天使で悪魔







闇の一党 〜蛇神






  闇の神シシス。
  九大神でもなくオブリビオン16体の魔王でもない、別次元の神。
  闇の一党ダークブラザーフッドの崇拝する神。

  虚無の海に存在し、そこに送り込まれて来る暗殺された者達の魂を貪り暗い続ける漆黒の蛇神。
  送り込まれた魂は永遠に貪られ続ける定めにある。
  支配する領域と属性は虚無と混沌。
  蛇神(じゃしん)であり邪神。





  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  雷の魔法。
  黒い大蛇を絡め取る。
  「ちっ」
  まるで効いているような節はない。
  黒い大蛇は全身から蒸気を発しただけで効いているようには見えない。ただ分かった事がある。
  大蛇の姿をとっているシシスは生身ではない。あの蛇の肉体は虚無の海の黒い水で形成されているに過ぎない。
  黒い水を寄り代として存在しているのか、それともシシスの使い魔程度なのかは知らないけどね。
  いずれにしても厄介だ。
  まあ、裁きの天雷一発で倒せるとは思ってないけど。
  「シャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!」
  「やばっ!」
  鎌首をもたげて、そのまま突っ込んで来た。
  バシャアアアアアアアアンっ!
  大蛇が大きく水を打つ。
  咄嗟に回避したからいいものを、まともに受けたらまずミンチになる。なかなか重い一撃だ。
  即死?
  さて、それは分からない。
  ただまともに受けたら確実に意識は失うでしょうね。
  意識を失えば……。
  ……。
  そこは言うまでもない。
  即死せずとも確実に死ぬしかないわけだ。
  黒蛇は虚無の海に身をそのまま潜めた模様。足首程度の水深なのに何故……という説明は野暮。ここは闇の神シシスの世界だ。好き
  勝手に出来るのでしょうよ。
  神というだけでも反則なのに、ここまで反則されると勝ち目ないように思えてくるんですけど?
  ……ちくしょう。
  「煉獄っ!」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  とりあえず潜った辺りに煉獄を叩き込む。
  ……まあ、無駄ですけど。
  「随分と地味ね」
  神にしてはせこい戦法だ。
  一瞬で私を屠るぐらいの能力を当然ながら有しているはずなのに、このせこさは何?
  「ほほほ」
  「絶対零度っ!」
  高みの見物を決め込んでいる夜母に冷気の魔法を叩き込む。
  ばじゅっ。
  深紅のドレスに身を包んだ、若い肉体を持つ夜母には魔法は届かず直前で消失。
  魔法耐性を増幅している効力なのか、それとも闇の神シシスの領域でのみ得られる加護のお陰なのかは不明だけどアマンダを始末
  するのも骨が折れそうだ。
  私の専門は魔法だけではない。殺す術はいくらでもある。しかしこの状況だとそうも言ってられない。
  虚無の海を自在に移動できる闇の神シシスを相手しながら夜母を殺すとなるとやはり魔法で牽制し、遠距離から一撃必殺で始末す
  るのが一番やり易いのは確かだ。
  接近して剣で始末?
  それもある。
  それも選択肢としてはあるけど、夜母自身も虚無の海を自在に自在に移動出来る。
  つまり下手に接近戦に持ち込むと翻弄される恐れがある。
  「……くっそ」
  とりあえず無視しよう。
  高みの見物と洒落込んでいるようだから。
  無論後で始末するけどね。
  くすくす♪
  「……」
  私は瞳を閉じて感覚を研ぎ澄ます。
  あの大蛇、私の意表を突く形で水面に現れるに違いない。眼で追うと却って遅れを取る可能性がある。視覚を断つ。
  視覚を……。
  「ダークガーディアンよっ!」
  ……ちくしょう。
  「ほほほ」
  あのババアめ。骸骨兵士を召喚しやがった。
  数は三体。
  絶対的な数ではないけど、この状況で出して来るんだ。それなりに強い骸骨なのだろう。
  夜母は高みの見物ではあるものの、それなりに介入はするつもりらしい。これでは感覚を研ぎ澄ますのなんて無理だ。
  ならば先にあいつら始末っ!
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  召喚された、鎧を纏っている骸骨戦士三体もろとも夜母を雷が襲う。
  「無益っ!」
  「……っ!」
  弾いたかっ!
  やはりあのババア、魔法が完全に効かないんだ。
  自身の能力なのか、装飾品に強力な魔法耐性を付与しているのか、もしくは闇の神シシスの恩恵なのか。
  それは分からない。
  しかし魔法が効かないのは確かだ。
  ……。
  ……まあ、いい。
  とりあえず骸骨戦士は今の一撃で粉砕できた。
  よしとしよう。
  骸骨戦士はどの程度の強さなのかは不明ではあるものの、裁きの天雷の直撃を浴びて存在出来るほどには強くはない。
  「ダークガーディアンよっ!」
  くそ。またかっ!
  このババア、数で押す気かっ!
  再び召喚される骸骨戦士。今度はさっきより多い。五体だ。
  いちいち構ってられるか。
