天使で悪魔






シャドウスケイルの背教者




  夢。
  夢を見た。
  取るに足らない、下らない夢だ。
  私の両親は健在で、おおらかな愛で私を包み込み、その愛の元で成長していく。
  ……そんな、下らない夢。
  私の両親は五歳の時に殺され、その後の私は……少なくとも、大学に拾われるまでは不幸の底辺の存在。
  もしも。
  もしも。
  もしも。
  ……ふん。運命と同じに、嫌いな言葉ね。
  今更どうにもならない。
  もしも、を願った時、それは今の私を否定する事になるのだから。
  ……下らない。
  ……下らない、夢の話。






  「……あー、変な夢見たぁ……」
  シェイディンハルの聖域。
  ここ最近はスキングラードの豪邸〜シェイディンハルの聖域、を行ったり来たりしている。
  別に深い意味はない。
  暗殺者の生活とお嬢様の生活、その二面性がそれなりに楽しいだけだ。
  ……まっ、その時点で私も変わってるわねぇ。
  暗殺者の生活は不規則。

  しかもここは地下にある、その為窓はない。つまり日の光が差し込まないから時間の感覚も麻痺してしまう。
  ……ヴィンセンテの部屋に窓あったらいつの間にか灰になってる、事もあるわけだし。
  ……。
  そ、それはそれで楽しいかも意外性あるしっ!
  まあ、いい。
  ともかく、不規則なのだ暗殺者は。今は昼だけで私は昨日の晩は徹夜で暗殺してたから、起きたのは今。
  ……徹夜で暗殺してた、というのも変な言葉よねぇ。
  聖域で自室を持つのはオチーヴァとヴィンセンテのみ。
  私が目覚めたのは、その他大勢の寝起きする大部屋。寝てるのは私だけではなく、ゴグロンのイビキが豪快だ。

  ……てか、うるさい。
  「お目覚め、フィー?」
  「うおっ!」
  よっぽど疲れていたのか、隣で寝ていたアントワネッタに気付かなかった。

  ……隣、というのは隣のベッドではなく私の隣、という意味だ。
  「い、いつの間に同じベッドに?」
  「愛する姉妹に、二つのベッドは必要ないない♪」
  「いや姉妹といえどもプライバシー必要ですから」
  「フィーってば照れちゃってそんな可愛いところが好きぃー♪」
  「……」
  むぎゅー。
  い、いつからこんな事を許すような展開になったのだろう?
  私は冷酷だし冷徹、自分でもそれは自負してる。でもその反面、家族という言葉に弱いのも認めている。
  家族を知らないからか?
  ……多分そうね。暗殺者として生きる事も躊躇わない、だぁくな部分を有しながらもそういうアットホーム的な関係を望んでいる自
  分がいるのも確かだ。それが弱さなのか、私の唯一の人間性なのか……まあ、判断はどうでもいいか。
  「フィー。フィー。ああ、あたしのフィー♪」

  「……お、お姉様お尻触ってますマジやめてください本気でお願いします……」
  家族を心のどこかで求めてるけど、こういう展開も心のどこかで望んでる?
  否っ!
  そんなわけない、だって私はノーマル(色んな意味で)だもんっ!

  「フィー♪」
  「な、なんです?」
  「ゴグロンは寝てるし、今、誰も見てないから……うふふふふふふふふふふふふふふふふ……」

  怖いから怖いから。
  この娘、どこまで本気か判断しづらい。
  ……多分、全力で本気なんだろうけど……。
  おおぅ。

  「フィー♪」
  迫られる私。というか押し倒される私。こ、この娘何する気?
  ま、まずいぞ私ぃっ!

  「おう、お楽しみのようだな。そのお楽しみを邪魔して悪いが、フィー、少し話をいいか?」
  テイナーヴァ、グッドタイミングっ!
  地獄に仏、とはまさにこの事。ホッとする私とは対照的に、見る見る不愉快そうになるアントワネッタ。
  「フィー、お楽しみは今晩ね♪」
  「……」
  チュッ。
  私の頬にキスをして、部屋を出て行った……あの、この関係白紙には戻らないでしょうか……?
  日に日に私はアブノーマルになっていく気がする。
  おおぅ。

