天使で悪魔




ハックダートに潜む闇





  信仰。
  思想。
  全ては人それぞれ。
  帝国の宗教の主流は九大神ではあるものの、別にオブリビオンの6体の魔王を祀っても罪にはならない。
  ……近所付き合いは円滑には行かなくなるかもしれないけど。
  世界には、まだ見ぬ宗教もおそらくは転がっているだろう。
  人は文明化されている。
  少なくとも、上っ面は。
  しかし人の根本は変わらない。
  自らの信仰する神を狂気の如く崇め、それが絶対とし、振りかざす者は今なお多い。
  それが正しいのか、過ちなのか。
  ……誰が定めれるのだろう?
  ……誰が……。





  「くっそーっ!」
  私は満月に向って、叫んだ。
  叫んだところで何にもならないものの、もう何度も叫んでいる。
  シャドウメアが不死身でよかった。
  この子が物食わぬ(空腹や餓死の概念はないもののニンジンは好物)不死の馬でよかった。
  お陰で私分の食料で事足りる。
  ここがどこかって?
  どこかの森の中。うっそうと茂る、深夜の森。明かりは月だけ。
  淡い月明かりでもないよりマシだ。
  ……。
  ううん。
  この月明かり、最高の旅の友だ。
  私は現在、遭難中。
  ……ちくしょう。
  「あー、ここどこだぁー?」
  迷子生活三日目。
  私とシャドウメアは相変わらずうっそうと茂る森の中にいた。
  食事に関してはまた、問題ない。水にしてもそうだ。昨晩はイノシシを狩って食べたし。水は、まあ川が流れてたし。
  その辺りの問題はない。
  ……ただ、ここどこだ……?
  「はぁ」
  ウンバカノの一件を終了させ、私はスキングラードの自宅ローズソーン邸に戻る事に。
  アンは帝都でやる事があるらしくそこで別れた。
  ……。
  あー、そういや帝都を出る時ラミナスがなんか憂鬱そうな顔してた気がする。
  仕事で疲れてるのかな?
  ラミナス、よくハシルドア伯爵とお使いで会ってるらしいし、今度彼がスキングラードにきたら私の家でおもてなしして
  あげようかな。
  あれでも一応、私の兄のような奴だし。
  ……ま、まあ今はその辺りの心情はどうでもよろしい。この迷子人生をどう対処するかだ。
  「地理には自信あったんだけどなぁ」
  そんな私が今は迷子。
  街道沿いに行けば問題なかった。というか当初は街道を堅実に進んでいた。
  そこを闇の一党の暗殺者どもが襲撃してきた。
  的確に。
  正確に。
  どうも私の行動を呼んでいるとしか思えない。
  ……。
  そして今回も、肝心な時にはアンは側にいない。
  こりゃ疑わない方がどうかしてる。
  全てを踏まえても彼女が差し向けてるとしか考えられない。普通は、そう考える。
  以前の生活に戻る為に私を殺す。
  ……動機も充分じゃない?
  ……。
  まあ、あの子の性格的に他人任せというのはおかしいけどね。
  私を殺したければ自分で来るはず。そこは間違いない。
  だから闇の一党の再三に渡る襲撃にアンは関わってないけど……でもタイミングとしては彼女を疑うには、絶好だろう。
  誰かがそうなるように仕向けてる?
  でも誰が?
  「まっ、全部殺せば問題ないけどねぇ」
  立ち向かってくる連中全て消せば後腐れなく完結できる。
  私がシェイディンハル聖域で暗殺者やってた頃は個人の技量で暗殺が主流だったけど、どうも最近では人海戦術に切り替
  えているらしい。
  ここに至るまでに私は少なくとも100人ぐらい暗殺者消してる。
  「闇の一党の質も落ちたわよねぇ」
  そう思わざるを得ない。
  それでも三度も襲われると正直精神的にめんどくなるので、街道を離れて脇道に入ったのが迷子の原因だ。
  とっくにスキングラードについてもいいはずなのに、森が続くのみ。
  ここどこだ?





  「ふぅ」
  シャドウメアを宿の裏手に休ませ、私は溜息を吐く。
  安堵にはあらず。
  「……なんなのよ……」
  じろじろと、見られてる。変な男が付き纏ってる。
  あれからシャドウメアを走らせること一時間。ようやく森を抜け、集落に出た。
  寂れた村だ。
  家はところどころ焼け落ち、崩れ落ち、村の敷地は広いもののまともな家はかなり少ない。
  夜という事もあり出歩いている住人もほぼいないものの……あまり生活感を感じない。
  まあ、いい。
  寝泊り出来れば、夜露を凌げればそれで問題はない。
  私は宿に入った。
  看板でてるから、多分やってるのだろう。
  ただ、ここはどこの村だ?
