天使で悪魔




消えた山賊




  束の間の休息。
  元帝都軍総司令官アダマス・フィリダの謀略で逮捕されて以来、毎日大変だった。
  挙句に闇の一党壊滅まで流されるまま、働いてきました。
  うー。お疲れー。

  全てお終い?
  世界は平和になった?
  それはありえない。
  この世界には、大人が子供に語るメルヘンなど微塵も存在しない、美しくも残酷な世界。
  今、この瞬間にも新たなる悪意は胎動を続けているのだ。

  
  本当に、誰もが望む平和などは存在しない。
  人がいる限り争いは消えはしない。
  人が……。








  アルケイン大学。
  魔術師ギルドの本部であり、全ての知識の集う場所。
  そういう意味では、今私がいる《神性の書庫》はその中枢だろう。何故なら、世界中の書物が収められている。
  この施設を仕切ってるのがター・ミーナ。
  アルゴニアンの、万年図書委員だ。
  私にとって家族と呼べるのはハンニバル・トレイブン、ラミナス・ボラス、グッド・エイ、ター・ミーナだけだ。
  ……。
  まあ、最近闇の一党の暗殺者達もそのカテゴリーに含まれる。
  大家族になったなぁ。
  「じゃあ、これは?」
  「ヴィルヴェリンだね」
  「正解」
  「ふふん♪」
  私は今、神性の書庫で暇潰し。
  魔法の研究の為に帝都内で自治を得ているアルケイン大学に留まっているものの、研究は行き詰っている。
  だから、暇潰し。
  私はアイレイドの遺跡の概観を描いた絵画をター・ミーナに見せ、彼女はそれを当てる。
  暇潰し以外の何者でもないけど、それなりに楽しい。
  ただ彼女の知識の深さに感服。
  図書室から出てないのに、世界中の遺跡を覚えてるなんてね。
  ちなみにヴィルヴェリン、帝都のすぐ側にある遺跡だ。絵を見てどの遺跡か当てる、という芸当は私には出来ないけど名前を聞
  けばどの変にあるかぐらいは大体は分かる。一応私は優等生ですから。

  ほほほー♪
  確かヴィルヴェリンは帝都のすぐ側の小島にあった気がする。
  「じゃあター・ミーナ、これは?」
  「それは……それはぁー……」
  悩む。
  へぇ。珍しい。全ての知識は脳に収められていますと豪語する彼女が詰まるとは。
  遺跡の名前は……。
  ……。
  聞いた事ないな、私も。
  マラーダ?
  どこにある遺跡なんだろう?
  「……ああ思い出した。それはマラーダだねぇ」
  「正解。でも、これどこにある遺跡?」
  「最近発見された遺跡。遥か東にある、そう未開の地にある遺跡。まだ調査団も入っていないわ」
  「へぇ」
  世界はまだまだ広い。
  冒険し尽くした、と自負する冒険者がいるにしてもそれはただの井の中の蛙。
  タムリエルの一地方でしかないシロディールにはまだまだ未開の地や未発見の遺跡は多い。つまりタムリエル全土を含めたら
  謎と神秘に満ち溢れているわけだ。

  アルケイン大学で暮らしてきたから、まだ見ぬ魔法技術などの知的好奇心は私にもある。
  マラーダか。
  今度行ってみようかな。
  「それよりフィー、魔法の研究はいいの?」
  「ああ別にいいの。こういうのは焦ると返って逆効果だからね。別に急ぐわけじゃないし」
  効果範囲最大の電撃魔法。
  それが今、私が開発中の魔法だ。一小隊ぐらいなら一撃で殲滅出来るだけの威力を秘めた魔法を作成中。
  作成するのは簡単なのよ。
  問題は魔法を放つのに必要な魔法力。
  ブーストして一時的にキャパシティを増幅するわけだけど、その辺りの調整が難しい。
  まあ、戦争があるわけでもないしそんなに急いで完成させる必要はないけどね。
  「んー、お腹空いたな。ター・ミーナ、お昼食べに行こうよ、奢るから」
  「大学の食堂で奢るのぉ?」
  「何よ不服?」
  「大学の食堂、味はいまいちだからねぇ」
  「……ヒッキーが何を偉そうに言ってるのよ」

