天使で悪魔




アイレイドの覇王




  アイレイド。
  有史以前にシロディールを支配したエルフの国家。
  魔道。
  文化。
  全てにおいて現在の帝国よりも優れているものの、一つだけ負けているものがある。
  統一王朝ではなかった。それがアイレイドの滅亡の直接的理由。
  各地に王が乱立する、群雄割拠。
  互いに互いを殺し合い、最後は滅ぼし合った。
  帝国は、当時奴隷だった人間(つまり現在の特権階級であるインペリアル)の反乱によりアイレイドは滅んだとしているものの
  それはあくまで宣伝よりであり、実際はエルフ達の自滅の方が大きい。

  ネナラタ。
  それはアイレイドの最後の王が君臨していた、都市の名前。
  そして今、都市の名前は遺跡の名として記憶されている。
  アイレイドコレクターであるウンバカノの求めるモノは、ネナラタにある。
  ……求めるモノは……。







  「ここがネナラタかぁ」
  「……」
  はしゃぐアン。
  無言の私。
  今回はウンバカノ直々にご出馬。あいつは私兵を総動員してここに現れる手筈になってる。
  今いるのは私とアンのみ。
  私はトレジャーハンターであって、護衛などを請け負う私兵とは意味が違う。
  なのでウンバカノを無視して先に到着した。
  今のところ、誰も来てない。
  ネナラタノ向かいには河があり、その対岸には今は無人のキャドルー聖堂がある。そこにラミナスがバトルマージを配置
  してある。
  ウンバカノ到着とともにそいつらに指示を出し、一斉捕縛。それで任務完了。
  ウンバカノの罪状?
  魔道法に違反した(正確には違反直前)からだ。
  「フィー、怒ってるの?」
  「さあね」
  正直、怒ってる。
  街で闇の一党に襲われた時、アンは出て来なかった。そこはいい。別に私一人でも蹴散らせる。
  でも、やっぱり出てこなかった事に私はこだわった。
  アンが聞こえし者じゃないか、という危惧は確かにある。可能性としては低いものの、ゼロじゃない。
  今回の任務、アンも引き続き関わってるけど……帝都を出てから一言も話してない。
  「……フィー……」
  「うるさい裏切り者」
  辛辣な言葉。
  疑ってはないものの……あの場で出て来ないとなると、差し向けたのはアンではないかと思ってしまう。
  「……」
  「……」
  無言。
  自分の感情がコントロール出来ないなんて、今まであまりなかった。
  ハンぞぅに拾われてから、私は嫌われないように笑った。たくさん笑った。たくさんたくさん、笑ってきた。
  皆が望むように振舞った。
  皆が望むように。
  皆が望むように……。
  最近はそうではないものの、癖として私は感情をコントロール出来る。
  口で言うのは簡単。でもやってみると、結構難しいのよ?
  私は幼い頃からそうやってきたから板についてるけど……アンが相手だとついつい、感情が暴走してしまう。
  何故だろう?
  「……」
  「……」
  自分でも裏切り者、と言ったのは言い過ぎだと認めてる。
  謝らなきゃ。
  謝らなきゃ。
  謝らなきゃ。
  「大丈夫だよ、フィー」
  「えっ?」
  ドキッとした。
  内心を、心を読まれたんじゃないかと私は錯覚して……。
  「大丈夫。私はフィー一筋だから♪ 浮気なんてしないよ? くすくす、妬いてるフィーって可愛い♪」
  「……ちくしょう」
  むぎゅー。
  抱きつくアン。
  私は思わずいつもは心で呟く《ちくしょう》を口に出してしまう。
  色んな意味で意外性に満ちてるわね、この自称姉気取りの暗殺者。
  「それで何を悩んでるの?」
  「闇の一党に最近付き纏われててね」
  「あたし疑ってるんだ」
  眼を見て、アンは言う。ストレートだ。その点は私と気が合う。私もストレートだ。
  回りくどくするのは好きじゃない。
  「うん。疑ってる。どうして出て来なかったの、この間の夜」
  「お腹空いたから、御飯食べてた」
  「それを証明する者は?」
  「いない。客商売だから、お店の人もそんなに覚えてないだろうし」
  「動機もあるよね、お姉様。前に聖域の時の方がよかったと言ってた。昔に戻りたいから私を殺すの?」
  「……」
  ストレートは、時に酷く残酷な言葉になる。
  でも私は気にしない。
  だってここではっきりさせないと気持ち悪いもの。出来れば、疑う心は欠片だけにしたい。
  ……。
  全面的に信じないのかって?
