私は天使なんかじゃない






ノヴァの依頼






  美容と健康は女性の必須事項。





  「あー、昨日はえらい目にあった」
  野犬退治から1日後。
  私はぼやきながらメガトンの街を歩く。
  行先?
  当然ゴブ&ノヴァ。
  朝食自体はパパと一緒に食べたけど、大体朝一でゴブたちに会いに行くのが日課だ。
  特に意味はない。
  まあ、ご機嫌伺いって感じかな。
  「おはよー」
  酒場のドアを開ける。
  昨日の一件、市長にはまだ報告してない。
  怠慢ってわけではなくて私がメガトンに帰ったときに丁度市長がいなかった、ってわけだ。
  一応市長の子供のハーデンには伝言頼んでおいたから、討伐完了は伝わってるだろう。詳細は後で伝えに行くけどさ。
  さて。

  「ちょっとでいいんだよ、悪い話じゃないだろ? そっちの取り分だって、ちゃんとあるんだぜ?」
  「い、いや」
  「それとも俺らの頼みが聞けないって?」
  「あ、あのだな」

  中に入ると言い争い。
  ゴブと、知らないグールたちだ。知らないグールは3人、ウェイストランド人の普段着とも言える白いバラモンスキンの服を着ていた。腰にはそれぞれ銃。
  その3人を胡散臭そうに見ているノヴァ姉さんとシルバー。
  客は連中だけだ。
  まあ、朝一だし。
  「気持ちの良い朝ね。おはよー」
  「あら、いらっしゃい、ミス・デンジャラス」
  「今日も綺麗ですね」
  「ありがとう」
  ノヴァ姉さんを褒め、シルバーに手を振り、私はカウンターに座る。
  何だこいつ、そんな顔をグールたちはした。
  クリスチームはまだ街に帰ってないのかな、暇な時に用心棒をしているカロンがいない。グリン・フィスも修行に出たまま帰ってないしピット組も巡回から帰ってない。
  つまり私はソロってわけだ。
  だけど問題ない。
  この程度の数なら問題ない。
  喧嘩になるかは知らんけどもさ。
  「ゴブ、喉乾いた。何か頂戴。お勧めは?」
  「あ、ああ」
  こういう輩との交渉はゴブには無理そうだな。
  私が引き継ぐとしよう。
  何故って?
  気持ちの良い朝に目障りだからだ。
  「客じゃないなら出て行って。私が貸し切るから」
  「何だとスムーズスキンっ! もう一度言ってみろっ!」
  喧嘩腰ですね。
  ならば。
  「ストレートに言うわ。邪魔だから出てって」
  「ああんっ!」
  「おいよせ、条件付きで街に入ってるんだぞ」
  止めに入ったのはグールの1人。
  条件付き?
  どういうことなんだろ。
  激昂しているグールでもなく止めに入ったグールでもない、もう1人のグールが私に言った。
  「悪いな、バイオレッタが麻薬の金を踏み倒すしアズクハルは死ぬわで落ち目でな」
  「知らん奴に内情話してんじゃねぇよっ! 行くぞっ!」
  3人は出ていく。
  何だったんだ、あいつら?
  出て行くと安心したようにノヴァ姉さんとシルバーがゴブに言った。
  「ゴブ、ビシッと断ってよね」
  「まったくよっ!」
  「す、すまん」
  誰に言うでもなく私は提案。
  「カロンはいつもいるわけじゃないし、ちゃんと用心棒雇った方がいいんじゃない?」
  「そ、そうだな」
  ああいう手合いは苦手なゴブ君。
  別に得意である必要もないんだろうけどさ。
  「それで、あいつらは何なの?」
  「グラートギャングだよ」
  「グラートギャング」
  おいおい。
  また知らない組織名が出てきたぞ。
  減るどころか増える一方の組織、特に敵組織は増え過ぎです。パラダイス・フォールズの奴隷商人どもはかなり叩いてるのにしぶといし。
  「麻薬がどうとか言ってたけど」
  「あ、ああ」
  「取り扱うの、ここで?」
  「まさか」
  ノヴァ姉さんが笑い飛ばす。
  まあ、そうでしょうね。
  「ゴブ」
  「大丈夫だ、押し切られそうだったけどな」
  「それ大丈夫じゃなくね?」
  「ミスティが来てくれてよかった。助かったよ」
  「アズクハルって知ってる、会ったことないけどクリスに前に聞いた。カロンの元雇い主よね?」
  「ナインスサークルってアンダーワールドの酒場のオーナーだよ。死んだらしいな」
  「で? 全容が見えてこないんだけど」
  「あいつらはグール専門に麻薬を下ろしている麻薬組織だよ」
  「グール専門? 何で?」
  「普通の人間はグールとはまともに付き合わないからな、それが犯罪者同士だとしても」
  「ふぅん」
  そういうもんなのか?
  「必然的に麻薬はグール相手の商売になるわけだが、俺らには効き辛いんだ。最近はウルトラジェットってやつが出回っているらしくて取引が激減してるらしい、それで取引先を増やしてるらしいよ」
  「ウルトラ、ああ、マーフィーか」
  前に会った麻薬業者のグールだ。
  彼の組織の規模は知らないけど別組織のグラートギャングのシェアを奪っているらしい。
  「条件付きって何?」
  「さあな、それは知らないよ。市長なら知ってるだろうな、多分」
  「市長」
  どちらにしても詳細は伝えに行くんだ、この件も聞きに行くかな。
  ゴブは微笑した。
  「助けてくれた恩人に何振る舞えばいいかな?」
  「ワインを1杯」
  「ははは。とっておきを出すよ、味わってくれ」
  「ありがとう」