  悪口にあらず。
  大学内で暮らしている魔術師達は大抵、大学の敷地の外には出たがらない。
  こここそが至高の地であり、世界の中心である帝都ですら大学より劣ると断言してはばからない連中が多い。
  確かに大学内にいれば何の不自由はないし。
  ター・ミーナもあまり大学の外には出ない。……まあ、このトカゲの場合は神性の書庫からも滅多に出ないけど。

  「そうだフィー」
  「何?」
  「最近ヴィルヴェリンに山賊の類が住み着いたみたいよ」
  「私に何の関係があるの?」
  帝都からすぐ近くにある遺跡だ。
  アイレイドの遺跡。
  賊関係や吸血鬼、モンスターの格好の巣窟となっているのが常だ。
  「ストレス解消してくれば?」
  「はっ?」
  「私の予感だと、そろそろラミナスが厄介事を持ち込んでくる気がするから、雲隠れすればって意味」
  「……なるほど」
  ター・ミーナの予感が当たる、というのは今まで聞いた事ないけどラミナスがそろそろ厄介を持ち込んで来そうなのは私も
  予想できる。

  ラミナス・ボラス。アルケイン大学の中間管理職。
  私は魔術師ギルドの命令系統には含まれておらず、独断で、フリーで動ける。
  それを便利なのかラミナスはよく私に面倒を押し付ける。
  もちろんそれ以上に《正規の命令》としてではなく《私の独断》で処理したいからだ。表沙汰にしてはまずい任務を私に遂行
  させる事によって《面倒は何も》なかった事にするわけだ。

  それならそれでいい。
  今まで育ててもらった恩義がハンぞぅやラミナスにはあるから私は喜んで働こう。
  ……。
  しかしまあ、私にも都合があるのだ。
  今はあまり面倒はしたくない。……何でかって?

  純粋に面倒だからよ。
  「そうねター・ミーナ、そうするわ」
  「お土産に珍しい本があったら持ち帰ってね」
  「はいはい。……それで、何食べる?」








  昼食を済まし、私は帝都の外に。
  ヴィルヴェリンという名のアイレイドの遺跡に足を運ぶ。
  「……」
  物陰に潜み、機会を窺う。
  遺跡の入り口の側に、二つの人影が屯っている。人相と服装で決め付けるつもりはないけど、十中八九で賊関係だ。
  少々派手に始末してもさほど問題はない。
  遺跡内には響かないはずだから。
  アイレイドの遺跡は基本、全て地下に存在している。地表部分にある建造物は、ただの入り口に過ぎない。
  地下に広がる巨大な空間。
  有史以前に栄えたアイレイドの文明は、今現在の文明を遥かに超越したと言ってもいい。
  そもそも帝都もアイレイドの遺跡の上に成り立っている。
  つまり遺跡の再利用の元に成り立っている都市。
  今なお謎が多い文明であり、魔法技術も謎の点が数多ある。
  さて、歴史の講義お終い。
  すらり。
  私は剣を抜き放ち、ゆっくりと忍び足……ではなく、静かに走る。走る。走る。
  「なっ!」
  「敵襲っ!」
  反応した時はもう遅い。
  声を上げたところで誰の耳にも届かない。
  「ふぅむ。我ながら完璧」
  ブン。
  剣を振り、刃を濡らす深紅の血を飛ばす。ヴィルヴェリンの遺跡内部に足を向ける。
  首のない死体二つを残して。




