正義の巨大ヒロイン
マユミ
AKAFUJI




 
 
今日こそは家を突き止めるぞ。
企業戦士として培われた闘争本能は、後戻りや諦めを許さない。この高級クラブのママを手に入れるのが、目下、私の最重要課題だ。毎夜のように行われる企業 接待。そのメニューの一部としてこの店を使っていて、私はそこの美人女将に惚れた。歳は二十代後半のようだが、いつも和服を着て、落ち着いた和の美を絶や さない。艶やかな化粧をしたその顔は成熟した女の色香を漂わせ、どんな状況においても品位を失わずに男達を誘惑しているような、女としての風格すら感じ る。
今日も、常連である我々の席に彼女が挨拶に来た。マユミという名の彼女は意外と長身で170センチ以上はあろうか、顔立ちはすっきりと痩せているのだが、体は豊満で和服の上からもその胸と腰のボリュームがうかがえる。とにかくスタイルは抜群に整っている。
三十半ばにして会社の重要ポストにいるとはいえ、彼女をモノに出来るほどの社会的地位にはない。しかし、欲しいモノを手に入れるためのノウハウを尽くして ここまで来た私にとって、それこそ腕の見せ所だ。とりあえずは、焦らずに、欲しいモノの調査から始める。今日、彼女を尾行して、様々なデータを手に入れる のだ。
店も終わり、店員が手配したタクシーでそれぞれ帰宅していった。が、私は、マユミを尾行するために、裏の駐車場にあらかじめ停めておいた車の中で待つ。そ して小一時間も待つと、彼女が出てきた。マユミは艶やかな和服のままだ。彼女はタクシーに乗り込んだ。尾行を気付かれないように十分距離をとりながら後を 付ける。
しばらく走ると、タクシーは深夜のビル街で停車した。尾行と気付かれないために、そのまま直進し、マユミが乗っているタクシーが見える位置、次の交差点を 曲がってすぐの所に停車した。と、その時、タクシーの中から強烈なフラッシュ光がはためき、車内で何かの爆発が起こった。爆発はさして大きいものではな かったが、タクシーは内部からの猛烈な衝撃で張り上がり、屋根が弾けた。夜のビルの谷間に轟く爆音。そして黒雲のような何か大きなものが爆風と共にビルの 谷間に立ち登って行く。そして、まだ明かりのあるオフィスビルの疎らな照明で、それが照らし出された。
てらりとひかる黒い二本の柱。
ブーツ?
形はまごう事なき婦人用のロングブーツだ。良く見れば真ん中とサイドに縫合線が流れ、内側には金属製のジッパーも覗いている。
しかし大きい。
タクシーのボンネットを引き裂きながら、婦人用のブーツの爪先が今尚その体積を増している。「あれはブーツの爪先だ!」
私はそう叫ぶとウインドウに飛び付いた。運転席に座りながらの視界ではその巨大な者の足元しか見えなかったからだ。
オフィスビルの窓の明かりに淡く浮き立つその巨大な者は巨大なマユミだった。
低い膨脹音を発しながら、マユミはどんどん巨大化してビル街にそびえて行き、周りのビルは彼女の股より下になった。そして60メートル程の高みに達して、巨大化が完了した。ウインドーから首をだして彼女を見上げる、そこには、想像を絶する光景が展開していた。
マユミが、ジャイアントウーマンだったなんて。
最近、各地で発生している怪獣事件を解決すべく戦う巨大な美女戦士。いつも和服姿の清楚なマユミからはかけ離れた宇宙戦士の出で立ち。
結い上げていた黒髪は柔らかなウエーブを描いて肩に掛かり、瞳の上に輝くシルバーのアイマスクは小型で両端が尖り、そのデザインはいかにも宇宙戦士のアイ テムだ。しかし、そこから下は戦士と言うよりはエロチックなダンサーを思わせた。ほとんど裸だ。女性的に発達した肉体は、極度に露出していた。豹柄の小さ なマイクロビキニ。最新鋭の水着に使われるような薄く伸縮性のぬめるような光沢布地。豊満なバストはFカップ以上はあるだろう、小さな肩紐無しのブラ ジャーは張り切って、乳頭の形をくっきりと浮き立たせている。ビキニのボトムは超ハイレグで、深いVカット。陰部から両腰に向かって思いっきり引き上げら れている布はくっきりと陰部の形を浮き上がらせつつ陰唇に食い込み、尻の方は完全に紐状となって巨大な尻の割れ目に消えている。大きく鍛えられた臀部は人 並み以上に深い割れ目を作っている。マイクロビキニはぬめるような光沢を放つ中、細かな銀ラメがちりばめられており、ほぼ紐状ながらもきらきらと輝く。発 達したヒップに呼応して見事に太い太股。その中ほどまでを覆うワインレッドのスーパーロングブーツ。上質で薄手のなめし革は吸い付くように美しい脚に張り 付いて複雑な皺と張り切った光沢のバランスを形作り、尖った爪先とピンヒールが、成熟した女の色気を強調している。
