天使で悪魔
アザニ・ブラックハート
その日、戦士ギルドのマスターであるヴィレナ・ドントンは全ての息子を失った。
ヴィテラスとヴィラヌス。
2人の息子は任務中に戦死した。
その結果、全ての責任はモドリン・オレインにある事にされた。
ゴーサインを出したのはヴィレナ。
にも拘らずだ。
モドリン・オレインは弁明しなかった。
彼は解任。
しかし闘争は終わらない。
……今から始まる。
「俺には果たせねばならない任務がある」
コロール。
モドリン・オレインの自宅。
私は今、そこにいる。不遇の者同志の会合だ。……意味?
簡単よ。
私は解任された。
ガーディアンの地位を剥奪、一般戦士にまで降格。
まあ別にいいけど。
階級にはそれほど興味はない。そもそもの流れはただの偶然。別に階級になど最初から固執していない。どうでもいい。
面白い事にそれはモヒカンダンマーも同じらしい。
ただ私と決定的に違うのは、彼は根っからの戦士ギルドメンバー。
放逐されても心はギルドメンバーらしい。
最後の奉公をしようとしている。
……。
……まあ、最後の奉公して隠居する、というほどの歳でもないだろうけど。
さて。
「行動開始する?」
「そうだ」
世間話も社交辞令も何もない。
オレインはストレートに用件を切り出した。
実に合理的。
そもそも私は社交的には見せているけど、あまり人付き合いは得意ではない。……親しい人相手だと素だけどさ。
簡潔に勧めてくれるのは助かる。
突き詰めて考えればお互いにタイプは同じなのかもしれない。
「同志と……思っていいか? フィッツガルド・エメラルダ」
「これはこれは」
私は肩を竦めた。
怪訝そうな顔をするダンマー。
「何だ?」
「今更それ聞くわけ?」
「何?」
「ここにいる事がその証明にならない? あんたの答えのさ」
「確かにな」
話を進めよう。
分かり合うのが本筋ではない。あくまでそれはオマケだ。
「結局ブラックウッド団は何者なの?」
「元々はただの傭兵団だ。しかしリザカールというカジートがリーダーになった途端に膨れ上がった」
「カジート?」
「そうだ」
それは知らなかった。
ブラックウッド団はアルゴニアンが主流であり、だからこそブラックマーシュのアルゴニアン王国からの支援を受けているのだとばかり思ってた。
……。
まあ、支援云々は噂だけど。
それでも。
それでもその噂は根強く信じられている。
私もだ。
「何故連中の台頭を許したわけ?」
「ヴィテラスの事は知っているか?」
「ギルドマスターの長男」
「そうだ。彼の最終任務はアザニ・ブラックハートの討伐。しかしその任務の際にヴィテラスは死に、部下も全員死亡した。あれがそもそもの全ての始
まりだったのだ。我々は依頼人アルゴスの要請で奪われた聖遺物を取り戻すはずだったのだ」
「……」
「目下のところあの時に一体何が起こったのか分かっていない。全員……戦死したからだ」
「依頼人のアルゴスって何者?」
「良い質問だ。奴もまた死んだ。任務失敗後懸命に調査したがアルゴスの素性すら判明していない。罠だった可能性もある」
「アルゴスは口封じされたわけ?」
「その可能性は否定できん」
「なるほどね」
最初から計略だったわけだ。
策謀。
陰謀。
んー、謀略。
他にどんな類義語がある?
いずれにしてもブラックウッド団は最初からまともに張り合うつもりはなかったのだ。同じような組織として戦士ギルドの方が遥かに洗練されている。
まともに同じ土俵でやっても勝ち目はない。
だからこそ主力を罠に掛けて潰した。
そんなところか。
……。
だけど、だとしたらブラックウッド団って何?
ただの戦士ギルドと同じような組織ではない。既に亜人版戦士ギルドですらない。この抗争は局地的な紛争と同様。
目的は一体何?
