天使で悪魔







貴族の娘





  時勢は完全にブラックウッド団に味方したらしい。
  アザニ・ブラックハートの一件をオレインは告発したらしいけど世論には微風すら立たない。戦士ギルド、威勢は既に地に堕ちた。
  ギルドマスターであるヴィレナ・ドントンは完全に腑抜け。
  ……理由は分かるけどね。同情も出来る。
  母親としては満点だけど、しかし組織を率いる身としては相応しくはない。
  トップとしては相応しくないものの組織の運営と管理に適していたモドリン・オレインは追放された。
  戦士ギルドは既に機能していない。

  ……戦士ギルドはこのまま終わる……?
  ……戦士ギルドは……。





  聖アレッシアの石の奪還完了。
  任務の際に懐かしい……わけでもないけど、トレジャーハンターのクロード・マリックとの再開も果たした。
  まあいいさ。
  ともかくブルーマでの任務は終了。
  私はシェイディンハルに舞い戻り、支部長バーズから次の依頼を受けている最中だ。
  これが最後の任務らしい。
  少なくとも私向き(皿洗いやモグラ退治の依頼はあるようだけど私には適さないでしょうよ)の任務はこれでお終い。
  仕事。
  人材。
  これらは全てブラックウッド団に流れた。
  仕事と人材、さらには今では信頼も向こうのものだ。戦士ギルドさらに向かい風。
  ……そろそろ向かい風の強さで倒れるかも?
  まっ、私の知った事ではない。
  お仕事お仕事。

  「いいか。今回の任務は責任重大だぞ」
  「はあ」
  適当に相槌。
  前回のアレッシアの石奪還も同じような事を言ってたけどバーズの目付きが違う。多分今回の方が気合が必要なのだろう。
  まあなんでもいいさ。
  ギルドの体面も依頼人の目的もどうでもいい。
  仕事をこなすだけだ。
  「何すればいいわけ?」
  「ラグダンフ卿の接触しろ」
  「ラグダンフ卿?」
  響きからして貴族なのだろう。
  誰かは知らんけど。
  「彼はオークの貴族でね。立派なお方だよ」
  「へー」
  オークの貴族か。
  珍しい。
  もっとも元老院の打ち出した政策のお陰で献金さえすれば誰でも貴族になれる時代だ。ドラッド卿はダンマーだったしさ。
  それでもオークの貴族は珍しいか。
  初耳だし。
  「ラグダンフ卿とは家族ぐるみの付き合いなんだ。……まあ、それはともかく彼の娘が行方不明なんだ」
  「行方不明?」
  戦士ギルドに依頼する、その真意が分からない。
  貴族ともなれば私兵を抱えているのが普通だ。抱えている数は貴族の爵位にもよるけど、私兵はいるはず。
  何故私兵を使わない?
  「どうして戦士ギルドに依頼するわけ?」
  「ラグダンフ卿はここから北にある僻地に領土を持っている。つまりあまり大きな力を持つ貴族ではない。これが都市の近くなら帝国軍や都市軍
  にも要請出来るのだがな、彼の立場では軍は動かせない。少ない私兵では捜索の範囲は広げられない」
  「なるほど」
  「そこで俺達の出番だ。お前なら適任だ。……文句あるか、俺の判断に?」
  「いいえ」
  「いいか絶対に彼の娘を探し出すんだ粗相のないように気をつけろよ俺様に恥を掻かせるんじゃないぞっ!」
  「……?」
  えらく力が入ってるわね。
  倣岸なのは相変わらずなんだけど今回は私情が入ってるようにも見える。
  何故に?
  まあいいさ。
  私には関係ない事だ。
  「その娘さんの名前は?」
  「ログバト嬢だ。……オークのお手本とも言うべき女性だな。さあとっとと行け。それともお嬢様に失礼のないようにな。万が一気分を害するような
  事をすると耳を食い千切られるぞ、分かったな」
  「……すいませんその性格の女性なら1人で何とかなるんじゃないでしょうか……?」
  耳を食い千切る?
