天使で悪魔







闇の一党 〜夜母の叫びは届かない







  闇の一党との最終決戦。
  ブラヴィルに集結していた暗殺者達は全て撃破。
  幹部集団ブラックハンドも壊滅。
  その際に最強の暗殺者である《与えし者グリン・フィス》を下した。家族のホムンクルスに寄生していたルシエン達も、もう存在しない。
  残ったのは夜母のみ。

  しかし甘かった。
  闇の神がこの戦いに介入してくるとはさすがに想定していなかった。
  命乞いする?
  ……まさか。
  
  私は最高に格好良いヒロイン。
  例え神相手でも降伏なんかするもんか。
  しかし能力の差は覆しようがなかった。全力を持ってして戦うものの奮戦空しく私はシシスの化身である大蛇に食われた。
  そして……。






  貪る。
  貪る。
  貪る。
  我は闇の神シシス。
  虚無の海に沈みし魂を食らうのが最高の愉悦。
  魂は神にのみ許された至高の供物。
  

  貪る。
  貪る。
  貪る。
  我は新たに魂を得た。
  既にその魂は虚無の海にたゆたう。
  つまり我の生贄としてこの先、未来永劫、永遠に貪られ続ける定めにある。


  食らう。
  食らう。
  食らう。
  我が伴侶たる夜母の願いを聞き届けて今回介入した。
  それは正しかったらしい。
  新たに得た魂は見るからに美しく、見るからに美味。まさに至高の美。


  食らう。
  食らう。
  食らう。
  混沌の虚無の世界。そここそが我の支配する領域、世界。
  ここでは時の概念は存在しない。
  それゆえに生贄として虚無の海にたゆたう魂は苦痛と絶望に支配されながら、終わる事なく我に食らわれ続ける。


  ……しかし不満だな。
  この最高に美しい魂の所有者。ブレトンの女。既に意識はないものの……恐怖心がまったくない。
  不服。
  不服ぞ。


  まあよい。
  この先、永遠に貪る事になるのだ。
  いずれ絶望と恐怖に支配されよう。この世界に時の概念はない。つまり終わりなど存在せぬ。
  終わりなど……。


  ……?


  ……?


  何だ、この感じは?
  本来ならば肉体は溶ける。我の口の中で肉体は消失する。そして魂のみの存在となり、味わう。
  にも拘らずだ。
  この者の肉体は何故溶けぬ?
  そもそも。
  そもそもだ。
  大蛇の化身となった我はこの者を食らった。
  つまりその時点で肉体が消滅していなければおかしい。
  何故だ?


  「察しが悪いですね。闇の神シシスよ」


  誰だ?


  「小さき者を殺す事はこの私が許しません」


  貴様はっ!
  アズラ、何故お前がここにいるっ!
  いや。そもそもオブリビオンの魔王であるお前がどうしてこの者の加護をするっ!


  「さて、何故でしょう?」


  魔王が何故っ!
  取るに足らぬ人の子など我らにとって餌か玩具でしかないだろうがっ!


  「私はその者に恩義があります。それ故です。しかしそれ以上にこの者の何と美しい魂こと。その美、汚す事は許しません」


  オブリビオンの魔王が人の味方かっ!


  「そういう貴方こそ夜母とかいう人間にぞっこんではありませんか? いずれにしても闇の神シシスよ、フィッツガルド・エメラルダに
  手を出す事はこの私が許しません。……絶対に」
  

  オブリビオンに縛られている魔王が我を止められるかっ!
  笑止っ!


  「くすくす♪」



  何がおかしいっ!


  「確かに私はオブリビオンに縛られています。次元の扉が開かぬ以上は介入は難しい。しかし闇の神シシスよ」


  何だ?
  どうせ見るしか出来ないのだ。
  お気に入りの者が我に食らわれる様見ろっ!



  「闇の神シシス」


  何だ?


  「蛇である貴方が竜に勝てますか?」


  ……?
  どういう意味だ?