  それは無理。私俗物だもん。
  わずかでも疑ってないと、寝首掻かれたり後手に回ったりする。
  でもだからと言って相手を信じてないわけじゃない。
  あくまでも、欠片だけ疑うのは保険としての真理だ。別に他意はない。
  アンは静かに口を開いた。
  「前に言ったよね、あたし。フィーが裏切ったらあたしが殺す、あたしが裏切ったらフィーが殺すって。そしたらあたしは安らげるって、
  あたしは言ったよね。前の生活とは状況違うからこの宣誓もまた形を変えるけど、あたしはフィーを裏切るなら死んだ方がいい」
  「疑うなら、殺せって事?」
  「そう。あたしは疑われるぐらいなら死にたい。殺して欲しい。……うん、それでいい」
  「……」
  怖いぐらい、アンは澄んだ眼で私を見た。
  この子の価値観は極端だ。
  でも、私にも何となく分かる気がする。
  お互いに幼少時代に辛酸を舐めた者同士だ。何よりも信頼を大事にする。育った環境の、反動で。
  「……ごめん、アン」
  「いいよ別に。でも、信じてくれた?」
  「まっ、信じてはないけど、保留ってところかな」
  「えー? フィーってば酷い」
  「あっははははっ」
  「赤ん坊の時からフィーはそうだったなぁ。可愛い顔して、意外に酷い事するんだもん」
  「はっ?」
  断るまでもなく会ったのはつい最近。
  赤ん坊の頃には……まあ、あった可能性もあるだろうけど……そう年齢は離れてない。私が赤子なら、アンも同じだ。
  ……はぁ。
  ……またアンの妄想劇場の時間か。やれやれ。
  「両親が早くに亡くなって、あたしとフィーは2人きり。いつも泣いてた、あたしのフィー」
  「……」
  「泣き止んで欲しくて、あたしは胸をフィーの口に含ませてあげたの。そしたらフィーは天使のような笑顔であたしを見るの」
  「……」
  何気に良い話?
  ふっ、そんな考えは甘い、甘いぞーっ!
  「でも次の瞬間、フィーはまるで悪魔の如くあたしの胸を弄んだっけ。何もまだ分からない赤ん坊とはいえ、あの時はあたしもさす
  がに驚いた。ふふふ、天使で悪魔って自分でよく言ってるけど、まさにその通りだねー♪」
  「すいません私が定義する天使で悪魔とはまったくの別物なんですけど」
  ……ちくしょう。
  ……。
  ほらね?
  こんなオチになるわけよ、アンの話は。
  この子が闇の一党を仕切ってるなんて、考えられない。
  あーあ。馬鹿な考えだった。
  「よお早いな、お2人さん」
  「……あんたは……」
  姉妹の絆の強さを再確認していると、1人の男が声を掛けて来た。
  クロード・マリック。
  ウンバカノの専属トレジャーハンターだ。
  「マラーダではどうも」
  「皮肉な笑みはやめてくれ。あれはビジネスだ。それ以上でも以下でもない。……今回の仕事は、味方同士だ。ミスターオーナー
  がそう望んでいる内はな。俺はただ仕事をしているだけさ。それにマラーダで蹴散らされたのは俺の方だ」
  「そうね、仲間全滅だもんね」
  「そういうわけだ。俺の方が損してる。あんたが怒るのは筋違い。……後腐れなく、仕事やろうぜ?」
  にぃぃぃぃっと、笑う。
  不敵な笑みだ。
  実力的に拮抗していた盗賊ギルドのインペリアル女とも戦いたくないけど、クロードのように世故長けた類とも戦いたくない。
  実力云々を機転と経験、図太さで引っくり返しかねないからだ。
  こいつ結構強いし。
  剣でなら、私相手でも良い勝負を演じてくれるはず。
  ただし勝敗は実力が左右するとは限らない。運の要素も絡んでくる。
  そういう意味合いではクロードの方が有利かな?
  ……まっ、意外に悪運は私も強いけど。
  「来たぜ、金づるが」
  クロードは吐き捨てるように呟いた。
  本気でビジネスだけか、この男。
  金額分は働くけど私情は挟まないタイプ。ウンバカノもただの依頼人に過ぎないわけだ。
  意外に昔気質ね。
  さてウンバカノは私兵を引率して登場。
  遠目からでも分かるけど、ウンバカノは王冠を被ってる。ネナラタではなく、ヴァータセンの王冠だけど。
  私兵の装備はウンバカノ持ちかな。全員、鋼鉄製の装備で身を包んでいる。ごっつい格好の私兵が約三十。
  これからアイレイド最後の王の眠るネナラタに潜る。
  さあ、謎に満ちた遺跡へっ!
  ……。
  ふん。熱血する気はない。
  バトルマージに指示して、一気に捕縛してやる。
  「行こう、アン」
  「愛欲の世界に? くっはぁー♪」
  「絶対違うっ!」
  ……シリアスの仕方、こいつは知らないのだろうか?
  ウンバカノが私達と合流する前に、離れる必要がある。あいつが側にいると色々とでっち上げの理由を説明する手間が必要
  になる。手間は面倒。私はクロードにお祈りしてくる、と言ってその場を離れた。
  お祈りする、そう、キャドルー聖堂で。
  我ながら演技がうまいのを再確認し、私は河を渡って対岸に。
  信仰の為、とか言ったけどキャドルー聖堂はかなり前に無人となり、荒れ果てている。そもそも何を祀っていたのかも知らない。
  まあ、何祀られてても知ったこっちゃないけど。
  ここにバトルマージ20名が詰めている。
  ウンバカノの思惑は、おそらく魔道法に違反する。
  古代アイレイドの遺産を呼び覚ます事は重大な罪なのだ。
  それだけ物騒な代物。
  ……。
  まあ、まだ呼び覚ます前……つまり現行犯ではないものの……まず間違いない。
  違うならわざわざ私兵を総動員して引き連れて自らここに来る必要性がどこにもないからだ。
  自分の関心のある遺跡巡りなだけ?
