天使で悪魔





密林の遭遇




  一瞥して運命を感じる者がいる。
  一目惚れや因縁、腐れ縁。
  この先何らかの形で浅からぬ関係になると予感する、出会いは確かに存在する。
  それが運命?
  それが宿命?
  ……。
  それは分からない。その言葉が、その単語が的確なのか違うのか。
  ともかく、そんな出会いはある。
  そういう出会いは、それはそれで歓迎するし楽しいものだ。
  しかし私は運命を否定する。
  正確には運命という単語を否定する。最初から決まってるという発想そのものが、気に入らない。
  もしも人と人との出会いも付き合いも、神様によって決められた事象であるならば。
  ……なんて下らない世界なんだろう。

  私は、演じるだけの俳優にはならない。この世界この舞台、私は私らしく生きてやる。
  私は私らしく、あるがままに。
  生きるのよ。





  「お帰りなさい妹よ」
  「ただいま。オチーヴァお姉様」
  帰る気はなかった。
  戻る気はなかった。
  シェイディンハル聖域。闇の一党ダークブラザーフッドの拠点の一つ。今いる場所はオチーヴァの執務室。
  私は舞い戻った。
  ……いや延々とヴィンセンテが付き纏い、戻らなくてはならない空気作るんだもん。はぁ。不本意よ不本意。
  それを断れない自分。
  ふん。
  正直、ここはここで、居心地良くなってるわけだ。
  最近冷徹になれない気がする。

  ……そんな事は、ないかな?
  まあ、いい。
  私は舞い戻り、聖域管理者であるオチーヴァお姉様と再会。久し振りだ。まあ、それでも二週間振り程度だけど。

  オチーヴァ、大歓迎。
  「いいところに戻ってきましたね。仕事があります、良い心掛けですね。ジャストなタイミングで帰還するとは」
  「いやでも受けるつもりじゃ……」
  「確かに。確かに受ける受けないは自由」
  「だよねー」
  「しかしフィッツガルド貴女の眼は仕事を望んでます願ってます懇願してます哀願してますねだってます。……ふむ、仕方あり
  ませんねそんなに要求されたらとっておきの仕事を与えるしかありませんね。何か問題は?」
  「全然ないっす」
  「結構」
  ……ちくしょう。
  仕事かよ。別にそんなつもりじゃなかったんだけど。
  そもそも戻る気すらなかったんだから。
  今更蒸し返しますけど私の最大にして唯一の所属理由はアダマス暗殺。終わった、少し前に始末した。
  それで終わらせたつもりなんだけどなぁ。ここでの生活。
  まあ、いい。
  刺客送られない程度に、裏切りにならない程度の距離を保ちつつ、たまに仕事をこなすとしよう。
  仕事=暗殺だけどさ。

  そこは私、善人じゃないですから特に抵抗ないですね。
  まっ、それよりも刺客としてここの聖域の面々が送られてくるよりはよっぽどマシ。

  ……。
  ……はぁ。最悪。
  ……腐ってるなぁ。最近発想の仕方が。

  「今回の依頼は、かなり意味深です」
  「意味深?」

  「意味深。……まあ、貴女とアントワネッタ・マリーの間ほどではないですけど」
  ……ちくしょう。
  ちなみにアンは今、聖域にいない。仕事で出ているらしい。会わずに済むなら、それはそれでいいかも。
  何でって?
  家族だろうって?
  ふっ、愚か者めぇーっ!
  出会うと必然的に胸揉まれるわお尻触られるはキス迫られるわで、身の危険一杯満載まさにドキドキパニックっ!
  はふ。何なのそのセクハラ三昧は。
  ……闇の一党、そこはセクハラ天国な女性の敵ともいえる魔の職場。諸悪の根源は同僚の女性社員ですけどねー。
  おおぅ。

  「それで、何が意味深なの?」
  「懲罰房での夜が、特に意味深ですね」

  「そんなかなり前の話はどうでもいいのよ仕事の話をしようよっ!」
  「……」
  「……わ、分かったわよ関係あったわよそれでいいか満足かっ!」
  「フィッツガルド、そういう乱れた性生活を暴露するのは後にしなさい。今は仕事の時間です。……まったく」
  悪いのは私ですか?
  ……ちくしょう。
  「さて、話を元に戻しますがよろしいですか?」
  「……お好きにどーぞ」
  私が話を乱したのか?