目的は……。
「ちゃんと調べる必要がある」
「でしょうね」
「俺は戦士ギルドを追放された。つまり今なら身動きが取れる。自由にな。お前にはその手伝いをしてもらいたいのだ」
「ふむ」
「もちろん強制はしない。俺とは異なりお前は今だギルドの人間。これはヴィレナに対するは背反行為だ。お前が決めてくれ」
「はふ」
再び肩を竦める。
ずるい奴だ。
私がどう答えるか想定しながらも、それでもなお意地悪く聞いてくる。私の口から言わせたいわけか。
なかなかの策士ですなー。
苦笑交じりに答える。
「付き合うわ」
「そう言ってくれると思っていたぞ、友よっ!」
「まったくあんたって人は……」
「がっはっはっはっ! お前の英断はつまり俺の人徳だなっ!」
「……」
はいはい。
言わせて置こう。
「それで? どう調べる?」
「アルベニアというアイレイドの遺跡にアザニ・ブラックハートの住処があった。奴自身はその後ブラックウッド団に討ち取られたらしいがそれを
立証はされていない。偽装の可能性もある。つまりは……」
「全部ブラックハートとブラックウッド団の狂言だと?」
「そうだ。戦士ギルドの力を殺ぐ為のな」
「なるほど」
話は決まった。
後は行動あるのみだ。
お互いに似た者同士。行動も常にストレートに動く。
「行くぞ」
「了解」
反撃開始っ!
アルベニア。
レヤウィン北東にあるアイレイドの遺跡。街道沿いにあるので比較的有名な遺跡だ。
そこに潜った。
「……何も見つからんな」
「そうね」
2日を掛けて移動したものの、骨折りね。
もちろん益もあるにはある。
ここにアザニ・ブラックハートの痕跡はそもそもないという事だ。
調査終了。
「で? どうする?」
「アザニ・ブラックハートがここを拠点にしていたなら何らかの形跡がなければおかしい。ここには何もない、それはつまりアルベニアには元々奴
はいなかった事になる。奴が本当にブラックウッド団に討ち取られたのかは知らん。しかしここに奴はそもそもいなかった」
「そうね」
そう見るのが普通だ。
ここには生活の痕跡は何もない。
ならば何故?
「罠よね」
「おそらくは。ヴィテラス達はここに誘き出されたのだろうな」
「ふむ」
「あのクズどもめっ! アザニの奴はブラックウッド団と裏取引していたに違いないっ! きっと金を掴まされていたのだっ!」
「そうね」
客寄せパンダ、って感じかしらね。
アザニ・ブラックハートは元々賞金首。奴の名で戦士ギルドをここに招き寄せて討ち取る。
せこい事するわね、ブラックウッド団。
「どうするの?」
「アザニ・ブラックハートは生きている可能性がある。奴を倒し、ブラックウッド団のペテンを世に知らしめるのだっ!」
「少なくとも死亡から生死不明に変更ね」
「そうだ」
ブラックウッド団。
奴らがシロディールデビューを果たしのたが戦士ギルドが失敗したアザニ・ブラックハートの討伐。それを連中は成功させた。
しかし死体は提示されていない。
生きている可能性はゼロではない。
ならば。
「どこ探す?」
「アザニ・ブラックハートはアイレイドの遺跡に魅入られているそうだ。そういう情報がある。ここから北にアタタールという遺跡がある」
「そこにいると?」
「確証はないが、そういう情報があるのだ。どうする?」
「愚問ね。行くわ」
アイレイドの遺跡全てを探索するのは勘弁だけどもう1つぐらい潜るのも悪くない。
そんなに距離は離れてないし。
半日掛けて移動。
アタタールに到着した。私とモドリン・オレインは遺跡に潜る。
闇の一党の内容のインタビューの際に帝都に行き、その時大学で雷の魔力剣を作成した。攻撃力は最大級だ。
前の破邪の剣は闇の神シシスの時にナマクラになったしね。
それにしてもモヒカンダンマーの使用武器はトゲトゲメイス。……せこい武器使ってるわねー。
さて。
「……」
「……」
息を殺して私達は遺跡を進む。
息を殺す理由?
簡単よ。
視界の向こうに歩哨がいる。独特の鎧。ブラックウッド団の団員だ。無言で私達は頷き合う。どうやらここで当たりの様だ。
もしかしたらブラックウッド団の拠点なだけ?
