私は天使なんかじゃない
ウルフ
それは気高き孤高の存在。
「野犬の群れ?」
「そうだ」
偽中国兵事件から2日後。
ゴブ&ノヴァでのんびりと1人で昼食を食べていた私ではあったけども、厄介のデリバリー大好き人間ルーカス・シムズがカウンター席に座っている私の隣に現在おりまする。
毎度毎度の厄介っすか。
嫌だなぁ。
ノヴァ姉さんは他のお客さんの話してるけど、私の方をチラリと見て口元を動かした。
えっと、ご愁傷さま……ええ、その通りですね。
たまには休みたいっ!
「あのさ」
「何だ」
「ミスティ、スープだ。温かいうちに飲んでくれ」
やり取りを静観していたゴブが私の目の前にスープの皿を置く。
良い匂いだ。
「頼んでないけど」
「試食だよ、ミスティの舌を満足できたなら注文表に載せようと思うんだ。実験台だと思って、飲んでくれ」
「ありがとう、ゴブ」
スプーンですくって一口飲む。
美味しい。
「さすがね、ゴブ。いけるわ」
「そりゃよかった。幾らぐらいだと妥当かな?」
「そうねー」
意外にこの世界、価格がデタラメというかいい加減。
とりあえずこの酒場の価格を前提で考えると……。
「13キャップってところかな」
「じゃあ、それにしよう」
そんな簡単でいいのか?
あれ?
もしかしてこの店って私の意のままに動く的な感じなのか?
「ミスティ」
「ああ、忘れてた」
「おいおい、そりゃ酷いな」
市長の訴えは無視する。
私は2日前には中国兵と戦ってるんだぞ、ボルト32を潰すのに働いてるんだ、仕事を持ってくる方が悪い。
スープを堪能する。
ふぅ。
体が温まりますなぁ。
「大体市長、エンクレイブはどうしたのよ」
「そんな話もあったな」
「そんな話って……案外軽いのね」
結構大ごとだと思うんだけどな。
前回の偽中国兵騒動はボルト32にいたボルトテック社残党の仕業だった。あいつらはボルト92、ボルト106、ボルト108を遠隔操作で実験していた、知らず知らずに私が以前関わったボルトだ。
そしてその背後にいるのがエンクレイブ。
これ、結構大ごとだと思うんだけどな。
「市長の見解は?」
「ないさ、別に」
「はっ?」
「……ああ、そうか、ミスティはボルトの人間だったな」
「えっ、今更?」
「いや悪い。考えてみたら知り合って間もないのに昔からの馴染みのような感じでな、すまんすまん。お前さんが話しやすいから忘れてたよ」
「どうも」
褒められてるんだか微妙だな。
「それで?」
「エンクレイブっていうのは西海岸で実在していた組織だ。とっくに壊滅しちまったがね。だから、エンクレイブラジオは再放送なんだよ」
「ああ」
合点が行く。
そういうことか。
ノヴァ姉さんも前に再放送だと言っていた、つまりはそういうことか。とっくに壊滅しているのが周知の事実としてあるから、再放送って呼んだのか。だけど腑に落ちないのが内容だ、内容は最近の
キャピタルに関することもあった。そのことについてはどう考えているのだろう。聞いてみる。
「再放送にしては内容おかしくない?」
「俺としてはスリードッグみたいな奴が放送してるのだと思ってる」
「エンクレイブマニア的な?」
「ネイサンみたいな奴もいるしな」
「ネイサン、ああ、彼か」
腰痛持ちのエンクレイブ讃美者か。
前に会ったな。
一度だけ。
「だけどウェスカーはエンクレイブがどうとかレイブンロックがどうとか言ってたけど」
「それは我々レギュレーターの仕事ではないな。さすがに事がでかすぎる。それに西でのエンクレイブ殲滅戦はここにまで伝わってる、生き残りがいたにしてもたかだか少数だ、大したことないさ」
「ふぅん」
殲滅戦云々は私は知らない。
ふぅんって言うしかない。
「そういえばアリはどうしたの? グレイディッチとか何とか」
「まだだ。中国兵絡みでごたごたしてたしな。何だ、引き受けたいのか?」
「まさか」
「グレイディッチにアリは溢れているが避難民の話では完全に今は無人の街のようだし、地上ルートでアリどもが南下しようにもウィルムヘルム埠頭のハンターたちがいるしな、ここには手が出せんよ」
「ウィルムヘルム埠頭?」
「ミレルーク狩りをしているハンターたちの拠点だ。確かレストランがあったな、興味があれば行ってみるといい。シチューが美味いらしい」