  はあ。ラミナスもそうだしエイジャもそうだけど……私、イジられやすい体質なのだろうか?
  かなりマジに悩んでたりする。
  さて。
  「意味深、というのは依頼内容です」
  「依頼内容?」
  「確かに暗殺動機や暗殺する者の情報は必要ないと言えばないのですけど、今回は暗殺理由がありません」
  「依頼される受ける殺す、それでいいじゃない」
  「確かに。確かにその通り。しかしこの間の件もあります」
  この間の件。
  サミットミスト邸での暗殺の事だ。パーティーと称して暗殺の対象達を招き寄せてあたしが全員始末する。
  特に問題のなかった任務。
  しかし実は客は全員暗殺者で、暗殺者達の目的はあたしの始末。……正確には任務に出張った闇の一党の暗殺者の始末。
  偽装の依頼に集められた暗殺者達。かなり手が込んでる。

  ここ最近闇の一党の暗殺者達は狙われているらしい。
  オチーヴァはテレンドリルに命じて調査させているし、上層部『ブラックハンド』も裏切り者がいるのではないかと騒いでいる
  らしい。怪しい任務=裏切り者絡みの偽装任務、とは直結しないだろうけど気をつける必要はある。

  でもまあ、別におかしい事じゃないわよね。
  闇の一党はタムリエルに死と恐怖を撒き散らしてきた。
  恨みを持つ者がいてもおかしくないし、潰そうと画策していてもその行為は間違いじゃない。
むしろ正しい。
  まあ、いい。
  私には関係ない事だ。
  「で、どんな任務?」
  「未開の地での任務です。貴女は密林はお好き?」
  「密林……オチーヴァ私は嫌よ。またあんな辺鄙なとこに行くなんて」
  げんなりする。
  未開の地=レヤウィン東、と用意に発想できる。特に密林だしね。
  要はスカーテイルと接触した場所やこの間行ったブルーブラッド砦の一帯だ。亜熱帯の気候は好きじゃないし密林も正直
  うんざりする。虫も多いし。虫刺されの薬って結構効かないしねぇ。
  「フィッツガルドは密林は嫌いですか?」
  「私は文明人だからね。……それに好き好んで密林に生きたい奴なんている……?」
  「大丈夫。貴女はやれば出来る子です」
  「……すげぇ説得するわね」

  苦笑する。暗殺者達は全力で家族をしている。
  それが可笑しかった。
  微笑ましい、とは言わないけどね。でも、好感は少なからずある。ここの連中は全員気の良い家族。
  ……家族は皆血塗られた、禍々しい暗殺者達であるけれども。

  「それで誰殺す?」
  「名前は不明。理由も不明」
  「はっ?」
  「ブレトンの少女と、その従者の少年を始末するのが任務です。それ以上は情報がありません」
  「……それ無茶苦茶怪しい任務じゃないの?」
  「意味深な依頼と言ったはずです」
  「……なるほど、ってそれで済ます気?」
  「既に依頼に必要な金額は受け取ってあります。……上層部がね。私に文句を言っても困りますね、私はただ振り分けられた
  任務を貴女に与えているに過ぎない。任務として成り立っている以上、それは正当な依頼なのです」

  「正当ねぇ」
  この間、偽装任務で殺され掛けたのも正当?
  ふん。
  所詮は殺し屋集団か。上の方々は末端の捨て殺しを推進しているらしい。
  結局何だかんだ理屈捏ねたって殺し屋の組織。
  家族は仲良く愛し合います、夜母は敬愛すべき存在です、闇の神を称えましょう。……ふん。
  結局は金。金なわけね。
  儲かりゃどんな任務で儲けます、結果として暗殺者は使い捨て。もうお金受け取ったからどうでもいいもーん。

  まっ、そんな感じ?
  ……まあ、オチーヴァは回された仕事を斡旋してるだけだから、彼女に文句は言わないけど。

  「さてフィッツガルド・エメラルダ。今回の任務は把握しましたか?」
  無茶言うな。
  相手が誰かも……種族しか分かってないじゃないの。名前すら、不明。
  まあ見分けは出来るけどね。
  未開の地にいるブレトンの少女。そうそう人違いする事はないでしょうよ。そこは、まあ分かり易いとは思うけど。
  「ねぇ、この任務怪しくない?」
  「怪しさ全開。だから貴女に押し付けるの」
  「……」
  「冗談。一応、オマケをつけるわ」
  「オマケ?」
  「ゴグロンを同行させるわ」
  「ゴグロン? 何で彼と?」

  パワフルファイターのゴグロン。一番暗殺者に向かない、おそらく道を間違えた敵も味方もデストロイを信条としたオーク。
  私が思うに闘技場か戦士ギルド向きだと思う。
  「アントワネッタとでもいいんですけどね、まだ任務から戻ってないですし」
  「いちいちアンを話に持ち出さなくてもいいって」

  「それに密林=そうだ人間野生に戻ろう、という発想で貴女が任務をほったらかしにして……んー、ハードに色々としても困りま
  すしね。フィッツガルド、貴女の節操のなさを考慮した上で、アントワネッタは外します。いいですね?」

  ……ちくしょう。
  いつから私はそんな女に?
  そもそも私が問題かアントワネッタ・マリーは私の我侭の犠牲者か。
  ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
  あの猫だ猫の所為だムラージ・ダールがそもそもの諸悪の根源だっ!
  あの猫の妙な陰口が全ての始まり。
  それまで私は清く正しく貧しくても愛だけを信じて生きてたのにっ!