  「どういうことなの?」
  ワインをご馳走になってから私は市長の家に突撃。
  そして現在はリビングでテーブルを挟んで相対しております。
  「顔が赤いな、風邪でもひいたか?」
  「一杯ひっかけてきた」
  「飲み過ぎに気を付けろよ」
  「ええ。それで、どういうこと?」
  議題はグラートギャングのこと。
  条件付きで入った云々だから市長が与り知らないことではあるまい。
  「何かしたのか、あいつら?」
  「ゴブ脅して麻薬買わせようとしてた」
  「……」
  「市長」
  「まず弁解したいのは、今は戦前ではないということだ」
  「それが?」
  「周りを見てみろ。法律なんてありはしない。お前さんのお陰で規律が生まれ、秩序が芽生えつつあるけどな」
  「どうも」
  お褒めの言葉は今はいらない。
  何故街に入れたかだ。
  「レギュレーター的にあれは有りなの?」
  「怒りはもっともだが、まあ、聞いてくれ。今はジェットやらモルパインやらを禁止する罰則はない、戦前とは違うんだ。売買自体を取り締まることは出来んよ」
  そこまで言って彼は言葉を区切り、間をおいてから付け加えた。
  「今はな」
  「まあ、そうね」
  振り上げた拳の下ろし方に戸惑う。
  言いたいことは分かる。
  確かに。
  確かに戦前なら取り締まれただろうけど、今は全面核戦争後だ。
  国家なんてない。
  法律もだ。
  全て纏めて格爆弾で吹き飛んでしまった。
  現状メガトンを中心に共同体が広まり、各街々は連携しつつある。
  無秩序から秩序へと移行しつつあるけど、完全に秩序が生まれるまではまだまだ掛かる、当分先の話だ。市長としてもレギュレーターとしてもジェット等の取り締まりは現状出来ないのだろう、ぶっ
  ちゃけそんなものはどこにだって転がってるし、レギュレーターメンバーの中にも使用者はいるのかもしれない。
  「納得してくれると嬉しいが」
  「分かったわ」
  「理解してくれて嬉しいよ」
  「それで、グラートギャングって何者なの? レイダーとは違うの?」
  「麻薬組織だ、グールのな。実のところよく分からないのが現状だ。辺境にある……えーっと、ジプシー村、だったかな、そこを拠点にしているらしい」
  「ふぅん」
  「条件付きで入れたのは奴らが扱っている代物が現在の世界では違法でも何でもないからだ。とはいえ暴力を容認したようなものだったな、すまなかった」
  「それは後でゴブに言ってあげて」
  「そうしよう」
  話題を転じるとしよう。
  まず野犬退治。
  「スプリングベールにいた野犬どもは排除したわ。サイバードッグって凄いのもいたけど排除済み」
  「サイバードッグ?」
  知らないらしい。
  まあ、知ってたら私だけを送り出すことはしなかっただろう。
  「神父はいなかったけど?」
  「街にいたよ、すまなかったな。たまに学校にいるようだが、正直止めてもらいたいものだな」
  「そもそもアトム教って何なの?」
  概要を知らない。
  どんな宗教なんだろ。
  核爆弾をご神体にしている、ぶっ飛んだ奴らだってのは分かるけども。