「へー」
今度行ってみよう。
「ミスティ、話を戻してもいいか?」
「する気はないけどね」
「構わんさ。とりあえず最後まで聞いてくれ」
「はいはい」
「スプリングベール辺りに野犬の群れが出没している。キャラバン隊は充分な武装しているが流れの商人たちにとっては脅威だ、旅人の往来の妨げにもなっている」
「率直な疑問なんだけど何でメガトンの警備兵がやらないの?」
「共同体は発足したばかりでな、充分な数がいない。各街々の街道を巡回するのが限界だ。レギュレーターにしても手薄なんだよ、レイダー連合が動いている」
「そいつらどこにいるの?」
「エバーグリーン・ミルズって知ってるか?」
「名前は知ってる」
ボルト112を探してた際に、ビッグタウンのラスティに聞いた場所だ。
「そこにいる」
「素朴な疑問だけどレイダーって全部そこ所属なの?」
「全部が全部じゃない。大抵は勝手にやってる。だが有力なレイダーの親玉どもは喧嘩するよりも手を組んだ方がいいと考えてな、それがエバーグリーン・ミルズのレイダー連合さ」
「そいつらが動いてるの?」
「最近活発にな。よく分からんが殺し屋を方々に差し向けてる」
「殺し屋」
「大体はレギュレーターのブラックリストに載ってる奴らだ、動き出してくれて感謝してるよ。ケチに穴蔵にいたら分からないものな、だが出てきたなら仕留めれるってわけさ。ソノラもご満悦だ」
「……」
「どうした、ミスティ?」
「……いえ」
それってもしかして私に対しての殺し屋どもじゃないだろうか?
デリンジャーのジョンは誰に雇われたかは言わなかったけどパラダイス・フォールズの奴隷商人ではないだろう、少なくともピットでの奴隷商人たちの動きを彼は全く知らなかった。
タロン社でもないだろうな、もしも連動してるなら最終決戦に出てきたわけだし。
……。
……レイダー連合に雇われてますよね、これ。
えっと、つまり共同体の手薄は私の所為?
「ルーカス・シムズ」
「うん?」
「私、やる」
「そうなのか?」
「ええ」
「そうか。心変わりした理由がよく分からんがよろしく頼む」
「気にしないで」
差し向けられている殺し屋たちを潰してくれているんだ、だとしたら私が手伝わないわけにはいかないだろ。
野犬の群れ、ね。
まあ、問題ないだろ。
「そうだミスティ、もしかしたら贖罪神父がスプリングベール小学校付近にいたらすぐに帰るように言ってくれ。野犬絡み以外にも、最近は外も物騒だからな」
市長はそこまで言ってから、不意に気付いたように肩を竦めた。
「いつだって、物騒だからな」
「あはは」
ですね。
外はいつだって物騒だ。
「それで、それって誰よ?」
「チルドレン・アトムの神父だよ、アトム教の親玉だ」
「私は会ったことある?」
「知らんよ」
ですよね。
「あー、核爆弾の前で説教してた人?」
「そいつだ。クロムウェル贖罪神父。お前さんが核を無力化してから落ち目でな、弟子は教団の大半連れて独立しようとしているわ残りの信者たちは奥さんにべったりだわ奥さんは別れたがって
るだわの人だ。最近はスプリングベール小学校で何やら瞑想しているらしい。一応知り合いだし気には掛けている。一応な」
「見かけたら帰るように言うわ」
「頼む」
さてさて。
お仕事お仕事。
「あちゃー」
未だメガトン。
クリスの家の扉をノックするも反応はない。酒場に暇な時は用心棒しているカロンもいなかったし、ハークネスは暇な時は何しているか知らないし。
結構痛いな、クリスチームの不在は。
グリン・フィスはこの間手に入れたショックソードの練習とか言ってどっか行ったし、アカハナたちは市長の手伝いで街道巡回してるし。
……。
……あっ、そういえばアカハナたちの装備の打診してなかった。
ボルト32の時の装備?
あれ貸し出しでした。
正式装備ではない。
何だかんだでメガトン共同体全体を考えると、レイダーやミュータントの攻勢の強い辺境から優先して装備を回しているようだ。気持ちは分からんではない。
なので現在は依然としてレイダーファッションに先祖返りな彼ら。
あんなのが街道練り歩いてたら旅人がビビるような。
髪型だけはまともだけどさ。
考えてみたらあいつら私の部下になるから私が給料払うのか?