  「邪魔するなっ! 裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  一直線に雷は奔る。
  そして……。
  「シシスの黒い情愛っ!」
  「なっ!」
  ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  半透明の障壁が夜母や骸骨戦士の眼前に出現し雷を妨げる。
  雷は障壁を突き破ろうとするものの次第に力を失い、最終的には障壁もろとも消失した。
  くそっ!
  防ぎやがったっ!
  妙な名前の魔法ではあるものの高度な魔力障壁だ。私の魔法を無効化しやがった。
  このババア消耗戦に持ち込む気か。
  魔力は自然と回復するものの、この状況下ではいちいち魔力の回復を待つ余裕はない。現在の魔力を温存しつつ戦闘を続行しなけれ
  ばならない状況だ。夜母は消耗戦に持ち込もうとしている。
  神まで出張らせて置きながら地味な戦法だ。
  ……。
  ……はあ。
  だからこそ、面倒だ。
  完全に魔力を使い切ってしまったら打つ手がなくなる。
  魔力が自然回復する時間を連中は与えてくれないだろう。気の良い連中じゃないし。
  「行け、シシスの戦士達よっ!」
  「ふん」
  下らん真似をする。
  そんなに魔力を使い切らせたいのか、それはつまり私の魔法を脅威になりえるという意味での判断か。だったら魔力は温存しよう。
  骸骨戦士達の処方箋?
  そんなの簡単よ。
  「やああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  バシャバシャ。
  私は虚無の海を走る。
  斬り込んでやるっ!
  骸骨戦士達は生意気にも碧水晶製のショートソードを手にしていた。現在では鉱脈が存在しない為に、既に幻の武具。
  当然市場にはまず出回らない。
  アカヴィリ刀よりも高価だ。
  にも拘らず骸骨戦士はそれを手にしている。合計で5本。それだけでも一財産だ。
  あるところにはあるのね。
  まあ、そこはいい。
  「やああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  バシャバシャ。
  喚声を上げて走る。
  水に足を取られる為に幾分かスピードは落ちているものの、骸骨戦士達の緩慢な動きよりは遥かに敏捷。
  そして……。
  「はぐぅっ!」
  ザバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  ……。
  一瞬、意味が分からなかった。
  足元が急になくなった、そんな感じだ。
  ここは虚無の海。
  闇の神シシスの思い通りに浅い深いは変わるのだろう。つまり私の足場は唐突になくなり、黒い海に沈みこんだ。
  「……っ!」
  ゴボゴボ。
  口から空気が泡となって大量に吐き出される。
  慌てれば慌てるほど酸素が肺から失われていく。このまま溺死かっ!
  ……いやいや。
  魔法を使えばいいだけの話じゃないか。
  水中呼吸の魔法を発動。
  これで水中でも呼吸が可能。魔術師は大抵の事は何でも出来る。天才魔術師である私は万能な存在に位置付けられるものの、さっき
  は焦り過ぎていて呼吸の魔法を使う事すら忘却の彼方だった。いくら私でも常に冷静は無理らしい。
  まっ、人間だしね。
  焦ったり戸惑ったりする事もあるさ。
  さて。
  「……」
  漆黒の海の中。
  何も見えない……いや、いる。私よりさらに深層の海域に黒い何かが泳いでいる。
  長く巨大な存在。闇の神シシスの現身である大蛇だ。
  虚無の海よりもさらに濃い闇。
  「……」
  深みに嵌って慌てたものの、破邪の剣を落とさなかったのはさすがよね、私。
  破邪の剣を構える。
  魔法?
  いや、全身が水に浸かると魔法は限定される。長距離射程の魔法は使用不可能になる。どうも魔法は水と相性が悪いらしい。
  その影響で使えなくなる。
  長距離射程の魔法と召喚魔法は使用不可。
  「……」
  漆黒の大蛇、身をくねらせながらこちらに向かってくる。
  まっすぐに。
  まっすぐに。
  まっすぐに。
  「……」
  私は剣を構えたまま動かない。
  水の中とはいえ水中呼吸の魔法のお陰で息は出来る。さっき深みに嵌った時は気が動転したけど、今は落ち着いている。
  大蛇は速度を増す。
  初めて見たけど蛇の泳ぎ方って独特。それでいて実に合理的。
  今更水面に逃げようとも追いつかれ背後からガブリ。
  このまま水中戦に持ち込んでもガブリ。
  「……」
  まっすぐに。
  まっすぐに。
  まっすぐに。
  巨大な大口を開いて私に肉薄する。その口には牙はない。大蛇は黒い水で形成されているわけだから牙は必要ないわけだ。その
  まま丸呑みってわけだ。丸呑みされたらどうなるんだろう?
  体が溶ける?
  ああ、きっとシシスに永遠に肉体ごと魂を貪れるわけだ。
  ルシエンの嫌がり様を見たけど相当苦痛らしい。
  まあそりゃそうか。
  永遠にその苦痛が終わる事なく続くんだから。
  そして……。
  