  随分閉鎖的だし、村の建物はほぼ倒壊している。過去に地震か火事で崩壊したのたかな?
  まあ、いい。
  この宿のオーナーは剥げた初老の男。
  陰気そうな顔をしている。
  この村は閉鎖的で、人嫌いなのかな?
  ……。
  いやいや人嫌いなら接客がメインの宿なんてしなくてもいいじゃないの。
  街道からも離れてるっぽい村だ。
  どの道、私のような迷子以外は客なんて来ないでしょうに。
  まあ、オーナーはどうでもいい。
  「あれ、フィッツガルドさん?」
  「ハイ」
  アリスだった。
  アイリス・グラスフィル。戦士ギルドの見習い。ダンマーの女の子。
  彼女がちょうど、一部屋借りている最中だった。
  ……変なところで会うわね。
  「アリスもまさか迷子?」
  「はい?」
  「……ごめん、忘れて」
  言えない。
  二十歳にもなって迷子だなんて言えないよ私ーっ!
  ……ちくしょう。
  「ここで会えてよかったです。あの、フィッツガルドさん、手を貸して欲しくて……」
  「手を?」
  その時、宿の陰気なオーナーが口を挟んだ。
  「相部屋でも一人分、払って貰うよ」
  「……強欲め」
  チャリンチャリンーン。
  私は金貨を支払う。相部屋にするとは一言も口にしていないものの、相談事なら相部屋の方が都合がいい。
  ……ただ、一泊金貨40枚?
  どんなぼったくり宿だ、ここは。
  まあ、普段は現金収入ないからここで稼ごうという腹だろう。それにこんな村に訪れるのは迷子くらい。
  迷子の足元見てるなぁ。
  「アリス、それよりも大切な事を一つ聞きたいの。これは重要よ」
  「な、何ですか?」
  「ここどこ?」




  ハックダート。
  それがこの村の名前だった。
  コロール南に位置する、かつては炭鉱の村として栄えていた時期もあったらしい。
  ただ数十年前に帝都軍が村を焼き払い、ほぼ村は滅んだ。
  生き残りが今の住人。
  ……村を焼き払った……?
  ……何の為に……?
  確かに帝都軍は利害の為なら村一つ潰しても涼しい顔してるけど……少なくとも理由があるはずだ。
  その理由は何?
  それにしても……。
  「はぁ」
  通された部屋で、アリスと相対しながら私は溜息。
  スキングラードに向ってるのに、コロール近くにまで着てるなんて……くっそぉ。
  「フィッツガルドさんはどうしてここに?」
  「……む、武者修行」
  迷子だなんて言えやしない。
  「すごいです」
  「……す、すごいよね、この歳で」
  私が迷子だなんて、自分でも信じられない。
  「それにしても値段に見合わない宿ですねぇ」
  「それは私もそう思う」
  見渡す限りボロボロ。
  部屋数はあるようだけど……多分、ここが最上の部屋なのだろう。
  つまり他の部屋は完全に荒れ果て、泊まるのには適さない。
  「それでアリス、何しにここに? 手を貸すって、何?」
  「それは……」
  私は鎧を脱ぎ、リラックスしているもののアリスは武装を解いていない。
  相対する私への礼儀として、剣だけは外してテーブルの上に置いているものの……どこか切迫した表情。
  「どうしたの?」
  「実は親友のダルが……ここに配達に来て、行方不明なんです」
  「行方不明?」
  「はい。ダルの家は雑貨屋で、ここによく配達に来てたそうなんです。でもこの村の道具屋の人に聞いてもダルは来てないって
  言うし、誰も知らないって。でもダルの馬はここにいるんですっ! まるで、まるで……っ!」
  「村ぐるみで隠匿してる、みたいな?」
  「そ、そうです、そうなんですっ!」
  「ふむ」
  閉鎖的な村。
  村人は運命共同体で団結してる。別に偏見ではなく、こんな辺鄙な村ではよくある事だ。
  1人の村人の罪を隠す為に村中で口を噤む事だってあるはず。
  ……んー、犯罪絡みかなぁ……。
  「ダルを探す手を貸してくれませんか?」
  「……」
  視線を感じる。
  気配を感じる。
  どこだ?
  誰かに聞かれているらしい、この会話。
  私は即答を避けて、ベッドに転がった。くぅぅぅぅぅっ、このベッド、堅すぎるわよこれっ!
  何世紀前のベッドだ、これは。

  「……ふーん……」
  気配を感じる。
  気配は、三つ。アンほど人の気配を詠むのは得意ではないけど、ここまで近ければ分かる。
  一つはここの隣の部屋で聞き耳を立てている。
  一つは窓の向こう。二階なのに、なかなかご熱心な事で。
  一つは……。
  「……?」
  真上から気配を感じるけど、屋根裏?