  汚された私の生き方をあいつに汚されたーっ!
  ……いつか殺してやる必ずねー……。
  ……ちくしょう。

  「ゴグロンには私から伝達します。出発は三時間後。……さてここからは姉として話をしましょう」
  「まさか私とアンの結納の話とか言わないでしょうね?」

  「まさか」
  「だよねー」
  「そんな話なら聖域の家族達を集めて、会議の議題にしますよ」
  「……あっ、わざわざ家族会議するんだ、へー、すごい……」
  ここの聖域の連中すげぇっ!
  どこまで本気か知らないけど……あー、多分どこまでも本気なんだろうなぁ。
  おおぅ。
  「フィッツガルド、上は……ルシエンはこの任務、問題ないと見ていますが命を張るのは現場の貴女。ある意味で前線指揮し
  ているのは私。日和見な上層部ではない私の眼から見て、この任務はかなり危険です」
  「それは私にも分かるわ」
  どういう基準で上は『大丈夫。この任務まともで安全。さぁ行ってこぉい♪』なのか訳が分からない。
  金払いがいい依頼人だからか?
  それが基準か?
  まあいい。
  私が出向くんだ。よっぽどの事がない限り、面倒事は元から叩きのめすほどの実力はあると自負してる。
  それにゴグロンが一緒だ。
  1人で行動しないだけ、安全だろう。……多分ね。
  それにしてもルシエン。
  勧誘に来た際に会った程度だけど、確かこの聖域はルシエンの管轄。つまりこの間の『サミットミスト邸の偽装任務』も彼の
  責任の範囲内だ。あのニヤデレ野郎、ちゃんと仕事してるのか?
  「そろそろアントワネッタが戻ってる頃ですね」
  「そうなの? でも任務に……」
  「あの子あれで仕事は早いんですよ。今はまだヴィンセンテから任務を受けていますがね、そろそろ私が差配してもいいと
  思っています」
  「ふーん」
  仕事を斡旋するのはオチーヴァとヴィンセンテ。
  オチーヴァの方がランクの高い仕事を扱ってる。なおこのアルゴニアンの姉から任務を請けられるのは今のところ私とボズマー
  の弓矢娘(娘かな?)テレンドリルだけ。
  余談だけど一番任務達成率が低いのは、今回ペアを組むゴグロン。
  さて。
  「仕事に行く準備してくるわ」
  「気をつけて帰ってくださいね。くれぐれも油断しないように」
  「ええ。分かってる」
  「あなたの帰りを待つ、愛しい妻とお腹の中の子供もいるのですからね。……ムラージから聞きましたよ」
  「すいませんアンは妻でもないし妊娠もしてませんそもそもあのネコの話鵜呑みにするのやめてください本当にマジお願い」
  ……ちくしょう。





  暇だったので、暗殺者達の共同部屋に顔を出してみた。
  暗殺者達、と言っても私、アントワネッタ・マリー、テイナーヴァ、ムラージ・ダール、ゴグロン、テレンドリルの6名。
  オチーヴァとヴィンセンテは別格で……まあ管理者と補佐役だから、別格よね。二人は私室を所有している。

  共同部屋には誰もいない。
  静かなものだ。
  「これはこれは売り出し中の家族ではないですか」
  ……ああ、いたわ。一人。それも最悪な奴が。
  「ハイ。ネコさん元気?」
  「まさかまた戻ってくるとは思わなかったよ。……アダマス殺したろ、ここには用がないはずだ」
  出会った頃からこの感じ。
  別に愛想良くして欲しくはないけど、ここまで毛嫌いされるのは腹が立つ。
  せめてそこに至る明確な理由が欲しい。
  「何で私が嫌いなわけ?」
  「何不自由もない生き方をしてきたからだよ。選ばれた人間として、エリートとしてな。けっ、トレイブンの養女だろうが」
  「何不自由なくねぇ」
  そこか。そこが嫌いな理由か。
  ……片腹痛いわね。
  不自由。
  不自由よ、大学に拾われてからはパラダイス……最初の方は捨てられたくない一心で必死だったけどさ。ともかく、大学に拾
  われてからは幸せだったけどそれ以前は最悪。子供だからね、自分の力では何とも出来ない不幸に翻弄され弄ばれて来た。

