天使で悪魔






進化論 〜後編〜





  
  時として種は急速なる進化を遂げる。




  「バーセルにまた雇われた時は驚いたよ。まさかゴプリンが勢いを巻き返すなんてね」
  「でしょうね」
  ミリサの言葉に私は頷く。
  クロップスフォードという名の個人農園に向かう街道を私たちは行く。
  私はシャドウメアに跨り、ミリサ徒歩。
  名前の知らないボズマーとアルゴニアンは巡回のために街道をそれた。たぶん群れから離れてうろついているゴブリンを狩るのだろう。
  ミリサ曰く別に雇われた冒険者らしい。
  しかし分からないなぁ。
  勢いを巻き返すなんてまずあり得ない。
  徹底的に潰した。
  私のこの手で部族ごとね。
  当時の私の技量と今の技量、雲泥の差があるとはいえ完璧に駆逐したはずだ。
  何故盛り返す?
  まあ、私とて討ち損なったのがないわけではない。
  あの時洞穴にいなかった奴とかね。
  でもあくまで残党のはずだ。
  「具体的にどんな被害?」
  「農作物の被害。今のところはね。でもかなりの数があの近辺を徘徊してるし、これからも農作物だけが被害を受けるとは限らない」
  「まあ、確かに」
  「だからパーセルも危機感を覚えて冒険者を集めたんだろうさ。あんたも来てくれたら、百人力なんだけどね」
  「ミリサ、聞きたいことがあるんだけど」
  「報酬?」
  「いやそうじゃなくて……というか勝手に雇っていいわけ? 独断で?」
  「人手は足りないからね」
  「ふぅん」
  「冒険者があと5人雇われてる。腕は……贔屓目に見ても中級の戦士が4人、魔法戦士崩れが1人」
  「崩れ、ねぇ」
  「真紅のガウェンと言ったら、分かるだろ?」
  「うーん」
  全く知らん。
  基本私は自分の力量に絶対の自信を持ってる。故に周囲に対しての羨望などない。有名剣士も名のある魔法使いも眼中にない。
  だから。
  だから称号持ちの連中の知識は皆無。
  その、ガウ何とかが自称称号持ちなのかは知らんけど、私は知らない。
  だけど名うての冒険者のミリサが称賛気味に言うのであればそれなりに名は売れているのだろう。
  例え虚名だとしても、ね。
  まあ、いい。
  私が控えてるんだ。本物の使い手だろうが虚名だろうが問題はあるまいよ。
  自惚れ?
  かもね。
  「ちょっとちょっと。まさか、あの、魔法戦士のガウェンを知らない?」
  「まったく」
  魔法戦士。
  魔法と剣術をマスターした存在。
  まあ、私も魔法戦士のカテゴリーね。
  アリス?
  アリスは戦士。
  魔法戦士とは単に魔法が使える戦士という意味よりも魔法を極めた戦士という意味合いが強い。だからアリスの場合は戦士のカテゴリーになる。
  ともかく、魔法戦士崩れってことは剣か魔法か、もしくはどちらも中途半端ってことだ。
  要は器用貧乏。
  もっとも今回のゴブリン絡みで使えるのはそいつぐらいしかいないっていうのも残念な話ね。
  贔屓目に見ても中級程度の戦士ではウォーロードには苦戦するだろう。
  どれだけの数のゴブリンがいるのかは知らないけど数で押されたらまず間違いなく負ける。ボズマーとアルゴニアンを足してもね。ミリサの発する雰囲気は熟練の狩人って
  感じだけど数で押されたら負ける。ミリサほどの思慮を持った狩人が私に助けを求めるのだから、彼女も現状ではやばいと踏んでいるのだろう。
  まあ、私がいれば問題はあるまい。
  当時でもダース単位のゴブリンなんか怖くなかった。
  今は当時の比じゃない。
  強さの桁が違う。
  ゴプリンなんて一捻りだ。
  駆逐はいい。適当に片づけてやる。私の関心はむしろゴプリンの巻き返しのほうにある。
  どんな裏技を使ったんだろ。
  まあ、もしかしたらまったく別の部族が移り住んできたのかもしれない。
  「ん?」
  まだら馬に乗った戦士に徒歩で付いていく数名の戦士とすれ違う。
  向こうもこちらも一瞥しただけで素通り。
  「ミリサ、仲間?」
  「いや。傭兵だろ、たぶん。最近多いんだ」
  「傭兵が?」
  「オカート総書記がスカイリムへの派兵を議長権限で採択したとかで帝都軍を派遣するとか何とか。だから傭兵がかき集められてるみたいだよ。知らないのかい?」
  「まったく」
  何考えてんだ元老院は。
  ……。
  ……いや、まあ私も元老院議員だけどさ。
  どうやら帝国上層部は私が思っているよりも戦争好きらしい。
  銀色や魔術王ウマリルだけでは騒乱が物足りないようだ。新たな戦いを求めて戦線を拡大するつもりらしい。
  馬鹿か、って思う。
  そんな暇あるなら……えっと、マーティンだっけ?
  皇帝の最後の遺児を探せよ。
  「それで味方と思ってもいいんだよね?」
  「報酬次第でね」
  「頼もしいね。あんたの強さは知ってる。百人力さ、常勝の戦姫様?」
  悪戯っぽくミリサは笑う。
  あらら。
  私の素性を知ってるのか。
  まあいいけどさ。
  どのみち暇潰しだ。ゴプリン程度軽く叩き潰してやる。
  クロップスフォードが見えてきた。