彼女の足下に目を移すとタクシーの破片が散らばり、運転手もろとも彼女のブーツの下に踏みつけられてしまったようだ。
彼女は巨大だ、その物凄いボリュームに圧倒されて恐怖すら感じる。太股がビルの谷間に挟まったようになっていて狭そうにブーツをずらすマユミ。自分の大き さに恥じらいを感じているのか、下を見下ろしながら少し顔をこわばらせている。ものすごい地響きを上げて巨大化したことによって、深夜とはいえ周囲の歩道 やビルには見物人が現れた。彼女の半裸の巨体は隠しようがない。彼女のキャラクターにとってこの出で立ちはあまりにも違和感があるはずだ。豹柄のマイクロ ビキニを食い込ませた破廉恥な肉体を恥じらいでくねらせ、大人の分別と戦っているように見える。
しかし、彼女が巨大ヒーローだとしたら、どうしてここでタクシーの運転手を犠牲にして巨大化変身する必要があったのか。この近くに怪獣が現れたのかもしれないが、そんな気配はどこにもない。
そして、視界一杯に映るマユミの巨体が動いた。
ズシイン!
地響きを発てながら脚を開き、拳を構えファイティングポーズをとった。
しかし、彼女が狙っているのは彼女の太股にも満たない高さの10階建てのオフィスビルだ。固唾をのんで見守る。普段は攻撃的な仕草などは微塵もなく優しく清楚なマユミ。今、目の前で彼女がとっている足を大きく開いたポーズはまるで別人のようだ。
一呼吸整えるマユミ、と、なめし革の長手袋をはめた美しい握り拳を振り上げ、そのビルの屋上のど真ん中に拳を打ち込んだ。
ドドッ!と言うこもった破壊音。ビルの中に何の抵抗もなく二の腕まで突き込み、瞬時に引き抜く。あまりの速度のため、ビルの外周に影響が現れない内に中の フロアーを全て打ち抜いたらしい。ものすごいエネルギーで粉砕された内部の瓦礫が外側に向かって爆発して、一拍遅れてビル全体が粉々に破裂してしまった。 マユミの動きは巨大さを感じさせない。普通スケールの人間とさして変わらぬ早さでそ、の何万倍もの重量の肉体を動かしている。攻撃のスタイルに、執拗に強 さを誇示するポーズが含まれている。巨大である自分を誇示するかのような下からの視線を意識したポーズ。その巨大な肉体にかかれば、どんなモノでもかなわ ないだろう、ましてやか弱い人工物など、砂の城に等しい。
その隣の低いビルを思いっきり踏みつけた、ビルの内部と外壁を吹き飛ばしながら全体重をかけて脚をねじ込む、その一撃であっけなく倒壊するビル。
崩れ行くビルの、その上におどり込んで、爆音と砂埃を上げながら、めちゃめちゃに蹴散らした。太く発達した太股をすり合わせるように、ブーツで悶えるように踏みにじった。
どうしてビルを破壊したのか、全く解らない。しかし攻撃はそのビルだけが対象ではなかった。今度は大きく脚を開いてビルに跨った。そしてそのビルを見下ろ しながら艶めかしく腰を一振りくねらせる。股に挟み込んだ無抵抗なビルを蔑み挑発しているような破廉恥は行動。太いパワーの固まりである太股に挟まれた、 哀れなビルは、あまりにもか弱そうだ。太股一本の断面積がそのビルほどもあるのだ。それが筋肉の固まりで、強大な肉体を支えるべく激しく躍動する。そんな モノに狙われては消滅以外に運命はない。マユミの思うがまま、微塵の抵抗も出来はしない。マユミは恥ずかしそうに周囲を見回す。そしてゆっくりと腰を落と していった。股間部は小さなビキニが食い込んで半露出状態。屋上の人々に、その柔らかな陰部を押しつけ、陰部と肛門の淫臭に包まれて圧迫され、ビルは彼女 の意のままに彼女の最も恥ずかしい部分で弄ばれるように破壊されて行くだろう。開いた足をガニ股にして太股を開くように腰を落とす。すぐにビルの屋上に股 が押し付いた。
ズズン!