  その私に対して何不自由なくと来たもんだ。
  ふん。愚か者が。
  「じゃあな。臭い猿め」
  「……臭くはないでしょうよ。お風呂大好き人間なのに、私」
  「フィー好きぃー♪」
  むぎゅー♪
  ネコと入れ違いに、私は大好き娘のアントワネッタ・マリーが抱きついてくる。……久し振りの、感触だ。
  「フィー♪」
  「なあに、お姉様?」
  言ってから、内心で苦笑。なあに?
  ……ふん。なあに、と来たもんだ。私の脳はかなり腐ってる。そんなに優しく喋るなんてね。
  「エイジャがよろしくって言ってたよ」
  「はっ? エイジャの伝言?」
  「そー。伝言。三日も泊まっちゃった。フィーが帰ってくると思ってさ」
  「人の家に勝手に泊まらないで」
  「フィーのモノはあたしのモノ♪」
  「ジャイアンかあんたは」
  「フィーの胸もあたしのモノ♪ むふふー♪」
  「すいませんお姉様露骨に揉んでますしかもかなり強めですやめてくださいあたしとしても我慢の限界です」
  「うっわフィー我慢出来なくなる? 何の為にベッドがあると思ってるのぉー♪」
  ガンっ!

  「フィーがぶったぁ」
  「煉獄叩き込まれなかっただけありがたいと思えーっ!」

  ……ちくしょう。
  そういえばアルケイン大学に忍び込み、ブルーマまで私に付き纏ったヴィンセンテ曰く『かなり傷心』らしい。
  二週間近く会ってなかったわけだ。
  しかしこの先、永遠に姉妹するわけにも行かないし、寂しいのにも慣れてもらわないと困る。
  「アン、私達いつまでも姉妹じゃないんだからさ、そういうの卒業しない?」
  「しない」

  「……即答かよ」
  「でも、意味は分かる。姉妹じゃないもんね、いつまでも。いつかは、終わるもんね。分かってるよあたしだって」
  「そっか」
  「姉妹から夫婦に進化するんだもんね。むふふ、夫婦になれば……いつでもどこでも愛し合えるねぇー♪」
  「……」

  分かってないこいつやっぱり全然分かってない。
  何気に闇の一党抜けても、ヴィンセンテのように私の日常に入り込んで来そうね。

  まあ、それはそれでいいけどさ。
  「あたし寂しかったんだよ。でも、この間作った彫像あるから心は和んでたけどね」

  この間の彫像。
  スキングラードで特注した、ブロンズの像。
  私とアンは全裸(裸の方が華があるそうです。アントワネッタ談)で、倒れ伏すアンを私が抱きとめるという構図。
  「フィー、この像はあたしのだよね?」
  「えっ? ええ、そうね」
  何言い出すんだ、この子。
  かなり天然だから先が読めない。……もっとも、かなりの計算娘でもある。

  「フィーの胸は?」
  彫像の私の胸を指す。
  ……これが目的かよ。子供的発想なのかただのエロなのか。……ただのエロ娘に決定っ!

  おおぅ。
  「フィーの胸は?」
  「……お姉さまのものですよ」
  「くっはー♪ じゃあフィーの唇は?」
  「……お姉さまのものですよ」
  「むふふー♪」
  はぁ。この娘実は何歳なんだろう?

  そりゃ色々と境遇とか生い立ちとか環境もあるけど、精神年齢幼いなぁ。
  ……この娘の所為じゃないけどね。
  ふと大きな物体が眼に入る。巨体のオーク。扉の方で手を振ってる。完全フル装備の、オークのゴグロン。
  得物は巨大な両手剣。
  今回のペア。用意が出来たらしい。それじゃ任務にいくとしますか。
  「アン、仕事に行って来るわ」
  「行ってらっしゃい。無事に帰ってきてね。フィーが世界からいなくなるの、あたし一番怖いから」

  そう言われると弱い。
  むぎゅー。
  私の方からハグしてあげる。ふぅ。こんな事するから周囲から誤解されるんだろうなぁ。
  いつもならここでエロ展開へゴー、する。
  アンの顔を見ると、穏やかに微笑んでた。弱い、この顔に私は弱い。
  心底姉妹愛を信じてる、という顔されると弱いなぁ。

  「行ってきます」
  「行ってきますのチューは?」
  「しないっ!」

  「えー。だって月刊『桃色乙女♪』には姉妹はチューしたり胸さわりっこしたりするのが常識だって書いてあるよ?」
  「……それはエロ本ですお姉様……」

  おおぅ。







  煩わしい。
  茨の茂みが絡みつく。名前の知らない鳥の籠の中に入れられたように、鳴き声が周囲で聞える。
  虫の羽音。
  蛇の威嚇。
  しかし一番煩わしいのは、この気候。
  何度来てもやはり亜熱帯の気候は私には合わない。
  「ふぅ」
  溜息。
  暑いです、暑い。ブルーマ方面は寒くて死にそうになるけど、暑すぎても私は生きていけない。
  まだレヤウィンは過ごし易い。