  「小さき者は様々なモノに護られています。……実に興味深い。ふふふ。下手に触れて火傷するのは貴方ですよ?」















  「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!」
  バシャン。
  「いったぁーっ!」
  唐突に絶叫が響いた。
  私の絶叫?
  ……。
  いえ。私ではない。
  いやまあ『いったぁーっ!』は私ですけどね。
  虚無の海に頭から落ちた。
  深さは闇の神シシスの気分次第らしい。現在の深度は足首程度。なんか顔から突っ込んだから水思いっきり飲んだ。くっそぉー。
  「いたたた」
  ここは相変わらず闇の神シシスの領域。
  混沌と虚無の世界。
  で?
  どんな展開だっけ?
  「んー」
  ……。
  ……。
  ……。
  はぅっ!
  そうだそうだ、私は確かシシスの化身である大蛇に食われたんだった。一匹目の大蛇は撃破したけど二匹目で敗北。
  そのまま丸呑みの刑に処せられた。
  で?
  シシスどこ?
  「んー」
  いない。
  ただ夜母が私を激しい目で睨みつけていた。その瞳には憎悪だけではなく驚愕もある。
  よくは分からないけどびびってもいるらしい。
  何故に?
  夜母は叫ぶ。
  「一体何をしたっ!」
  「はっ?」
  「闇の神シシスに食われた、次の瞬間貴様はシシスの化身たる大蛇を破裂させたっ! 何をしたっ!」
  「はっ?」
  よく分からん。
  だけどどうやら私は食われた→次の瞬間シシスは破裂。わざわざ細かい説明をどうもありがとう。
  それにしても破裂ねぇ。
  何故に?
  ……食中毒?
  ……。
  あっはっはっはっはっ♪
  そいつはいいや♪
  私は賞味期限切れてるってわけかそれ受けるー♪
  ……なーんて言うと思うかこんちくしょう。
  だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああなんかムカつくーっ!
  「裁きの天雷っ!」
  「……っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  あっ。出た。
  いつの間にか魔力回復してる。何となく勢いで魔法放ってみたけど裁きの天雷が出た。
  それどころか体も絶好調。
  夜母には魔法が効かないものの、突然魔法を放った私に怯んだ。
  むーふーふーふー。
  こいつはいいや。
  消してやる。
  「闇の精霊よっ!」
  何を出そうが無駄無駄無駄(ジョジョの奇妙な冒険風味☆)ーっ!
  「煉獄っ!」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  闇の精霊撃破。
  敵じゃないぜーっ!
  「クランフィアっ!」
  ふん。
  今度はエリマキトカゲか。段々とちゃっちくなってくるわね、召喚してくる内容。
  確かに攻撃力は高い。物理的な攻撃力はね。
  しかーしっ!
  「絶対零度っ!」
  冷気の魔法でオブリの悪魔を凍結、粉砕っ!
  まさに絶好調。
  闇の神シシスの動向は分からないけど、とりあえずは夜母を始末するに限る。連携されると目障り。正直な話、シシスは神だけあって
  反則的に強過ぎるけど夜母は大した事はない。
  シシスが再び介入する前に消す。
  目障りだもん。
  「夜母。お前殺すよ」
  「ダークガーディアンっ!」
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  はいはい。
  粉砕。
  ……馬鹿の一つ覚えかこいつは。
  こうもしつこく代わり映えしない骸骨戦士ばっか召喚されても困るんですけど。
  夜母の底、見えて来た。
  「ば、馬鹿な」
  「ふふん」
  ジリ。ジリ。ジリ。
  夜母、ゆっくりと後退する。この期に及んで召喚の連発という事は……こいつ召喚系しか使えないのか。
  確かに。
  確かに召喚魔法は使い勝手が良い。
  使いどころ次第では強力な攻撃魔法なんかよりも効率的。
  しかしそれのみに特化するのもどうかと思うんですけどね。偏り過ぎですよ、夜母さん☆
  召喚に特化し過ぎるのもいいけど、その召喚をモノともしないタイプの能力者相手だとその時点でそいつの人生は終わったも同義。
  まあ今がその時なんだけどさ。
  夜母、逝ってよし。
  「はあっ!」
  「デ、デイドロ……っ!」
  ザシュ。
  魔力を失いただの剣と化した破邪の剣。それでも人を殺すには充分だ。
  夜母の血を吸う私の剣。
  狙ったのは首。
  意外に反応速度がよかったので首を軽く薙いだに過ぎない。薄皮一枚。わずかに血が流れるのみだ。
  「へぇー?」
  「く、くそっ! 嵐の……っ!」
  ブン。
  さらに一撃を加える。
  機敏に動く夜母……というと聞こえはいいけど、夜母は完全に逃げ腰。背を向けて私の剣をかわす。その際に呪文は途切れた。
  いけるっ!
  こいつただのヘタレだ。
  ジャブジャブ。
  私は虚無の海を走って追う。さすがに夜母、若い肉体に転生したので動きは機敏だけど、ドレスなのがネック。
  ドレスが水を吸って動きが鈍っている。
  魔法で背後から吹き飛ばす?
  こいつが魔法効くならね。ただのヘタレだけど魔法は一切効かない。その点は、まあ、凄いわね。
  まあ、こいつの利点はそれだけなんだけどねー。
  夜母。他に誇れる点はなし。
  その時……。
  ザバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  「げっ!」
  黒い水面を突き破り漆黒の大蛇が再登場。
  キリがない。
  ……。
  そうね。キリはないわね。
  闇の神シシスの化身の1つでしかないわけだ、この蛇は。そもそも闇の神シシスはこの混沌と虚無の世界そのもの。
  大蛇は際限なく出てくる。
  まあ、大蛇倒せばその分ダメージをシシスも受けるとは思うけど……いつ倒せるわけ?
  先は長いなー。
  分かり切ってた事だけどね。神と人間の差は果てしなく大きい。
  ふん。
  とことんやってやるわよ。
  「ほほほっ! シシスよ、その偉大なるお力をお見せくださいっ!」
  夜母うざい。
  こいつも小物になったなぁ。
  まあいい。
  「まとめて相手してやるわよ掛かって来いやーっ!」
  
ザバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  「はっ?」
  盛大に舞い上がる水面。水中で大爆発か?
  それだけ黒い水は弾け飛んだ。
  そして……。

  「シャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!
  「……」
  鎌首もたげる大蛇の群れ。
  ダース単位でご登場。
  ……。
  いやいやいや。
  確かにまとめて掛かって来いと啖呵は切りました。それは認めます。認めますとも。
  しかし神様が人間相手にこれはやり過ぎだと思うんですけど。
  謝ろう。
  「でかい事言ってすいませんっしたっ!」
  「シャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!
  ……。
  ……はい。聞いてくれる気はない模様。
  ああもうっ!
  いいわよ。全力で戦ってやるわよっ!
  「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  本日三回目。自分の限界以上に魔力を高めるのはあまり体に良くないんだけどなぁ。
  人が人を超えるのは当然ながらリスクを伴う。
  「神罰っ!」
  
バチバチバチィィィィィィィィィっ!
  な、なんだぁ?
  いつも以上の効力だぞっ!
  雷が踊り狂う。
  「……くっ」
  視界が揺らぐ。
  立っていられない。いつも以上の効力だけど、いつも以上の消耗だ。ブーストした以上の魔力が消耗していくっ!
  まずい。
  これはまずいぞ。
  生命まで吸い取られかねない。自分の魔法でだ。
  足りない魔力を生命力で補うなんて絶対に嫌。闇の神だかなんだか知らないけど、寿命縮めてやる義理なんざない。
  「くぅっ!」
  三度目の代償か。
  コントロール出来ていないんだ。だからブーストした魔力以上の規模の魔法になった。
  暴走した挙句に自分の魔法で死ぬなんてごめんだ。
  どっか別の場所から。
  どっか別の場所から魔力を補わなきゃ……。
  どっか……。


  


  カッ。
  深紅の指輪は光る。
  それは眩い閃光を放ち周囲を照らしていく。
  既にコントロール出来なくなって失神しているフィッツガルド・エメラルダの指に嵌る、マラカティから得た深紅の指輪が光る。
  その光に照らされた大蛇の群れは次々と消滅していく。
  「馬鹿なっ!」
  夜母の叫びは空しく木霊する。
  大蛇が。
  世界が。
  全てが消失していく。
  次第に崩れて消え行く混沌と虚無の世界。深紅の光は全てを瓦解させていく。
  最後に残ったシシスの化身たる大蛇が呟く。
  「……ソウカ、オ前ハ、アカトシュ、ダッタノカ……」