「、、あん、、」
バリバリバリ!
破壊音を発しながら屋上が陥没し、鉄筋がむき出しになった。ビル全体の照明が落ちる。深夜にも関わらず数カ所で残業の明かりがついていた、彼女はそれに気 付いているはずだ、しかし股間は容赦なく降ろされていった。ガラスの割れる音、コンクリートが爆砕する音、鉄骨がひしゃげる音。内送電線のスパーク。すさ まじい破壊音を発しながらマユミの股間はビルを押しつぶして行く。最後に股の前後に瓦礫を吹き上げながら、自由落下する瓦礫よりも速い速度で一気にしゃが み込んだ。そのビルはマユミの強大な尻の下、完全に押し潰されてしまった。吹き飛ばされた破片が私の近くまで飛んできた。もうもうたる砂埃の中、瓦礫の上 に仁王立ちになるマユミ。その脚の間にあったビルは地平面に圧縮されている。尻で砂を押し固めたようなモノだ。そこに生存者はいないだろう。すぐにその隣 のビルにも跨るマユミ。股間への刺激がお気に入りのようだ。膝を両側に開き、股を左右にくねらせながら股間をビルに押しつけていった。すさまじい破壊音を 発てながら腰を振る真由美。腰を大きく振る度に、巨大な尻で打ち破られた外壁が吹き飛ばされ、左右のビルにぶち当たる。そしてビルは見る見るその姿を消し ていった。薄いビキニは陰部に食い込んで、性器がほぼ露出されている。そんな股でビルを押し潰すなど正義の戦士にあるまじき行為だ。が、その大迫力のエロ チックな痴態に魅了され、次のビルにも跨るであろうマユミを期待した。マユミは押し潰したビルの上に立ち上がると、腰を後ろに突き出して尻の瓦礫をはらっ た。まるで自分の尻を愛撫するかのように、下から見上げる者に少し肛門を押し開いて見せた。そして私の期待どおり、次のビルに跨った。そして腰に手を当て ビルを見下ろした。そのビルは屋上にアンテナの塔や空調設備などの器機がむき出しで、突起だらけだ。股間への刺激に貪欲なマユミは刺激的な突起に向かって ゆっくりと腰を下ろして行く。豹柄のマイクロビキニは尻と股間に食い込んで、細く小さくなっているが、かろうじて陰部の中心だけは包み込んでいる。クリト リスを含む内陰唇を包んだ小さな膨らみが光沢を放ている。その真ん中にアンテナを多く付けたトラス構造の塔が当たった。それはクニャリと押し曲がり、ビキ ニの前陰部の小さな膨らみにまとわりつくように、クシャクシャと変形して行く。その弱弱しさは圧倒的な大きさのマユミに恍惚とした快楽の表情を与えた。
「、、ああん!、」
一叫びすると、そのビキニの小さな膨らみをビルの中に強くこすり込んだ。しかし、意外とビルは丈夫で、瓦礫を吹き飛ばしながらもなんとか外形を保ってい る。マユミは激しく腰を前後にくねらせて、股を内部に食い込ませ、内部のオフィス器機が陰部ではじけ飛ぶ感触をむさぼっているようだ。腰を落とすにつれ股 は開き、あられもない格好になって行く。ビルは強大な力で揺さぶられ、少しずつ粉砕されて行く。街中に轟音が響き、瓦礫が飛び散って、とてもその下に生存 圏はない。そういえばさっき集まってきた見物人達はどうしたのだろう。いきなり降り掛かってきた瓦礫の下敷きとなったに違いない。腰を振りながらしゃがみ 込み、ビルを完全に粉砕し尽くすと、道路に手を付いて瓦礫の絨毯の上に四つん這いになった。背後のビルの窓には、前にあったビルを押し潰して現れた巨大な 尻を目の当たりにして驚愕に顔を引きつらせる守衛の顔があった。マユミはそれに気付いていないようだが、彼女にとってビルが無数の目を持つ人格化した性対 象であり、ビルその物に股間を見せつけ、押しつけるのだ。そしてその私の推理を証明するかのように尻を後ろのビルに突き出した。四つん這いになって尻を突 き出せば、肛門はおろか陰部全体があらわになって、あのビルの守衛の眼前を覆っていることだろう。そして更に腰を後ろに突き出すと、
ババーン!