  当然といえば当然だけど、わざわざ人が開拓して都市作るんだから、過ごし易い場所を選ぶでしょうよ。
  ここは未開の地。
  レヤウィンから東、シェイディンハルから南。この辺り一帯に文明はない。
  あるのは残酷で、暖順明快なルールの密林地帯。
  つまり弱肉強食な世界。

  「ふぅ」
  気が滅入る。
  一応、危険任務と認識しているので鉄の鎧を着込んでるしロングソードを腰に差してる。
  暑い上に重い。
  全身は汗でジトジト。多分、今の私は凄く臭うと思う。汗臭い。
  それに……暑苦しい奴がいるし……。
  「ハッピーハッピーハンティング♪」
  オークのゴグロン、妙な歌を楽しそうに歌ってる。上機嫌で本来両手でなければ振るえないクレイモアを片手で軽々と振るい、
  障害物として邪魔なツタやらツルを切り払いながら進んでいる。

  さすがはタフな種族ね。
  鎧もオーク製の上装備なのにまるで重さを感じない動き。
  重戦車ね、まるで。
  トロそうな見た目だけど、こんな鎧着込んでまともに動けるんだから実は鎧脱いだらかなり敏捷なのかもしれない。
  ……暑さに平気なのは、ただ鈍いだけかもしれないけどさ。
  「あなたと組むのは初めてね、ゴグロン」
  「ははは。俺には『お兄様』は付けてくれないのか?」
  肩をすくめて私は答える。
  「相手によるわ」
  「はははっ!」
  「豪快な笑いね。それに楽しそう」
  「そりゃ楽しいさ。楽しい楽しい狩りの時間だ。ハッピーハッピーハンティング♪」
  まるでこれから遠足に行くかのように、無邪気。
  まあ、これを無邪気なのかは不明だけどね。

  闇の一党ダークブラザーフッドの暗殺者、やはりどこか浮世離れしている。現実離れしているのは、仕方ないか。
  「ゴグロンは標的、聞いてるの?」
  「餓鬼二人だろ?」
  「そう」
  「楽しめるかどうかは知らんが……あんまり俺に合う仕事は回ってこんなぁ」
  「戦士ギルドに入るか闘技場に登録すれば?」

  絶対人生間違えてます、ゴグロン。
  殺戮好き=闇の一党、という方程式が成り立つほど世界は優しくない。

  堅気であると同時に名のある組織と言ったら魔術師ギルドとか戦士ギルドがまあ、一般的ね。
  でもその組織だって人の死に直結する任務は数多ある。
  私の所属している魔術師ギルドは死霊術師は容赦してはならない敵であり、排斥の対象。抹殺。皆殺し。デストロイ。

  ……あー、過激に言うとジェノサイド?
  命は軽い。
  人殺しもそんなに遠い世界の話ではなく、すぐ隣の事件でしかない。
  皇帝でさえあんなにあっさり始末されちゃうんだからね。

  ……。
  ……戦士ギルド?
  あー、そういえば私はオレインとかいうダンマーにスカウトされてたっけ。すっかり忘れてた。
  スカウト、ではなく何気に既に所属していたりもする。
  階級はガーディアン。
  戦士ギルドの階級はよく知らないけど、幹部待遇らしい。
  レヤウィンで亜人達の戦士ギルドである『ブラックウッド団』が勢力を拡大し、その余波で戦士ギルドは人材が向こうに流
  れてしまっているのが現状であり、建て直しの為に私のような即戦力として使える人材を探していた模様。

  ほほほー♪
  困ってしまいますわ何やっても万事標準以上でこなしてしまう天才というのも、困りモノですわー♪
  ほほほー♪

  「暗殺は俺の天職だからな、それ以外には興味がねぇよ」
  「て、天職?」

  その重武装で?
  今回の任務だけじゃなく、基本鎧が普段着の貴方が……暗殺が天職……?
  ……冗談はやめてください。

  どう見たってあんたは動く重戦車でしょうがーっ!
  にぃっと笑うゴグロン。
  「何考えてるか分かるぜ。ゴグロンは大きくてガサツだから暗殺には向いてないと思ってるんだろ?」
  「ぴんぽーん♪」
  「ははは、まさにそのとおりだな。はははっ!」
  豪快なお人。
  さて、地図を見よう。標的である『がきんちょ二人』はこの近辺にいるはずなんだけど。
  しっかし怪しすぎる任務ですこと。

  どういう経緯で冒険慣れた私ですら困難なこの密林に、現れるわけ?
  これは罠。
  おそらくは私達を引き付け、殺すのが目的。
  つまりサミットミスト邸での一件を画策した、最近話題沸騰中の闇の一党殺しの犯人だ。
  そして……。
  「ゴグロン」
  「ああ。心得てる」
  鳥の声が止んだ。
  ……いや。実際には聞えているのだろう。私の耳はそれを捕らえている。しかし、それがまるで遠くに感じられる。何故ならば
  そんな悠長な場合ではない、気を抜けばあっさりと死んでしまう世界が今展開していた。