  ……全ては崩れ行く……。
  ……そして……。












  「……?」
  空が明るい。
  空が青い。
  どこまでも青い空。太陽が燦々と輝いている。気持ちの良い天気。
  耳に響くは雑踏。話し声。
  「……戻った……?」
  そこはブラヴィルの街だった。
  幸運の老女像の前に、呆然と立っているのに気付いた。
  まるで悪い夢を見ていた感じ。
  いやいや。どっちかというと悪酔いしていたような感じかな。
  全身がだるい。
  それはあの激戦が夢ではなかったのを物語っている。破邪の剣が魔力を失いただのナマクラになったのも、激戦の結果よね。
  「はあ」
  空を仰ぐ。
  気持ちの良い空。
  青。
  青。
  青。
  やっぱり空はこうじゃなきゃね。
  私は混沌と虚無が蔓延る、闇の神シシスの領域から帰って来た。
  生きた世界にね。
  んー。空気もおいしい♪
  「お、おのれーっ!」
  「ん?」
  震える絶叫。
  しわがれた声だ。
  私は悠然と振り返る。敵意と殺意は言葉に込められているものの、まるで脅威を感じない声。だからこそ私は別段慌てなかった。
  まだ敵がいるの?
  それにしては雑魚よね、この気配から察するに。
  「……?」
  そこには敵はいない。
  あれ?
  いるのは深紅のドレスを着込んだ老女だ。まるで骨のように痩せ細った老女がいるのみ。
  別に服装の趣味は人それぞれですけど年齢に不相応だと思う。
  何だこのお婆ちゃん?
  「……?」
  「殺せぇーっ! ブレトンを殺せぇーっ!」
  変な婆ちゃんだ。
  私を指差し叫んでいる。
  殺意と敵意。
  それを剥き出しにされるのは正直嬉しくない。
  「何なの?」
  「わらわの命令が聞けぬかっ! 殺せぇーっ!」
  周囲に騒ぎ立てる老母。
  人々は足を一瞬止めるものの痛ましそうな顔をしてそのまま通り過ぎていく。それが老母にとって面白くないらしい。
  顔を朱に染めて騒ぎ立てる。
  そんなに叫ぶと……。
  「げほげほっ!」
  ほらー。
  咳き込んじゃったじゃないの。
  私は善人ではないけど、難儀しているのであれば手を貸す。……普通の場合ならね。
  さすがに敵意と殺意を剥き出しにされるのは楽しくない。
  「んー」
  私は叫んだり咳き込んだりしている老母を見つめる。
  何なんだこの人?
  ただ服装、それは見覚えがある。
  アマンダ……というか夜母が着ていたものだ。深紅のドレス&悪趣味なほどの無数のルビー。
  服装は偶然の一致?
  ……。
  ……。
  ……。
  いやいやいや。
  さすがにこんな偶然の一致なんかないだろう。つまりこいつは夜母か?
  しかし何だってまあ老婆になってんだ?
  夜母→老母。
  第二部になっていきなり若返ったかと思えば中盤で今度は年老いるとは、なかなか突飛な展開ばかりする人だ。
  一応は確認するとしよう。
  「あんた夜母?」
  「そうじゃっ!」
  おお。
  当たりのようだ。
  アマンダバージョンの際には『ババア口調☆』に違和感があったけど、今はまったくない。年若いブレトンではなく今は老婆だからね。
  にしても何だって年老いた?
  しかも力の片鱗すらかんじられない。
  巧みに力を抑えている?
  「んー」
  そんな感じはしないなぁ。
  完全に力を失っているようだ。
  しかしまたなんで?
  「そこの者っ! こいつを殺せっ! 夜母たるわらわの命令じゃっ!」
  夜母は手当たり次第に通行人に騒ぎ立てる。
  通行人は等しく足を止め夜母を見て奇妙な顔をする。ただの通行人ではないようだ。少なくとも一般人の感じはしない。夜母が命令し
  ているのはどうやら闇の一党の暗殺者達のようだ。
  雑魚のような連中ではあるものの、この老婆に何の力もない事を見通すぐらいは出来るらしい。
  闇の一党の創設者である夜母を前にしても彼らは反応を示さない。
  暗殺者達は気の触れた老婆にしか見ていないようだ。
  何の力もない夜母は偶像にすらならない。
  可哀想可哀想。
  「ふふん」
  鼻先で私は笑う。
  この街にまだ暗殺者達が多数残存してはいるものの、今の夜母には支配力は皆無。
  つまり本当にただの老母。
  何故こんな姿に?
  さあ?
  それは分からない。
  だけど予想と推測は出来る。
  夜母は闇の神シシスとリンクしていた。自分でそう言ってたものね、力を共有する間柄だと。
  憶測でしかないものの闇の神シシスは滅びたのかもしれない。
  ……。
  いやまあ神や魔王はしぶといから滅びたというよりは休眠しただけかもしれないけど。