給料っていくらだろ。
思えば私ってまともな労働してないな、もっと言うなら真っ当な労働の対価って貰たことないな、大体危険な仕事ばっかりで報酬も危険手当込だったし。一般ピープルの給料っていくらだ?
というかアカハナたちは共同体の仕事するんだから共同体持ちなんじゃないのか?
色々詰めんといかんな。
それにしても今回はソロか。
「まあいいか」
相手は野犬の群れだ。
スプリングベール辺りを縄張りにしてるようだし、縄張りが特定出来てるなら後れを取ることもあるまい。
1人でも大丈夫だろ。
完全武装で当然行く。
44マグナム2丁にピット産アサルトライフルのインフェルトレイター、護身用にナイフ、防御にライリーレンジャー製のコンバットアーマー。
野犬相手には充分過ぎる武装だ。
まあいいか。
「いないなら仕方ない。行くかな」
ビリーあたりに声を掛けようかとも思ったけど、相手は群れているとはいえたかだか犬だし、みんな忙しそうだし私1人でも問題ないだろ。
こっちには銃がある。
負けるわけがない。
「行くか」
スプリンクベール。
私が最初に外に這い出した際に初めて外泊した場所。
無人の廃墟だ。
「懐かしい」
廃屋の街を歩く。
這い出してまだ間もないけどもうずっと昔のことのようだ。
ここってまともな家屋がたくさんあるのにどうして誰も住まないんだろ、と最初は思ったけど、今なら分かる。生活が立ち行かなくなるからだ。メガトンはある程度は安定した街なわけだから、わざわざ
リスクを冒さずとも安定した場所に住めばいいってわけだ。スプリングベールでは生活の基盤を整えるのに数年は掛かるだろう。
もっとも、今の流れは良い感じだと思う。
メガトンを中心に各街々は共同体として繋がりつつある。
今後共同体の支援の下でならスプリングベールは街として活性化するのではないだろうか。
「ん?」
何か今動いたような?
インフェルトレイターを構える。
何もいない。
何もいない。
何もいない。
「いや」
違うな、いる。
不意打ちをかます気でいたから音がしてはまずいと思い、PIPBOY3000の索敵は切っていた。
既に野犬どもに見付かっているようだし索敵を起動する。
ピピピ。
はい、いますね。
囲まれてる。
少なくとも範囲内にいるのは8頭。
「……」
壁を背にして立つ。
襲ってくるなら三方向から。全て視界に入ってる、問題なく行ける。
どこから来る?
どこから……。
「来た」
野犬どもが全力で走ってくる。
数は5頭。
索敵したよりも少ない、連携を取って襲ってくるということか。狩りの仕方を知っているようだ、時間差攻撃ってやつかしら?
もっとも無駄ですっ!
「こんのぉーっ!」
バリバリバリ。
インフェルトレイター掃射。
猛攻してくる野犬ども次々と倒れていく。
うーん。
何か罪悪感があるな。
犬だからか?
辺りを血と硝煙の匂いが支配する。
残り3頭はどこだ?
わりと私は犬が好きのようだ、いたたまれない感じになってくる。
「犬というか狼、いや、これがウルフドッグってやつか」
ボルト101の図鑑で見たことがある。
犬と狼の混血だ。
外の世界は初めてが一杯だ。
ちちろんこんな形での初めてなんて嫌なことこの上ないんですけどね。
ピピピ。
「はっ?」
数が増えた。
一気に倍に、いや、もっと増えていく。
「……おいおいおい」
話違わなくないですか?
こんなのキャラバン隊でもまずいだろ、さらに増えていく。
「ちっ」
弾倉交換。
どうする?
戦うかこの場から離れるか、離れるか。
廃屋群で戦えば逃げ道がなくなる。狭い場所で戦うにしても、そうね、せめて閉鎖された空間で戦う方が得策か。
ちらりと彼方を見る。
スプリンクベール小学校だ。
あそこなら最適だろう。
過去2度レイダーの巣窟になってたけど、今回はその情報はない。何とかっていう神父もたまにあそこでやさぐれてるらしいし。
あそこまで逃げるか。
あそこまで……。
バリバリバリ。
姿を現し、躍りかかってくる犬どもに掃射。
バタバタと倒れるもののおかわりには困らない。次々に現れる。
やってらっれか。
「あー、もうっ!」
逃げながら、弾倉を新たに交換して射撃しつつ逃げながら私は叫ぶ。
ジェリコの所為だっ!