  鋭い殺気が周囲を支配する。
  私は全身神経を集中して殺気を感じ取ると同時に、不必要な音を遮断した。
  不意に……。
  「……消えた……?」
  何かが潜んでいるのは確か。
  でも気配が感じられない。こいつ、出来る。殺気を消せるんだ、殺気を消したまま殺意を秘めた一撃で相手を殺せる。
  盗賊程度に出来る芸当じゃない。
  ……ああ、この地帯は深緑旅団の率いるトロルの餌場だったわね。しかしトロルにはもちろん、その使役者達にもこんな芸当
  は出来ないはず。こいつはプロだ、効率的に殺す事だけを念頭に入れている暗殺者。
  バッ。
  突然、音も気配もなく何かが茂みの中から飛び出してくる。
  キィィィィィィィィィンっ!
  私は剣を抜き、防御。防御して、驚いた。その相手は……その少年は無手、拳を固めて攻撃して来たのだ。その拳を剣で防ぐ
  ものの危うく腕を痛めそうになる。何て力。それに、彼の手は無傷だ。刃にまともに当たったはずなのに。

  「くっ!」
  「けけけっ!」
  両手を当てて、少年を押し返す。少年は、意地悪そうな笑みを残したまま大きく後ろに跳躍。
  その背後に回ったのがゴグロン。
  「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
  雄叫びを上げ、クレイモアを振り下ろす。
  ……この感じは……。

  「ゴグロンっ!」
  警告の声と同時に、ゴグロンは大きく下がった。剣が回避に邪魔であると判断したのか、躊躇わず離した。
  その瞬間、ゴグロンが立っていた場所にカマイタチ現象が起きたかのように疾風が通り過ぎる。
  地に落ちた剣は、真っ二つに切断されていた。
  「けけけっ! オークのおっさんとガチンコバトル、楽しいねぇーっ!」
  「うおっ!」
  バキィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  俊敏さを誇る少年は容易くゴグロンの懐に入り、拳を連打。大きく吹き飛ばされ、大木に叩きつけられる。
  ゴグロン、動かない。
  見ると鎧が粉々に砕けていた。
  「けけけっ! トドメ……っ!」
  「裁きの……っ!」
  寒気。
  何か見えないものが私に襲い掛かってくる。私は自分の本能を信仰のように信じている。
  ……信じて回避しなければ、今頃膾だったろう。
  「おらぁーっ!」
  トドメを繰り出そうとしていた少年はオークに投げ飛ばされていた。
  パワフルなオークですこと。
  なるほど、こりゃ安心だ。
  ゴグロンは自分の身は自分で護れるらしい。なら余計なお節介はせずに私は私でする事をしよう。

  敵は二人。
  普通に……考えなくても、これは標的二人。
  こっちから襲撃掛けるはずが逆に向こうから襲われて遭遇戦の形となったが……最終的に引っくり返せば問題ない。
  どこにいる?
  もう一人のブレトン少女はどこに?
  「……っ!」
  ひゅん。
  その場にしゃがむ。すぐ近くにあった割と太い木が、半ばまで切り裂かれている。
  切り裂かれ、バランスが崩れ、重みを保てなくなった木は大きな音を立ててその場に倒れた。土煙が舞う。
  視界が遮られる。
  「けっほけっほっ!」
  ひゅん。
  土煙を裂いて……あ、危ないっ!
  そう何度も何度も避けていられない。今、土煙を裂いて襲ってきた軌跡からして方角は……そう、私の真向かい。しかし何の
  武器かが分からない。まるで目に映らない、糸状の武器?

  それとも魔法か?
  ……ともかく。密林ごと焼きつくして燻り出してやるっ!
  「煉獄っ!」
  ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!
  「煉獄っ!」
  ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!
  「煉獄ぅーっ!」
  ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!
  大体大雑把に、もう1人の敵がいるであろう場所に向けて炎球を叩き込み、炎を巻き起こしている。
  完全に見当違い名場所ではないはず。
  「くぅ、なんて無茶を……」
  咳き込み、口元を押さえながらプレトンの少女が密林から現れ、私と対峙する。
  こんな子が敵?
  敵以前に、こんな少女が物騒な武器を使い私達を襲っていたとは……世の中、分からない。
  それにしても……。
  「……」
  「……」
  何て哀しい瞳。
  何て……。
  どこかで同情している自分がいた。この子の眼は、幼い時の私の眼だ。
  手には何も持っていない。
  木を簡単に切り裂いたり剣を断ち割ったり……。
  ……。
  ……まさかこの子、人形遣い?
  古代アイレイドの時代に魔力を糸状にして指から発する技術があったと何かで読んだ気がする。そして人形遣い達は糸では
  操るわけではないもののマリオネットと呼ばれる戦闘型自律人形を従える能力を生まれながらに有していたとか。