  コツ、コツ、コツ。
  歩くたびに、無機質に石の音が響く。アイレイドの遺跡はどこも同じ、全面石造りだ。
  ……。
  ……気が滅入ってくる。
  まるで温かみの欠いた白い石。こんなものを作ったアイレイドのエルフの気が知れない。
  そしてそこで暮らしている連中も。
  「酒だ酒だ」
  「この間のカモはおいしかったねぇ。さすがは旅商人、金目の物には事欠かないさね」
  「帝都軍巡察隊も街道から離れているから来ないしな。まさに絶好の場所だ」
  「俺達の未来に乾杯っ!」
  無機質な遺跡内部。
  しかし複数の……料理の数、酒から換算して推定で8名ほどかな。その8名のいる広い部屋は、生活臭があった。
  持ち込んだ生活用品、ベッド、料理や酒など、それらが生活感を醸し出している。そこで暮らしている連中も。
  アイレイドの遺跡は誰のものでもない。
  一応、魔術師ギルドが研究の対象として把握し、管轄には置いているもののあくまで名目上であり遺跡は誰のものでもなく
  出入りフリー。遺跡内部にあるアイレイドの遺産も誰のものでもない。
  だから、そこはいい。
  ここで暮らしていても別に法的に何の問題もない。
  しかしこいつらは賊だ。
  賊に基本的人権は与えられない。
  それが帝国が定めた法律であり、犯罪の抑止であり、撲滅の処置なのだ。
  「……悪趣味」
  呟く。
  隣の部屋には全裸の死体が無数に転がってる。真新しいのから腐敗しているのまで、色々だ。
  殺して身包み剥いだ……そこはまだ理解出来るけど、死体を転がしておく感性が分からない。
  普通に臭いでしようよ。
  まっ、いっか。
  今からこいつらも同じ末路を辿るわけだし。ついてないわね。
  「ハイ」
  『……っ!』
  ざわり。
  山賊達は一瞬、全ての動きを止めた。初めて見る女が……つまりは私ね、その女が柔和な笑みを浮かべて突っ立っているのだ。
  即座に反応しなかったのは私が後手に腕を組んでいるから。
  剣は腰に差したままだ。
  「お楽しみの最中、邪魔して悪いわね」
  『……』
  値踏みするように私を見つめる。
  ある者は敵意を。
  ある者は警戒を。
  ある者は私の価値……まあ、肉体的な価値、かな。そんな目で見ている。
  ある者は身包み剥いで殺してしまおうと考えている。
  いずれにしても末路は同じ。
  私の?
  ……いいえ、こいつらのっ!
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  電撃をまともに受けて賊が一人弾け飛ぶ。それを合図に一斉に剣を抜き放ち、私に向ってくる。
  愚かっ!
  「はぁっ!」
  抜き打ちで一人を切り捨て、さらにもう1人。
  キィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィンっ!
  私を脅威と判断したのか、三人同時に切りかかってくるものの適当にあしらい、それぞれの腕、足、腹を切りつける。致命傷
  ではないものの戦闘を続けるほどの軽い傷でもなくその場にドサドサ倒れる。
  「あわわわわっ!」
  「……」
  ひゅん。
  逃げようとした女は、そのまま倒れた。背にはナイフが突き刺さっている。護身用に常に私が持っているやつだ。
  殺戮反対?
  殺人反対?
  ……。
  いやまあ、法律的には何の問題ないし、それに最近私ってば丸くなり過ぎてるでしょ?
  久方振りに残酷に振る舞いたいわけよ。
  それに、嬲り殺しはしてない。
  その点は評価して欲しいわねぇ。
  ほほほー♪
  残りの連中を始末するのには、それほど時間は掛からなかった。
  所詮はこいつらは善人ではない。
  私だってそうだ。
  悪が悪と食い合う、それだけの事。ただ弁解がましいけど、こいつらは犯罪者だからね。
  そこは忘れないように。
  そしてそれを踏まえた上で、人気投票は《フィーちゃん♪》にしてください。てへへ♪
  「ごめんなさいね酒宴邪魔して。まっ、巡り合わせが悪かったわね」