  私はさりげなく視線をめぐらせる。
  このベッド、まるでフカフカ感がない。床で寝るよりはマシ、ではあるけどそう大差ない。
  ぼるわね、この宿。
  金貨40枚でこの部屋とは……随分と高いでしょうに。
  タイバーセプティムホテルと同額とは正直犯罪だ。告発でもしてやろうかしら?
  さて。
  「……うっわ怖っ!」
  薄汚れた天井。
  その天井に、眼が一つある。
  見つけました見つけました。あれが天井に潜んでいる奴か。三名無事に見つけたけど……怖いでしょうよ。
  血走った眼。
  これは『零 〜月蝕の仮面〜』のような心霊現象並みに、怖いっ!
  天井に眼。
  天井に眼。
  天井に眼。
  それも血走り、こちらの動きを逐一追っている。
  アンデッド系の敵は平気でも……いや別にアンデッド好きじゃないけど……ともかく、こういう地味な心霊現象系は
  あまり得意ではない。正確には人が潜んでるだけで、心霊現象じゃないけど。
  「……」
  眼が合ってる。天井の眼と、ものの見事に見つめ合ってる。
  今更眼を逸らすと帰って不自然だから、気付かない振りして平然と天井見ているけど怖いぞこれはっ!
  ……夢見そう……。
  「何が怖いんです?」
  「えっ? ああ、えっと……」
  何と言おう?
  アリスにここで話す=警告にはなるけど……アリスの友達の事を考える。
  ここで潜んでる連中の事を喋り、ばらしたところでそれほど事態は好転しないだろう。むしろ逆だ。
  ……。
  ふむ。
  ここは別個に動いた方がいい。自然に別行動すべきか。
  別に私はアリスの友達に義理はない。顔も知らないし。でもまあ、アリス繋がりだから……助けるべきよねぇ。
  うんうん、私って良い奴よねー♪
  ほほほー♪
  「何が怖いんです?」
  「私の美貌が、ほんとに怖いっ!」
  「……ああ、そうなんですか」
  「何よ何よその気のない返事は」
  アリスらしくない。
  まあ、気持ちは分かるけど。
  私は身を起こす。これで天井の《彼》と見つめ合うのをやめる事がで来た。よかったぁー。
  もう少しでロマンスが目覚めそうだったもん。
  私、天井裏の彼になら全てをあげてもいいわむしろ貰ってお嫁さんにしてなんて言わないからっ!
  ……。
  ……。
  ……。
  いえ、冗談ですから。
  さて。
  「アリス、とりあえず寝ようよ」
  「えっ?」
  別個の行動するには、アリスを挑発しないと。
  喧嘩して、別行動。
  それがベストとは言わないけど、相談するにはギャラリーが多過ぎる。ばれると面倒そうだし?
  最悪アリスの友達の命に関わる。
  「徹夜はお肌の大敵。寝よ」
  「すいません。そんな気はありませんから」
  アリスは剣を手に掴み部屋の外に出ようとする。
  これはこれでいい?
  ……。
  んー、喧嘩別れして、完全に別行動と思われた方がいいねぇ。
  敵を欺くには味方から。
  くっはぁー♪
  私ってばまるで軍師みたい♪
  「アリス、寝ようよ」
  「眠くありません」
  やっぱいつもよりトゲトゲしてる。
  まあ、仕方ないけど。
  「だけど……」
  「眠くないんですっ! ダルが、ダルが酷い目に合ってるかも知れないのに……っ!」
  結構声おっきいのね、彼女。
  友達感覚ではあるものの、考えてみればそんなに接点ないわよね。付き合いも短いし。
  敬慕されてる感も心地良いし。
  友達、というか先輩後輩みたいな関係かな?
  いやいやいや師匠と弟子?