  ……まさか……。
  がぁ、ここでゴグロンが小さく悲鳴を上げて倒れた。溜息をつく少年。ゴグロンにてこずった模様。
  しかしまだ終わってない。
  「まだまだぁーっ!」
  お前は熱血ヒーローか、ゴグロン。
  「来い、小僧っ!」
  「……勘弁しろよいい加減面倒だぜ……」
  特別タフなオークのゴグロン選手はよろめきながらも立ち上がろうとする。
  少年、心底嫌そうな顔をする。
  ……間違いない。オークを素手であんな少年がボコれるわけがない。彼はマリオネットだ。
  「あっははははっ」
  笑えた。
  突然場に相応しくない笑いをすると、少女も少年も怪訝そうに私を見た。

  笑えもするわよ。
  世間は何て狭いのだろう。伝説級の技の使い手と、伝説級の遺産がここにいる。笑えるわ、巡り合わせって怖い。
  伝説がこんなに近くにいるなんてね。
  「けけけ。この女、気でも狂ったのかよ。……フォウ、決めちまおうぜ」
  「ええ。……フィフス、彼女を神の御許に」
  「おっけぇっ!」
  タッ。
  俊足。高速。神速?
  マリオネットは速い。地を蹴った瞬間には既に私の間近に迫っていた。その突き出された手は私の喉元を切り裂くのか
  頭ごと引き千切るのかは知らないけど、危険極まりないのは確かだ。

  しかし。
  スカっと、マリオネットは虚空を行く。私の姿は、ない。
  私の動体視力はかなり高い。スピードはマリオネットに劣るかもしれないけど、魔法で一時的に身体能力を増強するなんて
  容易い事。見えさえすれば大抵の事は魔法で対処できる。

  マリオネットの動きよりも素早い動きで回避して……。
  「裁きの天雷っ!」
  「……っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィっ!
  マリオネットは魔法に抵抗がない。そう、文献で読んだ。雷に吹き飛ばされ、地べたにゴロゴロと転がり、倒れた。
  その瞬間、人形遣いがフォローに回る。
  繰り出される死を紡ぐ糸。
  甘い甘いっ!
  「デイドロスっ!」
  聖域を離れてアルケイン大学で勉強していたのは伊達じゃない。
  オブリでの苦難の日々を思い出すからあまり召喚系の魔法は好きじゃなかったけど、考えようによっては幼少時に私を餌に
  しようとしていた悪魔を顎で使うのは優越感だろう。

  覚えたのは二足歩行のワニの悪魔。
  切り裂かれるデイドロスの皮膚。

  しかし厚い皮膚を切り裂くにはまだまだのようね。内部には達していない。ほんのかすり傷程度。
  「……またこのワニの悪魔か。変な因縁」
  「それでお嬢ちゃん、どうする?」
  形の上では2体1。

  さらに気をそらす為に、彼女の集中を分散させる為に背後にスケルトンを召喚。
  さあ、どうする?
  「悪いけどブレトンの人形遣いのお嬢ちゃん。一応も任務だからね。……逃がしはしない。ここで殺してバイバイさよなら」
  「あたしだって逃がさない。これがあたしの唯一の存在理由」
  『闇の一党として排除します』
  ……。
  ……しーん……。
  同じ言葉が、異口同音が私と彼女の口から出る。途端、体の力が抜けて殺意が消えていく。お互いに。
  闇の一党?
  まさか……。
  「私の任務はブレトン少女を暗殺する事。貴女は?」

  「あたしはブレトンの娘を始末する事」
  ……やられた。
  誰が画策したかは知らないけど、今回は同士討ちだ。少なくともこの子が演技しているとは思えない。
  私にだって見る眼はある。
  「フィッツガルド・エメラルダ。シェイディンハルの聖域の者よ。……よろしくね」
  「あたしはフォルトナ。クヴァッチ聖域のメンバー」
  差し出す手を、彼女は握った。
  冷たい手。
  ……なんて冷たい手。
  この子を見ているとまるで昔の自分のよう。懐かしいという感傷はない。ただ、凄惨な事しか思い出さない。
  だから、思う。
  私はこの子に手を差し伸べる事が出来る。
  ……あの時、私には誰にも手を差し伸べてくれなかったけど、私なら出来る。
  「今回はお互いに嵌められたみたいね」
  「ですね」
  「これ、お小遣い。好きなものでも食べなさい。……無駄遣いは駄目だけどね。私なら、クレープでも買うかな」
  「クレープあたしも好きです。バナナが一番好き」
  「それ認めない。苺でしょう苺」
  「えー?」
  笑った。どこか、おかしかった。二人で笑うと、妙に心地いい。
  それがフォルトナとの始めての出会いだった。






  「標的が闇の一党の同胞だった?」
  「ええ」

  私はシェイディンハルの聖域に帰還し、オチーヴァに報告。
  兄弟同士の殺し合いは禁じられている。
  例えそれが依頼であったとしても。
  暗殺依頼は幹部集団『ブラックハンド』がその依頼が正当であるか判断し、その上で各聖域の総合能力に応じたランクの
  仕事を配分している。なら今回の依頼はどうか?