  行き着いた小部屋は、先程の大部屋よりも幾分か豪華だった。
  山積みにされているウェルキンド石。
  淡い、蒼い光を静かに称えている。有史以前から存在し続ける、魔力の結晶。
  自然の産物。
  そう。ウェルキンド石は自然の産物であり、鉱脈も存在し続けものの……今の技術では精製できない。
  まさに脅威の産物なのだ。
  まあ、そこはいい。
  「お宝、でもないけどね」
  価値はあるものの価値はない。
  アイレイドの遺跡に行けばゴロゴロ転がっている。そう、あと百年ぐらいはウェルキンド石に困る事はないんじゃない?
  それだけ大量にある。
  それでも、価値で言えば……金貨50枚ぐらいかな。
  もちろんその値段で買い取ってくれるわけではないけど。あくまで価値として金貨50枚。
  大抵の店で叩き売ればかなり値切られる。
  魔術師ギルドもまた然りだ。半額以下に買い取られるのがオチだ。
  「私は別にいらないから、あなたが大切にしておきなさい」
  椅子に座ったまま、身動きしない人影にウインク。
  首がない。
  きゃーきゃーどうして首ないのフィーちゃん怖いーっ!
  ……。
  はふ。白々しいねぇ。
  私が首を落としたに決まっているじゃない。
  机の上の書き物を見る。
  内容からして……こいつ、ここの頭らしい。まあ、1人だけ小部屋に住んでいる事実からしても、それは間違いない。
  さて、書物の内容はっと。



  『何人かこの遺跡に幽霊が出ると騒いでいるが、ここは街道を通る行商人を襲うのに絶好の場所だ。
  それも帝都軍の眼と鼻の先でっ!』

  『今日あの大きな蒼い石をようやく手に入れた。
  ベレニスが矢で落とす思いついたんだ。高所にあったので取れないと諦めていたんだが。
  全部俺の部屋にある。
  魔道に詳しくないので正体は分からないが、魔力の籠もった品物に違いない。
  魔術師ギルドが高く買い取ってくれるだろう』

  『ツーコインズとカジート……カジートの方は名前が発音できない。
  ともかく、2人がこの遺跡に流れてきた。同業者だ。俺達よりさらに下層で暮らし始めた。
  まあ、ツーコインズの悪臭を気にしないで済むから地下で寝てくれるのはありがたい。
  かなりの臭いだからな』

  『カジートが姿を消したと言って、ツーコンイズが血相を変えて上にあがって来た。
  何かの物音が断続的に、たまに聞えるのは確かだ。
  俺達以外にも誰かいるのか?
  総出でカジートを探してみるものの見つからない。
  俺が思うに、カジートはツーコインズの悪臭に耐えかねて出て行ったんじゃないのかな。
  ツーコインズの悪臭は、泥の中にいるマッドクラブだって逃げ出すぜ。
  それよりもカジートがその臭いに長年耐えて来た事自体が、俺にとっては驚きだ』


  「誰かいる、か」
  この遺跡に住み着いたのは、それなりに長いはず。
  つまり遺跡の内部は完全に掌握していただろうけど……それは眼に見える完全であって、全てではない。

  アイレイドの遺跡には隠し部屋が多い。
  山賊以外の何者かが潜んでいても、別に不思議ではない。
  しかし解せないのは何故、1人なのか。
  全員を殺すだけの能力がないだけかもしれないけど……死体はどこに?
  消えた山賊はどこに?

  じわじわと殺して、恐怖を与えて行く算段か。
  だとしたら……。
  「気が合うじゃないの」




  「泣くなよベイビー出発だー♪ タイムマシーンに乗ってー♪」
  お気に入りの歌を口ずさみつつ遺跡内を彷徨う。
  遺跡内は相変わらず陰気で、気が滅入る。周囲に人影はない。山賊は全て消した。
  大部屋にいた連中と、小部屋の親分。
  それに通路でたまに出会う山賊達を愛と勇気と友情で叩きのめし、沈黙。死ぬと永遠に静かなので助かる。
  おそらくほぼ全ては蹴散らしたはず。
  「次は何歌おうかなぁ」

  当初の予定は《山賊皆殺し&お宝強奪ツアー》ではあったものの、お宝はあまりなかった。
  少量の金貨、数種類の宝石、本。
  まあ、そんなところだ。ター・ミーナが喜びそうなのは、三冊。あとは既に書庫にある本と、取るに足らない三文小説。