  「お帰り」
  まるで娘が久々に故郷に帰ってきたというように彼は、クロップスフォード農場の主人であるパーセルは私を暖かく迎えてくれた。
  多少照れくさくもある。
  ミリサが私を味方として引き入れた、その言葉を言うよりも早く彼はそう言った。
  新たな傭兵候補として見越してた?
  それはどうかな。
  誠実な人であることは私も認めてるけど、頭の切れる人ではない。
  ならば何故?
  簡単だ。
  本当に誠実な人なのだ、彼は。
  一応顔を合わせたのはこれで三度目になる。
  最初は当然ゴプリン戦争、私がまだ生き方を模索して迷っていたころ、つまり帝都軍巡察隊の兵士だったころだ。
  ……。
  ……しっかし考えてみたらすごいことよね。
  一兵士だった私が今じゃ魔術師ギルド&戦士ギルドを統括するマスター、元老院議員、グランドチャンピオンに高潔なる血の一団の名誉会員、さらには旧闇の一党
  ダークブラザーフッドの聞こえし者であり伝説の死霊術師マニマルコを討った常勝の戦姫と呼ばれる国民の英雄様なのだから。
  称号には困らない。
  ほんと。
  人生って不思議なものだ。
  さて、話を戻そう。
  パーセルさんに二度目に会ったのはアイレイドコレクターのウンバカノの使いぱしりしてたころだ。確かマラーダ遺跡に向かう際にアンと来たんだったな。
  あの時も快く迎えてくれた。
  そして今回が三度目。
  基本的に私はこの人物が好きだし、生態系を無視して個体数増やしまくってるこの農場を脅かすゴプリンにも興味がある。
  ならば考えるまでもない。
  「あんたのお蔭で農場は大成功だよ。今じゃ使用人を雇って運営する、大農場だ。……そうそう、娘夫婦がこの間独立してね。シェイディンハルで小さな雑貨屋を営んでいるよ」
  「パーセルさん、お困りとか」
  私は切り込んだ発言をする。
  旧交を温めるのは後でもいいだろう。
  そう。
  ゴプリンを蹴散らした後でも。
  「私にお任せを」
  そう言い、私は微笑んだ。
  今の私の能力はかつての比ではない。
  ゴプリン程度、一捻りだ。



  クロップスフォード防衛に雇われてる戦力。
  まずは狩人のミリサ。
  実際に力量を見たわけじゃないけど物腰から察するにそれなりに強い。
  援護は任せれそうだ。
  ただ、私的には戦闘能力よりも冷静さと状況を見る能力を頼もしく感じている。
  指揮官に向いてる。
  私は敵に突っ込む、その際にその他大勢の傭兵を纏める役として買ってる。
  烏合の衆に後ろから攻撃されるのは楽しいものではない。

  次に傭兵7人。
  それぞれ紹介されたけど長いお付き合いになるわけでもないのでいちいち覚えてない。といっても農場にいるのは5人だけ。残りの2人はここに案内される際に
  見回りら出たまま、まだ帰ってきていない。ので2人は名前も知らない。
  覚える気はないけど。
  まあ、贔屓目に見ても全員中級クラスの戦士かな。
  それなりのは集まってる。
  ミリサの人選かな?
  ゴプリン程度ならダース単位でも問題ない面子だ。
  ただしウォーロードがごろごろとしていない場合に限る、だが。
  ……。
  ……にしてもおかしな話だ。
  何でウォーロードがごろごろしてんだろ。
  連中は珍しい存在なはずだ。
  まあ、中級クラスなら倒せるっちゃ倒せるけど……問題はこいつら魔力装備じゃないんだよなぁ。
  純粋な白兵戦な場合、戦闘が長引く。
  ウォーロードはタフだからね。
  そしてスタミナもウォーロードが勝る。んー、オークあたりならスタミナはトントンかな?
  ともかく。
  ともかく普通にやればスタミナ負けする。
  つまりは返り討ち。
  ここの傭兵だと普通のゴブリンなら強い部族だろうが返り討ちだけどウォーロードだと死ぬだろう。ごろごろしてるなら尚更だ。
  ただ、一人魔法戦士がいる。
  アルトマーの魔法戦士。だけど私が見る限りでは剣が多少使える、魔法使いなんだよなぁ。
  魔法戦士の正確な定義は剣も魔術も長けている、ということ。
  つまりは私だ。
  魔法が使える戦士とは意味が違う。
  逆も然り。
  アリスも魔法戦士ではなく、あくまで魔法が使える戦士。まあ、アリスは戦士の肩書の前に凄腕のって付くけどさ。
  このアルトマーの場合はどこまで使えるのやら。
  もちろん魔法に長けているのであれば戦力だし心強いけど、実際どの程度使えるのか謎。
  ミリサは無条件で信頼してるっぽいけど、種族として魔力が高いってだけで必ずしもアルトマーが全員魔法に長けているわけではない。
  まあ、私がいるわけだから大抵の展開は引っくり返せるけどさ。
  援護としては役立ちそうだ。