  それは……難しい理由ねぇ……。
  関心がある遺跡めぐりに、わざわざ王冠被るか、普通?
  ほぼ確実にウンバカノはネナラタに秘められた《何か》を呼び覚ますつもりなのだ。
  アイレイドの財宝?
  アイレイドの魔力?
  アイレイドの人形?
  どっちにしてもあまり性質が良くないモノに違いない。
  任務でウンバカノの側にいて、専属トレジャーハンターになっていた私の感想からすると、ウンバカノは危険。
  自分の利益の為なら、ストレートに邪魔者を排除する性格。
  まあ、それにこれはハンぞぅの意思でもある。ラミナスもハンニバル・トレイブンに従っているだけ。
  つまり全ての意思はハンぞぅ。
  ならば従うだけ。
  私には、それ以外の感情はない。
  ハンぞぅか望む結末を私は導くだけ。バトルマージに捕縛を指示しよう。
  私は聖堂の扉に手を開く。
  「フィー駄目っ!」
  「はっ?」
  ガチャ。
  警告は少し遅かった。私は扉を開いてしまった。
  そして見る。
  「……なっ……」
  血の海。
  そう。そこは血の海だった。
  バトルマージは全員死亡。逃げた者もいるかもしれないから全滅かは分からないけど……ここにいるのは全部死んでる。
  ウンバカノが先に手を打った?
  ……いや、どうも違うらしい。
  「死霊術師か」
  私は呟く。
  バトルマージの死体だけではなく、死霊術師の死体も無数に血の海の中にある。
  どうやらこの聖堂に死霊術師達が巣食っていたらしい。
  そうと知らずにバトルマージ達は待ち伏せの為に入った、そして戦闘に続行……なのだろうけど……。
  「運が悪いなぁ」
  そう思わざるをえない。
  バトルマージは全滅。どうも見る限りでは死霊術師達も共倒れみたいだけど……面倒なのには変わりない。
  これでウンバカノ逮捕は私とアンの2人でやらないといけなくなる。
  逮捕は、まず無理。
  だって2人だけだもん。当然でしょ?
  全員殺せ、なら暗殺姉妹として容易い事だけど……それだとまた意味違ってくるし。
  魔道法に《違反するのは明白だから逮捕した》、ならまだ話は通るけど《違反する恐れがあったから全員デストロイ♪》はまず
  通らない。というか絶対通らない。
  ……どうするかなぁ。
  「アン、アルケイン大学に行ってくれる? ラミナスに事情説明して別のバトルマージの部隊送ってもらって」
  「いいけど、フィーは?」
  「ウンバカノに付き合う」
  「駄目ぇっ!」
  「はっ?」
  「いくら生活苦しいからって、あたしの為にあんな奴の愛人になって身を売るのはやめてぇっ!」
  「誰が身を売るか誰がっ!」
  「ちぇっ。そういう設定の方が萌えるのに♪」
  「……」
  燃えるじゃなくて、萌える。
  そんな末恐ろしさがアントワネッタ・マリーの持ち味です。
  ……なんて怖い娘……。
  「でもあたし急にいなくなって大丈夫? 言い訳成り立つ?」
  「まあ、何とかなりそうね」
  私は半ば強張った笑顔で、そう言った。
  聖堂の奥から何か来る。
  死霊術師なら別に問題はなく粉砕するけど、連中の目指す《究極の存在》相手は結構面倒な相手だ。
  余裕で倒せるとは、笑えない。
  「行きなさい」
  「うん」
  アンは聖堂を飛び出し、大学に。
  私は?
  「煉獄っ!」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  奥から這い出てきた奴に直撃。
  爆炎と爆風の中、奴は静かな足取りでやって来る。
  ……さすがにこの程度の魔法では効かないか。
  「さすがはリッチよね。人間やめてるだけあるわ」
  「ほほほ」
  聖堂の奥から現れたのは、リッチ。
  死霊術師達の究極の姿で、連中が最終的に目指しているのはリッチだ。
  ……。
  私から言わせると、人間やめてアンデッドに成り下がっているだけに過ぎないけど……人間やめてるだけあって結構強い。
  連中の言うように究極でも、不死身でも、無敵でもないけど確かに上位魔術師でも苦戦は強いられるだろう。
  私?