  謎の潜伏者を探す。
  それが今の私の任務……まあ、任務ではないけど……興味深くはある。
  何者だろう?
  好奇心。ただそれだけだ。
  人間が持つもっとも単純で、それでいて至高の感情。
  ……。
  ……たまに身を滅ぼすけどね。
  私もそうかもしれない。そうかもしれないけど、このままでは帰れないのも事実。
  稼ぎが悪すぎる。
  ローズソーン邸を維持するだけでもかなりの額が必要。まあ、数年は何もしなくても死なないだけの蓄えはある。
  それでも、稼げるうちに稼ぐに限る。

  「あれー?」
  行き止まり。
  変な通路。ここまで来て行き止まりなんて……んー、古代アイレイドのエルフどもの考える事は分からん。
  たまにはいいよ後戻りー♪
  「……いや待てよ……」
  戻りかけてふと気付く。私はしゃがみ、足元を松明で照らす。
  気付かなかったけど、血痕だ。延々と続いている。
  真新しい、わけではない。
  既に血は凝固しているものの、少なくとも有史以前からここに付着しているわけではなさそうだ。

  そう。長くても、三日前ぐらいから。
  盗賊親分の日記を思い出す。盗賊が1人、忽然とこの遺跡の中で姿を消した。……つまり?
  「つまり、この遺跡には盗賊以外に誰かいる、か」
  誰か、とは限らないか。
  モンスターの類かもしれないし。
  いずれにしても面白くなってきたわねぇ。
  血痕は先程の行き止まりのところまで延びていた。死体がここに転がってるなら、別に不審はないものの死体がない。
  つまり不審そのもの。
  この壁、何か細工があるのかもしれない。
  そりゃそうか。
  ここまで延びていながら無意味な通路というのは普通に考えなくてもおかしい。
  ならば。
  「ふむ」
  コンコン。
  突き当りとなっている、壁を叩く。途端に……。
  ガコンっ!
  壁がせり上がり、広い空間に繋がる。巨大な部屋だ。百人ぐらいは入れるんじゃないだろうか?
  ……。
  本当にアイレイドの連中の考える事は理解出来ない。
  そもそもここが軍事的な重要だった要塞なのか、王族達特権階級の荘厳な城塞なのかは知らないけど……無駄に広いし
  トラップあからさまだし、暮らすには非常に不便だと思うけど。

  まっ、いいけどさ。
  コツ、コツ、コツ。
  石畳を歩く。木霊するのは、私の足音だけ。他には何の音もない。
  もちろん油断は出来ない。
  人なのかモンスターなのかは知らないけど、ここには何かいる。おそらく盗賊どもがここに定住する以前からいたのだろう。
  そしてその謎の先住者は、この遺跡を熟知している。
  この隠し部屋があるのを理解し、そこに潜み、上層の盗賊どもに気付かれないようしているのだから少なくとも頭はある。
  どんなに狡猾なゴブリンでもそこまで利口ではない。
  ……とすると、謎の先住者は人間か。
  一応、低い可能性ではデイドラ(悪魔達の世界オブリビオンの住人)が何らかの形でこの世界に留まり、ここに巣食っている
  可能性もあるけどそれはかなり低いだろう。
  ともかく知能のある奴が、潜んでる。
  気をつけよう。
  「……」
  コツ、コツ、コツ。
  「……はぁ」
  コツ、コツ、コツ。

  溜息を吐く。
  気が滅入ってくる。帝都軍が放置している砦や塔も住みたい、という願望が湧かないほど内装的に生活感がないのは確かでは
  あるもののアイレイドの遺跡は完全に無機質であり、温かみの欠片もない。

  アイレイドは有史以前の文明。
  推定で1000年以上前にシロディールに君臨した文明であり、ここにあるのはその遺跡。
  時の流れは特に関係ないだろう。
  アイレイドの遺跡は、我々の持つ生活の価値観から逸脱した建造物。ここに住みたいとは思わない。
  例えかつてはアイレイド王族の宮殿であったとしても。
  ここまで徹底して生活感を排除し、無機質に仕立て上げる発想がまず分からない。
  アイレイドのエルフは本当に、理解出来ない。
  「……」
  コツ、コツ、コツ。
  ……ガチャ……ガチャ……ガチャ……。
  静寂な空気を支配するのは、私の足音だけ。しかしそれに呼応したのか、私以外の足音がする。
  足音?
  骨が揺れる音ではあるものの、足音でもある。何の音?
  「ふぅん。少しは楽しめそうね」
  スケルトンだ。
  スケルトンの軍団が、前方から走ってくる。走る骨って反則じゃない?
  数は10。
  軍団、という数ではないもののそれなりに脅威だ。……盗賊に比べたらね。
  こういうアイレイドの遺跡には、よく巣食っている。
  アイレイドの連中が残したガーディアンなのか、誰かの死霊術の実験で創造されたのかは知らないけどアイレイド遺跡では
  おなじみの連中だ。
  どの魔法で吹き飛ばそうか?
  軽く考えていると……。
  