  あとは非戦闘員。
  農場の主のパーセルさん、雇われている独身農夫が5人、家族で雇われてる夫婦が3組、それと使用人の女性。
  結構な大所帯だ。
  農場を囲むように柵が設けられている。
  とりあえず包囲されてもある程度は進軍を後れさすことができるだろう。
  ゴプリンがちょっかいかけてくる理由すら分からないけど、一度戦いが始まったら私が一気に叩く。今までは追い返すのが限界だったらしいし。
  押したり引いたりの小競り合いは好きじゃない。
  さてさて。
  どう対処しましょうかねぇ。

  

  「ふぅ」
  作戦を考えながら与えられた部屋で大きく伸びをする。椅子に腰かけ、目の前にある机に頬杖をしている。眠い。ひたすらに眠い。
  客室、ではなくシェイディンハルで独立した娘さんの部屋らしい。
  ミリサは客室。
  その他大勢の野郎共は納屋。
  私が厚遇されているっていうよりはパーセルさんの考え方によるもののようだ。どうやらフェミニストらしい。
  シャドウメアは厩舎ですのであしからず。
  「眠くなってきた」
  欠伸。
  私が手助けを申し出て……何時間だ?
  夕食も食べたし今日はもう寝るだけ。
  既に夜。
  今日はお月様は出てる。
  使用人の若いプレトンの女性が食事を作ってくれたけどおいしかったな。このまま寝てしまいたい衝動に駆られる。
  「んー、いかんなぁ」
  集中が途切れる。
  危機感というか集中を持続させないと。
  一応ゴプリンとのバトルって名目だから武装はまだ解かずにそのままだ。
  湯浴みしたいんだけど、シロディールで湯浴みという風習はあまり根付いていない。するとしても基本水浴びだ。それもそう頻繁というわけではない。湯浴みするには浴槽が
  必要だけど湿気とかの対策から莫大な維持費がかかる。少なくとも一般人からしたらね。なので湯浴み、つまり浴槽を持つのは貴族か金持ちだけだ。
  それなりに儲けているのでローズソーン邸には浴槽を備え付けてある。
  ウェルキンド石を浴槽の材料に使ってるから淡いアクアマリンの色が浴室を綺麗に包む、自慢の浴槽。
  ……。
  ……い、いかん。考えてたら余計にお風呂に入りたくなってきた。
  
  コンコン。

  ノックされる。
  「誰?」
  壁に立てかけていたパラケルススの魔剣を手に取り扉に近づく。鞘は抜いてない。
  もちろん、剣を抜く必要はない。
  というか構えるもそもそも必要ない。
  これは、まあ、癖みたいなものだ。
  嫌な癖なのは自分でも分かってるけど、癖はなかなか治らない。