  「チルドレン・アトムか?」
  「うん」
  「入信するなら止めておくよ。あいつらは放射能の世界で、グールになって生きるのが夢な連中だ」
  「はっ?」
  おいおいおいおいっ!
  核見て喜んでるだけの変態連中じゃないのかよっ!
  「それかなりやばくない?」
  「妄想してるだけだしな」
  「いやいやいや」
  「この辺りが限界なんだよ、街としても、レギュレーターとしても。グレーゾーンでは何もできない。だが監視はずっとしてるし、クロムウェル贖罪神父はどちらかと言うと妄想継続派だしな」
  「へぇ」
  抑止力なのか、神父は。
  というか仕切っている神父以外は推進派なのか?
  やばいのには変わりがない。
  「レオ・スタールって知ってるか?」
  「誰それ」
  「プラスランタンの経営者の1人だ。レオ、アンディ、ジェニーの兄弟で経営している。プラスランタンは知ってるだろ?」
  「下の階層にある酒場よね」
  行ったことないけど。
  メガトン2層目にあるゴブ&ノヴァが私の行き付け。
  「それで、そのレオって人が何?」
  「元ジャンキーでな。神父の説教で改心したのさ。何だかんだで神父は街の名士の部類だ、無下には出来ない」
  「そっか」
  街には街の事情がある。
  そこは汲まないと。
  「あー、市長、クライムタウンって知ってる?」
  「クライムタウン?」
  「そう。キャピタルに隣接している地域なの?」
  「俺自身どこまでがキャピタル・ウェイストランドなのかはよく分からん。隣接している言われればそうなのかもしれんし、キャピタルに内包されている場所と言えばそうなのかもしれん」
  「ともかく近くにあるってわけね」
  「そうだ。DC残骸は知っているな? そこの南にある。瓦礫と廃墟で分断されているから生き方を知らないといけない厄介なところだがな。それが、どうしたんだ?」
  「そこ出身のウルフって人に会ったから」
  「ウルフ、ああ、レッドウルフか。ハンターだな」
  「ハンター」
  「そうだ。有名な奴だよ」
  「ハンターって区分的に何なの? 狩人ってこと?」
  「傭兵と言ってもいいのかもな。ただスカベンジャーも傭兵のようなことはするし逆もまた然りだ。明確な区分はないと思うぞ、あくまで、俺の考え方としてはな」
  「あー、あとバイオレッタって知ってる?」
  「それは知らんな。誰だ?」
  「グラートギャングが代金踏み倒した云々言ってた奴。知らないなら別にいい」
  「そういえばこっちも話がある。仕事の話ってわけじゃないが、手に人形を持った変人が強盗をしているらしい。気を付けてくれ」
  「手に人形」
  ボルト77の奴が頭に浮かぶ。
  手に人形なんてあいつぐらいのモノだろう。
  「分かった、気を付ける」
  「仕事は特にない。お前さんに頼りっぱなしの現状は大変申し訳ないが、オフの日を楽しんでくれ」
  「そうする。ありがとう」
  私は市長の家を辞去した。
  ……。
  ……あっ、またアカハナたちのイメチェンの話を忘れた。
  まあ、次でいいか。