そのビルの外壁にぶち当たった。その意外に大きな音に驚いたのか、マユミは腰を少し引いて、外壁から尻を離した。
しかし、その直後、少し体を横に傾け片足を浮かせると、片膝を思いっきり前に引いた。そして身を反らせて後ろのビルに狙いを定めると、容赦なく。莫大なエネルギーを持った後ろ蹴りを放った。
ズドドーン!
天地を揺るがす爆音と振動。その衝撃波に周囲の全ての建物のガラスが吹き飛び、少し離れた私の愛車までが一瞬浮き上がった。尖ったスーパーロングブーツの ハイヒールは音速を超えた速度で、その哀れなビルの中心部を爆砕し、ものすごい体積を持った脹ら脛と太股が、内部の構造を粉砕しながらそのビルの中を突き 抜け、そのエネルギーによって吹き飛ばされた瓦礫がその周りのモノを更に吹き飛ばし、ついにはビル全体を内部から爆発させ後ろに飛散させてしまった。高速 で四散した瓦礫は、背後にあった無数の建物を半壊させ、数棟は倒壊した。
地響きを発てながら勢い良く立ち上がるマユミ。それはまるで猫のような瞬発力。くるりと私に背を向けると、その半壊したビル群のなかへおどり込んでいっ た。そしてものすごい勢いで下半身を躍動させ、半壊したビル達を粉砕し始めた。その急激なエネルギーの爆発は度肝を抜かれる迫力だ。少し体重を掛けただけ でも十分踏み潰せるモノに対して、膝を高々と引き上げ、太股の筋肉を全て使った全力のストンピングの連続。尻と太股の肉は激しい踏み潰しでブルンブルンと 震える。踏み潰し、踏みにじり、チアガールの激しい足踏みのように早く激しいリズムを全身で刻んでいる。蹴り倒しながら踏み砕き、倒壊するスピードよりも 速く何度も踏みつける。太股を左右に開くように踏みにじる姿は、圧倒的な力で汚れたモノを組み敷く仁王のようだ。ビルが完全に粉砕されるまで執拗に踏みに じる。すさまじい早さ。次から次へと破壊して、動きは激しさをまして行く。激しい運動でマユミの体から汗が噴き出しテラテラと輝き始めた。激しい蹴り込み の連続で息が切れて、苦しそうに口で息をしている。そして、その破壊の動きには明らかにリズムがある。
どうやら、マユミは、破壊をテーマにしたダンスのステップを踏んでいるらしい。その顔は明らかに恍惚としている。踏みつける運動は太股をすり合わせ、股間 に食い込んだビキニを前後に引き吊らせる。その刺激による反応が腰の動きに見て取れる。辺り一面に舞い上がる砂埃と飛び交う瓦礫、オフィスから吹き飛ばさ れた書類の紙吹雪。その中で飛び上がりビルの屋上にブーツの靴底を激突させ、ものすごいハイキックを打ち上げ、猛烈な破壊の舞は佳境を迎えた。瓦礫と化し た一帯を走り、まだ無傷のビル群に飛び蹴りをするつもりだ、数歩加速して容赦なくターゲットに向かってジャンプした。凄まじい運動エネルギーをブーツのハ イヒールに集中させたその跳び蹴りは、手前の二つのビル全体を粉体に分解してしまった、そして、キックの体勢で飛び上がった横向きの巨体、その巨体を十数 棟のビルの上に落下させ、全てを押し潰してしまった。マユミの巨体の下で、一瞬にして押し潰された膨大な建造物が、大量の粉砕物を吹き上げて原爆のような 茸雲を立ち登らせた。
