天使で悪魔






5番目





  有史以前より12の力が存在する。
  彼らは待っている。

  真なる主、人形姫の復活を。






  「フィフスっ!」
  「けけけ」
  少年がいる。
  喪部の加勢に現れた少年が。
  その者、人間ではない。
  以前見たことがある。
  魔道人形マリオネットのフィフス。かつてフォルトナの従者だった少年だ。
  詳しい経緯は知らないけど現在行方不明。
  フォルトナの旅の理由もフォルトナを探すという意味合いが強いらしい。
  何故そのフォルトナがここにいる?
  ……。
  ……いや。正確には何故喪部の救援の為にここにいる?
  意味が分からない。
  まったく同じ顔の別のタイプとは考えにくい。
  従順で無個性の兵士は下級タイプのマリオネットには同じ顔が多い。
  多分量産されたからだろう。有史以前の話だからよくは分からないけど量産型。しかしフィフスはそうじゃない。上級タイプ。そして上級タイプの数は全部
  で12体いる、それらは総称してマリオネットナンバーズと呼ばれている。番号が先の奴ほど強い。
  フィフスは5番目。
  前に戦った時からその能力は知っている。かなり強かった。
  ただ物理能力オンリー。
  つまり接近戦のみ。
  またマリオネットは総じて魔法に対しての耐性がない。魔術師の私にしてはそう怖い相手ではない。
  間合さえ保てば。
  「フィフス、よね?」
  「けけけっ!」

  バッ。

  飛び掛ってくる。
  問答無用か。
  軽いフットワークで私は回避。魔力はまだ完全には戻ってきてないけど体のほうは元に戻ってきてる。……と思う。
  相手の飛び蹴りを避けてからパラケルススの魔剣を奴に向けながら間合を保つ。
  フィフスは口笛を吹き、両手を上げて止まった。
  「けけけ。お手柔らかに」
  「私を忘れたの、フィフスっ!」
  「知らねぇよお前なんて」
  「……」
  洗脳されている?
  そうかもしれない。
  人格があるとはいえ元々生命体ではない。あくまで人形姫によって創造された存在だ。強力な魔力の干渉で記憶を書き換えられているのかもしれない。
  レリックドーンに?
  そうね。
  その可能性はある。
  喪部を見る。
  「これがあんたの人形劇?」
  「違う。少し違う」
  「はっ?」
  「フィフス。何故君がここにいる? ボクは君を呼んだつもりはないぞ?」
  どうやら喪部も与り知らないことらしい。
  ただし仲間なのは確かだ。
  どういうこと?
  フィフスがレリックドーンに組している?
  まあいい。
  とりあえず喪部をぶっ倒せばいい。
  処方箋は楽だ。
  2人は会話を続ける。
  情報源としては使い勝手がいいので私は相手を牽制しつつ相手の話を聞く。
  「けけけ。喪部の旦那。外の連中はほぼ全滅だぜ?」
  「そうか」
  「建物に立て籠もって抵抗している連中もいるけど、まあ、無駄な抵抗だろうな。上の階じゃあマッケンゼンの旦那が死んでたぜ?」
  「そこのフィッツガルド・エメラルダに殺されたのさ」
  「けけけ。あの筋肉ダルマ口ほどにもないぜ」
  「同感だ」
  よく言うわ。
  自分で殺しておきながらね。
  もっともそれをフィフスに教えるつもりはない。喪部がレリックドーンにいるほどが引っ掻き回せて楽。……今のうちに始末した方が楽かもしれないけどさ。
  「どうして君がいる?」
  「シュミット卿の命令さ。翁とかいう奴の一派が暗躍している可能性があるから作戦中断して撤収しろとよ」
  「その忠告は遅かったね」
  「けけけ。らしいな」
  「部隊は全滅、支援部隊指揮官のマッケンゼンも戦死、そして九龍の秘宝は既に存在しない。遠い昔に虫の王に奪われたらしい」
  「けけけ。で?」
  「撤退だ」
  「けけけ。それが妥当だよな」
  逃げる気か。
  私と視線を交差させながら喪部は笑った。
  「そういうわけだ。ボクは撤退させてもらうよ。こういう幕切れは実に残念だよ。決着を決つけたかったんだけど状況が許さなくなった」
  「だったらここで私と戦えば?」
  「いやいや。君には敵が多そうだからね。わざわざボクと戦うまでもないだろ」
  「敵、ね。例えば銀色とか?」
  「くくく。せいぜい虫の王の遺産を巡って外法使いどもと遣り合うがいいさ」
  「あんたはどうするの?」
  「ボクはアイレイドが遺した次の痕跡でも探すことにするよ。別の任務も待っているだろうしね。世界は広い。そして、その失われた文明の数だけ
  秘宝は存在し受け継ぐ者を待っている。つまりボクのような者をね」
  「逃がすほどお人好しだと思ってるの?」
  「まさか」
  ちらりとフィフスを見る喪部。
  人形は頷く。