  まともな上司&依頼人はいないのかよ。考えてみればまともな奴はいないなぁ。
  これが宿命?
  あっははははははははっ。さすがは厄年、アンコターの呪いが今なお祟ってますなー。
  ……ちくしょう。
  「ともかく行ってくるわ」
  「頑張れよクズ。プレゼント用意して待ってるぜ」
  「プレゼント?」
  「とっとと行け」
  「はいはい」
  一路、北に。





  僻地。
  なるほど。確かに僻地だわ。
  何が特産なわけ?
  少なくともダンマーの貴族(没落したけど)であるドラッド卿は鉱山と農業を特産として貴族としてのし上がろうとしていた。
  ここには何もない。
  まあいいさ。
  貴族の暮らしや思惑なんざ関係ない。
  私は私の仕事をする。
  それだけだ。
  それだけ。
  屋敷の扉を護る私兵の1人に話を通す。戦士ギルドと名乗ると即座に広間に通された。
  戦士ギルドに期待するところが多いのだろう、ラグダンフ卿は。
  私兵はラグダンフ卿が自ら雇っている連中であり帝国から差し向けられた正規兵ではない。基本的に別の地方に派遣されている貴族以外は
  正規兵は与えられない。一部の例外を除いて私兵を抱えるのが通例だ。
  さて。
  即座に広間に通され、即座にオークの貴族が現れる。
  心待ちにしてたのだ多分。
  戦士ギルドの人間は正規兵よりも経験豊富な者が多い。知識も能力も、実戦経験もね。
  オークの貴族が期待するのも分かる。
  私は恭しく一礼。
  貴族に対する礼儀だ。……まあ、礼儀であって敬意は微塵もないけど。
  権威嫌いです☆
  「私がラグダンフ卿だ。旅の女よ、ナニヨウかな?」
  「はっ?」
  何だ今の片言。
  無理してインテリぶってる様にも見える。
  ただ、気さくそうなのは救いだ。
  「私兵の方に話は通したはずですけど。私はフィッツガルド・エメラルダ、戦士ギルドの者です。バーズ支部長に指示で来ました」
  「ああ。戦士ギルドの方ですね。よくぞ来てくださいましたね」
  「いえ。任務ですから」
  「まあ、お掛けなさい」
  「はい」
  ソファを勧められる。
  貴族であるオークが着座するのを待って、私も座った。まあ、これも礼儀の一環だ。
  「改めて自己紹介をしましょう。私がラグダンフ・グロ=シャーガック卿です。ログバト嬢について話をしましょう」
  「お願いします」
  「表で石を拾って遊んでいる時、我が娘がバケモノ捕らわれたつまりは誘拐ですっ! オーガどもにさらわれたに違いないっ!」
  「オーガ?」
  前回もオーガ絡みだった。
  この辺りはオーガの生息地なのかな。
  それにしても石を拾って遊んでる……耳を食い千切るお嬢様のイメージとは掛け離れてるなぁ。
  だからといって石を拾って遊ぶのが可憐だとは言わないけど。
  「失礼ですけど捜索の進展具合は?」
  「お恥かしいながら何も判明していないのが現状ですな」
  「そうですか」
  「抱えている兵士も少なければ……ふむ、彼らは忠誠心は優れてはいますが能力的には芳しくないのですよ。娘付きの騎士が頼みの綱なの
  ですが、娘の行方不明を責任に感じて音信不通です。いやいや逃げたわけではありませんぞ。独力で何とかしようとしていに違いない」
  「騎士?」
  「自らを自由騎士と名乗る者ですよ。つい最近召抱えましてな」
  「そうですか」
  そこはまあ関係ない。
  「どこを探索すればいいですか?」
  「我が屋敷の東を探してください。奴らは既にこの近辺にはいないでしょう。戦士ギルドの方よ、力添えに感謝します。あまりの悲痛に我が心は
  張り裂けてしまいそうです。察してくださいますかな?」
  「もちろん」
  「察して頂き感謝ですな」
  「それでオーガはどうします? 殲滅させちゃいます?」
  「身の毛もよだつバケモノ、ゾッとするほど醜悪で邪悪なモノがこの屋敷の東方にうろついているのだ。戦士殿、貴女があの連中をイッシュウして
  くださる事をキタイしておりますぞっ!」
  「はっ?」
  たまに妙な片言が出るわね。
  どこの田舎者だこいつ?
