天使で悪魔






遠征






  追撃の準備。
  敵は叩ける内に叩いておくのが得策であり上策。

  さあ遠征の準備をっ!






  今夜は色々とあった。
  そう。
  色々と連続してね。


  @ライカンスロープの軍団を従えた翁襲来。
  A白骨のザギヴの一派が従えていたデッドアイを翁が再利用……するものの突然暴走して翁死亡。派閥壊滅。甥のヴァルダイン逃亡。
  B混乱のドサクサにレリックドーンがアルケイン大学の一部を制圧。
  Cレリックドーン仲間割れ。マッケンゼン死亡。
  D行方不明のフィフスがレリックドーン側にいた。

  今のところはそんなところかな。
  ともかく。
  ともかく翁は死に、その組織は壊滅した。
  レリックドーンの組織の全容は知らないけどかなり数は減ったはず。幹部クラスっぽいマッケンゼンは喪部に殺されたし、その喪部はレリックドーンに
  とっては獅子身中の虫的な存在。敵の敵は味方ではないけど、敵にとっての敵なら利用のし甲斐がある。
  利用しないという手はないだろう。
  叩ける時に叩く。
  策略の王道です。
  ……。
  ……いやいや。策略と言うほどでもないかな。
  常識、かな。
  さて。
  「立て籠もっている数は?」
  「10名です」
  「ふぅん」
  「突入しますか?」
  「いいわ。私がやるから」
  バトルマージは敬礼して下がった。
  時間はまだ深夜。
  とっとと片付けて寝たいものですな。
  喪部がフィフスと撤退した時、既に大学内を制圧していたレリックドーンの部隊は壊滅状態。残った残存戦力は逃げるに逃げれずに建物に立て籠もっている。
  バトルマージの部隊は建物を包囲しているものの手が出せない。
  まあ、手を出さないという意味合いもあるけど。
  私がそう指示をした。
  もちろんそれだけじゃあないけどね。
  人質がいるのだ。
  人質が。
  「ラミナスめぇー」
  あんのボケ、捕まってる。
  殺される?
  それはないだろ。
  レリックドーンは完全に袋の鼠。窮鼠猫を噛むということも想定できるけどそれはないだろ。
  何故?
  だって連中は私に建物に入ってこいと要求してる。
  つまり私と何らかの話をしたいらしい。
  罠?
  まあ、罠でしょうね。
  もしかしたらラミナスの人質にすることで身柄の安全を図りたいのかもしれない。
  だけどそれは甘いだろうよ。
  突然殴り込みかけてきて反撃され、予想以上に殴り返されたから帰りたいと泣き付かれたってそうはいかない。
  あいにく私は善人ではない。
  聖人君子になるつもりだってない。
  「アークメイジ」
  「ん?」
  「例の少女がきました」
  振り向く。
  天音がいた。
  何だかよく分からない謎の言語を操る、謎の少女。魔力を無効化する能力がある。
  「(ρд-)zZZ」
  「眠いの?」
  彼女は頷いた。
  まあ、そうね。
  私だって眠い。深夜だし。お肌に悪いし。とっとと片付けて寝たいものだ。
  「天音」
  静かに語る。
  この子の能力は使える。特にレリックドーンの兵士の大半は鎧人間。魂が鎧に宿っている状態。魂とは魔力の塊と定義されることもしばしばあるし事実
  そうだと思う。魔術師が自身の生命力を魔力に転換することはザラだし翁のように魂を利用して外法を使うことも出来る。
  さて天音の能力は?
  「頼みがあるのよ天音。今から私と一緒に建物の中に入って能力を発揮して欲しいんだけど。頼める?」
  「(゚▽゚)/」





  翌日。
  私は遅めの朝食を私室で摂っていた。
  立て籠もり事件?
  ああ。
  一瞬で解決です。
  天音の能力は魔術師殺しと言っても過言じゃあない。
  ……。
  ……まー、レリックドーンの鎧兵士は魔術師じゃないけどね。あくまで例えです。
  ともかく天音の力で鎧兵士はただの鎧となった。
  中和能力で連中の魂は消滅。
  もっともその能力は無差別で私とラミナスの魔力も一時的にゼロになりその建物の中にあった魔力アイテムは永遠に魔力を失った。魔力アイテムは込
  められている魔力はチャージしない限りは魔力を維持できない。補填は可能だけど、一度全てを失えばもはや元に戻る事はない。
  被害総額は、まあ、微々たるモノだけど。
  その建物にあった魔力系のアイテムはあくまで魔術師達の私物ですから。
  問題は人的被害。
  翁とレリックドーン、2つの派閥の攻撃によりバトルマージにも死者が出てる。それは予算を計上すれば何とかなるものではない。
  再編はする。
  再編はするけど失った命は2度と戻らない。
  敵はスパスパと斬るし魔法で問答無用で吹っ飛ばすけど私にも身贔屓というものはある。部下を殺されてあまり機嫌は良くない。
  レリックドーンめ。
  必ず決着を付けてやる。
  もちろん1人逃げた翁の派閥の生き残りのヴァルダインもね。
  「うっまー☆」