  ガチャ。

  構えときながら扉は自分で開く。
  声で誰かは分かってたし殺意も敵意も感じなかった。
  それだけ分かっていながら身構えるとは本当に嫌な癖だ。
  「どうぞ」
  「失礼します」
  一礼して入ってきたのはブレトンの女性使用人。
  歳は私と同じぐらいかな。
  物腰は柔らかいし動きに優美さも感じる。パーセルさんは農場主で成功者だけど……うーん、この女性がここの使用人っていうのはどうにも似合わない。
  どっちかっていうと都市部向けの人だ。
  まあ、人にはそれぞれ事情とか生き方があるし私が詮索することじゃないけど。
  「コーヒーをお持ちしました」
  「どうも」
  私に寝るなってことらしい。
  もちろん寝るつもりはないし意地悪な見方は、まあ、冗談だ。
  ゴプリンは日中動くけどどちらかというと夜行性だ。
  活発になる。
  動くとしたら一番濃厚な時間だし寝るつもりはない。
  コーヒーを受け取り一口啜る。
  おいしい。
  「女だてらに冒険って、格好良いですね」
  「そう?」
  雑談するらしい。
  うーん。
  私は見た目ほど社交的なほうではない。
  適当にあしらう程度の社交力はあるけど得意なほうではない。最近は家族増えたり仲間増えたりで鍛えられたけどさ。
  「大したことじゃないわ」
  窓際に近寄り、外を見ながら私は言う。
  社交的ではない態度?
  そうかもしれない。
  ただ、何か感じた。悪意というか敵意というか、ざわざわとした感じ。
  不鮮明なのは距離があるからか。
  何かいる。
  無数に、たくさん外にいる。
  「囲まれたか」
  雇った傭兵全部が寝てるわけではない。ただ飯ぐらいのためにパーセルさんも雇っているわけではない。なので交代で男どもは歩哨に立っている。
  眼下を見る。
  松明を手にした傭兵2人がいる。特に変わった様子はない。
  気づいていないのだ。
  気配に。
  そしてまだ黙視できない位置にいるのだろう。
  思えば見回りに出てた2人は帰ってきたのだろうか?
  ふぅん。
  どうも私が思ってたより厄介な状況なのかもしれない。
  数がどんどん増えてくる。
  まだ見えない。
  でも、いる。
  急速に増えている。
  私が出るしかないか。
  コーヒーをテーブルに置いて部屋を出ようとすると女性が声をかけてきた。
  「あの、お口にあいませんでしたか?」
  私は苦笑する。
  プロ意識全開な女性のようだ。
  「おいしかったわ」
  「それは、何よりです」
  「悪いけどミリサを起こしてきて。それとパーセルさんと一緒に隠れてて」
  農夫たちは別棟にいるけど給料にならない戦闘するためにわざわざ出てくることはないだろう。
  その点では安心だ。
  戦場でわたわたと走られても困る。
  邪魔なだけだ。
  「あの」
  「頼んだわよ」
  「あたし、フィオナって言います。よくフィーって呼ばれます。その、頑張ってくださいね」
  「……フィーね」
  同じ愛称に会うのは初めてだ。
  まあいいや。
  ゴプリンどもを蹴散らすとしましょうか。





  クロップスフォード農場。
  深夜。
  月明かりのみが大地を照らす。
  建物の周囲には農園。
  農作物が茂っている。高いものは私の背丈ほど、低いものは私の踝ほどの高さに青々とした作物が覆っている。

  ガサガサ。

  農作物をかき分ける音。

  ガサガサ。

  私が外に出て数十秒。
  ただただ農作物をかき分ける音がする。
  時折小さな影がその中を走り回っているのが見える。
  「……」
  沈黙。
  沈黙。
  沈黙。
  私は押し黙ったまま、右手を背にある魔剣パラケルススの柄にあてたまま立っている。
  敵さんの正体は分かってる。
  その為に雇われたのだから、当然わかってる。
  ゴプリンの群れだ。
  蹴散らすのは容易い。
  だけど農作物ごと消し飛ばしては意味がない。
  向こうはこちらに気付いている?
  さてさて、どうかしらね。
  農作物を収穫するのに忙しいと見える。

  ズルズル。

  「ふぅん」
  何かが引きずられる音。
  音のした方に目を凝らす。
  足が畑に引きずり込まれるのが見えた気がした。
  歩哨に立ってた2人?
  そうかもしれない。
  農作物泥棒しかしてなかったゴプリンども。だけど、当然その邪魔をすれば、排除されるってわけだ。
  2人ともやられたのか1人は逃げたのか。
  ミリサの勧誘を受けた時点では死んだ者がいるとは聞いていない。今夜が初。そしてゴプリンは学んだことだろう、皆殺しにした方が手っ取り早いと。
  だけど……。

  ザシュ。

  「私が来た日に方針変更とは、運がなかったわね」
  茂みから不意に飛びかかってきたゴプリンを私はパラケルススの魔剣で一刀両断。居合は私の得意技だ。
  躯が地面に転がる。
  ウォーロードじゃない。雑魚ゴプリンだ。
  血の匂いが漂う。
  不快だ。
  人間の血の匂いも心地良いってわけじゃない……ま、まあ、心地良いと感じたら変人か……ともかく、ゴプリンの血は人間のより臭い。
  ついでに体臭もね。