  私はマスタークラスの魔術師だから、それほど怖い相手ではない。
  多少手間取りはするだろうけど負ける事はない。
  バトルマージが全滅した理由は、こいつか。
  確かにリッチが死霊術師の中に混じっていれば、全滅もありえるだろう。それだけリッチは一等上の敵。
  さて。
  「お前も魔術師ギルドかぇ?」
  リッチの口調は、女だ。
  ただ外見はもはや死体でしかないので、性別は判別し辛いけど……多分女。あー、もしかしたらオカマかも知れんけど。
  まあ、そこはいい。
  「魔術師ギルドなら、どうするの?」
  「愚かなるトレイブンを恨むといいわ。……我らは群れない、我らは魔術師ギルドを恐れて都市には近づかない……実に愚かっ!
  我らは何も恐れはせぬ。我らが唯一恐れ、敬うのは虫の王のみぞっ!」
  「ああ、あんたも最近流行りの虫の隠者か」
  虫の隠者。
  リッチ化した連中は最近、自らをそう名乗る。
  アンヴィル支部長キャラヒル曰く《自らを虫の王の腹心》と気取る誇大妄想らしい。
  確かにリッチは腐ってる。脳も腐って妙な妄想を見てるのだろう。
  ……。
  虫の王とは、魔術師ギルド創設者であるガレリオンと敵対し、五体をバラバラにされて殺された元祖死霊術師。
  死霊術師の祖。
  今から300年前に既に死んでる。
  「我こそは虫の隠者ヴェレンシャルなりっ!」
  「はいはい。裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  必殺の電撃が虫の隠者を焼く。
  私の放つ魔法の中では最高ランク。煉獄よりも強力だ。
  どんな相手でも直撃向けたら、まず生きてない。
  ……人間ならね。
  「効かぬわぁっ!」
  「ちっ」
  やはり耐えたか。
  まあ、一発ぐらい耐えれない存在が究極なら、なる必要はない。
  長い年月かけてようやくリッチになって一発で死んだら……立つ瀬がないでしょう。まあ、もうこいつは既に生きてはないけど。
  虫の隠者は笑う。
  「ほほほ。トレイブンの愚かなる支配は直に終わる、虫の王の鉄槌が奴を砕くのだっ!」
  「じゃあ私は?」
  「貴様は私に殺される。ほほほ、ありがたく思うとよいぞよ?」
  「単純ばぁか」
  「小娘っ!」
  ブォン。
  虫の隠者は手から何かを放つ。私は咄嗟に身を捻って回避したものの、壁に大きな穴が開いた。
  攻撃力は高い、か。
  ……こいつ利用出来るわね。
  タッ。
  私は身を翻し、外に逃げた。対岸には、ウンバカノ達が私の祈りが終わるのを律儀にも待っていた。
  「逃がさぬぞっ!」
  そしてさらに律儀な事に、虫の隠者は私を追撃してくる。
  ブォン。
  ブォン。
  ブォン。
  私は瞬間、こけた。
  ……いや、傍目からはこけたように見えたはずだ。虫の隠者の攻撃は私に上を素通りし……。
  『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
  ウンバカノ達の方に直撃。
  これで私兵が数人潰せたわね。
  私の所為じゃないわ、これは虫の隠者の所為だもん。
  クロードが私兵に何か叫んだ。
  次の瞬間、矢と魔法が今度はこちらに……おいおいおいおいっ!
  「うひゃぁっ!」
  私は叫びながら退避。
  私を狙っているのではないものの当たらないという保証はどこにもない。
  「人間どもが。下らぬわっ!」
  既に人間やめている虫の隠者には、豆鉄砲程度の威力しかない。矢で射抜かれても大した事ないようだし、魔法耐性もリッチに
  なる事で強化されている為あの程度の魔法はほぼ無効化されている。
  私クラスの魔法でなければまず歯が立たない。
  「ヴェレンシャルっ!」
  私を無視し、対岸側のウンバカノの私兵と魔法でやり合っている虫の隠者の名を叫ぶ。
  私を無視するとはいい度胸だ。
  リッチとしての自分の力を過信しているのだろうけど、それが敗因だ。
  「裁きの天雷っ!」
  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  今度こそ。
  今度こそ電撃で身を焼かれ、弾かれ、そのまま川底に沈んだ。
  私は冷笑する。
  「二発は、耐えれなかったみたいね」





  「それでどうすんの?」
  「……」
  「あのリッチの所為で姉も殺されたわ。……続行するの?」
  「……」
  ウンバカノに決断を促す。
  アンは死んだ事にしておいた。わざわざキャドルー聖堂の中まで改める事はないと踏んでね。
  ラッキーなのか、アンラッキーなのか。
  ……微妙なところではあるわね。
  ウンバカノの私兵は残り5名。結構派手に死んだものだ。
  なるほど、リッチが強力……というのも何となく分かる。並みの魔術師や戦士ではまるで歯が立たない。
  まあ、私強いし?
