正義の巨大ヒロイン
「レオナ」
催眠術の恐怖
その1


 1 正義の戦士登場

乱立する高層ビル。人口が数千万を超える世界有数の大都市だ。日が暮れてなお暫くはそのほとんどの窓に明かりが点り、さらに都市活動が活性化するのだっ た。そしてこの国の流行としてほとんどのビルに採用されているのが、窓枠に発光器を取り付けビル全体を輝かせる電飾。これは郊外の発電所から送られる大電 力によって実現したこの都市自慢の美しい光の造形で、都市全体が昼間のように輝いている。繁栄を誇示し、観光名所とするこの都市の戦略だ。しかし、これは 宇宙へ視点を移せば顕著に周囲との差を見て取れ、地球最大の都市はここだとのサインとなっていた。そして、宇宙からの貪欲な捕食系侵略者を不用意に誘導し てしまう結果となっていた。毎日のように飛来する捕食者には様々に抵抗しているが、ビル電飾が襲来を誘引している事すら把握できていない状況で、この国の 科学力では撃退できず、被害を重ねている。
ベットタウンの一角、ビル電飾は控えめで少し薄暗い。このあたりは光り輝く新しいビル街から少し離れた古い区画。オーナーも老人が多く、ほとんどが屋上菜 園を設けている。そんな老朽ビルの一つを、天空からの光が照らし出した。それは次第に絞られて細い光線となり、屋上の一角を丸く照らす。白く輝くその輪の 中にキラキラと何かが構成されてゆく。それは地球外文明から送られた光子輸送システム。まばゆい白光の中に、美しい女性が現れた。ライトグレーのレザー スーツにロングブーツ。自信に満ちた眼差し。落ち着いた品格のある美人。
不意に暗がりから声がした。
「お、おまえは誰だ?宇宙人か?」
屋上菜園の手入れをしていた老人が彼女に気が付いて、半ば腰を抜かしつつ、武器のつもりか小さなステンレスのスコップを構えている。
「あら、ごめんなさい。驚かせてしまって。」
微笑みながらブーツのハイヒールをコツコツと鳴らし老人に近づく。老人が構える小さな武器など見えていないような余裕のある微笑み。
「ち、近づくな…飢えた宇宙人…ここは私のビルだぞ!」
老人の間近で静かに立ち止まると、ミニスカートの裾に手を当てて丁寧にお辞儀をする。
「私は地球人ですよ。良く見て下さい、こんな宇宙人がいますかしら?」
カラン
老人の手からスコップが落ちた。小麦色の太腿、はち切れんばかりのバスト。目の前に立つ彼女の魅力に放心して、つい抱きつこうとしてしまったのだ。
「私はこの星の戦士。ようやく準備が出来て皆さんを助けに来ました。」
老人は何とかぎりぎりで理性を保ち、神妙な顔でうなずいている。
「お願いです。私がここに来たことは秘密にしておいて下さい。だめですか?」
「ハ、ハハ、もちろん。秘密にします。いやああ、美人さんにはかなわないなあ。」
「まあ、光栄ですわ。ありがとう。出口はあそこでしょうか?」
「そうそう。エレベーターで1階に降りれるよ。」
地球外文明に戦士として選ばれた唯一の地球人。数年前に謎の宇宙組織に導かれ、地球から離れて巨大化能力のための身体改造と教育を受け、宇宙戦士として帰還した。年齢三十を超え、女性としても成熟し、正義のヒロインであればこその美しい風格をたたえていた。
グレーのタイトレザースーツが、美しい体のラインを強調している。老人は、その後ろ姿に見とれていたが、慌てて腕の端末をいじり。
「ああ、しまった写真撮るの忘れた!」
カメラが起動したときには、彼女はもう扉の向こうへ消えていた。
エレベーターから地上に出ると人通りも多く、さすがに人口過密都市の様相。美人でかつセクシーなスーツを着ている彼女は視線を集めた。指定されている近所 のマンションに足早に向かう。その地区にしては小綺麗な女性専用マンション。その一室が活動拠点となる。部屋の中には平均的な女性が居住するための生活ア イテムが用意されていた。ソファーに腰掛けると、入室と同時に作動した自動給仕システムがコーヒーをサーブする。