  でも威圧的なドラッド卿とは異なり私はこのインテリぶったオークが気に入った。好意を感じる。
  私は微笑。
  「戦士ギルドにお任せを」


  東に。
  シャドウメアは屋敷に預けて来た。
  何故に?
  だってシャドウメアは貴意が高いもの。
  お嬢様救出→馬に跨り帰還したがるお嬢様、でしょ?
  2人乗りの場合ならいいのよ私が乗ればね。だけどお嬢様が1人での乗馬を希望した場合、シャドウメアは容赦なく乗ってる相手をフルボッコする。
  私以外のお尻はお嫌いらしい。
  ……。
  ……意外にエロかシャドウメア。
  まあいい。
  そんな感じで徒歩での移動。
  オークのお嬢様ならオーガに食べられる事はあるまい。オーガにとってオークの女性は捕食の対象ではなく性欲の対象。
  純粋に性欲なのかは知らんけど、ともかく子供を生まそうとする。それが習性。
  殺される事はあるまい。
  だからといってゆっくりしているわけでもない。機敏に移動している。
  「ふぅ」
  タタタタタタタタタッ。
  見晴らしのいい地形を私は小走りに走る。
  正確には何日前に誘拐されたかは知らんけど殺されてはないと思うなぁ。多分誘拐された→戦士ギルドに依頼しなければ、の流れだからそう前の
  話でもあるまい。もしかしたら半日前とかぐらいかもね。だとしたら小走りで充分。
  オーガは鈍足。
  充分に追いつける。
  「やれやれ」
  溜息。
  溜息。
  溜息。
  いやいや嘆息?
  ブラックウッド団の胡散臭さを証明に全力かと思えば、追放されたとはいえ戦士ギルドの任務にまで気を回すモヒカンダンマー。
  モドリン・オレインは見た目に似合わず繊細。
  ……本気で似合わねぇ……。
  「私を信用してくれるのは嬉しいけどさ」
  わざわざ私を派遣する。
  つまり精鋭として認めてくれているのだろうけど、ブラックウッド団調査の手駒をあっちこっちで使わないで欲しい。
  効率悪いし。
  もちろん任務は任務で大切なのは分かるけどさ。
  だけど私もいつも暇なわけではない。
  魔術師ギルドもなんかきな臭くなってきてるし……んー、今年は皇帝暗殺とか深緑旅団戦争とか色々とあるなぁ。闇の一党ダークブラザーフッド
  も完全に壊滅したしさ。アイレイドコレクターのウンバカノの死んだし。
  マジで今年は厄年か。
  しかも大抵の事は私に祟ってるし。
  ……はぁ。
  私が世間に祟ってるのか、世間に私が祟られてるのか意味不明。
  やれやれ。
  「ん?」
  足を止める。
  チャッ。
  右手で雷の魔力剣の柄を握る。気配がする。
  「……」
  耳に響くのは風の音。
  しかし微かに響いているのは足音。こちらに近付く微かな足音。感覚を研ぎ澄ませるとそれは次第に轟音のような地響きに変わる。
  ……いや。
  五感を解放して感覚を研ぎ澄ませてたから足音が変わったわけではない。
  誰かが巨漢に追われているのだ。
  誰かが……。
  バッ。
  茂みから突然オークが飛び出す。
  一瞬性別が分からないものの服装からして女性だと判明した。……アルゴニアン同様に見分けが付きづらい。
  ともかくオークの女性だ。
  ドレスを纏っている。
  なるほど。彼女が多分ログバト嬢なのだろう。
  その後に続いてオーガが視界に入る。数は分からないけどダース単位で来ても怖くない。
  巨漢の軍団?