  強すぎると世間一般の強さのレベルに疎くて困りものですわー♪
  ほほほー♪
  ……。
  まあ、ラッキーかアンラッキーかは……微妙じゃないか。アンラッキーだ。
  バトルマージさえ生きてれば私の仕事はここで終わりだったのに。
  詰め所として利用したキャドルー聖堂に、わざわざ死霊術師がご丁寧に住み着いてる事なかったのになぁ。
  計画が御破算になったものの、私兵が残りわずかなのは不幸中の幸いか。
  ちなみにクロード・マリックは生き残ってる。
  ウンバカノもね。
  金額次第で敵にも転がる私兵は5名。完全武装ではあるものの……士気は完全にゼロ。
  まあ、これから潜る遺跡には化け物以外にはいないと思うから、敵に転ぶ心配はない。
  先頭を歩いてトラップに先に引っ掛かってくれたら儲けモノ。
  さて、ミスターオーナーのご命令は?
  「このまま探索を続行する」
  「了解、ボス」
  「異義はないですよ。……割増料金頂きますがね」
  二つ返事で了承するのは、私とクロード。
  その他大勢の私兵達は尻込みしている。士気がゼロ以外にも、新しい問題発見したわ。私兵は、ただのチンピラだ。
  鎧の下は素人、か。
  まっ、質より量で掻き集めたんだろうけど……既に量もないのでは、まるで役に立たない。
  ……。
  このまま全員捻じ伏せてもいい。
  理屈としては、あいつは人を確実に殺すから犯行起こる前に殺してしまえ……なんだけどね。理屈としてはおかしい。
  でもアイレイドの魔力を呼び覚ますのが目的なら。
  ……十中八九そうなんだろうけど、その場合は私のやろうとしている事は理屈として成立する。
  それだけアイレイドの遺産は恐ろしいものなのだ。
  ここで全員仕留めてもいい。
  もちろん殺しはしない。……必死に抵抗された場合、手元狂って殺してしまう場合もあるだろうけど、基本は叩き伏せるだけ。
  しかし今は少し、余裕がある。
  バトルマージ全滅は予想外で、不可抗力。
  でもそれを覆すほどの成果もあった。虫の隠者と私兵との戦闘だ。
  おかげさまで私兵はほぼ壊滅。随分とやり易い。
  だからだろう。
  ウンバカノが何をしたいのか、見極めてやりたくなった。数が減ってるから万が一の時は蹴散らせばいい。
  野次馬根性から私は遺跡に足を踏み入れた。





  遺跡に潜ると、ウンバカノが見慣れぬ杖を手にしているのに気付いた。
  王冠を被ってるのは、さっき確認した。
  おそらくはアイレイド絡みの杖なんだろうけど……。
  「よくぞ気付いたな。これこそが私が最初に手にした王杓だ。私のコレクターとしての道の第一歩だよ」
  「ふぅん」
  王冠。
  王杓。
  ふぅん。アイレイドの王様気取りなわけだ。
  この遺跡に眠る魔力を呼び覚まし、自らをアイレイドの王と自称して君臨するつもりか。
  誇大妄想の馬鹿か、こいつ。
  私兵の1人がマラーダで手にしたレリーフを持っている。
  ただの古美術ではなく、そのレリーフもここで使う代物らしい。
  ……。
  まっ、色々と考えたけど……別に私のこの行動、浅はかでも何でもないわね。
  だってウンバカノが誇らしげに被ってる王冠はここネナラタのモノではなく、別の遺跡ヴァータセンの出土品。
  遺跡の全てはかつてこの地に君臨したアイレイド王族達の都市の成れの果て。
  つまりこのおっさん、別の王様の王冠被ってるわけだから……ここで魔力を呼び覚ますのは不可能だ。
  鍵となるネナラタの王冠ではないのだから。
  そうよ。
  そうなのよ。
  そう考える気が楽になる。
  「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  私兵が目の前でガーディアンのマリオネットに殺されても、毒ガスで死のうとも落石で果てようと知った事ではない。
  ウンバカノは結局徒労に終わる。
  結末は変わらないのだ。
  ならば気を楽にして楽しむとしよう。
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  マリオネット達を吹き飛ばす。
  罠をかいくぐり、マリオネットを薙ぎ倒し、私達は先に進んだ。
  色んなアイレイドの遺跡を巡っているものの、別にここだけ異様にレベルの高い防衛システム……というわけではない。
  構造も至って普通。
  ……。
  まあ、マリオネットは多い。
  戦闘型自律人形で、当時奴隷だった人間の鎮圧用の兵器。
  当時魔法はエルフの特権。
  奴隷だった人間は、マリオネットの弱点である魔法が使えずに難儀しただろうけど……今の時代は誰でも魔法が使える。
  マリオネットといえどもそんなに怖い相手ではない。
  「煉獄っ!」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  魔道戦力は私だけのようだ。
  ほとんど私が全て破壊し、先に進む。
  私兵は全滅。
  遺跡に潜って物の数分で、とっくに脱落してたしおそらく虫の隠者とやり合わなくても全滅してたでしょうよ。
  どこでこんな弱いの掻き集めたのかしら?