  「熱いなぁ、お前達。ははは、ムラージもお前達の関係を吹聴して回ってるぞ」
  「あんのネコめぇーっ!」
  そうよ。
  そもそもあのネコがでっち上げたのが発端なのよ。
  アントワネッタ・マリーは、それまでは……いや、最初からかなり妖しい雰囲気だったなぁ、そういえば……。
  ムラージ・ダールの所為だけでもないかも。
  「それでテイナーヴァ、何か用?」
  「最初に断っておくがこれは俺の個人的な頼みだ。だから、この頼みをこなしたところでフィーの出世には繋がらない。しかし聖域
  を見回した中で頼めるのはフィーしかいないのも現状だ。聞いてくれるか?」
  「いいわよ」

  ベッドから出る……事はしない、寝起きで体をあまり動かしたくないしリラックスしてたいから。
  私はベッドに座ったまま、テイナーヴァに話の続きを促した。
  受ける受けないは、それからだ。
  「実はシャドウスケイルのスカーテイルを殺して欲しい」
  「誰それ?」
  「俺とオチーヴァの親友だ」
  「ふーん」
  親友を殺して欲しい、とはなかなか物騒な話……でもないか。
  ここをどこだとお思いで?
  暗殺者のメッカ、闇の一党の拠点の一つ。常に死臭と血臭の漂う、殺意とその衝動が渦巻く場所。
  誰殺して来いと言われても別に驚きはしない。
  それにしても、シャドウスケイルか。聞いた事がある。
  アルゴニアンの出身地はブラックマーシュ。湿地と沼地の、亜熱帯の気候。レヤウィンがそれに近いものの、ブラックマーシュと
  比べたら雲泥の差がある。そもそもブラックマーシュに、普通の人間は住めない。適応出来ない。
  建前的にはタムリエル全土は帝国の管轄にある。
  しかしブラックマーシュにはアルゴニアン王国が存在している。帝国の枠に組み込まれているのか、それとも人間種の生活圏
  にはなり得ないブラックマーシュに存在する国家だから、帝国とは一切関係ないのかは知らない。
  まあ、それはいい。
  シャドウスケイルとは暗殺者候補の子供の事。
  前に会ったジョニー、彼は影座の生まれ。
  影座に生まれると、生まれながらに透明化能力を有している。
  アルゴニアン王国では影座に生まれたトカゲは、闇の一党に差し出されるらしい。ジョニーは、シロディール生まれなのだろう。
  そうでなければ今頃暗殺者だ。
  で、差し出される理由は暗殺のノウハウを覚えさせる為。
  暗殺術をマスターした者は、そのまま闇の一党に属すかアルゴニアン王国お抱えの暗殺者になるかを選ぶ、らしい。
  テイナーヴァとオチーヴァは闇の一党にそのまま残った。
  スカーテイルとかいう奴は、アルゴニアン王国の暗殺者となった。
  ……どう転んでも血なまぐさい道しかないのが、人生の面白いところよねぇ。
  二択、どっちも暗殺者かよ。
  「俺とオチーヴァがルシエンの元で修行していた時、1人の新入りが入ってきた。それがスカーテイルだ。歳も近かったから、俺達は
  すぐに仲良くなった。毎日毎日理想の殺し方を論じ合ったものだ。ハハハハハっ♪」
  ……殺伐とした奴。
  それにしてもルシエン、何歳なのだろう?
  結構、歳いってんだなぁ。
  「俺達は闇の一党に残留する事にした。ルシエンは俺達にとって父親みたいな存在になってたからな。スカーテイルはアルゴニアン
  王国に戻る事にした。別れの時は寂しくて悲しくて泣いて別れたものだ」
  「でもどうしてそんな奴を殺すのさ?」
  「奴が王国を裏切ったからだ」
  「裏切り?」
  「スカーテイルは王国の暗殺者である事を拒否し、脱走したっ! これは背任行為だ、罰するべきだっ!」
  どこで聞いたのだろう、裏切り。
  テイナーヴァとオチーヴァ、もしかしたらアルゴニアン王国の残した密偵なのかもしれない。
  「それでテイナーヴァ。どうして私に頼むの?」
  「闇の一党は、家族同士の殺し合いを禁じている。それと同様にシャドウスケイル同士の殺し合いも禁じられている」
  「あー、なるほどね」
  「おそらくはアルゴニアン王国も刺客を放っているだろう。その前にフィー、君がスカーテイルを抹殺して欲しい。そして殺した証拠に心
  臓を持ち帰ってきて欲しい。やり遂げてくれたらアントワネッタ・マリーとの間を取り持ってもいいっ!」
  「そ、その成功報酬なら私はわざと逃がすわよっ!」
  「何故だっ! 闇の一党は同性愛は禁じていないっ! 胸を張って愛し合えばいいっ!」
  「な、なにその力説?」
  あああああああああああああああああああああああああああああああああ既に二人は出来てる、は聖域で浸透しているぅーっ!
  人の噂も75日?
  ……ふっ、愚か者めっ!
  毎日毎日アントワネッタのスキンシップとネコのデッチ上げで日々75日が更新されていくのだぁー。
  ……ちくしょう。