  まあ、いい。
  もう一押し、挑発……というか、喧嘩別れの一芝居してみようかな。
  私は俯いて沈黙。
  「……」
  「あたし、行きますから」
  「……」
  「……フィッツガルドさん?」
  「……」
  怪訝そうな、アリス。
  怒ったのだろうか、そんなようなニュアンスの表情を浮かべている。
  私は低く呟く。
  「……ねぇ、本当に眠くないの?」
  「えっ? は、はい。眠くありません。そんな場合じゃないですからっ!」
  「嘘」
  「えっ?」
  「……じゃあどうして欠伸噛み殺してるのかな? かな?」
  「そ、それは……」
  「あれ、どうしてニキビが出来てるのかな? 本当はお肌も寝たい寝たいって言ってるんじゃないのかな? かな?」
  「そ、それは……」
  「あはははははははっ。アリス、嘘ついてるよ。本当は眠たいのに、眠たくないだなんて」
  「……」
  「ねぇ、それどうして?」
  「ひっ!」
  アリスを下から覗き込む。一瞬、アリスはその異様さに怯えた。
  出来るだけ気味の悪い眼、気味の悪い眼っと。
  ……。
  ちなみに気味の悪い眼は、それぞれの感性にお任せします。
  さて。
  「ねぇ、どうして眠くないように振舞うの?」
  「ほ、本当に眠たくないんですっ!」
  「そっか。本当に眠くないのか。ごめんねアリス、私ってば変に疑い過ぎだよね。ははは」
  一転して、私は無邪気に笑う。
  安心したのか、アリスもつられて笑った。
  三つの気配は相変わらず消えていない。この部屋の動向を探っている。
  ……もう一芝居かな。
  「そっか、私の気の回しすぎかぁ」
  「そ、そうですよ」
  「あはははははは」
  「くすくす」
  「
嘘だっ!
  「ひぃっ!」
  さわり。
  アリスの顎を一度、二度軽く撫でながら私はくすくすと微笑む。
  出来るだけ、気味の悪くね。
  ……。
  繰り返しますけど、気味の悪さ云々は感性に任せます。
  さてさて。
  「くすくす♪ 私が眠たいように、本当はアリスだって眠たいはずだよ? だよ?」
  「ああああああああああああああああああああああああああああたし少し外を回ってきますっ!」
  バタバタバタっ!
  慌てて部屋の外に飛び出していくアリス。別行動、完了。
  「……脅し過ぎたかな」
  小声で私は呟く。
  まあ、いっか。
  これで合法的に別行動出来る。アリス静かに探索、私は暴れて敵の目を惹きつける……うん、完璧じゃない。
  適当に騒ぎを起こすかな。
  ……。
  まあ、多分寝たら襲ってくるだろう。潜んでる連中がね。
  この村はかなり怪しい。
  期待しなくても、向こうから襲って来てくれる事は請け合いだ。
  ふっ。
  息をロウソクに吹きかけ、私はベッドに横たわった。



  どれだけ時間が経っただろう?
  暗闇では、時間の感覚は分からない。
  「……」
  私は静かに寝床で眼を開けた。
  ギシ、ギシ、ギシ。
  誰かが床を踏み鳴らしながら近づいてくる。数は……三つじゃない。監視者以外もご同伴らしい。
  「……」
  口元を抑え、私は欠伸。
  どれだけ寝てたんだろ?
  ……。
  寝たふりじゃないですよ?
  私は普通に寝てた。
  殺気ほど分かり易い空気はないですからね。眼が醒めた。
  悪いけど私、寝込みを襲われても返り討ちに出来るだけの自信がある。
  つまり、それはいつも熟睡せずに警戒している、という事だ。アルケイン大学に拾われるまでは色々な修羅場で生きて来たからね、
  こういうのは既に習慣だ。
  ただ、まあ……普通の場所で寝る時は、熟睡してるつもりだけどね。
  さて。
  「光よっ!」
  カッ。
  私は布団を跳ね除け、照明の魔法を発動。
  瞬間、部屋は光に包まれた。それは一時的な光でしかないものの、侵入者の目を潰すには充分だ。
  そしてそのわずかな一瞬で私は相手の位置を的確に把握。
  「はぁっ!」
  木製の椅子を手に取り、侵入者のいた場所に向って滅茶苦茶に振り回した。
  鈍い音と、感触。
  沈黙したのを確認すると私はロウソクに火を灯す。
  「なんじゃこりゃ」
  背筋が一瞬、ゾッとする。
  倒れているのは……人間……?
  顔がほぼ一緒の面々。五つ子か?
  そんな奴が5人、床に倒れている。それも上半身裸だし。こいつら変態か?
  ……。
  「まままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままさかぁっ!」
  柄にもなくびびる私。
  びびるわよ、これはびびるわよっ!
  こんな辺鄙な村だ、おそらくは女に飢えているだろう。
  つ、つまり私のような外部の女を監禁して……(自主規制)……子供生ませちゃったりするのだろう、きっと。
  ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!
  ア、アリスも貞操の危機かもその友達もやばいかもーっ!
  この村やばいですよ、やばすぎですよーっ!
  ガクガクブルブル。
  「そ、それで同じ顔か」
  こんな村だ、女に飢えてる……というか慢性的な女不足。
  外部の連中を遮断し、さらに人嫌いだから、どうしても必然的に近親同士結婚をするしかない。
  だから同じ顔。
  遺伝的にこの村の連中は、近すぎるのは確かだ。
  ガチャァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  な、何?