それはない。
流れ的に偶然ここが連中の拠点、というのは少々おかしい。何らかの繋がりがあると見るのが普通だ。
……。
もちろんまったく別物の可能性もある。
アザニ・ブラックハートとブラックウッド団は別物もしれないけど、それならそれでいい。いずれにしてもブラックウッド団も仇敵だ。私の後輩分の
アリスを徹底的に痛めつけてくれた犯人は既に判明しているからだ。
血祭りに上げてやる。
「ふふん」
私の顔に残酷な色が浮かぶ。
微笑する唇に冷酷さを漂わせてスタスタと歩き出す。まるで見つけてくれと言わんばかりに平然と足を進める。
「お、おい」
押し殺した声のモドリン・オレイン。
無視する。
スタスタと足を進める。
「何だお前はっ!」
ブラックウッド団の歩哨が気付いた。種族はノルドだ。
基本的に編成の主流がトカゲ、次はネコ、後は混成。それがブラックウッド団の人員らしい。トカゲしかいないという見方は偏った見方。
まあ何でもいいさ。
敵。
敵。
敵。
目に映るのは全て敵。
私のモットーは敵は全て皆殺し、デストロイ、それだけだ。
分かりやすい方程式。
考え方はシンプルが一番。
「誰だお前はっ!」
ノルドが叫ぶ。
……そうだ。確か戦士ギルドから移籍した連中も多いのよね、ブラックウッド団。もしかしたらこのノルドもそうなのかな?
まあ何でもいいさ。
だってこいつは私の前に立ち塞がる敵……いいえ、ただの石ころ。
石ころは蹴飛ばして排除する。
目の前から消えろ。
「私が誰かってそんなに知りたいなら教えてあげるわ」
「なんだぁ? お前?」
「死神」
「お前頭がおかしい……」
「裁きの天雷っ!」
バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
雷で粉砕。
雑魚め。
「お、おい」
さすがに自身はここまで過激論者ではないのだろう。モドリン・オレインは慌てる。
私は微笑。
場にそぐわない微笑に怖気付くように彼は黙った。
畏怖とも尊敬とも分からない表情のダンマー。
「ここに至って自重は必要ないでしょ」
「……」
「ブラックウッド団=敵。お分かり?」
「そう、だな」
「結構。行くわよ」
「……」
「まだ何か問題?」
「いいや。行くぞ」
ブツブツと何かを呟き、苦笑するダンマー。
私は追求しなかった。
まあ、聞こえしたけどね、ぼやきがさ。気持ちが分かるだけに何も言わなかった。
彼はこう言った。
……いつの間にかこいつが主導権を握ってやがる……ってね。
大変失礼。
でもご理解頂きたいわね。
私は使われるより使う人間。上に立つ人間なわけよ。
お分かり?
「デイドロス、行けぇーっ!」
遺跡内は乱戦の場と化していた。
私とオレインは互いに背を護り合いブラックウッド団を寄せ付けない。
こちらは2人。
対して向こうは十数名。
にも拘らず相手は躊躇っていた。私達の技量に圧倒されているのだ。モヒカンダンマーの持つ武器はせこいものの、その卓越した技量はさすが
の一言だ。ブラックウッド団を次々と屠っていく。ここに至ると彼も躊躇いはないようだ。
見捨てられし鉱山の一件で完全にブラックウッド団は敵だと判明した。
躊躇いは不要。
哀れみもね。
「行くぞエメラルダっ! 敵を気合と根性で圧倒しろーっ!」
「……気合と根性ねぇ」
理論的ではない。
まあ何でもよろしい。
要は敵を始末すれば意味は同じだ。私の持つ魔力剣がブラックウッド団のトカゲを鎧ごと両断する。
群がる敵。
無駄無駄無駄ーっ!
「裁きの天雷っ!」
バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
纏めて撃破っ!
さらに敵の横合いにワニ型悪魔デイドロスが突っ込む。完全に浮き足立つ敵。どこで仕入れているのかは知らないけど敵さんは全員魔力装備だ。
しかし甘い。
私の眼から見たら全て三流品。
その程度の魔力装備でこの私を圧倒できるとお思い?
……だとしたら。
「来世では間違えない事ね。私に歯向かう事の愚かさを現世で学べっ!」
刃を容赦なく振るう。
首が。
腕が。
胴が。
ありとあらゆるモノが剣を振るうと飛ぶ。
これでお分かり?
誰を敵にしたのかをさ。
「怯むな突撃ぃーっ!」
『おうっ!』
……ふん。
まだ学んでいないらしい。こりゃ来世でも間違えるわね。
まあ何でもいいさ。
愚者は散れっ!