  あの後、オチーヴァにも聞いた。
  一応、人様の昔の感傷なわけだから他人の私が勝手に始末したらまずいなぁ、という考慮だ。
  しかしオチーヴァもテイナーヴァ同様に過激。
  裏切り者は始末すべし、だそうな。
  ちょうどその場にヴィンセンテがいた。妙にニヤニヤしていた。また、ネコが何か吹き込んだのか、と思うと違った。
  「ルシエンから伝達がありました。今日、アダマス・フィリダは失態を犯すそうです」
  ……なるほど。
  その意味は、聖域を出た時に分かった。
  シェイディンハルにアダマス・フィリダが来ている。この街に闇の一党の拠点の一つがある事を伯爵は突き止め、その撲滅の為に
  闇の一党の壊滅を謳っているアダマスが招かれたのだ。
  ルシエンは始末する。
  アダマス、ではなく伯爵夫人ラザーサを。それは警告。
  口止め料受け取ったのに撲滅に出た伯爵に対する警告。
  そして、伯爵夫人が殺されれば何も出来なかったアダマスは責任追及、結果として左遷か免職だ。殺すのが容易になる。
  そろそろ、ね。
  そろそろ無実で監獄に叩き込まれ懲役30年を科せてくれた御礼が出来るのねぇ。くすくす。





  レヤウィン南東。
  亜熱帯の気候。密林。湿地帯。
  私はブラックマーシュには行った事ないけど、こんな感じなのだろう。
  ……行きたかないけどねぇ。

  この辺りは完全に未開の地。この間倒した吸血鬼のヒンダリルの洞窟、虫の隠者ヴァンガリルの洞窟はここよりさらに北となる。
  あの時は『未開だなぁ』と思ったものの、今いる場所に比べればまだマシだ。
  というか、亜熱帯の気候がどうも私には合わない。
  天候も変わりやすいようだ。
  とっとと終わらせる事にしよう。テイナーヴァがくれた地図では、この辺りに潜伏しているらしい。
  ……ふん。密偵か。
  そもそも、こんな地図がある時点であのトカゲの双子はアルゴニアン王国に近い立場なのだろう。

  王国からも刺客が出ていると知っていたりもした。
  おそらくあの双子は、アルゴニアン王国が闇の一党に潜り込ませている情報役、と見て間違いない。
  それが合法なのか違うのか。
  つまり闇の一党も関知した上で、スムーズな関係維持の為の合法な密偵なのかは知らない。
  まあ、どうでもいい事だ。

  「……あいつか」
  密林の開けた場所に、キャンプを張ってる奴がいる。
  盛大にキャンプファイヤーまでしている。ふむ、追われる者の神経というのは分からないものだ。
  アルゴニアンがくつろいでいた。
  このまま魔法で吹き飛ばすなり忍び寄って殺すなりすれば終わるものの……相手はアルゴニアンだ。
  見た目では分からない、本人かどうか。
  テイナーヴァに外見をよく聞いたんだけど……見分けろ、というのが土台無理な話だ。
  声をかけて確かめてみる。
  「ハイ。私も焚き火に当たっていい?」

  「よう、殺し屋。温まっていけよ。ココアもあるぞ、休憩していくか? ははは」
  ……こいつだ。こいつがスカーテイル。
  しかしなんなの、あの余裕?
  「……」
  「隠す必要性はないよ、お嬢ちゃん。あんたの眼は暗殺者の眼、ダークブラザーフッドだって眼が語ってるよ」
  そう言って、焚き火にあたれよと勧めた。
  ……少し、こいつに興味が湧いた。
  見たところ無手だ。あー、キャンプのところに短刀が置いてある。
  油断してる?
  ……いや、私を油断させようとしている?
  「安心しろ、何もしやしないよ。あんたとやり合う元気がないんだ」
  「……みたいね」
  腹を包帯でぐるぐる巻きにしてある。そして包帯から今なお滲み出ている血。
  別口の刺客が既に来たらしい。
  「誰があんたを刺客にしたか当ててやるよ。オチーヴァ……あー、いや……彼女ならもっと穏便に俺の始末を望む、か。王国の
  刺客に殺されるのを期待するだろうよ。テイナーヴァか、そうだろ、当たってるだろ?」