  考え込んでいると窓から半裸の男が乱入してくる。さらに廊下をバタバタと走ってくる。
  チャッ。
  剣を手に取り、抜き放って窓から飛び込んで来た奴を切り伏せる。
  敵としか認識してない。
  向こうさんも……。
  「アウトサイダー、キルっ!」
  「何故英語?」
  扉を蹴破り、新たに現れた三名は声高に叫ぶ。
  ……殺す気か。
  おもしろいっ!
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  焼き尽くす。
  「……っ!」
  ゾクっ!
  上の方から、妙な視線を感じる。
  見るとまだ血走った眼があった。いつまで天井裏から私を見てるんだゴラぁーっ!
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  天井ごと、吹き飛ばす。
  ボトボトボト。
  「ひぃっ!」
  同じ顔の奴が3人降って来る。何人潜んでるんだお前らーっ!
  つ、ついでに家庭内害虫を降って……うひーっ!
  ひ、額にとまってるーっ!
  「煉獄っ!」
  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  ……。
  宿が火事になるだろう?
  知った事かぁーっ!
  ……ちくしょう。






  「どこに行ったぁっ! ……ぐるぅぅぅぅぅぅ……」
  「ダンマーの方はどうした?」
  「ちくしょう、地下の方の巡回も強化しろっ! 今宵は、大事な生贄の儀式だぞっ!」
  ……。
  声は外から響いてくる。
  私は聖堂に潜んでいた。ここだけ他の建物に比べて綺麗なのよね。
  重要な場所なのかな?
  何を祀っているのかは不明。
  「ふむ」
  無人。
  出入り口は、一つだけ。
  敵が入って来るのはそこだけだから護り易い。火攻めするにも、聖堂は石造り。それほど問題はないだろう。
  持久戦?
  長期戦?
  別に、それも問題はないわね。粉砕してやる。
  人海戦術もさほど問題ない。この村の連中なんて、紙同然。あっという間に叩き伏せるまでよ。
  ……。
  まあ、あえて問題なのはアリスかな。
  人質にされると面倒。
  人質ごと粉砕するのは……んー、アリスってタフそうだから煉獄ぐらい耐えれるかなぁ……?
  「何もないなぁ」
  聖堂の中を漁ってみるものの特に目ぼしい物はない。
  この村、絶対おかしい。
  何か……あれ……?
  一冊の本を見つけた。かなり分厚い本だ。
  タイトルが《深き者の聖書》。深き者って……何……?
  ともかく読んでみる。


  『深き者より我はこの本を授けられた』
  『彼は私に、ご意思とルーン文字を教えた。この本は深き者からからの教訓を記した本である』
  『我々は永遠にこのご意思に従い続けなければならない』
  『第三紀345年。アーラヴ・モスリン』


  「……後は……読めないなぁ……」
  読めないけど、後半がルーン文字でびっしりと書かれているのは分かる。
  何だろう、この本。
  署名の年数は……今から90年ぐらい前のものだ。
  現在は第三紀434年。
  深き者ねぇ。
  どうもいかがわしい神様祀ってるらしい。
  まあ、こういう辺鄙なところでは土着の信仰が今なお残っていても別におかしくないし、否定はしない。
  でも、だからといって生贄になるつもりはない。
  さてどうするかな。
  ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ。
  「……」
  誰かが聖堂に入ってくる。私は咄嗟に隠れた。
  若い、男だ。服はちゃんと着てる。若いのに、髪の毛は白い。元々そういう髪の色なのだろうか?