  クロードは簡単な回復魔法意外は使えないようではあるものの、手にしている魔力剣でマリオネットを切り伏せたりと役に立っ
  てる。彼のお陰で大分楽出来たのも、確かだ。
  意外に善戦しているのは、実はウンバカノだった。
  強力な魔法を習得しているらしく、群がるマリオネットを次々と撃破していくその手並みは正直、驚いた。
  結構強い部類の魔術師ね、こいつ。
  ともかく三人で道を切り開き私達は最奥に到着。
  そこは、行き止まりだった。
  「ここで終点ですか?」
  正直納得行かない、そんな顔をクロードはした。
  ビジネスとはいえまるで無意味な事に命を賭けるのは彼にしてみても面白くないのだろう。
  私もそれはある。
  ただ、私は気付く。壁に何かをはめ込むような窪みがある。それは四角。
  ……ああ、そうか。
  「ここでレリーフを使うわけ?」
  「その通りだ」
  私兵が死んだ後、自分でレリーフを持っていたウンバカノは満足そうに笑った。
  窪みにレリーフを埋め込む。
  ……なるほど、ここで必要だったわけだ。
  ガコンっ!
  不必要なまでに音が響いた。
  ま、まさか。
  「……」
  私は身構える。
  マラーダでは、レリーフを取った途端に壁が粉々に粉砕して石の弾丸としてレリックドーンの兵士の体をを貫いたからだ。
  ……しーん……。
  何も起きない。
  次の瞬間、壁はスライドし、静かに開く。
  ふぅ。爆発しなくて、良かった。
  「……おお……」
  感嘆の声を上げるウンバカノ。
  視界の先には、玉座があった。ここは玉座の間か。ネナラタ最後の王が君臨した、玉座。
  私達を無視して走るウンバカノ。
  「どうすんの?」
  「……スポンサーの好きにさせるさ」
  肩を竦めるクロード。
  こいつ実はウンバカノの事が嫌いなんじゃないの?
  小声で囁き合い、玉座に満足そうに座るウンバカノの側に行く。
  ……。
  ま、まさかこれでお終い?
  こいつまさかアイレイドの王のコスプレして楽しむ事だけが目的だった?
  それはそれでありえるかも。
  大富豪。大抵の道楽はし尽くしたはずだ。発想が私達と違っても、おかしくない。
  「フィッツガルド、クロード」
  満足そうに笑いながらウンバカノは私達の名を呼ぶ。
  一応スポンサーだ。口を挟まずに玉座に座った感想を聞いてやる事にしよう。
  「ここはアイレイド最後の王が座った、玉座。王の座す場所。……ふふふ、アイレイドでもっとも至高の王が君臨した場所だ。魔王
  に魂を売ったウマリル、錬金術に狂った黄金帝、神を演じる真似事をした人形姫。全て下らぬっ!」
  「はっ?」
  何だこいつ、ハイ過ぎるじゃないか。
  スクゥーマでもやってるのかな?
  こんな様子のウンバカノを見るのは初めてなのだろう、クロードも驚いていた。
  「ネナラタの王は、真なる覇王っ! 全ての事象を支配するに相応しい、高貴なる王なのだっ!」
  権威には抵抗したい。私の悪い癖だ。
  ……その権威が金メッキでもね。
  「ネナラタの王は、たまたま最後まで残っただけのロートルな王様。そんなに高貴じゃないでしょうが。歴史書読んでる?」
  「我を冒涜するかっ!」
  「我?」
  何かおかしいぞ、こいつ。
  「んん? お前はブレトンか?」
  「ええ」
  今更何を?
  はっ?
  「誇りあるアイレイドエルフと奴隷である人間どもとの混血。……ふん、汚らわしい面汚しめ。売女の存在風情が我の顔を拝謁
  する権利などあるのか? 身の程を知れ、薄汚れた血筋の女よっ!」
  「……っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  文句を口にする前に、私は奴の放った電撃で弾かれた。
  今更言うまでもないけど私には魔法は効かない。ただ、ふっ飛ばされた時に打った腰が痛い。
  ウンバカノの言動がおかしい。
  ……こいつまさか……。
  「お、おい大丈夫か? あんた何考えてるんだっ!」
  私を気遣って、それからウンバカノに食って掛かるクロード。
  幾らなんでも展開が急過ぎるでしょうよ、ウンバカノの性格の変わり様は。そんなフラグあったっけ?
  ただ私は何となく見当はついてる。
  ……おそらくウンバカノは……。
  「んん? お前は……奴隷民族かっ! 控えろ、下賎な者めっ!」
  「こう言っちゃなんだがあんた、頭おかしいんじゃないのか?」
  奴隷民族、ね。
  インペリアルをそう呼ぶのは当時のアイレイドエルフだけ。つまりは……。
  「クロード、そいつはウンバカノじゃないっ!」
  「何?」
  「ひぃーひっひっひっひっ! 察しがいいじゃないか、ええ? この汚らわしい売女が」
  ブォン。
  ウンバカノの瞳の色が変わる。深紅に。口調だけではなく、口から発する声自体も変わった。
  クロードは間合いを取り、剣を構える。
  私もだ。
  どうやらミスターオーナーは正気を失っているらしい。
  ……。
  ……いや。
  そもそもこれが、ウンバカノの正体か。
  奴の日常の仮面を剥いだらこいつが潜んでいるのはおそらく間違いない。そして今、目の前にいる。
  私達を殺そうとね。
  「祝え、下賎な2人よっ! 我こそはネナラタの覇王っ! 今日この日こそがアイレイド文明の復活の時となるっ!」
  「そりゃすごい。……祝電、送ろうか?」
  「従え、下賎な2人よっ! 我はお前らに温情を与える。交わり、増えよ。そして我が奴隷の民を生み出せっ!」
  「……それセクハラ?」
  交わって、増えろ……か。
  アンが聞いたら速攻でこいつ殺されるでしょうねぇ。
  ……。
  い、いやそれ以前にここにアンがいなくてよかったっ!