  ふふん。
  ただの木偶人形に過ぎないわ。的よ的。
  ほほほー♪
  「大丈夫よ下がってて」
  「何をボケーっとしてんだいこの間抜けっ! さっさとオーガを倒すのよっ! 殺すのよっ! 丸焼きにしてっ! 切り裂くのよっ!」
  「はっ?」
  お嬢様の口から出たのは汚い言葉。
  これがオークのお手本ですか?
  オークという種族に余所余所しい感じを抱く今日この頃。別にオークを否定しない、否定しないけどこう思う。
  ……ブレトンに生まれてよかったー……。
  「とっとと殺せぇーっ!」
  「はいはい」
  仰せのままにお嬢様。
  常識の中にあったお嬢様という既存のキャラ像を崩されてオーガ軍団の接近を許したものの問題ナッシング。軍団と言ってもたかだか10体。
  鼻歌混じりに粉砕できる相手だ。
  敵じゃあない。
  「裁きの……っ!」
  「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  ……はあ?
  突然1つの緑の人影が飛び出す。
  それは盾を持ったオーク。
  「マゾーガっ!」
  お嬢様が叫ぶ。
  知り合い?
  ……。
  ……ああ。ラグダンフ卿が言ってたお嬢様付きの騎士か。確か自由騎士とかいう称号だっけ。
  オーガに敢然と立ち向かっていく。
  刃を振りかざしてね。
  「ちっ」
  さすがにオークの女騎士ごとオーガ軍団粉砕するわけにも行くまい。
  魔法を中断。
  すらり。
  雷の魔力剣を引き抜く。
  その時マゾーガとかいう騎士はオーガを2体切り伏せていた。
  「……へー……」
  結構強いじゃん。
  マゾーガが手にしているのは鋼鉄製の剣。何の魔力も込められていない。そんな武器でオーガを易々と切り裂く。腕力も当然関係あるけど剣の腕
  も悪くない。世の中って広いわね。アリスと同等クラスの腕前だ。アリスは経験浅いけど天性のモノがある。
  そのアリスと良い勝負。
  世の中広い。
  さらに1体撃破。このまま見てるのは私もつまらない。
  私も殺るか。
  「はぁっ!」
  短い気合の声とともに敵陣に踏み込む。
  軽やかな動きでオーガに肉薄し、すれ違い様に一閃。当然瞬殺。
  ドォォォォォォォン。
  大きな音を立てて倒れる巨漢。
  その音に一斉にこちらを見るオーガ軍団。自分達を倒せるのがマゾーガだけでないのに気付いたようだ。ふふん、私をただのギャラリーと思ったの
  がそもそもの過ちだ。そして一斉のこちらを見るのもね。
  私とマゾーガの挟撃。
  即席な連携ではあるもののオーガの群れを圧倒するには充分。
  刃振るう度に灰色の巨漢の死骸が増えていく。
  そして……。
  「ご令嬢に手を出した不届きを知れっ!」
  ドォォォォォォォォン。
  豪剣を振るうマゾーガの前に最後の巨人が倒れた。
  完了。
  今まで木陰に隠れていたお嬢様が駆け寄ってくる。その顔には恐怖など微塵もない。……こいつ実は良い根性してるんじゃないの?
  武器渡したら一緒にオーガと戦ってたかもね。
  「バケモノどもを殺してくれてありがとう。自分で片付けてもよかったんだけどたまには《貴族のお嬢様☆》らしくしないとね。さて、お父様の元に戻
  ろうかしら。マゾーガ護衛して。……あんたも来るのよ、ブレトン女」
  「御意に。ご令嬢」
  「はいはい」
  お嬢様?
  いえいえこいつは戦士でも通るでしょうよログバト嬢。
  まあ何でもいいけどさ。
  ……。
  ……はぁ。
  なんか私がわざわざ出張る必要なかったんじゃないの?