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!
  「ひっ!」
  思わず、小さく悲鳴。
  スケルトン軍団が視界から消えた。視界にあるのは、前方にあるのは巨大な壁。
  さっきまでは視界はひらけてたのに、今は巨大な壁だ。
  もちろん、ただの壁ではない。
  トラップ。
  トラップ領域に足を踏み入れたら最後、床が急激にせりあがり天井にたたきつけるのだ。

  しばらくして、静かに壁は下がり、元の床に戻る。
  床の上には粉々になった骨。
  ……。
  ……。
  ……。

  あ、危ねぇ。
  一歩間違えたら私が同じ末路。
  アイレイドの遺跡は危険が一杯です。
  「……」
  よく見たら、せりあがる構造上その床だけ四方に溝がある。私はそれを避け、奥へと進む。
  怖いなぁ。
  ここは要塞?
  ここは王宮?
  どちらかは知らないけど、ここは霊廟だ。もちろんアイレイドの連中はとうの昔に死んでるから、要塞だろうが王宮だろうが意味
  は同じだ。死んでいる以上、霊廟でしかないからだ。
  霊廟だから。
  貴人が眠る場所だからトラップもあるしガーディアンも存在している。
  多分、そんな感じじゃないかな。
  ……。
  まあ、アイレイドの遺跡も多々ある。その中には玉座の間もあるから、一概には霊廟とも言い切れないだろうけど、そう間違い
  でもないはず。
  遺跡の創造者達は死に絶えてるんだからね。
  遺跡の探索は続く。
  トラップは多種多様。先程の《ミンチの刑》とは別に《串刺し》《毒攻め》……んー、これは何と言うのだろう?
  鋭い刃のついた鉄の巨大な振り子が襲い掛かって来たりもした。
  多分、別にも通路があるに違いない。それも安全な通路。
  何故なら、こんなトラップだらけではアイレイドのエルフ達も物騒でかなわなかったはずだからだ。
  下に下に。
  私は階段を下り、遺跡の下層へと足を運ぶ。
  行き着いた先には人影があった。
  様々な実験器具と、骸骨、腐肉、死臭と無機質な空間の中でわずかに抵抗している生活用品。
  その住人はここで暮らしているらしい。
  ピチャピチャ。メキャ。
  嫌な音が響く。
  既に種族は判明しないものの、遺体を弄っている。あの遺体が消えた山賊の成れの果てだろう。
  死体を弄る。
  この行為をするのは連中しかいない。
  「ハイ。帝都のすぐ側で、仕事熱心ね。……大学の監視も、意外に役に立たないみたいね」
  「……大学……魔術師ギルドの犬かっ!」
  「んー、猫の方がいいわね。私は気まぐれだから」
  「生きて帰れると思うなよっ! トレイブンの愚かな支配は直に終わる、お前は最初の生贄だっ!」
  「それを口にしたレイリン叔母さんもセレデインも既に墓の下。お前も殺すよ」
  「くぁっははははははっ! 笑止っ! アンデッドどもよ、来たれっ!」