バクンっ!
  大きな顎は大量の水とともに私を……食われてたまるかボケーっ!
  闇の神シシスは一瞬呆けたように首を左右に振った。そりゃそうだ。私を食らった感触がまるでなかったんだからね。
  そのまま水面に上昇、そして水面を突き破り大きくアーチを描いて再び水面に潜ろうとする。
  このチャンス、逃すかっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  魔力を増幅。私は透明化の魔法を咄嗟に使って視界から消え失せる事により大蛇の一撃をギリギリで回避して背中にしがみ付いた。
  「シシスっ!」
  骸骨戦士五体を従えた夜母が警告の声。
  ふん。今更遅いっ!
  あんたの大好きな闇の神は透明化の魔法すら見破れなかったわっ!
  ザシュッ。
  大蛇の背中にそのまま破邪の剣を突き立てる。
  かなり強力な雷の魔法がエンチャントされているこの剣に貫かれたらかなり高位のドレモラでも耐えられまい。しかしいくら鈍感で
  透明化の魔法が見破れないにしても私の相手は神だ。致命傷にもなるまい。
  事実、そのまま水に潜ろうとする。
  ……。
  まさか気付いてすらないとか?
  まあいい。
  私は突き刺した破邪の剣の柄を握ったまま魔法を発動させる。
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  剣を伝って電撃が大蛇に流れ込む。
  せっかくブーストしたのに神罰は使わないのかって?
  使わない。
  神罰は最高範囲の射程を持つ最強魔法。うまく使えば部隊単位で抹殺出来る。しかし今、私が始末したいのはシシスのみ。だとし
  たら裁きの天雷連発の方が効率が良い。範囲こそ神罰に劣るものの、連続して放てば威力そのものは神罰をも越える。
  その為にブーストした。
  その為に魔力を増幅したのだ。
  せーのっ!
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  ビクンっ!
  シシスは体を震わせて動きを止める。
  効いてるっ!
  「い、偉大なるシシスよっ!」
  「うるさい裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  骸骨戦士引き連れて駆け寄ろうとした夜母に、勿体無いけど雷を放つ。夜母に魔法は効かない。しかし直撃を受けて弾け飛ぶ骸骨戦士
  の残骸が全身に当たりその場に引っくり返った。物理攻撃は弱いらしい。
  「くぅっ!」
  バシャン。
  そのまま黒い水で頭でも冷やしてろ。
  本題に戻ろう。
  ブーストには時間制限がある。増幅した分を消費し切らなくても一定時間が過ぎると魔力がゼロになる。
  それではブースト損だ。
  使い切るに限る。
  それにそれほど余裕を残して戦える相手ではない。
  全ての魔力を注ぎ込むっ!
  「シャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!」
  大蛇は首をこちらに向ける。
  大きく口を開いて威嚇。
  このまま私を食らって始末しちゃうつもりか。
  ふん。そうは行くかっ!
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  本来なら三発連続で裁きの天雷を放つと魔力がゼロになる。しかし増幅している関係でまだまだ魔力は有り余っている。
  どんどん行きましょうがんがん行きましょう。
  せぇーのーっ!
  「裁きの天雷裁きの天雷裁きの天雷裁きの天雷裁きの天雷裁きの天雷裁きの天雷裁きの天雷ーっ!」
  カッ。
  その時、白い閃光が迸る。
  本来は蒼い雷。
  にも拘らず白い雷光が踊り狂う。破邪の剣に秘められている雷の属性が裁きの天雷に触発されて放出されているらしい。
  通常以上の光と音。
  