  どこか小心者そうな顔をしている。
  ……情報源にはぴったりだ。
  チャっ。
  「動くと殺す」
  「……っ!」
  剣を喉元に突きつけながら私は冷たく囁く。
  名乗ろうとするのを、私は遮った。
  「名前など必要ない。簡潔に答えなさい」
  「生贄の子の事なら、もうダンマーの子に話したよ」
  疲れたような口調で彼は呟いた。
  こいつ外の連中とは違う。私が剣を引くと、彼は疲れたようにその場に座った。
  ダンマーの子、アリスだろう。
  じゃあ生贄は、彼女の親友を指すわけだ。
  「どうして話す?」
  「疲れたからさ」
  「疲れた?」
  「……ああ、そうさ。昔、この村は炭鉱で栄えていた。だけど当時の村人達が炭鉱に眠るあの悪魔を解放したんだ」
  「悪魔?」
  「深き者、そう呼んでる。僕は見たわけじゃない。……その悪魔はこの村に恩恵を与えてくれたよ。金脈だ、炭鉱を金脈に変え
  たんだ。皆金持ちになった。でもその代償は大きかった。大き過ぎたんだよ」
  「……」
  「金の噂を聞きつけた帝都軍の……何とかという将軍は、ここが邪教の村と決め付けて帝都軍を繰り出した。金を奪う為にね。
  たくさん死んだよ。たくさんね。その将軍も死んだ。そしたら今度は報復の為にさらに軍勢を出してきた」
  「なるほどねぇ」
  それで村はこうも徹底的に破壊されてるのか。
  そして、元々が帝都軍の利己的な戦闘だから……この村は知られてないんだ。そしてその事件も。
  帝都軍のやりそうな事だわ、闇に葬ったのか。
  だから帝都軍は嫌い。
  「深き者を呼び戻す為に頻繁に生贄の儀式をしている。でも、あの悪魔は僕らが思っている以上の血を求めているんだ。
  きっとその先にあるのは破滅でしかない。だから僕はダンマーの子に教えたんだ」
  「この村の住人は何?」
  「何って?」
  「どこかおかしな感じがするけど」
  「呪いだよ」
  「呪い?」
  「老人達が悪魔とどんな取り決めをして金脈を手にしたかは知らないけど……皆、遺伝的におかしいんだ。歳が重ねるにつれて
  次第に自我を失っていく。もちろん近親同士の結婚の結果でもあるとは思うけどね」
  「そうね。血が濃過ぎると人は普通には育たない」
  「……はぁ、その通りだよ」
  疲れたように溜息を彼は吐いた。
  そりゃそうだ。
  今の話で行けば彼自身、外を徘徊してる連中と同じになる。
  「ともかく、ダンマーの子は生贄を捧げる洞穴に向ったよ」
  「洞穴ってどこ?」
  「どこにでもある」
  「はっ?」
  「どの建物からでも入れるよ。地下室と洞穴を繋げてあるんだ。僕らはもう人間ではないのだろう。日光が嫌なんだ。だから日中
  は家に籠もるか、洞穴で過ごしてる。老人達は選ばれた者であると自称するけどね、悪魔予備軍だよ実際は」
  「……どうして欲しい?」
  「それを聞いて欲しかった。殺して欲しいんだ、この僕を」
  「……」
  「どの道、僕もいずれは狂って同じ事をするだろう。かといって自殺は怖くて出来ない。終わりにしたいんだ、僕自身を」
  「……」
  彼は笑った。
  微笑で、私も返す。
  「いいわ、貴方を救おう」



  聖堂を出ると、喧騒が包んでいた。
  剣戟。
  怒号。
  戦闘が起きてる。
  私はそこに急ぐ。走る事、数分。アリスと、アルゴニアンの少女が追撃を振り切ろうとしていた。
  追ってるのは……スキャンプ?
  ど、どうして?
  「煉獄っ!」
  ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!
  考えるのは後にして、追撃してた連中を焼き尽くす。
  スキャンプ。
  オブリビオンに住まう最下級の悪魔。
  悪魔ではあるものの正直、ゴブリンの方が強い気がする。
  それでも、異界の悪魔だ。勝手にこっちには来れないはず。ハックダートの住人が召喚した?
  「アリス、無事?」
  「フィッツガルドさんっ!」
  「話は後よ、行きなさいっ!」
  「でもっ!」
  「いいからっ!」
  アリスは弱くない。
  魔法が使えず、剣術一辺倒。その剣術も私には劣るものの……手合わせした感想では、私より天性の才能を秘めていると思う。
  それでも、この状況では逃げる方が無難だ。
  アルゴニアンの少女を庇いながら戦えるほどの技量は、まだアリスにはない。
  ヒヒーンっ!
  その時、嘶きながらシャドウメアが前足でスキャンプを踏み潰した。
  不死の愛馬シャドウメア、充分過ぎる相棒だ。
  「コロールへっ!」
  簡潔に促し、私は敵の群れに突っ込む。
  こいつら、どこから来た?
  アリス達が脱出するのを見届け、敵を蹴散らしながら私は考える。
  これだけの数を召喚するとなると、この村には熟練召喚師がいる事になる。しかし何故スキャンプ?
  この数を制御出来るクラスなら上位悪魔でも従えれるはず。
  数で押す気?
  ……いや、まさか……。
  「これがハックダートの住人?」
  ありえない事じゃない。
  悪魔に転生する呪いを掛けられているのかも知れない。でも一斉に転生するのはおかしい。
  唯一、まともだった聖堂の彼の言葉を借りるなら歳を重ねるにつれて……だ。
  何故急に悪魔に変わっていく?
  「……洞穴に行った方が良さそうね」




  どの家の地下室も洞穴と繋がっている。
  その情報を元に、宿屋から地下に潜った。宿の主人はいなかった。
  逃げたのか、殺した悪魔の中に混じってたのか?