  「ピンポーン。正解者には死をプレゼントします♪」
  「殺したいなら好きにしてくれ。死にたいわけじゃないが、抵抗する気力はないんだ。体力もな」
  スカーテイルは指を刺した。
  そこには……木に倒れこむ形で、アルゴニアンが死んでいた。あれが王国の刺客か。
  暗殺者を殺す刺客に選ばれる、という時点で卓越した暗殺技術の持ち主なんだろうけどスカーテイルの方が一枚上手だったようだ。
  ……これは幸いか。
  まともにやれば、私もそれなりに苦戦したかもしれない。
  まっ、魔法で問答無用で消し炭にすればいいだけの話だけどさ。
  「そこに転がってるのは王国が放った刺客さ。まっ、俺が生きてる時点でしくじったわけだけどな。返り討ちにしたはいいが、それなり
  に傷を負った。無茶に動けば出血死するのは眼に見えてる。少し、休まないと俺は死ぬ」

  「何甘えてんの。点滴打ってでも勝負する気概はないの?」
  「……無茶言うなよ」

  「この根性なしめ」
  「て、手痛いな。と、ともかくお嬢ちゃん、哀れな俺を見逃してくれないか?」
  「はっ?」
  「もしも見逃してくれたらお宝をやるよ。頼むよ、お嬢ちゃん」
  「……ふふふ……」
  「な、なんだよ?」
  「あっはははははははははははっ! 私あんた気に入った見逃してあげるわっ! あっはははははははははっ!」
  得な奴は、生まれながらに得に出来てる。
  命乞いの仕方一つにしても、スカーテイルにはユーモアがある。見ているだけで、どこかふざけたような、とぼけたような印象を私は
  受けた。おそらくスカーテイル自身は気付いてもいないんだろうけど。
  「……あんた、意外に慈悲深いんだな」
  「意外、というのは余分よ。でも困ったな、証拠が要るのよ」
  「だろうな。……当ててやるよ、俺の首……あー、違うな。心臓か?」

  「ピンポーン。正解者には死をプレゼントします♪」
  「……見逃してくれるんじゃないのか……?」
  「ああそうだったそうだった。危うく殺すとこだった」
  「……」
  「それでスカーテイル、心臓だけくれる?」
  「無茶言うなっ!」
  「ちぇっ」

  「心臓ならそこの刺客のを持っていくといい。どの道心臓に名前なんて書いてねぇからな。それにテイナーヴァに、俺の心臓見せた
  事ないから違いなんて分からねぇよ。ははは、あいつコロッと騙されるぜ」
  私はナイフを抜き……スカーテイルに手渡した。
  殺す事に関しては別に抵抗は示さないけど、心臓を抉れと言われるのはさすがに抵抗がある。
  「心臓、取り出して」
  「ああ」
  もちろん、これはテストでもある。
  得物を手にしたスカーテイルが私に斬りかかって来るかどうか。
  しかしスカーテイルは妙な事はせず、刺客の心臓を取り出して薄い皮で出来た飲料水用の水袋に……水は入ってない……そ
  の袋の中に心臓を入れると、私に手渡した。ナイフは血糊を拭き、刃を自分の方に向けて返却。
  ……身の程を知っている、らしい。
  気に入った。本気で殺すのやめよう。特に敵意感じてないし、私。
  「これからどうする気?」
  「王国が次の刺客を放つ前に消えるとするよ。……それでどうして俺を見逃す気になった?」
  「あなたが気に入ったから」
  「ほっほう、俺に惚れたか」
  「……前言撤回して殺すわよ?」
  「ははは。冗談だ」
  図太い奴。
  こいつ長生きするわ。
  「どうして暗殺者やめたのよ?」
  「殺す殺されるは、別にどうでもいいんだ。世の中いつもどこかで誰かが生まれ死んでる。その生死に手を加える、それはそれで
  別に抵抗はない。ただ王国に飼われる暗殺者でいるのが、嫌になった。俺は俺だ、命令出来るのは俺だけだ」
  「同感ね。私もその通りだと思うわ」
  「誰かに指図されて誰かの為に捨石にされる。俺はそれが嫌になった。……逃げて、その後は畑でも耕すさ」
  「高尚な人ね」
  「じゃあなお嬢ちゃん。あんたも、利用されないようにな」
  「あなたこそばったりどこかでテイナーヴァに会わないでよ。私が嘘ついたのばれるんだから、それ困る」
  私達はそこで別れた。
  その後、彼がどうなるとかどうなったかは私が気にする事ではない。
  ……そうよ、どうでもいい事。
  彼が言うように、いつでもどこかで人は生まれ死んでいるのだから。
  ……ただ、それだけの事……。