  ざわり。

  全身の感覚が殺意と敵意を感じとる。
  おーおー。
  どうやら農作物泥棒をやめて、まずは総出で私を始末するつもりらしい。
  それでも。
  それでもゴプリンは姿を現さない。
  ふぅん。
  農作物の中にいれば、当面は砦の役目を果たすことを知っているらしい。この部族、なかなか頭が良い。まあ、手詰まりになったら農作物ごと吹っ飛ばすけどさ。
  もちろんパーセルさんの手前、出来ればそれはしたくないけど。
  ……。
  ……というかこっちの援軍はどーした。
  「ふぅ」
  受難の年のようだ。
  厄介が連鎖して襲ってくる。
  ついでに、矢もね。
  無数の矢が私に向かって乱舞する。
  良い手だ。
  手出しできない砦の中から私を射抜くつもりらしい。
  ただ……。

  ドン。

  右足で軽く大地を踏む。
  瞬間、今まさに私を射抜こうとしていた無数の矢は見えない何かに阻まれて地面に転がる。全て。
  「その程度で魔力障壁が破れるものか」
  私の力に恐れをなしたのか。
  気配のほぼ大半は遠ざかり始めた。背中を見せて逃げ出した、か。
  賢明ね。
  残りは農作物の茂みから飛びだして私に突撃してくる。
  手には錆の浮いた剣や木製の棍棒をそれぞれ携えてゴプリンどもが襲いかかってくる。その数は12。
  これもまた懸命だ。
  早々に退場すれば絶対的な差を何度も見ずに済むのだから。
  「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  パラケルススの魔剣を振りかぶり、右に一閃。
  そのフルスイングの前に肉薄してきたゴプリンどもは首と体がお別れする。
  持ち主の魔力に比例して威力が増す魔剣。
  私クラスの使い手が持てばこの程度は造作もない。
  残るゴプリンは数匹。
  尻餅をついて後ずさり、武器を捨てて逃げていく。
  ……。
  ……訂正。
  正確には、逃げようとした、だった。
  「シューティングスターっ!」

  ドカァァァァァァァン。

  わー、可愛い火の玉(棒読み)。
  魔法戦士崩れは虚名と判明。
  確かにゴプリンを一匹屠ってるけど、なんだあの恥ずかしい威力の炎の魔法は。
  魔力はそこそこ高いように感じたけど、そうね、魔力の高さと魔法技能の高さはイコールではない。私の推察、かなりは擦れてたわけだ。
  残りのゴブリンはミリサによって射抜かれていた。
  あれ?
  「残りの連中は?」
  「拘束したよ」
  「はっ?」
  「楽な仕事だと思ってたんだろうね。歩哨の奴らがやられたのを窓から見てたらしくてね、ビビッて逃げようとしたのさ。それだけならいいんだけどパーセルの財産の一部を
  持ち出そうとしてたからガウェンと叩きのめして拘束したんだ。で時間を食ったってわけ。すまなかったね」
  「構わないけど、そういえば見回りの連中は?」
  「逃げたんだか酔いつぶれてるのやら」
  「……私が来たからってわざわざ面倒な展開にならなくてもよくない?」
  「狙ってそうなったわけじゃないだろ」
  「まあ、そうだけど」
  アンコターだ。
  アンコターの所為で運が壊滅的なんだーっ!
  おおぅ。
  「ゴプリンは必ず報復に来ます。お嬢さん、次は協力して戦いましょう」
  ふぁさぁと髪をかきあげるアルトマー。
  ナルシストかお前は。
  「ふぅ」
  私はため息。
  残ってるメンバーは、基本どうでもいい。
  問題はゴプリンの攻勢の仕掛け方だろう。この程度の数ならわざわざ勢力を盛り返したとは言わないはず。つまりもっといる。
  逃げた連中は十中八九味方を連れてくる。
  大勢引率してね。
  ウォーロードもいるだろう。
  ゲリラ戦を仕掛けられたら面倒だ。
  私は強いし、大概は何でもできるけど、1人しかいない。
  包囲戦をやられたら全員を守ることは100パーセント無理だ。
  ならばどうする?
  ならば……。