  「……臭い……」
  地下は、完全なる闇。
  真なる闇。
  まるで何も見えない。宿を家捜して調達した松明は、火を灯してある。なのに明かりは闇を削れない。
  松明があると思わしき場所に右手を伸ばす。
  「あつっ!」
  火は灯ってる。
  つまり、この闇は人為的なものか。
  ……。
  まあ、人為的……といっても、そこは人ではないと思うけど。
  「誰かいないのっ!」
  叫ぶ。
  声は木霊するだけ。
  鼻を手で覆った。この洞穴は、どこかおかしい臭いがする。
  潮の香り……海風が吹いてる。
  でもどこから?
  地理的にコロールが近いのであれば、近くに海なんてない。魚の腐ったような臭いもしてきた。
  なんなんだ、ここは?
  「……俺は深き者……」
  「……っ!」
  声がした。
  それは本当に耳で捕えた声なのか、私の心に直接響いているのかは知らない。
  くぐもった声。
  「……お前が殺したのはこの村の生贄ども……」
  「ああ、そうなの」
  なるほど。
  この村の信奉者達も結局はこの悪魔の生贄でしかないわけだ。
  金という餌を与えて、遊んでいたに過ぎない。
  「……今回は充分に血を流した。俺は血に飽いた。お前の血肉を貪った上で、別の場所に行く……」
  「そりゃ巡り合わせが悪いわね」
  「……そう、お前は運が悪い。げっげっげっ。泣き叫べ、狂わしいほどに泣き叫び己を呪え。それは至高の味なり……」
  「単純ばぁか」
  「……何……?」
  「私が言ってる最悪の運、それはあんたよ。お前殺すよ」
  「……神を侮辱するとは愚かなり……」
  「煉獄っ!」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  炎が……に閃いているはず。
  だが何も見えない。
  おそらくこの闇も、あの悪魔が具現化させているものだろうから魔力で破れるはずだけど……この程度魔法では駄目か。
  それにしても神?
  ふん、片腹痛い。
  オブリビオンの悪魔の分際で、それも魔王でもないのに神を気取るとは……お仕置きが必要らしい。
  疲れるけどあの魔法で始末するかっ!
  「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

  ブーストブーストブーストっ!
  一時的に魔力を限界以上に増幅する。さらにブーストブーストブーストっ!
  今、私の魔力に叶う者にはいない。
  そこから繰り出される一撃。
  ……受けてみろっ!
  「神罰っ!」
  以前は《神々の神罰》という名前にしてたけど……開発し直した。以前までの魔法だと制御が不安定だったし。
  改訂版の《神罰》は安定してる。
  それでも、気を抜けば意識が飛びそうなまでに消耗は激しいけど。
  名前を変えたのは、まあ語呂が悪かったし?
  さて。
  「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  
バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  範囲最大っ!
  威力最高っ!
  私の、最強の一撃受けてみろーっ!
  電撃が洞穴内を荒れ狂う。
  例え暗闇で相手が見えないにしても、どこに隠れようとも逃げ場はない。
  この程度の広さなら避ける場所なんてない。
  白い雷が踊り狂い、全てを舐め、絡め、焼き尽くす。
  「……くっ……」
  一時的に魔力増幅した代償が襲ってくる。
  高揚感は消えた。
  ……醒めて行くのは正直しんどい。倒れそうになるものの、それは懸命に耐えた。
  実践的な仕上がりにはなったものの《神罰》はやはり消耗が激しすぎる。
  ブーストするという、ある意味でのドーピング。
  ドーピングして一時的に魔力が跳ね上がり、気分も最大まで高揚するものの醒めて行く感覚は一気に奈落に落とされるようで
  最悪だ。スクゥーマやるってこんな感じかな?
  「……くっ……」
  フラフラする足。
  正直、これは最後の一撃よね。
  これで相手が健在なら私は死ぬしかない。もう少し、消費する魔力を下げて開発すべきか?