  きっとこいつに従って私を押し倒し……(以下自主規制)……するだろうなぁ、きっと。
  ガクガクブルブル。
  「我こそはネナラタの覇王っ! さあ、王冠よ、王杓よ、我が意に従い力を得る鍵となれっ!」
   バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  ……。
  ……。
  ……。
  「アホか、あんたは」
  私は黒焦げになったウンバカノの死体を見て、苦笑した。
  電撃は、彼に与える魔力ではあらず。
  別の王の王冠を被っての宣誓だった為、この遺跡のシステムが王族詐称と判断してウンバカノを電撃で焼き殺したのだ。
  その時、アンがバトルマージを引き連れて現れた。
  ウンバカノを見下ろす。
  ほぼ炭化している。まったくもってただの間抜けでしかない。
  「あんた馬鹿でしょ?」







  「……で? ウンバカノは結局、何だったんだ?」
  疲れた口調で、石畳の上に転がりながらクロードは呟いた。
  玉座の間は。
  先程の激戦(?)の場所には、アンが帝都のアルケイン大学から新たに引き連れてきたバトルマージで溢れている。
  ……願わくばもう少し早く来てくれてたらねぇ。
  ……そしたらこんなに労働する必要なかったのに。
  ……ふぅ。
  「フィー大丈夫?」
  「まっ、死ぬ事はないわ」
  「元気になるおまじない、してあげようか?」
  「絶対にやめてっ!」
  「ちぇっ」
  何をするつもりかは知らんけど、エロエロなのは間違いないだろう。
  ……ちくしょう。
  「それで、ウンバカノは何がしたかったんだ?」
  クロードがまた、聞く。
  私は彼の隣に座ってる。アンは、私に抱きついてる。
  後の検分はバトルマージに任せるとしよう。疲れたし、しばらく話でもしてようか。
  クロードの問いに答える。
  「私もあいつが何したかったのかは知らないけどね、推測は出来るわ。……二つほどね」
  「そいつは楽しみだ、教えてくれよ、嬢ちゃん」
  「一つは、奴は本当にアイレイド王族の末裔だった、って線かな」
  「奴が王族?」
  王冠を被り、王杓を持ち、アイレイドの王を宣言する。
  ……。
  そんな程度のことでアイレイドに秘められた力を継承し、王位に就けるのであれば……冒険者がアイレイドの王になっても
  おかしくない。
  そんなに簡単な事ではないのだ。
  おそらく、ウンバカノが王族の血筋なのは間違いないだろう。
  そうでなければただの馬鹿だ。
  それなりの下地があったからこそ、奴は実行に移した。
  ……まあ、ネナラタの王冠ではなくヴァータセンの王冠を被って王位継承宣言した為、自滅したけど。
  これが一つ目の推測。
  「ちょっと待てよ嬢ちゃん。奴はアルトマーだ。見た目だって……」
  「アイレイドエルフ、というのは正式な名称じゃない。連中もアルトマーなのよ」
  「何?」
  ハイエルフ。通称アルトマー。
  サマーセット島を故郷に持つ、強大な魔力を持った高貴なるエルフ達。
  「アイレイドエルフはね、シロディールに住むアルトマーなの。サマーセット島から移住してきたのか、それは知らない。でもアイ
  レイドエルフと呼んでる連中も正確にはアルトマーの範疇なのよ」
  「じゃあ見分けは付かんのか?」
  「まあ、そうなるわね」
  大抵は仇敵である帝国人の文明を否定し、人里離れた場所で暮らしているらしいけど。
  以前読んだ《野生のエルフ》という本を読む限りではアイレイドの生き残りエルフ達は野山に住み、完全に退化しているらしい。
  言語も自分達の言葉、つまりアイレイド語しか喋れない。
  ……。
  まあ、ウンバカノのように文明社会で生きている場合は……区別つかないわね。
  帝国の全土統一。
  お陰で種族が入り混じっている。特に帝都では、ね。
  どれがサマーセット島から来たアルトマーか、アイレイド文明の生き残りエルフかは正直見分けられない。
  基本的にウンバカノのような奴はいないだろうけど。
  さて。
  「それでフィー、もう一つは?」
  「教えて欲しい?」
  悪戯っぽく、私は焦らす。アンをからかうと可愛い。
  「フィーの意地悪」
  「そう?」
  「じゃあ、あたしを全部あげる」
  「はっ?」
  「もう、最初からこれが目当てだったんでしょこのスケベー♪」
  ……ちくしょう。
  呆れた口調で、クロードは茶化した。
  「おいおい良い男の俺がいるのに、女同士で乳繰り合ってんじゃねぇよ」
  「不適切な言葉使うんじゃないわよっ!」
  「はぐぅっ!」
  ガンっ!
