比較方法
ひかくほうほう



比較言語学においては、どのようにしてコトバの「比較」をおこなうのか、を見ていくこととしよう。
何も考えずにコトバの比較をしてはならない。ここでいう比較とは、学問的な手法としての比較なのだ。この専門的な意味での比較のことを比較言語学では比較方法(comparative method)と呼ぶ。というか、呼ぶ場合がたまにある。私は個人的にこの呼び方がどうもしっくりきていないが、既に広まっている用語であるようだし、仕方ない。比較言語学における比較方法について、以下に例を挙げつつ説明していきたいと思う。

1.同源語と思われる語を探す

さまざまな言語を眺めてみると、違う言語だといわれているのにも関わらず互いに似ている形が存在する場合がある。
いくつか注意すべきことがある。

(1)赤ちゃんのコトバ(baby talk)は比較してはならない。

(2)オノマトペ(onomatopea)は比較してはならない。
オノマトペというのは自然の音・声をまねた語(擬声語・擬音語)のことだ。たとえば「カッコウ」という鳥は、日本語においてもそうであるが、英語においてその特徴的な鳴き声から cuckoo (発音は [kúːkuː] または [kúkuː] )と名付けられている。似ていると言えるだろう。ただしこういった語を見て、英語と日本語で似ているということで英語と日本語が同系であると結論づけたりしてはならない。似ているのはその鳴き声をまねて表現しているだけのことであり、言葉としての起源が同じだからではないのだ。

(3)借用(borrowing)されてきたであろう語を比較してはならない。
(4)言語接触(contact)によって似てきたであろう語も比較してはならない。
(5)もちろん、単なる偶然(chance)による類似は排除しなければならない。
そして、基礎的な語彙はもちろんのこと、語彙の全体にわたって、規則的な対応がなければならない。


じつは、本当に同じ起源であるのかどうかは、この時点では分からない。本当に起源を同じ・同じでないの二値どちらかを判定するロジックは無いのだ。ここは総合的に判断されるところである。


2.音の対応を探す

次の作業は、同源だと思われる語の中にある音の対応をよく見ることである。 規則的に音が対応していないだろうか?
3.音の対応から音変化と祖形を推定する

規則的に音が対応していれば、次のステップに入ってもよいだろう。 次のステップとは、規則的な対応から、音変化と祖形を推定するステップである。 すなわち、過程(=音変化)と出発点(=祖形)を、演繹的に仮定するのである。 そしてその仮定が、別の新たなデータについてもあてはまるならば、その信憑性は高まるのである。

参考文献 堀井令以知『比較言語学を学ぶ人のために』 世界思想社
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