内的再建
ないてきさいけん


1.日本語における内的再建


比較言語学とは、語の元の形(祖形という)を推定する作業である。
この作業を再建というが、その手法のひとつが、内的再建 (internal reconstruction)である。
これについて説明しよう。

まず以下のような語群があるとする。
ここから、規則性を見出してみよう。


木  焚き木 
戸  網戸  
葉  落ち葉 

注目してもらいたいのは、同じ形態素の音である。形態素を{ }でくくって、ひらがな表記してみると、

{き}  {たき}{ぎ} 
{と}  {あみ}{ど}  
{は}  {おち}{ば} 

ということで、どうやら「き(木)」「と(戸)」「は(葉)」という語は、別の語とくっつくと音が濁って「ぎ」「ど」「ば」になるようだ。このような現象を、連濁という。連濁は日本語で非常に頻繁に見られる現象だ。言語学的に言いかえると、連濁は音が無声から有声へと性質を変える現象であり、有声音と無声音の交替であると言える。さらに、ある形態素に別の形態素がくっつくことで交替が生じるので、形態音素交替とよばれる現象の一つである。

ローマ字表記してみよう。すると
{ki}  {taki} {gi} 
{to}  {ami} {do} 
{ha}  {ochi} {ba} 

というように対応している。
つまり、この3語について言うなら、「複合語をつくると規則的に濁音になる」と述べてよいだろう。
しかし、さらにこれを「音素」の観点で見ると、

k  g 
t  d 
h  b 

という対応をしている。

ここから何か言えることはあるだろうか。
おそらく、「無声音」の k t h と「有声音」の g d b とが対応していると言えるだろう。

さらに調音点についても、k, g は軟口蓋であり、t, d は歯茎であるので、
「調音点を同じまま、有声音と無声音とが対応している。」
と言えばよいだろう。

しかし、h と b については、調音点が一致していない。
h の調音点は声門であり、b の調音点は両唇である。

ここで、比較言語学の基本主張である「現在は不規則だが過去には規則的だった」という考え方を採ろう。
つまり、現在は調音点が一致していないが、過去には調音点が一致していたと考えるのである。
こう考えることで、この表の語群内の関係性が斉一的になるのである。
このような考え方は「構造主義」と呼ばれる。

具体的には、過去には調音点がともに両唇であったと想定することにしよう。
つまり、現在の「葉」の h の音は、過去には p の音であっただろうと考えるのである。
こう考えると、過去には以下のような対応だったという立場になる。
ki  gi 
to  do 
*pa  ba 

  (推定形にはアスタリスク*を付けるのが言語学の慣例である)

これで過去の整った体系を推定することができた。したがって、音変化の法則としては、*p > h である。これが内的再建の考え方である。
現在のところ完全には整っていない体系がある場合に、体系を整える方向性で、語の歴史をつくるのである。
この内的再建は、言語の過去の姿を明らかにする比較言語学の中心となる手法である。

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