  やはり死霊術師かっ!
  最近ファルカーが纏め上げた死霊術師達はお揃いのローブを纏っている。
  胸元に深紅の骸骨の刺繍をしている漆黒のローブ。こいつもそれを身につけているところを見ると、その同類の可能性もある。
  いずれにしても処方箋は一つだけしかないけどね。こいつは殺すここで殺す絶対に殺す。
  ただそれだけだ。
  「ついてる、俺はついてるっ!」
  「はっ?」
  ゾンビを無数に召喚しながら、製造したスケルトンの戦士達にに命令しながら男は狂気の笑いを浮かべた。
  この状況がついてる?
  ……。
  んー、腐った連中に囲まれてると自分の脳味噌も腐るんだねぇ。
  人間、まっとうな生活が一番だ。
  「こんなに活きの良い実験台がわざわざやって来るとは、俺はついてるっ!」
  「……はっ、ほざけ」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  煉獄数発でゾンビ&スケルトン軍団を焼き尽くす。
  雑魚に掛ける時間ほど無駄な事はない。
  「……えっ……ええっ!」
  一瞬、死霊術師の動きは止まった。思考も一時的に停止したようだ。
  自慢の軍団は私が瞬殺。
  魔法は万能。
  一流の戦士といえども長期戦は免れない状況でも、魔術師ならば瞬時に片がつく。
  魔法は偉大なのだ。
  ……。
  私が魔法で負けると思う相手は魔術師ギルド評議長であるハンニバル・トレイブン、それに匹敵するだけの大魔術師と言わ
  れているスキングラード領主であるハシルドア伯爵ぐらいだろう。
  まあ、実質私には剣術もある。それも含めれば、勝てない相手はいないでしょう?
  ほほほー♪
  さて。
  「ねぇ、本当についてるわね。……死後の世界を体験できる、死霊術師にとってとても有意義じゃないかしら?」
  「あ、あうう」
  「残念なのは……」
  「あ、あうう」
  「片道切符しかないって事。……ついてるわね。あの世に永住出来るなんてさ」


  「へぇ。なかなか良いもの取り揃えてるじゃないの」
  始末した死霊術師のコレクションは、それなりに魅力的ではあった。価値もある。だけど死臭のする器具を手にしようと
  は思わない。
  それに、あくまで《それなりの魅力》であって、非常に価値のあるもの、ではないのだ。
  戦利品としては山賊どもの収集品の方がまだマシだ。
  少なくとも死体の臭いは染み付いていない。
  「……ん?」
  書状を見つける。眼を通してみると、手紙だ。内容からして発送前の手紙らしい。
  それもそれなりに人間臭い内容。


  『親愛なるアルーク。
  今まで手紙も書けずにすまなかった。心配していない事を祈るよ。
  俺が墓場をうろついている時、巡回中のお前に出くわすなんて思いもしなかった。
  死体の入った袋を担いで怪しい格好だっただろう?
  他の奴らもいたし、お前の正体がばれない為にも俺は逃げるしかなかったしお前も俺を追うしかなかったってわけだ。
  まったく、お前でよかったよ。
  他の奴らの炎の魔法なら、ああも見当違いには放ってくれなかっただろうからな。
  本当に助かった。ありがとう。
  俺が今いる隠れ家は安全で、死体にも事欠かないんだ。
  古い死体もあるし、馬鹿な山賊の死体まで選り取りみどりだ。ここにしばらくいるつもりだ。
  場所は言えないが心配しないでくれ。
  シーシュウによろしくな。
  いつか懐かしい故郷でまた暮らしたいよ。だがそれはまだだ、まだ悲願は達成出来ていない。
  それまでは正体をばらさないように気をつけてな、カーディアス隊長殿。
  ジャルバードより』