  いずれにしても。
  いずれにしてもこの世界に介入出来なくなったのはおそらく確かだろう。
  理屈は分からないけど闇の神シシスは私の前に敗退。
  その結果シシスと深くリンクしていた夜母にも影響があった。混沌と虚無の世界の崩壊がそのまま夜母の能力の崩壊へと繋がった。
  おそらくこれが結末だろう。そう間違いないはず。
  夜母は能力を失った。
  ブレトンの肉体は失わなかったものの干乾びてしまった。
  「殺せぇーっ! こいつを殺せぇーっ!」
  「ふむ」
  騒ぎ立てる老婆を見る。
  もはや再起はありえない。夜母がこの状態なのだから、繋がっていた闇の神シシスもただでは済まなかったに違いない。
  それに神も魔王も基本この世界に直接介入は出来ない。
  介入するには強力な能力者が必要。
  しかしその能力者たる夜母がこんな状態なのだから闇の神シシスの再来はもうありえない。
  ここに闇の一党は終わったわけだ。
  夜母もね。
  「ふふふ」
  「な、なんじゃ」
  微笑。
  微笑が怖いのか、それともゆっくりと音を立てて抜き放った剣が怖いのか。
  夜母は後退りする。
  「ふふふ」
  「こ、小娘。わらわを恫喝するかっ!」
  「だとしたら?」
  「ダークガーディアンよっ!」
  何も起こらない。
  「で?」
  「お、おのれ……っ!」
  「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  叫ぶ。
  別に意味はない。私は吼えた。
  「ひ、ひぃっ!」
  老母はその場に腰を抜かして倒れこんだ。それと同時に夜母の回りに水溜りが出来る。恐怖のあまり……まあ、そういう意味だ。
  替えのパンツあるのかな?
  「殺すのは容易いのよ、殺すのはね」
  「な、なんじゃと?」
  マシウ・ベラモントの例がある。
  あの時あいつを始末しなかったばっかりに今回の流れとなった。
  夜母を殺す?
  夜母を殺すのは容易いわ。
  ただの老婆だもん。
  だからこそ殺せない。ここで殺すとそのまま私は殺人犯になる。無抵抗の夜母を殺すのは、犯罪なのだ。
  ちぇっ。始末したかったー。
  「バイバイ♪」
  「な、なんじゃと?」
  「もうお前はただの老婆。闇の神の再来はありえない、つまりは能力の復活はありえない」
  「そんな事はないっ!」
  「そんな事はあるのよ。今後は短い余生を送ってね、お婆ちゃん☆」
  「殺せぇーっ!」
  夜母は叫ぶ。
  その様を見てにこやかに私は微笑。そして背を向けて歩き出す。背には夜母の殺意と敵意の言葉が突き刺さるものの、そこに威力は
  ない。既に夜母の力は昔日のモノ。過去の栄光に過ぎない。今の彼女はただの老女。
  今も、そしてこれからも。
  シシスも能力も復活はありえない。
  「殺せぇーっ! わらわは夜母じゃっ! 我が意に従いフィッツガルド・エメラルダを殺せぇーっ! 殺せぇーっ!」
  「ふふふ」
  歩きながら私は笑う。
  誰も夜母の言葉を実行しようとしない。
  誰も。
  夜母は悲痛の叫びを天高く叫んだ。
  届かない。
  誰の耳にも言葉は届かない。
  「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「可哀想可哀想」
  どれだけ長生きするかは知らないけど余生を楽しんでねー♪
  絶対的な最高権力者から老婆に。
  ……。
  ……いや老いは罪ではないし罰でもない。若かりし頃を懐かしみ、過去を振り返る時間が増えるだろう。でも老いそのものは罪でもな
  ければ罰でもないし不幸な事でもない。
  ただし夜母は別。
  この女にとって能力の消滅と若さの消失は最高の罰ゲーム。
  せいぜい惨めに生きればいいさ。
  「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「まだすべき事があるわね」
  夜母は終わった。
  しかし闇の一党ダークブラザーフッドは依然存在している。幸運の老女像も存在している。
  全てを封じる必要がある。
  そして対処。
  「世論を味方につけるかな」
  私には既に次ぎの対策がある。
  それは何?
  ふふふ。
  まあ、お楽しみという事で。
  だけど夜母ってばいつまでもいつまでも叫びやがって、うるさいなぁ。まあいいわ。
  叫べばいい。
  叫べばいいさ。
  「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  どれだけ叫んでも無駄。
  無駄なのよ。


  ……夜母の叫びは届かない……。