あいつが私のグレネードランチャー付きアサルトライフルを奪ってなければもっと楽な展開だったのにっ!
今度会ったら覚えとけよっ!
逃げる。
私は小学校目指して逃げて行く。
犬たちは射撃に警戒しているのか速度はを落としつつ、それでも執拗に追いかけてくる。
……。
……あれ?
私ってば何気に小学校の方に追い立てられてね?
嫌だなぁ。
スプリングベール小学校に潜入。
私が飛び込み、扉を閉めたと同時に扉に何かが無数にぶつかる音がした。
危なかった。
「ふぅ」
とはいえ一息つけるわけでもない。
オートロックでセキュリティ万全ってわけではないのだ。
どっか別の扉は開いているかもしれないし、壁がひび割れて侵入可能かもしれない、今は全面核戦争後の世界だ。学校は劣化し、放置され、補修されてすらいない、侵入経路は幾らでもある。
それに。
「やるか」
逃げるのが目的ではない。
ここに来たのは戦う為だ。
外で戦うよりはマシだ、少なくとも全方位から攻撃される心配はない。
通路に向かい、そこに立つ。
挟撃されるかもだがこれで2方向からの攻撃で済むってわけだ。壁に背を預けて1方向っていうのも手だけど、その場合逃げれなくなる。それはピットのスチールヤードで経験済みだ。
敵を待つ。
待つ。
待つ。
「おーい、神父いますかー?」
大声を出してみる。
これで敵に位置が見つかったかな?
見つかってほしいな。
「来た」
廊下を走る音が聞こえる。
無数にだ。
「廊下は走るなってね」
とりあえず一方からだ。
とっとと終わらせるとしよう。状況さえこちら向きなら、特に問題はあるまいよ。
「そこっ!」
バリバリバリ。
掃射。
廊下を突き進んでくるけどこの状態なら怖くない。
私はボルト101を這い出したばかりでこの近辺に彷徨っていたレベル1ではないんだ、既にレベルは格段に上がってる。
この程度の敵ぃーっ!
カチ。
弾丸が尽きる。
瞬間、インフェルトレイターから手を放して44マグナムを2丁引き抜く。野犬の群れは私の後ろの通路に現れる。つまり挟撃に出る。体の向きを変え、44マグナムを左右にそれぞれ向ける。
食らえーっ!
ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。
12連発っ!
貫通力の高い、威力の高いこの素晴らしい銃は1頭を屠っただけでは止まらずに後続にも届く。
つまり。
つまり全滅させるには充分すぎるってわけだ。
「よし」
血だまりが出来上がる。
肉塊もだ。
弾丸を装填、ホルスターに戻して、インフェルトレイターを拾ってこれも弾丸を装填。左手にインフェルトレイターを持ち直し、44マグナム1丁を右手で持つ。
終わりか、これで?
カツン。カツン。
「ん?」
何だ、この音。
金属が反響するような、そんな音だ。
暗がりに何かいる。
まだウルフドッグがいるのか?
出てきたのは……。
「何だ、あれ」
ウルフドッグでは、ないな。
見た目は犬だ。
……。
……いや、あれは犬か?
前足が銀色の義肢、頭には露出している脳がある。よく見ると何かの容器に収納されている脳、強化ガラスか何かか?
ロボブレインの犬版?
初めて見るぞ、何だあれ。
唸りながらゆっくりと近付いてくる。
次第に足を速めながら。
ピピピ。
この時、PIPBOYが情報を吐き出す。
登録されているやつか。
『サイバードッグを確認』
『失われた四肢や臓器を機械改造された、人体改造の一環の副産物による実験動物です。強化手術の内容にもよりますが強力な個体です』
『良い1日を』
「御機嫌ようっ!」
くそ。
監督官の言ってることは嘘ばっかじゃないか、外は全滅してるのにPIPBOY3000に何だってこんなの入ってるのさ、交流はないなんて言いながら嘘ばっかだ。
サイバードッグだとぉ?
面倒臭いのが出てきたもんだよ、まったくっ!
今日日こんな手術が出来る奴なんていないわけだからこれは戦前の代物なのか?
冷凍漬けか何かの状態を誰かが解き放ったのか?
