愛しき白蓮
使用人として仕えてあの屋敷にいた頃、あの子供は無理やり身体を暴かれた事は無かったのだろうか。
どうなんだ?と問い詰めたくなる声をピオニーはどうにか飲み込む事で抑えた。
同じ上質なベッドに横たわる人物は、先程から飽きずに此方の手にその白い指先を這わせている。
金色、翡翠色、色づいた桃色、白、時々赤。
時に惜しみながらも、欲のままに曝け出す肢体は、過去にどれだけの陵辱を受けたのか。
「……楽しいか?ガイラルディア。」
本当に聞きたい事はしまい込み、ピオニーはたずねる。手に重なる温度は何と無くくすぐったい。
「えぇ、大きな手だなぁ、と。」
何処かやんわりと此方の手を眺めていただけの瞳が細まって、情事後の艶ではなく唯温かな陽光の様な優しい笑みが浮かぶ。怖ろしく愛らしい庇護欲やら愛情やらの全てが其処に集結しえ前後不覚になってしまいそうだ。
「そうか?男らしくて格好良いだろ?」
「またそういう…。まぁでも、否定はしませんが。」
衝動のまま横向きに身をおくガイラルディアの頬に己のそれを擦り付けながら言うと、向こうはと言えば多少呆れを含ませつつもまた笑った。
触れ合った面は柔らかくて、彼が笑う度に振動が僅かに伝わって感じる。
「陛下、あったかいですね。子供体温みたいです。」
ふと此方の手をとっていた指が離れ抱きつく様にその腕が身体に絡まる。そういって純真な愛しさだけを振りまく彼には、先程過ぎった仮想よりもやや現実味のある思考の一欠片も見当たらない。
いや、きっとあってもガイラルディアという存在には何の影響も及ぼさないのだとピオニーは思う。
何一つとして彼を汚す事は許されないのだ。
「そういうお前は白蓮の様だな、ガイラルディア。」
「…?」
「お、意味を知らんのか。なら今度ジェイドにでも聞いてみるんだな。」
「今教えてくれないんですか?」
「あぁ、今は内緒だ。」
「…分かりました。さて…もう寝ましょうか、明日は午後から閣議ですからね。」
「……げ、嫌な事を思い出させるなよ。」
「忘れてたんですか?なら尚更言っておいて良かったです。…では、おやすみなさい陛下。」
自らも彼の身体を抱き寄せながら、苦笑いを零した。結局、たとえ彼の口から直接事実が聞けようとも、愛しき者の体温や今のやり取りでさえ至福のこの時間が、無くなる事など考えられなかった。
変わらぬ白い花が、咲き誇る。
果たして彼自身が“白蓮”なのか、己の目に映る彼が“白蓮”なのか…。
今度はそうして当ての無い疑問を抱いた訳だが、そんな事はピオニーには関係なかった。
「あぁ、おやすみ。ガイラルディア。」
形容する彼の全てが、何よりも愛しい事に変わりは無い。
唯それだけだからだ。
end