  「……悪趣味じゃないか?」
  「かもね」
  1時間後。
  まだ襲撃はないけど、とりあえず準備は終わった。
  ゴプリンは攻撃的であり凶暴。そして他の生物に対して攻撃的。それさえなければ11番目の種族になった可能性があると提唱する魔術師はいる。大学にもいるし。
  いずれにせよ極端に攻撃的でないのであれば、タムリエルの住人として数えられるだけの要素はある。
  知能も高いし文化もある。
  ビール造りの能力は神技で、一部の部族は人間と取引しているとか。
  勇猛で、それでいてピカピカ光るものが好き。それ故に傭兵として交流があるという部族もいるとか何とか。
  そして何より仲間意識が強い。
  まあ、部族間内に関してのみね。敵対部族には情け容赦ない。
  ともかく。
  ともかく連中は凶暴性を除けば人間臭い一面を持ってる。自分らの部族以外に関してはかなり排他的で極端な連中ではあるものの血統を大事にする。
  私はそれを利用した。
  もちろんそれを利用している以上、私はかなりの悪趣味なんだろうけど。
  まあ、仕方ない。
  だって私は正義の味方じゃないもの。
  「繰り返すけど、あくまで援護をよろしくね。ゴプリンの動き次第では私の手の届かないところをお願い。主力は私が引き受けるから」
  「分かったよ、任せな」
  「了解したよ、お嬢さん。しかし何だな、私ならもっとスマートに……」
  魔法戦士崩れを無視する。
  匂いは次第に強くなっていく。
  仕方ないか。
  死んでいるんだもの。
  クロップスフォード農場の入り口付近に積み重なっているゴプリンの死骸が連中を逆上させる手段。
  ゴプリンは嗅覚が鋭い。
  まあ、私としてはその鋭い嗅覚でお互いの体臭で全滅してほしいんですけどね。
  ともかく連中の嗅覚を利用する。
  死臭を嗅いで敵意全開で来るだろう。ゴプリンにどこまでの戦略があるかは知らないけど、同じことを人間がされても冷静さを欠いた状態になるのが普通だ。
  少なくともいつもの状態ではいられまい。
  挑発。
  それが私の策略。
  ある程度損害を与えれば立て直すぐらいのことはするかもしれないけど、そんな時間は与えない。
  与えてやるものか。
  「あの」
  「ん?」
  フィー……いや、紛らわしい。フィオナがコーヒーを持ってそこにいた。
  私に差し出す。
  差し入れ。
  「お疲れ様です」
  「どうも」
  受け取って一口啜る。
  美味です。
  「ここは戦場になるわ。中に入ってて」
  「分かりました」
  「コーヒーありがとう」
  「ご武運を」
  パタパタと走り去る彼女。
  社交的な人だ。
  ……。
  ……にしてもゴプリンの匂いに顔を歪めなかったな、あの人。
  まあ、いいか。



  どれぐらいの時間が経っただろう。
  死臭が辺りを包んでいる。
  死臭は臭って当然だけどゴブリンのモノはとりわけ臭う。というか生きていても臭う。一度川に突っ込んで洗うというレポートを作成してみたいものだ、臭いが取れるのだろうか?
  そんなことを考えながら私は死体の山の前に陣取っている。
  「来た」
  異質な鳴き声が近付いてくる。
  当然1つ2つではない。
  かなりの数だ。
  まだ夜の闇の勢力が強い時間帯だ、敵さんの姿は視認できないけど、迫ってきている。

  ブン。

  パラケルススの魔剣を振り、その長すぎる刀身を地面に垂らせる形で私は待つ。
  良い剣だと思う。
  持ち手の魔力に応じてその威力が変わる、黒水晶という材質で作られた魔剣。その刀身の長さと反比例して重みがない、まるで羽毛のような軽さ。
  間違いなくタムリエルでも稀有な魔剣だろう。
  さて。
  「始めるか」
  死体の山に触る。
  うー。
  後で殺菌消毒しなければ。
  本気で臭いんですよ、ゴブリンは。くっそー。
  「炎帝」

  ごぅっ!

  ゼロ距離の炎の魔法を発動。
  死体の山は一気に炎上する。
  「うっぷ」
  焼いても臭い。
  どうすりゃいいんだ、ゴブリンの扱いは。
  何気に埋めたらその土地は汚染させるんじゃないか?
  うーん。
  死体の山は炎上、そしてそれは3つの効果を生む。
  1つはゴブリン側の逆上、成功しました。
  1つは篝火的な扱い、成功しました。
  1つは私の嘔吐、成功しました。
  「げろげろーっ!」
  ええ、吐きました、吐きましたとも。
  至近距離過ぎた。
  臭いが、鼻を駆け巡る。
  ……。
  ……くっそー、私ってばヒロインなのに嘔吐シーンとかダメだろ。
  腹立った。
  ぶっ殺すっ!
  「煉獄っ!」