「こんのぉーっ!」
ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。
右手で6連発っ!
さらに左手のインフェルトレイターを乱射。
何発か前足の義肢が弾丸を弾く音がするもののこの弾幕の前ではサイバードッグだろうがスーパーミュータントだろうが死ぬしかない。全てを撃ち尽くした後、そこには敵の残骸が転がっているだけだ。
「ふぅ」
緊張を解く。
44マグナムをホルスターに戻し、インフェルトレイターの弾倉交換。
改めて死骸を見る。
「良い値しそう」
今更、だけどね。
既に肉体も義肢も残骸だけど、あの義肢って真新しい状態なら結構良い値段になったんじゃないかな。
今じゃ誰も作れない技術だ。
BOSかOCあたりが高く買ってくれそうだったのに勿体ない。
どっからあれが出てきたかは知らないけどこの辺りの野犬どものボスとして君臨していたってわけだ。市長の見解は間違ってた、たかが野犬という認識は間違いだった。
ドサ。
「なっ!」
何かに後ろから突き飛ばされ、私はその場に倒れる。
獣臭い。
唸り声、背中に何かが上り、首元に粘っこい液体が垂れる。
ウルフドッグっ!
くそ、まだ残りがいたのかっ!
「キャンっ!」
銃声、そして断末魔。
重みが消える。
「伏せ」
ゆっくりと。
ゆっくりと身を起こして周囲を見る。
ウルフドッグは死んでる。
「間に合ったようだな、自分の悪運に感謝しろ。それと、俺がここにいた幸運にもな」
2人いる。
男女だ、話しているのは、銃を撃ったのは金色の鎧を着た男だ。
その鎧、よく見るとそれはBOSが装着していたパワーアーマーだと気付く。といっても完全な形でのパワーアーマーではなく、部位装備。肩、手甲、胸、足の部分だけで完全なタイプではない。
たぶん彼的にはあれが最適な装備で、それ以外の部位は必要ないから装備していないのだろうけど、よく動けるな。さっき見た際に背面のバックパックがなかった。
つまり動力がない。
あんな重い物、全身ではなく部位とはいえアシスト動力なしで動けるなんて大したものだ。
武装は手にしている9oピストル、背にある長物……軽機関砲か何かか?
やっぱり、よく動けるものだ。
かなりの重量のはずだ。
彼は赤い長髪を掻き笑った。
皮肉な笑みだ。
「こんなところで何してるんだ、ひよっこ」
「ひよ……」
そりゃ犬に後れを取りそうでしたけどね、ひよっこはないだろ。
機械改造犬なんて既に犬って範疇じゃないだろ。
音を立てて銃をホルスターに戻す男。
ん?
あのグリップ、良い趣味してるな。
材質は何だろ。
「ほう? 目利きは出来るようだな。このグリップ、こいつは象牙で拵えてある。ニーナのプレゼントさ」
「ふふふ」
彼女なのだろうか、青いワンピースを着た女性だ。
どう見ても非戦闘員。
一応ピストルを持ってはいるけど飾り以外の何者でもない。
「私はミスティ、助かったわ」
「ああ」
「ぶっきらぼうでごめんね、これでもウルフはこの建物に追い込まれたあなたを見て助けに来たの」
「ウルフ」
彼の名前か。
ウルフ、狼ってことか。
なるほど、ウルフドッグはウルフに負けたってわけか。
「たまたまだ、ひよっこ、たまたま俺が助けに入っただけさ。死にたくなければ街から出ないことだよ、次は俺はいないわけだからな」
「どうも」
別に自分のネームバリューを過信しているわけではない。
だけど何の反応も示さないとなるとどこの出だろう?
「ウルフは……」
「ウルフさん、だ。俺の方が年上だろう、どう考えても。礼節は大切だぜ?」
「ウルフさん」
「それでいい。で? 何だ?」
「ウルフさんはキャピタルの出身ではないんですか?」
「ほう」
感心した、そういう顔をした。
悪い奴ではない。
悪い奴ではないんだけどいちいちどこか気障な感じがする。
まあ、これは私の好みの問題であって彼が別に悪いわけではない。
「俺とニーナはクライムタウン出身だ」
「クライムタウン」
知らない名前だ。
街なのか、地名なのか。
「クソみたいなところだ、俺とニーナはここに引っ越してきた。新天地ってわけだ」
「ああ、なるほど」
「ツイてたな、ひよっこ」
「どうも」
ウルフ、初接触。