天使で悪魔
進化論 〜前編〜
イベントに巻き込まれること。
それは主人公の勤め。
ブルワーク砦。
そこには聖戦士の聖具があるらしい。レリックドーンの本隊も集結しているらしい。連中は先のアルケイン大学襲撃でかなりの大敗を喫した。噂で聞く
限りではコロールあたりで敗北もしたようだ。噂の真相は分からない。いずれにしても連中の戦力は低下している。
一気に蹴散らしてやる。
潰せる内にね。
「今日も良い天気」
シャドウメアに揺られながら私は街道を行く。
レヤウィンに滞在?
してない。
聡明の軍師ベルファレスがブルワーク砦進撃の為の援軍を集め、レヤウィンで合流する……はずだった。
当初はね。
ただカラーニャが復活して襲撃してきたり黄泉が再登場したり。
挙句には2人が勝手に戦いあった。
まあ、勝手に潰し合ってくれるのはありがたいんだけどね、ただ意味が分からないから不気味ではある。何しろカラーニャは虫の王の手下の生き残り。
黄泉もそう自称している。その2人が何故かいきなり潰しあう。しかも黄泉はカラーニャを知ってたけどカラーニャは黄泉を知らなかった。
興味深い状況ではある。
興味深い状況ではあるけど楽しんでばかりもいられない。
それにカラーニャの与り知らないことみたいだけどレヤウィンでは何かが起こりつつあるらしい。
確かに何か妙な魔力は感じた。
そして付けられた。
誰に?
さあ知らない。
なので早々にレヤウィンを辞去して私は北上している。朝食も取らずに翌朝出立。ベルは元至門院の陰謀屋。しかも自分で聡明の軍師を名乗ってる。
ある程度の事は把握しているはず。
まあ、要は私は常に監視されてるってわけだ。
向うで私を探すだろ。
そしてその都度計画を修正している。それだけの才覚をあいつは持ってる。なので私は出立した。本音を言えば大学に預けたままの天音やレヤウィンの異常さ、
ダゲイルと話したりレヤウィンの状況をラミナスに知らせたほうがいいような気もする。
ただ状況がそれを許さない。
街道を大きく迂回しつつブルワーク砦に向っている。
一直線で行こうと思えばシャドウメアの脚力があれば行けるんだけどね。
ただ……。
「ご苦労なこと」
私は馬上で呟く。
まだレヤウィンの支配領内だからか知らないけど誰かが付けてくる。
姿は見えない。
でも確実にいる。これがレヤウィンの状況を調べれない理由。
元闇の一党ダークブラザーフッドを舐めるなよー。それぐらいの気配は読める。まあ、このスキルはそれ以前からのものだけどさ。
密林で襲われたら面倒だから街道を迂回中。
それにしても何者だろう?
付けてるのは雑魚っぽいけどあの街には異常な魔力の揺らめきを感じた。ただ未来視のダゲイルがいるんだから問題がないのかもしれない。あの支部長なら
何かを事前に感じ取って大学に報告するだろう。天音のことはラミナスに委ねるとしよう。
私は出来る女だけど1人しかいない。
レリックドーン壊滅の件は走り出してる。まずはこっちを優先して片付けるとしよう。
もちろん気掛かりもある。
アリスやフォルトナ、レヤウィンに立ち寄らなきゃいいけど。私は久しく会わない仲間たちのことを思い浮かべていた。
……。
……あー、あとアルラね。
べ、別に嫌ってわけじゃないんだからねっ!(ツンデレ風味)
私は北上する。
私は北上。
昼頃には追っ手は消えていた。
まあ、正確には追っ手なのか監視なのか、はたまた何にも関係なかったのかは分からないけどね。
「ふう」
馬上で溜息。
私は強いし基本何でもできるけど無敵でも不死身でもない。
追い回されるのは良い気持ちがしないものだ。
追って追われての追いかけっこはどちらの立場であっても神経が無駄に磨り減る。可能であれば遠慮したい。それが私の本音。
もちろん喧嘩吹っ掛けられたら叩きのめすけどね。
完膚なきまでに。
それにしても何故いきなり追跡は終わったのだろう?
結局相手の姿も正体も分からないから推測のしようがない。
……。
……レヤウィン領内を越えたから?
ああ。
それはありえるかも。
この近辺はおそらくシェイディンハル領内になる。
関係あるのかもしれないしまったく関係ないのかもしれないが自分の中で納得させる1つの推測は成り立った。
さてさて。
「これからどうしたもんかな」
ベルの方で私を勝手に探すだろう。
ブルワークで待つのもいいけど援軍の到着予定を私は知らない。だからここはレリックドーン本隊がうろついているブルワーク砦待機は避けた方がいいか。
シェイディンハルに行く?
