アスペクト



1.アスペクトとは


アスペクト (aspect)とは、言語学用語の一つで、動作の持続性のことだ。

たとえば、read「読む」は継続 (durative)というアスペクトを持っていると考えられ、他方、sneeze「くしゃみをする」は瞬時 (punctual)というアスペクトを持っていると考えられる。その他に、動詞によっては反復 (iterative)というアスペクトを持つことも考えられる。アスペクトは話し手が動作をどのような持続性で把握したかが表現される。たとえば主要な区分としては、完了 (perfective)と未完了 (imperfective)とがある。「彼は昼食を食べた」というときと「彼は昼食を食べている」というときでは、おそらく指示している事象そのものは同じだろうが、その事象をすでに終わった行為として認識しているのか、それとも現在の行為として認識しているかが異なっている。
以下にいくつか代表的なアスペクトを挙げてみよう。


アスペクトの種類動作表現の例
継続読む
瞬時くしゃみをする
反復
完了食べた
未完了食べている


上の表ではアスペクトとその例となる動作表現を挙げてみた。動作により、アスペクトは異なるので、動詞は表現する動作により語彙的なアスペクト (lexical aspect)を持っている。これを行為タイプ (Aktionsart)という場合もある。
一方で、動詞に付加することで、その動詞がもつ語彙的アスペクトを変更することができる形式がある。上の例でいうと、「~ている」というのは、未完了化させる形式である。また「~はじめる」「~てある」なども、同様である。

補足として、アスペクトのことを日本語で「相」と訳されていることがまれにあるのだが、相という用語はヴォイス(態)の意味で使われたりすることがあり、また、言語学者によっては相を自分独自の専門用語として採用することがあるので、このサイトでは、aspectを和訳せず、片仮名でアスペクトとしていこうと思う。

2.アスペクトとテンス


上でみたように、アスペクトという概念は、動作の続く時間と結びついており、その意味でテンス(時制)とも関係している。

バイビーという研究者によれば、動詞を以下のようにいくつかの文法範疇へと「分解」できる。この中には、アスペクトが入っているのだ。

 動詞=動詞語根+態+アスペクト+テンス+ムード+人称・数

これらの要素が足し合わさって一つになっている状態が融合的(fusional)という状態であり、逆に別々の要素が次々にくっついていくような状態は、膠着的(agglunative)と呼ばれる。


3.アスペクトと語幹


インド・ヨーロッパ祖語は、アスペクトを表現するために語幹を用いていた。アスペクトを大きく3つに区別するため、語幹を3つに区別していたと考えられているのである。語幹とは、語根と接尾辞を合わせた形式を指す。

まず1つ目として、進行中の動作、継続的な動作を表現したいときに、現在語幹 (present stem)という語幹が用いられる。2つ目として、時間の流れを考えることなく動作の全体を表したいとき、もしくは1回きりの動作を考えるときは、アオリスト語幹 (aorist stem)という語幹が用いられる。3つ目として、動作によって生じた状態を表す、完了語幹 (perfect stem)という語幹がある。



参考文献


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