  カチャカチャ。

  フォークとナイフで丁寧にムニエルを食べる。
  美味ですなー。
  同席?
  まさか。
  ご一緒はしてないです。
  そもそも私はあんまり派手なのは好きじゃないし家族は苦手。たぶんレイリン叔母さんとの生活やオブリに飛ばされた経験からなんだろうけど私は
  基本的に孤独を好むのですよ。確かにローズソーン邸とかでは一緒に食べるけどたまには一人で食べるのもありだ。
  けっこう自分のことを猫だと思ってる。
  もちろん別にアン達と一緒にいる時間はフェイクではないです。ただ、あまり得意ではないのです。
  そういう時間が嫌いではないんですけどねー。
  まだ慣れてない。
  まだ。

  コンコン。

  「どうぞ」
  「失礼します」

  ガチャ。バタン。

  入ってきたのはラミナスだった。
  「どうしたの?」
  食事の手を止めて聞く。
  「フィッツガルド」
  「何?」
  「読者は待っている」
  「はっ?」
  「お前と私の18禁な展開をっ! 今か今かと待っているっ! まずはブルマに履き替えるのだっ! サイト開設からかなり経っている。ブルマ導入は必然っ!」
  「マニアックなエロかお前は」
  「失敬な奴だなっ! ブルマなど今では標準的だっ!」
  「はぁ」
  溜息。
  助けずに始末しとけばよかったかもしれない。
  マッケンゼンあたりにしてやられちゃう補佐官なんて何の役に立つんだろ。
  やれやれだぜー。
  「何か報告でも?」
  「はい」
  「どうぞ」
  促す。
  「殉職したバトルマージの葬儀の手配は済みました。遺族にも連絡済です。まもなく最後の対面に来るはずです」
  「そう」
  翁一派&レリックドーンの襲撃でバトルマージの死者は13名出た。
  この世は決してメルヘンではない。
  残酷な世界。
  「デッドアイはどうしたの?」
  翁が再利用した災厄の名を口にする。死の瞳を持つ災厄は再利用した翁を殺した。
  デッドアイの背中から黒い球体が出現、そして消失。
  抜け殻状態のデッドアイの対処を私はラミナスに託していた。
  ……。
  ……黒い球体ねぇ。まさかガンツですか?
  もちろん上映されたら見に行きますとも見に行きますとも(笑)
  さて。
  「アークメイジの指示通り溶鉱炉に沈めました。帝都の鍛冶師組合が協力してくれました」
  「溶けたの?」
  「一応は」
  「そう」
  これでデッドアイの一件は終わりね。
  まあ、消失した黒い球体がデッドアイの本体か何かだろうから完全解決ではないだろうけど。
  「翁の手勢の死体の処理も完了しました」
  「レリックドーンは?」
  「これも処理済です。もっとも連中は三分の二は鎧兵士でした。魂の抜けたドワーフ製武具を廃棄処分するのはいささか勿体無かったですが」
  「処分したんでしょうね?」
  「はい」
  
魂が宿ってたモノだからね、ちゃんと処分しないと安心できない。
  呪われそうだし。
  厄介なものはわざわざ背負う込む必要はない。
  「天音は?」
  「あの少女の力は未知数ですが使用後に反動があるようですね。食料庫の半分を食べたあと爆睡しています」
  「はい?」
  食料庫の半分だとぉーっ!
  すげぇっ!
  既にフォルトナを超えてるじゃんっ!
  おおぅ。
  「あの食欲、今期の予算では賄いきれません。増額を進言します」
  「ま、任せるわ」
  「かしこまりました。ところでアークメイジ」
  「ん?」
  「至門院の男がレリックドーンの拠点を知っているそうです」
  「嘘っ!」