  ラグダンフ卿の邸宅。
  お嬢様と自由騎士とともに帰還。当然ながらラグダンフ卿はご満悦だ。
  そりゃそうか。
  この近辺にいたオーガは一掃されたしお嬢様は救出。
  万々歳だろうさ。
  「おおっ! 我が最愛の愛娘を見つけてくれたとなっ! そなたのカツヤクはバーズに伝えておくぞ。これを受け取るがいい。我が一族にダイタイで
  伝わっているカホウじゃ」
  「はっ?」
  ダイタイで伝わってんだ。……へー、いい加減な貴族の家系だなー……。
  おそらくはラグダンフ卿が初代なのだろう。
  元々どういう稼業だったかは知らないけど元老院に献金して貴族になったのだろうね、多分さ。
  まあいい。
  ダイタイで伝わってるカホウの宝剣を差し出すラグダンフ卿。
  でかい剣だ。
  両手剣のクレイモア系の剣だ。
  見た感じ何かの魔力が宿っている。結構強力そうだけど私の持つ雷の魔力剣ほどではない。それにクレイモア系は扱い辛い。
  純粋には私は非力だし。腕力はないのだよ。
  恭しくラグダンフ卿に言上。
  「恐れながら」
  「なんじゃ?」
  「此度の働きはマゾーガ殿の助力があればこそ。その宝剣、彼女に下賜して頂ければ幸いでございます」
  ……正直邪魔だしその剣。
  「そうか。そなたがそう言うのであればそうしよう」
  「では」
  一礼して私は下がる。
  マゾーガの叙任をわざわざ見届ける気はない。マゾーガは私を見て目礼した。私も目礼で返す。
  もう会う事はないけどさっぱりとして性格は嫌いじゃあない。
  まあいいさ。
  スタスタ。
  私は扉に向かう。玄関ではログバト嬢が壁に背を預けて突っ立っていた。
  「どうしたの?」
  「助けてくれてありがとう」
  気恥ずかしげに笑う。
  私も笑い返した。
  そういえばこの子は何歳なのだろう。オークは見た目で年齢が分からない。この子若いのかな?
  「そういえば全然怖がってなかったわね、ログバト嬢」
  「オーガが怖い? はん。あんなの亡くなったお母様に比べたらなんでもないわ」
  「そ、そう」
  亡くなったお母様は何者?
  オーク、底の知れない種族です。
  おおぅ。
  「まあ自分で片付けでもよかったんだけど《斧は持ち歩くな》とお父様に言われてるしね。斧さえあればオーガなんか目じゃないのに」
  「……ははは」
  本気で私は今回必要でしたか?
  ここに来る必要もなかった気がするなぁ。
  無駄足?
  ……ちくしょう。






  シェイディンハルに舞い戻る。
  愛馬シャドウメアの脚力をもってすれば依頼を受ける→依頼達成は容易。即日完了。まさに無敵のペアね私とシャドウメア。
  相棒は今厩舎で人参食べ放題の最中。
  私からの労りの証だ。
  さて。
  「彼女を無事に送り届けた?」
  「ええ」
  シェイディンハル支部の建物の中で私は支部長バーズに報告。
  貴族の娘は無事保護。
  任務完了。
  「よくやったぞっ!」
  「どうも」
  ……。
  ……にしても今日は妙にこのツンデレオークのテンション高いわね。
  何故に?
  聞いてみよう。
  「今回テンション高いわね。何か私情あり?」
  「……実は俺は昔からあの娘に惚れているんだ。今度会いに行ってみるかな」
  「はっ?」
  頬を赤らめる。
  オークの感性はよく分からん。筋肉質の異性が好きなのかな?
  だとしたらノルドともうまくやれそうね。
  まあいい。
  バーズは照れ隠しのつもりなのか厳かに咳払い。それから威儀を正して支部長としての言葉を紡ぐ。
  「お前はクズにしちゃ良い人材だったな。しかしもう仕事がない。アンヴィルのアーザンのとこも同じような感じだろうな」
  「そう」
  決定的なわけか。
  鉱山ギルドからの大口の任務を失敗した、それが既にシロディールを駆け巡ったのだろう。
  精鋭投入しての失敗。
  これがきっかけとなって戦士ギルドは頼りない、という風になったのだろう。
  もちろん仕事の采配を取るヴィレナ・ドントンは腑抜けたしモドリン・オレインは追放された。指揮系統は完全に瓦解した。この状況ならばブラック
  ウッド団が何も手を出さなくとも潰れるだけだろう。今更向こうは妙な画策をする必要はない。
  戦士ギルドの崩壊は既に必然。
  仕事がないのも頷ける。
  「次の仕事がないからお前は稼げん。しかし今までの慰労の意味で、お前にプレゼントだ」
  「プレゼント?」
  任務前にも言ってたな。
  なんだろ?
