢が崩れた体は回転し始め、まるで玉の如く草原の傾斜を転がり出した。それは徐々に加速していき、暴走した玉と化したラムザは、そのまま傾斜のふもとにある一本の大きな木に向かって一直線へと転がっていった。
「お、おい!! ラムザーッ!!」
アグリアスの悲鳴に近い叫びと同時に起こった地面の揺れ。下手するとアグリアスまでバランスを崩す程、ラムザが木にぶつかる衝撃が響き渡った……。
「ラムザ! 大丈夫か!?」
アグリアスは慌てて草原を駆け下り、木の根元で苦しそうに頭を抱えているラムザへと駆け寄っていった。
「すまない。驚かせてしまって……」
持っていたポーションを口に含ませ、何とか頭にガンガン響く痛みが和らぎ起き上がったラムザを見て、アグリアスはすまなさそうに頭を下げていた。
「気にしないでください。僕がドジなだけですから」
頭への痛みが残りながらも、何とか笑顔を向けるラムザ。しかし、その痛みが意外と残るため、端から見たら明らかに作り笑顔にしか見えなかったのだが。
「……で、おまえは何を考えていたんだ? 良かったら話してくれないか?」
その言葉に今度はラムザが頭を項垂れる。こういう場面で改めて礼を言う、ましてはその本人が目の前にいる、となるとどうにも言いづらいし何よりも恥ずかしい。
そこで、言い方を少し変えた。
「みんなに申し訳なかったな、と思ってたんです。アグリアスさんに、アリシアさん、ラヴィアンさん、ラッド、ムスタディオ。僕がベオルブ家の者であることを黙っていたことに……」
遠回しな言い方をしなければよかった。ラムザは言い始めてから後悔した。口にすればするほど罪悪感が増幅していく。言葉の最後の辺りは、消え入りそうなくらい小さな声へとなっていた。
顔が上げられない。怖くて上げられない。今の言葉を聞いて相手はどう思っている? やはり本当は怒っている? ラムザは完全の負の思考で支配されていた。
しかし、そんなラムザをアグリアスは彼の左肩に手をポンと優しく置いた。ラムザは恐る恐る顔を上げると、そこには穏やかな笑みを浮かべるアグリアスの姿があった。
「言っただろ? 私はおまえを信じるとな。確かに私も聞いた時には驚いたが、おまえが本当は何者かよりはおまえの今まで示してきた心の方が私にとって大事だ」
「僕の……心?」
「そうだ。おまえは北天騎士団を敵に回してでもおまえ自身の『心』でオヴェリア様に味方してくれた。今だって、おまえがそうやって隠していたことを痛めていただろう? そのような『心』が大事だと思わないか?」
ラムザは黙って首を縦に振った。
「だからラムザ、私はこの先どんなことがあろうともおまえについていく。そのことだけは忘れないでほしい」
そこまで聞いて心から込み上げてくるものがあった。少しでも気を緩めたら涙が出そうなくらい。
しかしそこはぐっとこらえて、本当に言いたかったことを満面の笑顔で言えた。
「ありがとう……アグリアスさん!」
それに対してアグリアスもまた、笑顔で応えた。
あとがき
FFT屈指の名言「今さら疑うものか! 私はおまえを信じる!!」をベースにしたお話でした。いい言葉だな〜、と思いつつプレイするも、その後のラムザの反応なしが物足りなかったのでこんなお話が思い付いたのでした。
もしあの場でラムザの反応ありだったら普通に言ってたでしょうが(あの場に限るとラムザはアグリアスに対して普段のような敬語ではなかった)、あれこれ考えた上になると、結構言いづらくなるのでは? そんな考えで書いたものです。