まあ、妥当か。
ただ既に壊滅してるけど闇の一党の聖域があそこにある。私の中で三大悲劇の1つとも言える記憶があそこにはある。ルシエンの浄化の儀式だ。最終的に
私が奴の思い通りに動かずに家族を救ったけどあの時奴の指令を受けた際の嫌な感情はまだ残ってる。
「ん?」
シャドウメアが止まった。
私は何もしてない。
立ち止まって低く嘶いている。
「シャドウメア?」
追っ手?
私は周囲を窺う。
佇む街道。
その周囲には茂み、森、藪、視界を遮り伏兵にもってこいの自然の砦。
神経を集中させる。
キィキィという声が近付いてくる。
ふぅん。
どうやらゴブリンのテリトリーに入ったか移動中のゴブリンに遭遇したらしい。部族によって武装の度合い、強弱の差があるけど今の私の前では雑魚でしかない。
どんなに強い部族でもね。
帝都軍巡察隊時代に介入したゴブリン戦争時代より私は遥かにレベルアップしてる。
シャドウメアに跨ったまま背にあるパラケルススの魔剣の柄に手を回し……思い直して右手を茂みに向ける。
剣を抜くまでもない。
魔法で1発だ。
出てくるのを静かに待つ。
出てくるのを……。
ガサガサ。
緑色の生き物が飛び出してくる。
全身に矢が突き刺さったまま。
ドサ。
そしてそのまま引っくり返って動かなくなる。
ウォーロードか。
普通のゴブリンより一回りでかい。
ゴブリン・ウォーロード、中級クラスの戦士ではまず歯が断たない。まあ、単独ではね。仲間数人でブルボッコにするなら勝てるだろうけど。
……。
……そういえばアリスとの出会いもウォーロード戦だったな。
当時のアリスでは荷が重い相手だった。
今?
今は上級クラスの戦士。
ウォーロードでも問題なく倒せるだろう。
さて。
「どうしていきなり死んでるわけ?」
うん、話を元に戻そう。
登場したウォーロードはいきなり死んでる。
突然死?
まあ、確かに突然死んでるから突然死という表現でもいいんだろうけど……普通の突然死は矢だらけって状況はおかしい。
ガサ。
茂みが揺れる。
気配が複数生まれる。
近付いてくる。
殺意と敵意を感じる。
アンほどではないけどこの類の気配の方が私には読み易い。大学に拾われるまではそういった感情の中で生きてきたからね。
だからこそ読める。
そしてさらに深く感じ取れる、これは私に対しての殺意や敵意ではないと。
「どうやら仕留めれたよう……おや、あんたは……」
茂みの中から現れたのはレッドガードの冒険者。
弓矢を携えている。
ボズマーの弓矢男とアルゴニアンの弓矢……男か女か、トカゲは分からない。ともかく2人を連れている。冒険者仲間だろうか。
うーん。
今日は同窓会だっけ?
まあヴァレンウッドとブラックマーシュの奴らは知らんけど。
「フィッツガルド・エメラルダ、だったよね?」
「ええ。ミリサ」
ミリサ。
ゴブリン戦争から身で知り合った冒険者だ。
「ウンバカノが失踪したんだってね」
「ウンバカノ?」
アイレイドコレクターの馬鹿の話が何故出てくる?
それにもうかなり前の話だ。
「あんたあいつの部下だろ?」
「ああ」
そういえばウンバカノの下にいた時にミリサに会ったっけ。
インペリアルブリッジだっけ?
使い走りしたなー。
そういえばあそこにいたウンバカノの学者はどうなったんだろ。
まあ、どうでもいいけど。
「クライアントが死んで今は何を?」
「まあ、旅を。そっちは?」
「クロップスフォードの警護をしている。バーセル・ガーナンドに雇われたってわけ。2人はまた別に雇われた冒険者だよ。集落にも3人いる」
「雇われた?」
死んだゴブリンを見る。
奇妙な因縁だ。
雇われた=集落に問題がある、そしてゴブリン絡みと見るべき?
それが妥当だろう。
おそらくね。
だけど完結したはずだ。
ゴブリンの部族のいた洞穴は殲滅した。残りがいたとしても大したことはあるまい。
「潰したはずよ」
「そう。あれで掃討したはずだった。でも最近勢力を盛り返したらしくてね、それでまた雇われたってわけ」
「冒険者数人が?」
「そう。前回より性質が悪くなってる。ウォーロードもごろごろしてる」
「はっ?」
こいつらは珍しい存在奈はずだ。
普通1つの部族にはいても数匹。ごろごろという表現はおかしい。
ふぅん。
少し興味が湧いた。
「クロップスフォードに行ってみましょうか」