  「アンヴィル支部長アーザンと協議の結果、お前をガーディアンに復帰させる」
  「そいつはどうも」
  別に階級なんざどうでもいいんだけどさ。
  戦士ギルド加盟も別に入りたかったのではなく流れ的な感じだったし。
  なるほど。
  これがプレゼントか。
  「こいつはお前に対する礼儀だ。プレゼントではない」
  「はっ?」
  ニヤニヤするバーズ。
  「さらに俺達支部長2人の特権でお前をチャンピオンに昇格させる。これでお前は俺達よりも階級が上だ。まっ、頑張んな」
  「ちょっ!」
  さすがに厚遇過ぎる。
  私は慌てる。
  つまり今の私はバーズとアーザンを飛び越えた。今の私の地位はかつてのモドリン・オレインの地位。戦士ギルドの階級において次席に位置
  する。戦士ギルドの通例として、組織の運営と管理はギルドマスターとチャンピオンの2人で行われる事になる。
  どういう事?
  簡単よ。
  今後はヴィレナと私の合同で組織運営をする事になるわけだ。
  傍観決め込んでた私。
  しかし今のそれが出来ない。
  責任感ある私(てへ♪)にしてみれば責任を放棄は出来ない。戦士ギルドの名誉回復の為に奔走を余儀なくされたわけだ。
  これはある意味嫌がらせだぞ責任押し付けられたーっ!
  ……ちくしょう。
  「頑張れよ、チャンピオン殿」
  一応は期待はされてるみたい。
  私ならこの現状を何とか出来ると踏んでるからこそのチャンピオン就任なのだろう。そうでなければ推挙はしないはず。だって下手な人材を推挙
  したら戦士ギルドの信頼に関わるからだ。そういう意味では信頼されてるのは間違いない。
  まあ信頼要らんけど。
  「もしもチャンピオンの階級に自信がないなら前任者の友人に聞くといい。何でも向こうはお前に会いたがってるらしいしな」
  「オレインが?」
  「おいおい何の話だ?」
  「はっ?」
  「俺はオレインなんて一言も言ってないぞ。チャンピオンとして、前任者に手解きをして貰えって言ってるだけだ」
  「……はいはい」
  つまりチャンピオン就任は元々オレインの指示だったわけね。
  あのモヒカン、隠然たる権力残してるなー。
  まあいいさ。
  「いつまでここにいる。とっとと行け」
  「はいはい」
  ブラックウッド団に対する次の方針が決まったらしい。
  コロールに行くとしよう。


















  「リザカール、アジャム・カジンが死んだそうだな」
  「……っ! ヴァルダーグっ! 何故お前がここにいるっ! ヒスト受け渡しはまだ期日があるだろうがっ!」
  「若の命令で派遣されたんだよ。お前が厄介を抱えていると聞いてな」
  「厄介などないっ!」
  「アジャム・カジンが……」
  「奴は死んだが計画に支障はない。副指令のジータム=ジーがいる限りアルゴニアン王国からの援助を取り付ける事は出来る。問題ない」
  「そいつは結構。ただし忘れないでくれよ」
  「……」
  「これ以上厄介な展開になれば若が直々にここにお見えになるからな」
  「……」
  「そうなればお前の身がどうなるかは分かってるだろう? お前は退場する、若が引き継ぐ。アルゴニアン王国は既にそれを承諾している。分かっ
  てるよなこれ以上のミスは許さん。黒の派閥とブラックウッド団、同盟関係ではあるがこれだけは忘れないでくれよ」
  「……」
  「若とお前、対等なんかじゃないんだよ最初からな。自分は特別だなんて思わん事だ」