  酒場に舞い戻ったのは特に意味はない。
  まったり過ごそうと思っただけだ。
  「よお、ミスティ」
  「ハイ」
  ビリー・クリールがいた。
  マギーもいる。
  2人はテーブルを囲んで食事をしていた、朝食のようだ。他に客はいない。シルバーの姿がない、休憩なのかな?
  ノヴァ姉さんは私の顔を見るなり手を振ってきた。
  振り返す。
  私はカウンター席に座る。
  特等席だ。
  「ゴブ、ビール頂戴。冷えてるやつ」
  「珍しいな。朝から飲み過ぎなんじゃないかい?」
  「オフなの」
  「ああ、それで」
  何にもない日万歳っ!
  冷えたビールをコップに注ぎ、一口飲む。
  くぅぅぅぅぅぅっ!
  喉越し最高っすなぁ。
  「マギー、珍しいのね、朝から来るなんて」
  「ビリーがね、今日は儲かったからって」
  「ああ」
  バーッとやろうってことか。
  「いつもはどうしてるの? 食事って」
  「俺が作ってるのさ」
  「へぇ」
  ビリーの言葉に私は少し驚く。
  料理出来るのか。
  カンタベリー・コモンズのキャラバン隊と繋がりもあり、その絡みで街に貢献している名士で伊達男。
  そのうえ料理のスキルもある模様。
  「インスタントだけどね」
  「お、おいおいマギー」
  微笑ましいですね。
  良い関係です。
  「ミス・デンジャラスにお願いがあるんだけど」
  「私?」
  ノヴァ姉さんが微笑しながら声を掛けてくる。
  お願い、か。
  珍しいな。
  「何?」
  「ちょっと護衛をお願いしたいのよ。オフの時に悪いけど」
  「護衛?」
  「そう」
  「酒場絡みの遠出ってこと?」
  買い付けか何かかな。
  「いや、俺は知らないな」
  そう答えたのはゴブ。
  与り知らないらしい。
  2人はコリン・モリアティ死後はこの酒場の共同経営者。対等な関係とはいえ全く知らないってどういうことだ?
  「今決めたのよ、ゴブ」
  「今、ああ、ビリーの話してくれた内容が気になってたんだな」
  「そうよ」
  話が見えてこない。
  ゴブの発言ではノヴァ姉さんの外出はビリーが起因しているらしい。
  「ビリー、どういうこと?」
  「さっき実はラッキー・ハリスが来ててね。儲かったっていうのは奴との取引なんだよ。だがこれは関係ない。関係あるのはハリスに聞いた話さ、それを俺がさっきノヴァに話したってわけだ。
  ノヴァがここまでこの話に食いつくとは思わなかったがね」
  「ふぅん。どんな話?」
  「DC残骸にフィットネスクラブが発見されたらしい」
  「フィットネスクラブ?」
  「ああ」
  「そこから何か剥ぎ取ってくればいいわけ? その、フィットネスに必要な器具を? そういうこと?」
  「違うわミス・デンジャラス。ビリーの話では、正確にはラッキー・ハリスの話になるんだろうけど、そこは現在運営されているらしいのよ。美容に関することだから、少し気になってね」
  「それで私に護衛を?」
  「そうよ」
  「わりと無茶な話よね」
  護衛云々のことではない。
  あからさまに怪しい場所に行きたいというのが、無茶だと私は言っている。
  どう考えても胡散臭いだろ。
  「レイダーの巣窟だと思うけど」
  「ハリスから聞く限りではそんな感じじゃなかったがな。だが俺も警戒する必要はあると思うぜ、とはいえミスティがいれば問題ないとも思うがね」
  「私がいればねぇ」
  無条件の信頼も少し困りものですな。
  頼られるのが嫌なわけじゃなくて、頼られた結果に関してのハードルが上げられているのが嫌なのだ。
  私は天使なんかじゃない。
  限界ってものがある。
  その結果、不味い結末だってあるのだ。
  だが気にはなるのも確かだ。
  「それでノヴァ姉さん、なんて名前の場所?」
  「金輪際フィットネスよ」
  「……」
  あからさまに胡散臭いんですけどそれは。
  今更断れない?
  無理でしょうね。
  嫌だなぁ。
  おおぅ。