「煉獄っ!」
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
炎が炸裂する。
2人ほど死に損なうものの問題ない。私はスタスタと歩いて間合いを詰めて床に這い蹲っている2人の首を刎ねる。命乞いなのか動けなかったの
かは知らん。知らんけどどうでもいいさ。許すつもりも逃がすつもりもない。同情も哀れみもない。
敵は殺す。
「先に死ぬ奴は恐怖はない。後から死ぬ奴ほど恐怖が待ってる。……それで? 最後に死にたい奴は誰? その意見尊重してあげるわ」
『……』
宣言するとブラックウッド団は沈黙した。
士気は見る見る下がっていく。
視線は私に注目した。敵の残りは奥から来た増援含めて10名。その全ての視線が私に集中する。
馬鹿め。
「たぁっ!」
トゲトゲメイスを振るってバッタバッタと敵を薙ぎ倒すモヒカンダンマー。
彼もまた容赦ない。
そしてデイドロスもね。
私に意識を集中していたが為に存在を忘れられていたオレインとワニは自己主張するかの如く敵に襲い掛かる。
所詮敵は烏合の衆。
どんなに魔力装備を揃えようが私には効果なんてない。
何故って?
私は最高に格好良いヒロインだからよ。……かなり『だぁく☆』なヒロインだけどねー。
何たって天使で悪魔なんだからさ。
さて。
「お前ら殺すよ」
全てのブラックウッド団を始末して私達は進む。
物騒?
いいえ。
そうは思わない。
既に戦士ギルドに対して喧嘩を売っているブラックウッド団。リアルに戦士ギルドのメンバーを虐殺した相手なのだ。判明している。
ならば問題ない。
容赦が必要な相手ではない。
全員殺す。
処方箋はそれで問題ナッシング。
「こいつは……」
「当たりね」
最深部に辿り着く。
そこは居住区画だった。最高級のベッド。ワインセラーにはワインが並んでいる。家具や調度品も一流。
遺跡に暮らす神経は分からないものの、少なくとも持ち込んだモノ全ては一流。
待遇は悪くない。
「な、何だお前ら?」
黄色に輝く武具に身を包んだ男が出てくる。
へぇ。あれはエルフ性の武具か。
なかなか高価よね。
なるほど。装備も一流らしい。
「アザニ・ブラックハートだな?」
「だとしたらなんだ?」
オレインが詰め寄る。
相手の動きは素人でしかない。つまり相手は素人の腕前。それでもオレインの怒気と殺気は感じ取れるらしい。怯えて後退する。
「な、何だお前は?」
「……」
「お前はアジャム・カジン様の使いか? もしかして今後の計画の変更でもあったのか?」
「俺は戦士ギルドのモドリン・オレインだ」
「な、なにぃっ!」
「グルだとは思っていたが部下を侍らせていたところを見るとお前もブラックウッド団の幹部というわけか。そうだな? そうなんだろ?」
「ま、待て」
「問答無用っ!」
トゲトゲメイスを振るう。
「ぎゃっ!」
悲鳴は1つだけだった。素人はそれ以上の声を上げる事すら出来なかった。
床に転がった時、それは既に屍。
どう見ても生きてはいない。
「殺してよかったの?」
「問題ない」
「生かしておけば情報は……無理か。こいつは幹部かもしれないけど、下っ端よね」
「そうだ」
「次の、それも上の幹部の名前が分かっただけで充分か」
アジャム・カジン。
そいつが次の標的だ。次の幹部が大物であるならば何らかの情報がゲットできる。……それにしても過激よね、私達。既に闇の一党の領分だ。
まあいいさ。
オレインは呟く。
「アザニ・ブラックハートは死んだ。我々は1つの復讐を果たしたのだ。……ヴィテラスの復讐をな」
1つ目の復讐、完了。
残る復讐は2つ。
……ヴィラヌスとアリスの復讐。
「アザニ・ブラックハートは死んだようだな」
「はい。マスター。正確には支部ごと粉砕されました」
「……」
「……いかがいたしましょうか?」
「まあいい。奴は幹部とはいえ所詮は小物。大した情報を与えているわけでもない。惜しい人材ではない。情報も漏れないしな」
「はい」
「そうだアジャム・カジン。見捨てられし鉱山での一件、見事だった」
「いえ。マスターのお導きがあればこそです」
「謙遜するな。お前の手柄だ。褒美としてこの魔法の指輪を与えよう。お前の魔力を増幅してくれる代物だ」
「ありがとうございます。マスター・リザカール」