  「……人間臭い真似を」
  吐き捨てるように呟き、私は手紙をビリビリに破って捨てる。
  死霊術師の分際で生意気な感情持ってるわね。
  連中にも信念がある?
  連中にも大望がある?
  連中にも……。
  ……。
  ……下らない。
  墓を暴いた時点で、墓荒し。
  死体を弄った時点でもはや救いようのない犯罪者なのだ。
  死体を暴いて研究材料に。
  生きてる人間も死体にして研究材料に。
  ただの犯罪者。
  それ以上でも以下でもない。
  「……」
  無言で死んだ死霊術師を見下ろす。
  まっ、手紙に込められた情愛に免じて手紙の相手は見逃すとしよう。もちろん、所在が分からないのも理由だけれども。
  それにしても……。
  「ここにも死霊術師がいるとはね」
  正直、意外だ。
  帝都の眼と鼻の先に潜伏しているとは予想外だ。
  確かにレイリン叔母さんの前例はあるけど……魔術師ギルドが思っているより死霊術師達は纏まっている。
  組織化したのは現在逃亡中のファルカー。
  ファルカーの腹心のレイリン、セレデインは死亡。
  それでもなお死霊術師達は虎視眈々と機会を窺っている、そんな気がする。
  首謀者ファルカーは《扇動者》を使って魔術師ギルドの評判を落とした。
  既に組織はないはず。
  前回の《ファルカーの反乱》で同志のほぼ大半を失っているはず。100名以上が捕殺されてる。
  少なくとも、前回以上の人数は動員出来ないと考えるのが普通だ。
  ……多分ね。
  周囲を見渡す。
  死体と骸骨は散乱しているけど、仲間はいないらしい。
  死臭に満ちた空間にいると、自然落ち着く。
  私も結局は死霊術師だからね。
  好む好まざるに関わらず、私はレイリン叔母さんにその術を叩き込まれた。強制的に。
  あまり素質はなかったみたいだけど。
  死体の研究は知らない。
  教え込まれる前に逃げたから。私が出来るのは、低俗で最下級の《スケルトン召喚》のみ。
  さて。
  「……あれは……」
  机の上に並ぶ書物、錬金術の道具の数々。まあ、それはいい。
  本はありふれたものであまり希少価値はない。
  ター・ミーナもあまり喜ばないだろう。この程度の等級の本なら、神聖の書庫にも既に納められている。
  本にはさほどの価値もない。
  ただ、この彫像は別だ。机の上で輝く、異質な像。
  アイレイドの彫像だ。
  10個で一式の、大変価値のある像だ。
  以前アンガ遺跡で一つ見つけた。一式揃えるのは無理にしても、二つ目を見つけれるなんて私ってば幸運。
  頂いていこう。
  大変な収穫だ。彫像をベッドに敷かれていた布を剥ぎ取って彫像を包み、大事に抱える。
  骨折りに対する、報酬だ。
  「さて、帰ろうかな」
  それにしても気になるのは死霊術師だ。
  何故こんな所に?
  何故?
  何故?
  ファルカーが裏で糸を引いているのか、再起の為に潜んでいるのか、それとも……。








  「アイレイドの彫像か。ちょうど大学はこれを求めていた。買い取ろう」
  アルケイン大学に舞い戻る。
  たまたまラミナスと出会い、彼に彫像を見せたところ、大いに興味を惹いたらしい。熱心に魅入っている。
  別に私にとって欲しい物ではない。
  珍しい。
  その理由だけで、手にしてきただけ。
  報酬として手に入れたに過ぎない。欲しいのであれば、進呈しよう。
  家にもう一つあるし。
  「あげるわ、ただで」
  「本当か?」
  「ええ。別に惜しいものでもないし。……歴史学は、あまり勉強しなかったからそれの勝ちは私には分からないしね」
  「ありがとう、フィッツガルド」
  「や、やだなぁ」
  「今まで心底軽蔑していたお前に、人並み以上の生活をさせた甲斐があったな。人格者の私の勝利だ。ふははははははっ!」
  ……ちくしょう。
  長年の付き合いでなければ、言動疑って疎遠になるところだ。
  長年の付き合いだから、ラミナスの冗談だと分かる。
  ……。
  ……。
  ……。
  じょ、冗談ですよね?
  冗談じゃなきゃ私は泣くぞーっ!
  「それでラミナス、それどうするの?」
  「……聞きたいか?」
  「うん」
  「……本当に?」
  「うん」
  「聞いても絶対に後悔しないなっ!」
  「……聞きたくなくなりました」
  「そうか。ハハハハハハ、そりゃ仕方ないな。ハハハハハハ♪」
  ……ちくしょう。
  「しかしもう一つ欲しいな。……別の者に探しに……」
  「もう一つ、持ってるわよ私」
  「そうなのか?」
  「ええ。スキングラードの自宅にあるわ。持って来ようか?」