  ブレトン女性の暗殺。
  ブレトン少女の暗殺。
  二つの依頼。それはシェイディンハル聖域に、クヴァッチ聖域に回された。
  ほぼ同じ内容に、まったく同じ場所。
  「しかし、いやまさか……」
  動揺するオチーヴァ。
  「あたしは奪いし者からの勅命です。そちらは伝えし者から回された依頼。これはつまり……」
  「それは言ってはなりません口にしてはいけないっ!」
  一応、私と同じ当事者という事でフォルトナとフィフスもシェイディンハル聖域に連れて来ている。
  ちなみにゴグロンは今日は疲れた、という一言とだけ語ってに爆睡。
  タフと言うか何と言うか。
  オチーヴァの動揺の意味。
  それは……。
  「けけけ。つまり、上層部に裏切り者がいるってわけか?」
  あっさりと言ってのけるマリオネットのフィフス。
  そう。裏切り者がいる。
  どう考えたっておかしい。似たような依頼、同じ場所、不明な点の多い依頼。なのに上層部はこれを回してきた。
  ずさんな依頼の管理体制?
  そうかもしれない。
  でも、そうでないかもしれない。

  その場合、厄介。オチーヴァは最近メンバーが狙われている、という理由で個人的にテレンドリルに命令し、調べさせ
  ている。

  つまりオチーヴァは外部の者の仕業と考えていた。
  しかし内部に、それも上に裏切り者がいたら?
  ……厄介ね。
  特に闇の一党は上層部に絶対服従絶対盲従みたいな気風があるから、調べるのは容易じゃないし犠牲は増えるだろう。
  まあ、私には関係ないけど。
  「ともかく、この件はルシエンに報告しておきます。フィッツガルド、ご苦労でした」
  「こんな展開ばっかね、私の依頼」
  「それは貴女の持って生まれた運の所為です。不運は自己責任でお願いします」
  ……ちくしょう。
  「フォルトナ、貴女もご苦労でしたね。……今日はもう遅い。今日は泊まっていきなさい」
  「……」
  沈黙。
  別に、嫌というわけでもなさそう。
  本当にいいのか、と私に確認するようにこちらを見た。私は頷くと、フォルトナは何度も大きく頷いた。
  ……慣れてないのね、人との関わりが。
  ……私もそうだったなぁ。昔は、人と触れ合うのが怖かったっけ。
  「フィーお帰りぃー♪」
  むぎゅー。
  もみもみ。
  もみもみ。
  もみもみ。
  「……すいませんお姉様ドサクサ紛れにすごい事してますよねやめてください子供が見てます教育上問題ありっす」
  「性教育大切♪」
  ……ちくしょう。

  「それでフィー、この子達誰?」
  「ああ、この子達は……」
  「あたしとフィーの子供? フィー、もしかして頑張ってあたしの子供を産んだのね素敵ぃー♪」

  むぎゅー。
  ……何なんだこの展開?
  ……というかオチーヴァ。微笑ましい二人ね、という視線で眺めるのやめて助けてけください。
  おおぅ。
  「くすくす」
  「けけけ。ここの聖域は、クヴァッチとは違って楽しそうだぜ。……移籍するか、フォウ?」
  「そう出来たらいいよねぇ」
  楽しそうに笑う、昔の私みたいな女の子のフォルトナ。
  まあ、楽しそうだからいっかぁー。
  ……私の胸がアンの餌食になったけどねぇー。この代価、妥当ですか高過ぎますか?

  「フィッツガルドさん……」
  「フィーでいいわ」
  「フィーさん、楽しい方ですね。その、あの……友達になってくれませんか?」
  「友達? 何言ってるの、一応概念的には家族じゃないの。姉妹よね姉妹」
  「姉妹……はいっ! その、よろしくお願いしますっ!」
  変に意気込むフォルトナを見て、一同笑う。
  私も微笑みながら頷いた。何て可愛い子なんだろう。
  それにしても、闇の一党もきな臭くなってきたわね。裏切り者、か。
  さて、私はどう動く?
  ……不穏で、残酷で無情な日が近づいている事に、私はまだ気付いていなかった。