数分間の激しい攻撃で、数百メートル四方が瓦礫の山と化した。正義の味方巨大ヒロインが行ったすさまじい破壊。いったい何のために。この瓦礫の中にはどれほどの犠牲者が埋まっているのか、その犠牲の意義は何なのか。
しばらくは猛烈な塵芥の降下で窓も開けられず、視界もとれなくなった。
あたりは静寂に包まれ、マユミもビルの破壊をやめたらしい。
しばらく呆然として、奇跡的に被害を免れた愛車のシートに沈んでいると、ようやく町の周囲にサイレンの音が集まりだした。かなりの数だ。ここにいてはいけ ない、と何故か感じた。それはどことなくマユミと共犯のような気がしたためだろう。そして、砂埃で真っ白になった愛車を急発進させた。
 

 
一週間は近づかなかったが、今日、あのクラブに赴いた。
中ではいつもと変わらぬ配置で客と女が混ざりあい、その中にあのマユミママも居た。
「ママ。ちょっと。」
手招きすると、かわいく微笑んで、おじぎをしながら常連客である私の元へ歩いてきた。和服姿のマユミは先週の巨大なマユミとはかけ離れた淑やかさで、私の横に座った。
「あのさ、ちょっとママに話があるんだけど、誰にも聞かれたくない話。奥の部屋貸してくれるかな。あっ。そうじゃないんだ。なんて云うか、色恋の話じゃなくって、、、、正義の味方の話なんだけど。」
 
「なんですか?その正義の味方の話って。」
あっさりと応接室に通したにしては、はぐらかす。
「ここ、大丈夫?」
耳を指さして聞き耳がないか念を押すと、
「ええ。」
上目使いに小首を傾げ、明快に答えた。私の神経質な態度に、すこし抗議しているようにも見えるが、その仕草は淑やかな大人の分別に彩られた美しさを湛えている。
「見たんだ。」
 
「先週の夜。君のタクシーをつけて、その、君が変身するところを。」
マユミは、目をそらして、斜め下を見ながら何かを考えている。
「君があの巨大ヒロインだったなんて。、、、出来たら、私も何か協力したいと思って。」
マユミは目をそらせたまま黙っている。
「で、、でもさ、協力する上でさ、君を信じる上で聞くけどさ、、、、なんで、ビルを、、壊したの、かな、あんなに、、」
マユミは答えない。彼女の沈黙は私の云っていることを認めた証拠だ。私はそれ以上言葉を発するのを恐れた。もはや彼女に身をゆだねる他はないのだ。
「今日も車ですか?」
「え、は、はい。そうだけど。」
「今晩、私を送ってください。話は、お店が終わってからいたします。」
 
待ち合わせていた店の裏に、彼女が現れた。和服の裾を指先で直しながらシートに座る。
「ご無理を云って申し訳ありません。実はこれから一仕事ありますの。つきあっていただけますか?」
「は、はい、喜んで。」
緊張しながら車を発進させた。
「わたし。確かに、あなたが云うような者です。この間のこと。見てらしたんですね。」
「はい。済みません、後を付けたりして。しかし、さっきも訊きましたけど、何故、あの町を破壊したんです?」
「あれは、あのあたりに敵のアジトがあったんです。私が壊した建物のほとんどはその類でしたわ。宇宙規模の悪者なんですが、このところ、町に溶け込むよう な侵略方法をとってくるようになったんです。町の人達には申し訳ありませんけど、町を壊してしまうのは仕方ないんです。」
果たしてそれは本当のことなのか。疑いを誘うに足るほどにマユミの顔は紅潮していた。
 
つづく