  鞘に納まった剣で、クロードを殴る。
  男のくせに情けない。この程度の事で頭割れて死にそうな演技するなんて……ほんと、軟弱よねぇ……。
  この国、どうなるのかしら?
  結局女がしっかりしないとね、全てにおいて。
  「えーっと、何の話……ああ、ウンバカノの事よね。もう一つの推測は、あいつは怨霊に操られていた」
  「何?」
  ぽぅっ。
  簡単な回復魔法を自らに施しながら、クロードは涙目で私を見た。
  理由としてはこっちの方が多分、上位だ。
  「あいつはアイレイドの秘宝に魅入られていた。……でもね、秘宝と言ったって結局のところは遺宝なのよ。墓暴きして手に入れ
  た品物が呪われたっておかしくない。むしろ呪われてる方が、普通だと思う」
  「あの杖かっ!」
  ウンバカノが今回常に手にしていた、王杓。
  アイレイドの遺産を掻き集めるきっかけとなったと自ら語った、あの杖。
  「おそらくあの杖にアイレイドの亡霊が取り付いていた」
  「……なるほどな。じゃあウンバカノはただ操られてだけか?」
  「それはどうかな。悪霊は野心に惹かれるっていうし」
  「どっちにしろ、もう分からんという事か」
  「そういう事ね」
  ウンバカノ死んでるし。
  どんな新説が出ても、どんな真実が出ても死人に口なし。
  それに偲ぶような相手でもないし。
  「で、俺はどうなるんだ?」
  「公共の墓荒らしは罪だけど遺跡は漁っても罪じゃない。そこにある物には所有権はないのよ。……分かってるくせに」
  「じゃ、俺は無罪放免だな」
  「叩けば埃が出るんじゃない?」
  「叩かれる前に失せるさ。あばよ嬢ちゃん。金づるが死んだのは痛いが、まっとうに生きるのが懸命だよな」
  「……よく言う」
  苦笑交じりに、私は彼を見送った。
  長生きするわあの性格。
  さて、私達もここに居座る必要はない。後の検分はバトルマージに任せるとしましょうか。
  「帰ろ、アン」
  「うん♪」



  ここにアイレイド最後の王は、ネナラタに倒れた。
  ……最後の王は……。













  「新たな虫の隠者が?」
  「はい。カラーニャ評議員」
  帝都にある、魔術師ギルドの総本山アルケイン大学。
  つい先程帰還したフィッツガルド・エメラルダの報告を、評議長であるハンニバル・トレイブンに上奏すべくラミナス・ボラスは
  アークメイジの執務室に向かうものの、扉の前でカラーニャに阻まれた。
  評議員の1人で、ハンニバル・トレイブンの腹心のアルトマーの女性。
  ペラペラと報告書をめくる。
  カラーニャはラミナスから取り上げた報告書を吟味してから、簡潔に命じる。
  「ご苦労ラミナス・ボラス。マスターはご多忙の身。この報告書は私が渡しておきましょう。下がりなさい」
  「しかし……」
  「しかし?」
  「……いえ」
  「ですが面白いですね。ウンバカノに対する調査に、死霊術師が関わるとは。不可抗力とはいえ、彼女はトラブルを呼び寄せる
  才能があるようですね」
  「……」
  「死霊術師の動向に関して、彼女は何か気にしていましたか?」
  「大規模な死霊術師の組織があるのではないかと……」
  そこまで言いかけ、ラミナスは俯く。
  しばらく間を置いてから意を決して言葉にする。
  「何故ファルカーの反乱で済まそうとするのです?」
  「何故、とは?」
  「何故情報を操作するのですっ! 確かに、意味は分かります。事の真相を知る者はマスター・トレイブン、カラーニャ評議員、そ
  して私。公にするには早過ぎるのは分かります。だから、情報を封じているのはよく分かります」
  「何が言いたいのです?」
  「どうしてフィッツガルドにまで情報の制限をするのですっ! 事はもうファルカーの反乱では済まない、どうしてファルカーを操っ
  ているのが黒蟲教団だと……っ!」
  「聞かなかった事にします」
  珍しく感情を露にするラミナスに対して、カラーニャはあくまで冷たい氷の如く対する。
  そして念を押す。
  「この情報統制に関してはハンニバル・トレイブンも同意されています」
  「……」
  「あの女、フィッツガルド・エメラルダは死霊術師レイリンの姪。確かにそこから巡り巡ってここに至る道から推察するに死霊術師
  との関係はありえないでしょう。ですが可能性は無視出来ない」
  「……」
  「彼女に対する情報統制も、マスターは了承しています。つまり、言えるのはただ一つ」
  「……」
  「あの小娘を信用している者はここには誰もいない」