  人。
  人は誰かと繋がる事で、形成していく。家族を、友人を、恋人を。
  その繋がりが自分を高め、広大な世界に自分というちっぽけな存在を確固たるものとし、生きていく。
  家族。
  友人。
  恋人。
  人は1人では生きられない。必ず誰かと繋がっているものだ。
  その繋がりは強固な鎖のようなものであると同時に極めて脆弱な糸。何かの拍子に切れてしまう、曖昧なモノ。
  テイナーヴァはスカーテイルに裏切られた。
  それが本当に裏切りかはともかく、彼は裏切られたと思った。
  その時、繋がりを捨てた。
  繋がりが強ければ強いほど、その反動はより強くなり、絶対に許せないという感情へと移行する。
  私はふと、思う。
  アダマスを暗殺した時、私はここを去る。その時、それは裏切りであると叫び、許しがたい私を殺すだろうか?
  ……私はふと……。





  聖域に戻り、私は心臓をテイナーヴァに渡した。
  裏切り者に対して怒り出すか。

  かつての同胞に対して泣き崩れるか。
  そのどちらかの対応を示す、と思ったもののアルゴニアンは黙ったままだ。アルゴニアンは外見で、感情は読み取れない。
  ただ、黙っていた。
  まるで身動き一つしないアルゴニアンほど不気味なものはない。そこには本来相容れない、爬虫類的な何かが存在している。
  口では説明できない、異質な空気。
  「……」
  「……」
  私に目礼だけすると、テイナーヴァは椅子に座ったまま動かない。
  ……人にはそれぞれ、浸るべき感傷がある。
  そしてその感傷に、干渉してはいけないぐらいの思慮は私にはある。
  目礼を返し、私はその場を後にした。





  「……はぁ、またか」
  私のベッドに、毛布を被って寝ている奴がいる。
  言わずと知れた、アントワネッタ・マリーだ。
  ゆさゆさ。
  私は彼女を揺り動かす。
  「……フィー、おかえりー……」
  「そこは私のベッドですよ、お姉様」
  「……眠いのー……」
  「お姉様」
  「……何かお話して……」
  「はっ?」
  「……何か、ゆっくり眠れるお話して……」
  ここで勝手に寝られても困るんですけど。私のベッドだし。
  まあ、彼女のベッドで私が寝ればいいんだろうけど。
  「……フィー、お話して……」
  しつこくせがむ。
  その表情は、その顔は、年齢より幼い。
  ……分かる気がする。彼女は暗殺者、生い立ちは私同様に悲惨。幼少時の気分を引き摺っててもおかしくない。
  何故なら、段階をおって成長していないからだ。
  でも私は彼女とは違う。
  彼女と私の決定的な違い。それは、日の当たる場所に生きたか生きていないかだ。
  私は大学に拾われた。
  マスター・トレイブンに育てられた。人並みの生活してた。
  もちろん人それぞれ価値観が違うから、人並みか人並み以上かは、人によって基準が異なる。
  ともかく、私は幸せに生きた。10歳からはね。
  しかし彼女は?
  「……フィー……」
  「その前に一つだけ聞かして。私が裏切ったら、どうする?」
  「……あたしが殺す。それで、あたしが裏切ったら貴女が殺して。そしたら、安らげる……」
  「……そう」
  何が聞きたいの、私?
  分からない。
  ……ただ、私の理論からして家族は裏切らない、というのがあるのは確か。誰殺すにも抵抗ないけど、じゃあラミナス殺して来いとか
  ハンぞぅを消せと言われれば拒絶する。それは絶対のルールだ。家族は殺さない。
  ふん。
  散々人殺しておいて自分の大切な人だけ特別なのー……結局、私も俗物か。
  まあ、いい。
  「それでお姉様。何の話がいい? ノクターナルのお話なんてどう?」
  「……あたしエロティックじゃなきゃ嫌よ……」
  「なっ!」
  「……もう一つ注文つけると、最初は無理矢理最後は同意の上、みたいなエロがいいな……」
  「すいませんお姉様私の能にそのような話はインプットされてませんですはい」
  おおぅ。