フランス語


1.私の体験談


大学3年の頃、私は適当な文法書を買ってフランス語を自習した。大学の語学の単位は足りていたのだが、言語学を専攻しようと決めたので何か意地みたいなものがあって、ドイツ語をやったのならフランス語もかじるぞ、という意気込みがあったのだ。フランス語は、文法はそれほど複雑ではないので文法の学習は大変ではない。フランス語は人気があるので教材は本屋さんにたくさんあるので気に入ったのを使えばいいと思う。市販の文法書はかなり出来がいいと思う。大学の先生が授業で指定する文法書よりも、市販のよく売れている文法の本の方が、分かりやすいのではないかとすら思う。 文法書の他には、NHKラジオ講座のCDを聞いたりしていた。フランス語は読み方に慣れが必要であったり、個々の音の発音が独特であったりするので、耳から学ぶのは良いことだと思う。ただ、私は自分で発音するのがどうも苦手なままであるが…。


2.未来形


英語では動詞の過去形は-edを付けて作る。たとえばfinishという動詞の過去形はfinishedだ。これに対して、未来形は will という語を用いて、will finishという未来形をつくる。この場合、finishという動詞には語尾は付かない。つまり、原形のままである。これを俯瞰的に見てみると、過去形と未来形は、形成法が対称的になっていないと言えるだろう。これはドイツ語でも同様である。ドイツ語の過去形は過去形の語尾-teなどを付けて作るのに、未来形は「~になる」の意味の werde (原形 werden)という語を用いて作る。他の語の助けを借りるのである。

ところがフランス語はこれとは違っている。フランス語の未来形は、過去形と同じように、動詞の語尾を変えることで形成されるのである。私は高校生のとき、塾で英語の先生がこのことを少しだけ紹介したのを聞いて、感心した記憶がある。フランス語には動詞の語形として、未来形があるのだ! 例として、フランス語の finir「終える」の活用を以下に挙げてみよう。

単数複数
1人称finisfinissons
2人称finisfinissez
3人称finitfinissent
finirの現在形の活用

以上のような、現在形の活用については、ヨーロッパの言語としてはとくに珍しいものではない。人称と数によって語尾が変化するのだ。しかし、現在形と同じく未来形も以下のように人称と数によって語尾が変化する。

単数複数
1人称finiraifinirons
2人称finirasfinirez
3人称finirafiniront
finirの未来形の活用



3.鼻母音

フランス語には鼻母音 (nasal vowel)という音があり、フランス語の独特の響きを形成する一要素となっている。呼気が口から出ると同時に鼻からも出るのが鼻母音である。鼻から息を抜いているかどうかで語の意味の区別が行われるので、フランス語の学習の際には鼻母音の発音をしっかりと行わなくてはいけない。発音記号としては、チルダ(tilde, ~)を母音の上に付ける。

õ
bonjour「こんにちは」

ã
comment「どのように」

ɛ̃
tiens「おや、ほら」

鼻母音は日本語でも発音の上で観察されるが、意味の区別に用いられていない(音素ではない)。雰囲気(ふんいき)は、「い」の音が前に鼻(子)音の「ん」があるために鼻音化して、鼻母音[ĩ]になって発音されることがある。この鼻音化された「い」は日本人には聞き取りづらく、「ふいんき」と発音していると解釈してしまうこともある。


4.ダイアクリティカルマーク

フランス語は、英語、ドイツ語などと同じローマ字(ラテン文字)を使うが、フランス語独自の特徴として、それらのローマ字にさまざまな補助記号を付ける。上で述べた鼻母音のチルダもそのひとつである。他にはまず、母音の文字上で、右上から左下へと斜めに線を引くことがある。これは英語でアキュート・アクセント(acute accent)という。フランス語でアクサンテギュ(accent aigu)といい、eの上に付いてéという文字をつくる。フランス語語のアクサンテギュは、はeを母音として発音する(無音ではない)ことを表す。

また、逆で母音の文字の上で、左上から右下へと斜めに線を引くことがあるが、これは英語でいうとグレイヴ・アクセント(grave accent)という。フランス語だとアクサングラーブ(accent grave)といい、à, è, ùの3つがある。èは口の開きの大きい[ɛ]の音を表す。

さらに、上むきの傘(^)を文字に付けることがある。これは、英語でサーカムフレックス(circum flex)といい、フランス語でアクサンシルコンフレックス(accent circonflexe)という。これはフランス語では昔はこの記号が付く母音の後ろにはsがあったことを表す。発音上は、後ろの子音によって、アキュートかグラーヴかの役割を果たす。

また、çという文字もあり、これはcの下にセディーユ(cédille)と呼ばれる記号が付されたものだ。歴史的には、cと書いたときにkの音でなくてsの音を表すことを示したい場合に用いらた。今もフランス語では一部の語で残っている。

さらに、ドイツ語のウムラウトと同じ見た目の、文字の上の点々をトレマ(tréma)という。英語ではダイエリシスdiaeresisというようだ。これは、母音が連続して書かれているときに、黙字や二重母音ではなくてそれぞれの母音を単音として発音されるべき場合に付されるものである。フランス語ではë, ï, ü, ÿの4文字が使われる。したがって、前舌化を表すドイツ語のウムラウトとは役割が大きく異なるので注意しよう。

以上いろいろと文字に付ける補助記号のことを、ダイアクリティカルマーク(diacritical mark)という。
参考
言語学大辞典
音素の最前線(高杉親知の日本語内省記)(大変参考になりました。素晴らしいサイトです。)

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