  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  逆上し、突撃してくるゴブリンたちに火球を放ち、接触と同時に爆発。
  最初から死体の山はこれをぶつければよかった?
  いや、それだと爆発効果によって死体の山も吹っ飛んで焼死体が分散されてしまう。荒野ならそれでもいいけど、ここは農場の敷地内だ。さすがにそれをしたら怒られる。
  「ん?」
  ゴブリンの突撃は止まらない。
  そもそも最初の一撃を与えた連中も速度が落ち、第2陣に追い抜かれはしたものの、屈せずに再び迫ってくる。
  「へぇ」
  私の魔法の威力は虫の王戦以降、上がってる。
  何故?
  さあ、分かんない。
  ともかくそんな私の魔法の一撃に耐えるとなると、ふぅん、こいつら確実に強化されてるな。
  どこの部族だ、こいつら。
  結構な数がいる。
  そして強い。
  面白いな。
  これってオブリビオンの下級悪魔よりも強いってことだ、だけどこれなら……どうだっ!
  「裁きの天雷っ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  直撃で死ぬ、余波でも死ぬ、お終いね。
  「はっ?」
  お終い。
  そう思った、だけど雷は突撃してくるゴブリンには届かず、何かに阻まれて消滅。
  魔力障壁っ!
  兵士級に出来ることじゃない、となるとこの軍団の後ろにゴブリンシャーマンがいるのか。
  嘘でしょ、何なんだ、この編成っ!
  聞ければウォーロードがごろごろしてるらしいし、実際今の雑魚兵士級も煉獄には耐えた、私の裁きの天雷を無効化するほどの魔力障壁が張れるシャーマンもいる、テタラメ過ぎんだろ。
  訂正だ、これオブリビオンの中級悪魔より強い。あくまで編成としてねだけど、この編成なら中級悪魔たちともタメが張れる。
  面倒な。
  ゴブリンたちは殺到してくる。
  やれやれ。
  「労働の時間だ」
  パラケルススの魔剣を横に一閃。
  迫ってきたゴブリンたちは両断される。
  私の間合いに入ったら死ぬわよ?
  魔剣は魔力に応じて威力が変わる、もっと正確に言うならば持ち手の魔力に応じて、だ。魔剣に魔力を込めた量に応じて、ではない。私の全魔力に応じて、ノーリスクで威力が上がる。
  つまり。
  つまり魔力を消費しない限り、常に最高の威力なのだ。
  煉獄に耐えようが裁きの天雷に耐えようが、私が持った場合のパラケルススの魔連はどの魔法よりも威力が高い。
  「はっはぁーっ!」
  悪役のように雄たけびを上げながら私は迫りくる雑魚をバッタバッタと無双していく。
  突然変異的に進化した部族なのかもしれないけど、私の敵じゃあない。
  殺す手段なんて幾らでもある。
  ただ、これは私が介入したからこうなっただけで、もし私があそこでミリサに出会わなければこの農場は全滅だっただろうな。
  帝都軍巡察隊では太刀打ちできなかったはずだ。
  まあ、巡察隊が進んで加勢するとは考えられないけど。
  「ほら、掛かっておいで」
  挑発。
  だがゴブリンは後ろに退いていく。
  こいつやべぇと感じたらしい。
  正解。
  私はやばいです。
  噛みます。
  「んー」
  1回ぐらいなら別に反動もないか。魔力が少し減るだけで、全力ブースト後の魔力ゼロ&か弱いフィーちゃん状態にはならない。
  ならば。
  「ブースト&裁きの天雷っ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  放出された雷はさっきの比ではない。
  一瞬何かに阻まれるもののそのまま突き破り、そして兵士級は直撃と余波で吹き飛んだ。
  ふふん。
  その程度の魔力障壁で私を止められるものか。
  何だかんだで私はシロディール最強ですね。
  少なくとも魔法勝負で私に対抗できるのは精霊使いのアルラぐらいか、少なくとも私が知る限りでは。
  もっとも戦いというのは不確定要素とかいろいろあるので誰にでも勝てるってわけではない、しつこく絡んでくるカラーニャと黄泉も充分面倒な的ではある。
  さて。
  「ようやく見晴らしがよくなった」
  兵士級は吹き飛んだ。
  何匹か余波を耐え、何匹か範囲外で助かりはしたものの、たかだか6体。
  視界が開ける。
  そしてようやく視界に入る、大型のゴブリン。
  「ウォーロード」
  10体いる。
  こんな辺境に10体。
  いや、辺境だからいるのかごろごろと。とはいえ10体も纏めてみたのは初めてだ。
  これ何らかの力が作用しているんじゃないか?
  誰かが裏で糸を引いてる?
  意図は何だ?
  ゴブリン軍団を率いてこの辺りを帝国から切り取るつもりか?
  出来ないことじゃない。
  繁殖力高いし、ウォーロードはこの世界では食物連鎖のかなり上の方の奴だ。一般人でも武器を持てばゴブリンは殺せるけど、ウォーロードには逆さになっても敵わない。それが10体。
  そしてその背後にはぼろぼろの包囲を纏ったシャーマン級が5体。
  ああ、なるほどね。全員で障壁張ったから私のノーマル状態の裁きの天雷が無効化されたのか。
  ……。
  ……これ、やばい案件だな。
  こいつらの進化速度は分からないけど、通常のゴブリンとは進化、いや、成長の度合いが違う。こんなに強い部族は見たこともみないし聞いたこともない。
  将来的にやばいな。
  全部ここで潰す必要がある。
  この系統のゴブリンが今後も繁殖し、増えられても困る。
  帝都や都市はいい。
  だけど辺境ほど蹂躙される、ならば。
  「お前ら殺すよ」
  それを合図にウォーロードが迫ってくる。
  もう一度行くか。
  「ブースト&裁きの天雷っ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  シャーマンが直後に詠唱、そして阻まれる雷。その一瞬の後に雷は再び速度を取り戻す、障壁を破った。
  ウォーロードに直撃、余波。
  直撃はさすがに耐えられないのか1体はそのまま炭化。だが残りは迫ってくる。
  ふむ。
  やるやる、そうこなくちゃっ!
  「絶対零度っ!」
  冷気の魔法。
  威力そのものよりもその効果に期待、威力も高いんですけどね、ともかく冷気系の追加降下発動。ウォーロードは急激に下がる温度により動きが阻害される。鈍くなる。
  シャーマンたちが魔法を放ってくる。
  作戦変更か。
  私が障壁を易々と破ることを理解し、攻撃魔法に切り替えたようだ。
  ウォーロードを巻き込むことも気にしていない。
  まあ、豆鉄砲です。
  私にもウォーロードにも効かない。私は魔法攻撃ほとんど効かないし、この程度なら痛くもなんともない、煩わしいだけだ。もっともこれが目的なのかもしれないな、当たった瞬間にはさすがに
  集中が途切れ、魔法の方に意識が行ってしまう。
  「はあっ!」
  一刀両断。
  ウォーロードはガードしたまま、剣を断ち切られて果てる。
  ふん。
  私にとってはもうこんなに容易い相手なのか。
  考えてみたら最近はボス級ばかりの相手で苦戦を強いられていた、私って実は弱いのかとも考えてはみたけど、要は相手も私も拮抗し過ぎて決定打をお互いに与えられない泥仕合になってただけ。
  たまには良いでしょ、私ってば強いっ!な展開。
  「はっはぁーっ!」
  斬る。
  切る。
  killっ!
  ウォーロードの体を剣で貫く。

