あまり宗教に縁のある家庭じゃなかったわ、もっとも憶えてる時間もそんなにないけど。
そうね、真夜中近くに暗い丘の向こうで火が燃えていて、何人も列を作っていたの
見たことがある。 あれもそうだったのかしら。
何かやってはいたのよ。 でも、何をやっているか見ることは許されなかったし、
知ろうとすることもできなかった。 そんなことって、あるでしょう。
わかったような、わからないような、誰もが共有しているようにみえる秘密が。
続けられなくなって話をきり、どうだったかしらと見上げるとロイは、いつもの笑顔を浮かべた。
いいえ、いつものじゃないわね。 見慣れている、と錯覚させる笑顔を。
私はそれをみて納得して、ほんの少し違和感と共に考えるの。
ロイに顔があるわ。
説明した方がいいのかしら、どんなに暖かくて爽やかな笑顔か、って。
目鼻立ちについて語るべき? もちろん整っているの、直す所なんかないけど、
でも美しすぎるという程じゃない。
人がおおよそ相手に期待する安心感を形にしたらあんな顔よ。
でも私は少し不満だと思ったこともあるの。 だって期待通りなんだもの。
良い人すぎるのよ、変わらないの。 何を言っても、やっても笑うの。
この人本当はまだ、仮面かぶってるんじゃないかしら。 そんな風に思えて、
だったらはずしてしまいたい、って色々考えたわ。
何もやってはいないけど。 だって、怖いじゃない。
探っててはいけない真夜中の秘密のようで。
だから本当は顔なんてないのかも知れない。 それでもいいのよ。
どちらかといえばその方が慣れているもの。