  バン。

  私はテーブルを叩く。食器が揺れた。
  レリックドーン組織の全容は知らないけど今回の一件で戦力は低下しているはず。
  叩ける内に叩きたい。
  「どこっ! どこに連中はいるのっ!」
  「ブルワーク砦です」
  「ブルワーク砦?」
  「未開の地にある遺棄された砦です。近辺には残虐な山賊団が出没していたらしいのですが……最近、山賊は全て駆逐されたようです」
  「つまりそこは恒久的な拠点ではないわね」
  「仰るとおりです」
  元々レリックドーンが拠点としているなら山賊団はとうの昔に駆逐されていたはずだ。しかし最近駆逐されたとラミナスは言った。
  つまり最近移り住んできた、ということだ。
  だが何故連中はそこにいる?
  何か意味はあるの?
  そう。
  何か意味があるからこそそこに引っ越して来たのだ。
  だがそれはアルケインに喧嘩を吹っ掛ける為の拠点ではあるまい。いくら何でも人里離れ過ぎてる。
  所在を明らかにしない為とはいえその距離はデタラメ過ぎる。
  円滑な襲撃が出来る距離じゃあない。
  何かあるのは確かだ。
  「ベルは?」
  「ベルファレスは手勢を集めると言って先程出て行きました」
  「手勢?」
  「ふぅ」
  溜息を付くラミナス。それから急にざっくばらんな口調になった。
  補佐官としてではなく保護者モードってわけだ。
  嫌いじゃない。
  嫌いじゃないわね、こういう関係。
  「フィッツガルド」
  「何?」
  「連中の場所を知ったら殴りこむんだろう? そして大学には現在余分な戦力はない。……どうせ単独で動くつもりだろうが」
  「ばれた?」
  「当然だ。ベルファレスには私から軍資金を渡しておいた。人集めも得意らしいから戦力を調達してもらっている」
  「別にそこまでしてもらわなくても……」
  「奴からの忠告だ。ブルワーク砦にはかなりの戦力が集結しているらしい。レリックドーンのほぼ全戦力がそこにいる、ようだ」
  「全戦力がそこにいる?」
  「ああ」
  ふぅん。
  完全に何かあるわね、その砦には。連中が求める、本命のお宝か何かかしら?
  まあいい。
  連中が求めているのであればそれを奪うまでだ。
  奪ってさえしまえば、ブルワーク砦で全て殲滅し損なってもその何にかを奪還する為に姿を現すだろう。
  良い餌になる。
  「アークメイジ、実は魔術師ギルド絡みでの厄介もあるのだが……こちらで処理してもよろしいですか?」
  「うちのギルド絡み?」
  「正確には魔道法絡みです。……まあ、惑うほうは必然的にうちの管轄ですので魔術師ギルド絡みかと思いますが」
  「何かあった?」
  「シェイディンハルで連続猟奇殺人が発生しています。正確にはシェイディンハルを中心に発生、周辺に飛び火しています」
  「猟奇? どんな?」
  「両目が抉られています。被害者全員。既にシェイディンハル都市軍が動いているようです」
  「……」
  黙る。
  ラミナスの言葉の意味を私は考えた。
  魔道法絡み。
  つまりは……。
  「犯人は魔術師だと?」
  「はい。過去の文献を調べましたら同様の手口があります。これは<人魚の涙>の手口かと」
  「人魚……ああ、あの禁制の?」
  「はい」
  100年も前に根絶されていたと思ってた。
  まだ使用者がいるのか。
  「処理は任せるわ。悪いけど戦士ギルドにも協力要請を。私から書状は書いておくわ」
  「了解しました」
  こっちの一件はラミナスの任せるとしよう。
  手口が分かっているのだからあぶり出しは簡単なはずだ。流通ルートを把握するだけで一網打尽に出来る。魔道法が適用されるからシェイディンハル
  都市軍の動きもこちらの管轄になる。ギャラス隊長にも協力してもらうとしよう。
  さて。
  「私はレリックドーンの件で明日には発つわ。天音をよろしくね」
  「ベルファレスはレヤウィンで合流しようと言っておりました」
  「了解」
  頷く。
  ラミナスはまだ私の前に立っており退出しない。
  彼の顔を見ると親しげに微笑していた。
  「フィツガルド」
  口調が変わる。
  ざっくばらんな口調になる。
  私は咎めない。
  ラミナスは私にとって兄同然の人だし。
  ……。
  ……というかそんな口調で咎めるようなら、エロトークした時点で処刑ものですけどねー。
  おおぅ。
  「何?」
  「お前はあいつを信用しているようだが奴の心底は知れんぞ?」
  「まあ、その時はその時よ。展開引っくり返すの上手よ、私」
  「確かにな」
  「でしょ?」
  「ベルファレスの情報網の正確さは知らん。知らんが集結する意味が私には分かるような気がする。奴の情報は確かに正しい。その砦には伝説があるんだ」
  「伝説?」
  「あるんだよ。その砦に聖戦士の盾が」