  ガッ。

  「へぇ?」
  だがそいつは果てず、そのまま剣を掴んだ。腹に剣を生やしたまま。
  3体が武器を手に殺到。
  「竜皮」

  ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  1分間、それも1度使用したら24時間後にしか使えない限定ではあるけれども、私は一時的にドラゴニアン並みの防御力となる。
  突き立てられた武器はへし折れた。
  「誰に喧嘩売ったかお分かり?」
  にこりと笑い、突き刺さった剣をそのまま力尽くで上に振り上げる、ガッツを見せたウォーロードは当然死亡。そして私は無力化した手近なウォーロードを2体斬り伏せ、残りに剣を振るう。

  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  途端、ウォーロードの体に異質な鎧が現れる。
  そして手には異質な斧。
  武装召喚っ!
  こいつがやったわけではないだろう、となるとシャーマンが?
  これ、やばいな。
  本気で駄目な案件だ。
  魔力さえあれば武装召喚は出来る、あとは技術を体得するか、悪魔と何らかの契約してその力を得るか、いずれにしても魔力と方法さえあればできる。
  私も部分召喚ぐらいはするし。
  だから。
  だから別にシャーマンが出来てもおかしくない。
  問題はそのやり方だ。
  他者を、それもこんなに離れてるのに武装召喚を施すなんて技術は聞いたことも見たこともない、文献にもない。
  文化レベルこそいまだにゴブリンなのかもしれないけど、こいつら完全にゴブリンの範疇超えてる。
  進化速度がやばい。
  ならば。
  「一気に決めるっ!」

  タッ。

  私は走り、ウォーロードをやり過ごす。
  逃げると踏んだのか生き残りの兵士級も一緒になって追ってくる、そして私はシャーマンどもとウォーロード&兵士級に挟まれる形で止まる。
  1体でも見逃せない。
  全部潰す。
  「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  さあ、行くぞーっ!
  「神罰っ!」
  荒れ狂う雷が周囲を包む。
  シャーマンたちは何か印を切ろうとしているけど、魔力障壁なんぞ張っても意味がない。2秒ほど延命できるだけだ。
  武装召喚も意味がない。
  そう。
  全て意味がない。
  消し飛ばす。
  それだけだ。
  「ぜえぜえ」

  ドサ。

  雷が荒れ狂い、全てが消えた後、私は別世界の虚弱おっぱい娘のようにその場に倒れ込んだ。
  ……。
  ……虚弱おっぱい娘って誰だ?
  うーん。
  疲れ過ぎて思考が謎だ。
  あのアルトマー何の役にも立たなかった、まあ、別にいい。あんなのが出張ってきてもお守りに疲れるだけだし。
  寝たい。
  このまま寝たい、
  だけどまだ終わりじゃない。
  「奴らの巣穴の調査をしなきゃね」