  ……。
  でも、どっちにしてもけだるい感じにはなるでしょうね。
  これだけの威力を考慮して開発するとなると、どの道倦怠感に襲われるのは必定。
  威力下げたところでどうせ倒れそうになるなら最大にまであげたほうがまだマシだ。どっちにしろ動けなくなるならね。
  「……ぜぇぜぇ……」
  電撃は消え、洞穴内は静寂に包まれる。
  潮の匂いは消えつつある。
  声が響いた。
  相変わらず洞穴内に響いているのか、私の頭の中に響いているのかは分からないけれども。
  声は言う。
  「……これで終わりと思うてか……?」
  「へぇ。まだ私とやれる元気あるのかしら?」
  私にはそんな余裕ないけどね。
  限界っす。
  「……俺は死ぬ。もうすぐ死ぬ……」
  「そりゃ結構。遺言なら手身近にね。私は忙しい身だし。……今から死ぬからって優しくしてもらえると思わない事ね」
  よかった。
  神罰で焼かれたか。
  「……定命の者がここまで強力とは……げっげっげっ……いささか油断したようだ……」
  「油断して死んでりゃ世話ないわね」
  「……しかしよいのかな……?」
  「何が?」
  「……俺が死んでも、連中は人には戻らぬ。いいや、むしろ俺が死ぬ事で呪いは永遠となる。げっげっげっ……」
  「……」
  勝ち誇る、化け物。深き者と呼ばれた《何か》。
  おそらくオブリビオンの悪魔であるデイドラの類だろうけど……まるで視界は利かない。
  どんな化け物かぐらい見てみたかった。
  それにしても、勝ち誇る?
  「単純ばぁか」
  「……何……?」
  「ここの住人が化け物のままだろうが私の知った事か。それで勝ち誇るなんて、あんたの程度も知れてるわね」
  「……貴様、人の心はないのか……?」
  「悪魔に説教されるほど落ちぶれちゃいないわ。とっとと死ね」
  「……」
  押し黙る、悪魔。
  私が悔しがる様が見たかったのか、それとも住人の為に見逃すとでも思ってたのか。
  ふん。甘いわ。
  ここの連中は好んで化け物にまで成り下がった。私がわざわざ呪い説いてやる義理もないし、そんなつもりもない。
  自業自得。
  救うのは筋違いだ。
  「……無念、貴様のような人間にしてやられるとは無念っ! お前をオブリビオンに引きずり込んでやるっ!」
  「……ちっ」
  邪悪な気配が闇の中で動く。瞬間、私に飛び掛ってきた。
  道連れか。
  ……下らないっ!
  「はぁっ!」
  ザシュっ!
  居合いで、飛び掛ってきた物体を斬り飛ばした。
  闇と一体化してるからって調子に乗るなよ。
  「……口惜しや……」
  「とっとと死ね」
  「……や、やめろ、神を殺すか人の子よ……っ!」
  「黙れ」
  倒れていると思わしき場所に剣を振り下ろした。
  小さな断末魔。
  サァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!
  闇が消えていく。
  そして、深遠なる闇は消え失せて洞穴の薄暗さに戻る。
  元に、戻った?
  足元を見ると……宿屋のおっさんが倒れていた。こいつが元凶か、今の悪魔か。
  「あれ?」
  切り傷とか、傷は見た感じ一切ない。今の悪魔がこいつなら両断されてないとおかしい。
  どういう事だ?
  こいつが悪魔だと思ったけど……いや、多分こいつが悪魔だ。
  おそらくこいつの体を核に悪魔は実体化していたのだろう。だが、それでも説明はつかないか。
  しばらく考える。
  結論は……。
  「まあ、いいか」
  深き者と呼ばれた悪魔は果てた。
  別の次元に逃げたのか、それとも滅んだのかは知らない。まあ、多分滅んだでしょうね。
  別の次元に逃げれるほど強力でもなさそうだったし。
  住人をスキャンプ(オブリビオンの最下級の悪魔)に変化させる程度の実力で、次元移動出来るはずがない。
  「よしっ!」
  気合を入れる。
  魔力も……うん、少しずつ戻ってきた。体の倦怠感は仕方ないけど、そう問題もなさそうだ。
  帰るとしよう。
  「でもスキングラードまで今から帰るのはきついなぁ」
  コロールにでも寄るかな。
  アリスとその友達も気になるし、疲れたし、コロールならここから近いみたいだし。
  この近辺の地図を、この村から調達すればコロールがどっち方向なのかもわかるし。
  よし、問題完了。
  「さあて。街に着いたらハチミツ酒飲みながらゆったりとしよっと」
  この村の住人をどうするかって?
  知らないわよ、別に。どうだっていいし。
  悪魔に魂を売って転生したがってたのは連中の方だ。わざわざ間違った道を進んでるからといって引き戻してやる気はない。
  そこまでお人好しの善人じゃないし。
  ただ……。
  「今年は物騒が多いねぇ」
  今回は悪魔が相手だったし。
  皇帝暗殺から色々と連続して起きるから今年は暇しないわね、ほんと。
  ふと思い出すのは皇帝の言葉。
  そしてダゲイルの預言。
  「ははは。まさかね」

  ……オブリビオンの門を閉じる……?
  開くわけがない。
  タムリエルとオブリビオンの間には魔力障壁がある。大規模な悪魔の軍勢が侵攻してくるわけがない。
  杞憂よ、ただの杞憂。
  だって、そんな事はありえないんだから。
  だって、そんな事は……。