「フウ、ちょっと綺麗すぎるけど、まあまあの環境ね」
トレーニングを受けていた宇宙機構の生活環境は完全にクリーンで、トレーニングの後もすぐにシャワーを浴びて身を整える。ともすれば潔癖症になりかねない 生活であった。地球の生活感溢れる環境が懐かしかった。いずれは自分が守る町の一角のひなびた木造家屋にでも引っ越したいなと思う。そのためにもまずは敵 を撃退し侵略驚異を解決するのだ。
暫くは平穏な日常を過ごす独身美人OLとしてこの町に潜伏し、待ち伏せ戦法でこの星を守るのだ。
翌日、敵が飛来してきた。彼女のテレパシーが敵の接近をとらえた。降下する場所を特定し急行する。彼らは町の中心部、人混みを狙ってくることが多い。毎日のようにやってくるらしい。
「来たわね!」
彼らの戦法は宇宙船による誘拐だ。船体から伸びるアームを使って人々を片っ端から船内に取り込んでゆく。彼らには好みもあるらしく、地球上のこの国の人間 しか拉致しない。そして現在この最大都市が重点的に標的になっている。拉致された先では食料として食われてしまうとか、実験台として怪物にされてしまうと か、奴隷としてこき使われるとか、いろいろと噂がある。精密な真相は定かでは無いが、宇宙機構の調査では、恐らくその全てだ。これまでも多くの侵略を受け てきてはいたが、地球人達には対抗できる技術が無く、一方的な被害を被り続けてきた。
不気味な音を立てて着陸すると、すぐに人々を船内に取り込み始める。長さ25メートル。形は太った大型のエビ。多数のアームをそなえ巨大な猛獣のように路上を動き回る。
逃げ惑う群衆。建物の中に逃げ込んでもアームでほじくり出されてしまう。
「もう好きにはさせないわ!」
逃げる人々の流れに逆らって敵の宇宙船に近づく。周りに誰もいなくなった瞬間を見計らって、革スーツの胸ポケットから変身ライトを取り出し、腕を高々と突き上げると、そのボタンを押した。
ズビュルルルル!
巨大化変身した肉体は身長80メートル、体重5万トン。
ビルの谷間から巨大なレオタード姿の女性がそびえ立ってきた。戦士と言うよりは女性として濃厚な体をしていた。豊満な胸、Hカップはあろうか。大きめの尻 と太い太腿。優秀なアスリートでもあった彼女の体は、長身であったところに鍛え上げられた筋肉が付き、その上に適度な脂肪をまとって、グラマラスで迫力の ある完璧なプロポーション。キラキラと光沢のあるセクシーなハイレグレオタードにニーハイブーツ。シルバーとブラックで構成されたカラーリングは妖艶な大 人の雰囲気。長手袋をした拳を強く握って腰に当て、参上のポーズ。
「町の皆さん!早く建物の中に避難して!道路に出ては危険です!」
彼女の誠実そうな、且つセクシーな魅力に即座に味方の救世主と判断した町の人々は、命令に従ってビルに逃げ込む。
「車に乗車中の人もすぐに路肩に停めてビル内へ!急いで!」
人々が避難するのを見届けるために、注意深く町を観察する。巨大な体をビルの前に曝すとその華やかでセクシーな出で立ちがガラス張りの壁に映る。中の人々 が皆目を見張る。ほぼ全てのビルがガラス張り、中の状況がよく見える。しゃがみ込んで周囲のビルを覗き込むと、避難し終えた人々は、窓に張り付いて彼女を 見上げ、応援の眼差しを送っている。拍手したり、飛び上がって興奮している者もいる。
応援に応え、きりりと口を結び、うなずいて微笑む。
「危険ですから窓から下がっていて」
ゆっくりと立ち上がる彼女を見上げる群衆は、その圧倒的な重量感に身の危険を感じ、一人また一人と窓から離れてゆく。
「そう、いいわ。指示に従ってくれて有り難う」
ズシン……
市民の安全を確認すると、一歩一歩注意しつつ敵宇宙船に近づく。
車は路肩に停めてあるのでなんとか歩ける。高価な車をブーツで踏み潰さないように細心の注意を払いつつ接近してゆく。
ガガガ!
