母音と子音


母音・子音という用語を聞いたことがある人は多いことだろう。

では、母音とは何か? 子音とは何だろうか? 音をなぜ2つに分けるのか? これらについて考えてみたい。

まず母音について簡単に説明しよう。日本人ならば「母音とはつまり、あ・い・う・え・お (a,i,u,e,o)のことだ」と理解しているかもしれない。確かにそうであるが、それだけでは一般的な定義とはいえない。これだと特定言語の母音についての言及だからだ。一般的に言えば、次のようになる。 母音とは、吐きだす息を唇や舌で妨害しないときに生じる音である。

人は言語音を発生させるときには、舌や唇をさまざまに動かして、呼気の流れを妨害させている。その妨害がない場合に出る音が母音なのである。こういう定義が、母音の一般的な定義だ。

これに対して、子音は呼気の流れを妨害させて生じる音なのである。実に簡単だ。2つに分ける意味が分かっていただけたと思う。

しかし、ここまで読んで疑問が生じた方もいるかもしれない。「唇や舌の動きは連続的であるから、一概に「妨害あり」「妨害なし」の2分類はできないのではないか?」こう思われる方がいれば、まさにその通りだと答えたい。母音・子音という2分類だけでは大雑把すぎて不十分なのである。

ひとくちに母音といっても、iやuは、aよりも子音に近い母音であり、またひとくちに子音といっても、lやmはpやbよりも母音に近い子音である。母音と子音は連続的な概念だととらえるのが正確だ。

実際に、歴史のうえでも、子音が母音に変化するということが起こっているのである。ラテン語の lactem, factum は、フランス語ではそれぞれ lait, fait という語へと変化した。つまり子音 c(音声としては[k])は母音 i に変化したのである。よって母音と子音は完全に分断されたものではなく、連続しているものであると捕らえたほうが良いのである。以下ではその連続性を認識した上での音の分類を紹介しよう。

以下の様に、音は階層をなしている。子音をさらに細かく分類して流音・鼻音・摩擦音・閉鎖音とし、以下の様に配置するのである。


聞こえ度 大

母音    ( a,i,u,e,o など)
流音    ( r,l など)
鼻音    ( m,n など)
有声摩擦音 ( z,v など)
無声摩擦音 ( s,f など)
有声閉鎖音 ( b,d など)
無声閉鎖音 ( p,t など)

聞こえ度 小

音韻論ではこれを「聞こえ度の階層 (sonority hierarchy)」といっている。
「聞こえ度 (sonority)」とは何だろうか? 定義を書いてくれていない音声学の本もあるが、しっかり書いている本もある。それによると、聞こえ度とは共鳴の大きさであり、長さ・高さ・強さなどの条件をそろえて発音した場合、どれくらい遠くまで聞こえるかという度合いである、とされている。若干アバウトな定義である気もするが…。誰かが遠くでの聞こえ度合いの実験をしたのだろうか? 疑問はさておき、無声音よりも有声音のほうが聞こえ度は大きい。口の開きが大きい音のほうが狭い音よりも聞こえ度は大きい。したがって開口度が最大である「母音」が聞こえ度最大であり、また無声でかつ口の開きがゼロとなる「無声閉鎖音」が、聞こえ度最小となる。
 以上の観点で、相対的な音の大きさ(loudness)によって音を並べたのが上記の階層である。さきほど述べたように、ラテン語の[k]がフランス語で i になったというのは、この階層からすると一番下から一番上へ上がっていったということである。これは、音が分断されたものではなく、連続したものであることを端的に示す良い例ではないかと思われる。


参考文献
川越いつえ『英語の音声を科学する』大修館書店
Philip Carr『英語音声学・音韻論入門』研究社
佐藤寧・佐藤務『現代の英語音声学』金星堂
城生伯太郎・福盛貴弘・斎藤純男『音声学基本辞典』勉誠出版(上記の聴覚的側面からの定義のほかに、聞こえ度の定義を3つ紹介している)


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