系統樹
1.系統樹
ある語族の言語間の系統的関連性は、「系統樹」によって簡潔に表現される。
この系統樹という考え方を初めて提示したのは、ドイツの言語学者アウグスト・シュライヒャー(August Schleicher)であった。シュライヒャーが1861-62年に著書『印欧語比較文法要説』において初めて示した系統樹は、現在、一般的に言語学の教科書に載っている系統樹とはかなり異なる。インド・ヨーロッパ祖語はまず「スラブ・ゲルマン」と「アーリア・ギリシア・イタロ・ケルト」の2つに分岐するというのである。スラブとゲルマンをひとまとめにしている点、その他の語派もひとまとめにしている点が特徴的である。
例えば、考古学の発掘調査で、文献資料が発見され、Xという言語が過去に存在していたことが明らかになったとする。
するとそこで、言語Xはそもそも何語族に属するのか、ということが問題になってくる。
つまりは何語族の系統樹に加えられうるのだろうか、ということが問われるのだ。
また次には、その言語Xはいつの時代の言語であるのか?
既存の言語のうちのどれと近い関係にあるのだろうか?
ということも問われてくるだろう。
これらはつまり、「その系統樹の中のどのあたりに枝となってぶら下げられるのか」という問いかけだといえる。
よって系統樹をイメージすることは、その言語の相対的位置付けの理解に役立つのである。
今後はときどきこの図をイメージしつつ読み進めていってもらいたい。
2.樹形図
以下のような系統樹があるとき、AとBはsisterの関係にあるという。
XはAとBのmotherであり、A,BはXのdaughterである、という。母親と娘に喩えるわけだ。これはイメージしやすいし、割と直感に合う用語だと思う。
系統樹のような図を一般に、樹形図という。どういうわけか、言語学者は樹形図が大好きだ。比較言語学に限らず、生成文法などの理論言語学においても、樹形図が多用される。理論言語学の場合は、歴史言語学・比較言語学とは異なり、時間性が考慮されていない。つまり、歴史言語学・比較言語学においては樹形図の根元のほうは古い時代を表わし、枝の先に行くにつれ新しい時代を表わすことが多いのであるが、理論言語学は時間性を考慮しない研究であるので、樹形図を単に範疇の階層性として使うことが多いのだ。そこでは根元が古く枝の先が新しいなどということは含意されない。
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