あっという間のことだった。彼女の存在に気が付いて飛び立とうとする宇宙船を巨大な手で掴むと、船体の数カ所を引き裂いて中の構造を握りつぶした。彼女は 敵の宇宙船の急所を熟知している。動力を破壊し、ハッチをコジあげて捕らわれた人々を無傷で救出した。全員助け出すと、宇宙船を持ったまま片膝を立てて しゃがみ込み、船体を地面に降ろした。敵星人のみが内部に残っている状態だ。左右を巨大な太股に挟まれて逃げ場を無くし、今にも彼女の股間に押し潰されそ うな絶望的な敵宇宙船。とどめに真上からパンチを打ち下ろそうと、拳を振り上げたそのとき、船内からか細く、拡声器で彼らの声が流れ始めた。
「我々は友好のために招待しているだけだ。招待所に連れて行くのだ。もう乱暴はやめてくれ。我々は無抵抗だ」
その降伏宣言を受けて、拳を納め、立ち上がった。と、其所に生き残っていた兵器が作動する気配。強力な電磁波発生器だ。そのアンテナが起動するのを見逃さなかった。
「騙されないわよ!」
まずそのアンテナをブーツのヒールで踏み付け、道路にねじ込む。
「何をする!やめてくれ!、たすけて!お願いです!」
最後の悪あがきの命乞いをする敵星人だが、聞く耳は無い。もう片方のブーツで船体を踏みつけ、押し潰した。まるでプレス機のように、ゆっくりと、潰し残し が無いように何度も踏み付けてゆく。直径10メートルほどの葉巻型船体は押し潰され、厚みが5センチ以下となった。そんな厚みの中で生き残れる者はいない だろう。さらに踏みにじるように粉々にして敵星人達にとどめを刺した。
「さあ、敵の宇宙船を破壊しました。もう安全です」
町中から沸き上がる歓声。初めて敵の撃退に成功したのだ。大勢の市民が屋上に出て手を振り、ビルの至るところのから顔が出て声援を送っている。
「ありがとう。これからも協力して下さい」
敬礼する彼女を撮影するため、多数のフラッシュが下から放たれた。股間の間近でも撮影する人がいる。ビル街の中に下半身を埋め込んだ状態で、間近から写真撮影されるのがどういうことか気がつき、少し顔を赤くして移動する。
歓声の中、しばらく町の中を移動し、人気の無い裏路地を見つけて変身を解いた。
「簡単ね。難しいのは町を壊さないようにする身のこなしの方だわ。それと正体を隠しながら変身を解く場所を見つけること」
そうして毎日のように飛来する敵宇宙船を撃破し、人々を救出。巨体の動きも軽やかに、町の損害は最小限。完璧な戦いを続けていた。町の外れには敵宇宙船の スクラップが山積みとなっている。立ち入り禁止のそこからは、宇宙人達の死臭が漂ってくる。人類とほぼ同じ大きさと外観の敵星人達。一機に15体は乗船し ているようで、それらは宇宙船ごと問答無用で押し潰されて、皆殺しとなっている。数百体はあろうか。大勢の船員達の亡骸は、グシャグシャに引き潰された特 殊金属に挟まれており、剥がすことも切り出すこともできず、取り出せない。

町はほぼ無傷だ。彼女はとにかく人間の町のか弱さを知っている。儚い者達の脆い町だ。巨体で乱暴に扱うとすぐに壊れてしまうし、思いもよらない損害を与え てしまう。何より人的被害は絶対に許されない。彼女の視力や反射神経は巨大化に対応すべく強化されており、小さな猫一匹見逃さず、回避運動を調整できる。 人間のサイズで言えば蟻を踏み潰さないように広場で格闘するようなもの。また、町の地図を詳細に把握してもいて、地下鉄や地下街など大規模地下施設の上は 歩かないように注意していた。
とはいえその大重量で多少の損害は与えてしまう。彼女が歩けばどうしてもアスファルトが押し潰され、道路が数メートルは陥没してしまう。地盤も変形して地 下のインフラが損傷することも多く、戦いの後には土木作業が不可欠だ。ビルの横に立っただけで強烈な体重で地面が凹み、建物の基礎が傾いてしまった事例も 多い。しかし、派手にビルを崩してしまう敵の攻撃に比べたら、無に等しい。繊細な人間の建物を踏み潰さないように巨大な肉体を器用にあやつり、太股を高く 上げて、まるで新体操の競技のように道路を進みビルを跨いでゆく。
大きく脚を開いてビルを跨ぎ、腕を振り上げてサービスポーズをとる。
「まかせて、すぐに捕まえるわ!」
敵宇宙船は着陸寸前まで制御が出来ない乗り物のようで、予想したポイントで待ち受けていると、まるで胸に飛び込んでくるように飛来する。
「はい!捕まえた!」
ビルを跨いだまま、上半身を少し傾けただけでその手に宇宙船をつかみ取った。両手で挟み,プレス機で押し潰すかのように力を入れる。
「エーイ!」
メシャッ!
薄い紙箱のように簡単に潰れてしまう。強大な筋力でギュウギュウに押し固めると、手の平に乗るほどの固まりに丸められてしまった。その中にいた宇宙人はあまりの圧力で気化消滅してしまったろう。
ビルを跨いで勝利のポーズ。周囲のビルから無数のフラッシュ光。
毎日のように彼女の活躍が報道メディアを賑わしている。このビルを跨いだポーズも多くの雑誌の表紙を飾ることだろう。夕焼けの中にそびえ立つ姿、捕らえた宇宙船を引き裂く姿、高層階の窓越しに微笑みながら敬礼する姿、等々、彼女も意識的にポーズを決めていた。

続く