吹きすさぶ荒れ野にひとり佇むと、足下からざざざざあっと寒さがのし上がってきて
「うぇい、来なきゃよかった」訳のわからん叫びをあげる自分の声を、暴風の間から私は聞いた。
髪があらゆる方向に吹き流されて暴れている。 知らない人が遠くから眺めたら、きっと私は
うっかり迷い出てきたモンスターの如くにみえるだろう。
ああ、寒い。 さっさと帰ろう、と私は思った。 そもそも、こんな所へ来る予定じゃなかったのだ。
予定というか、そもそもやらなければならない事なんて何もなかった。
だからここにいるのだ。
風の中に、何か聞こえるというとロイは目を輝かせる。 何か、だよ。 何だかわかってるわけじゃないよ。
うっかり精霊がどうとか会話に出ると、ありがたい託宣でも聞くかのように頷いて待っている。
困るので、とりあえず魔法は自分の中で禁句にした。 すると今度は魔法、という言葉と禁句という
いかにもな響きに感じ入っている。
そうやって特別扱いされることがうれしくないわけじゃない。 自分に価値がある気がするから。
それに実際、何かきこえててもおかしくないんじゃないか。 せっかく魔人が眠ってるんだから。
というわけで依然、寒空の下、震えながら野原に立っている。 というわけというか、いや別に
きっかけはそこじゃなかった気はするが。
今朝、ロイは食事の後、探索の依頼を受けたと話した。 私は数日で帰れるのね気をつけてね
行ってらっしゃいいつもあなたの無事を祈るわと送り出し、神殿へ向かう足でここへ来た。
だからまだここにいる。
何だかとても、たまらない気がしたからだ。
ああ、ほんと寒い。