バチバチバチィィィィィィィィっ!
  「……っ!」
  思わず私は目を瞑った。
  それだけ凄まじい光量。まともにこの雷光を見ると眼が潰れるに違いない。
  「きゃっ!」
  バシャン。
  可愛らしい悲鳴(悪いかっ!)を上げて私は虚無の海に落ちた。浅い。当初の足首程度の、深度だ。別に大蛇の体から飛び降りた
  わけではない。目を瞑っていたから分からないけど、突然足場がなくなったのだ。
  「……?」
  眼を開くとそこには黒い蛇はいなかった。
  ただボロボロになった破邪の剣が一本、虚無の海に突き刺さっていた。
  手に取るまでもない。魔力は消失している。
  ……。
  ふぅん。
  裁きの天雷の連発の媒体となった事で、剣の魔力と妙に反応し合ったようだ。魔法が起爆剤となり剣の魔力が放出された。
  相乗効果で黒い大蛇を、闇の神シシスを倒したようだ。
  もっとも。
  もっとも破邪の剣はただの剣になってしまっている。
  まあいい。
  勿体無いけど闇の神を倒せたのだからね。
  よしとしよう。
  「くぅっ」
  全身が痛い。
  疲労感と虚無感が体を覆うものの、まだ終わりじゃあない。
  まだ1人残ってる。
  「夜母、次はお前殺すよ」
  「ほほほ」
  魔力が回復するにはしばらく掛かる。しかし問題はない。相手の魔法は私には効かない。
  ……召喚魔法で来るかな。それだとめんどいかも。
  数で押されると辛い。
  しかし物理攻撃には夜母、非常に弱いのは判明している。
  一太刀入れば私の勝ちだ。
  「幸運の教団は何の為だと思う?」
  「はっ?」
  何言っちゃってんだこいつ。
  「あれは、わらわの命令で創り上げた組織。もっとも黒衣の聖母も信者も闇の一党が関与しているのは知らぬがな」
  「ふーん」
  やっぱりただの隠れ蓑の組織か。
  寄付が必要ないのは闇の一党の潤沢な資金力の後押しがあったからか。まあ、黒衣の聖母は一般人で何も知らないのだろうけど。
  しかしそれが何だってんだ?
  時間稼ぎか?
  「必要なのは祈る事」
  「祈り?」
  「ほほほ。人は神に祈る。幸運の老女像を通じて、闇の神シシスにな」
  「ふーん」
  あの像で祈ると闇の神シシスに祈るのと同義らしい。
  でもだから何?
  「人は祈る。欲望を叶えるべくな。神頼み、つまりは自ら叶えようとはせぬ。祈るという事は己の怠惰も含まれるわけじゃ。そういったあら
  ゆる負の感情がシシスに捧げられる。神が神たる所以、それは祈る者がいるという事。信奉が、信仰が、神を神とする」
  「何が言いたい」
  「信仰の力は闇の神の糧となる。そしてシシスを通じてその力はわらわにも流れる。わらわとシシスは伴侶、力は共有するもの」
  「で? 結論は何?」
  「ほほほっ! 人々の負の感情を食らいしシシスがこの程度で滅びるものかっ!」
  ザバァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  黒い水を弾き飛ばして、水面に黒い物体が現れる。
  鎌首をもたげた大蛇だ。
  「くそ」
  私は舌打ち。
  簡単には行かないか、やっぱり。
  この虚無の海。
  この混沌の地。
  全てが闇の神シシスの領域であり存在なのだ。
  ……。
  既に魔力は尽きた。
  破邪の剣はナマクラになったからさっきの戦法はもう使えない。
  どうする?
  どうしよう?
  バッ。
  間合を保つものの、どうしてものか。
  黒い大蛇は口を開いた。
  「シャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!」
  「うるさい」
  威嚇の声。
  さっきと同じ大蛇ではないだろう。おそらくはさっきのは倒した。
  じゃあ別の大蛇?
  同じで、別のだ。いずれにしても闇の神シシスはこの世界そのもの。大蛇もシシスだけど、虚無の海もシシスなのだ。
  闇の神シシスを殺すという事。
  それはこの混沌の世界そのものを潰す必要がある。
  ……はあ。
  ……無理かなー。
  「やれやれ」
  ナマクラと化した破邪の剣を構える。
  自身の魔力もまだ戻っていない。本調子ではない。……本調子でも……んー、なかなか面倒な展開ですなー。
  そして大蛇は動く。
  俊敏に。
  「なっ!」
  さっきよりも速いっ!
  巨体を揺らしながら私に接近、そして今度こそ私は闇の神シシスの射程内に入る。
  バクン。
  そのまま丸呑みに。
  そのまま……。



  ……そして私は虚無の海で永遠に貪られ……。