  どすん。

  「……?」
  振動がした。
  何だ?

  どすん。
  どすん。
  どすん。

  地響きは近付いてくる。
  ゆっくりと喪部とフィフスは後ろに下がり、そして背を向けて地下から出るべく階段の方に移動する。
  追う?
  追わない。
  私は黙って見ていた。
  何故なら振動の元凶が階段から降りてきたからだ。マッケンゼン並の体格の存在が現れた。人間の姿をしている。ただし顔がツヤツヤな銀色の顔。
  確かに。
  確かに人の顔。眼も耳も鼻も口もある。ただし銀色。正確にはメタリックというのだろうか。
  人ではないわね。
  マリオネットの類だろう。
  喪部たちは新手のマリオネットの脇を抜けて階段の目の前まで来る。そこで喪部は振り向いた。
  「それじゃあ機会があればまた会おう」
  冷たい微笑を残して喪部はこの場を後にした。
  フィフスとともに。
  何なんだ?
  何なんだ、一体っ!
  どうしてフィフスはレリックドーンに従ってるんだろ。
  フォルトナに知らせるか知らせないかで迷うけど、今は目の前の敵に専念しよう。現れたのは愚鈍そうなデカ物マリオネットだけどわざわざこの
  場を任せるぐらいだからそれなりには強いのだろう。もしくはタフなのか。いずれにしても時間稼ぎ的な感じ、かな。
  えっ?
  私を始末するための刺客?
  だとしたら笑えないジョークだ。
  笑えない。
  一撃で仕留めるっ!
  「煉獄っ!」
  炎の弾を放つ。
  裁きの天雷を使用するにはまだ魔力が足りない。ブーストの反動で魔力が足りない。
  「オデ、コンナノキカナイ」
  「なっ!」
  喋ったっ!

  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  奴は大きな手で炎の弾をなぎ払って爆発。
  直接炎は届かない。
  ……。
  ……ちっ。少し甘く考えてたかな。
  こいつもナンバーズか。
  ナンバリングは知らないけど喋るということは人格がある、個性がある、そしてナンバーズはそれぞれに1つだけ特殊能力がある。
  このデカ物の場合は……。
  「巨大化ね」
  「オデ、オマエコロス」
  「はいはい」
  巨大化した。
  それもサイズがおかしい。上半身だけ巨大化。ここの天井は高い方だけど奴の頭は天井に付きそう。よくあの巨大化した上半身を足で支えられるもんだ。
  「オマエコロスーっ!」
  「ほざけ」

  どすん。
  どすん。
  どすん。

  「煉獄っ!」
  超スロー速度で突っ込んでくる奴の足に叩き込む。爆発。そして奴は爆風でよろけた。
  そりゃそうだ。
  あんな妙な体型を足だけで支えられるわけがない。
  私は走る。
  「たあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  奴の懐に踏み込み、大きく跳躍。
  宙でパラケルススの魔剣を振りかぶり、一閃っ!

  ごとん。

  人形の首が落ちる。
  私が着地しても数秒間人形は立っていたけど、ゆっくりとその場に引っくり返った。
  弱い。
  ナンバリングのある人形なんだろうけど多分後ろのほうなんだろうな。もちろんこいつがこうも簡単に機能停止したのは場所が悪かったということもあるはずだ。
  正直高さや広さの制限のない屋外での戦闘ならこうも簡単に滅しなかっただろう。
  まあ、私にしてはただの的なんだけど。
  どんだけ巨大化してもね。
  「時間稼ぎか」
  フィフスがけしかけた理由は撤退の時間稼ぎ。
  瞬殺に違いないけど追いかける時間は残されていない。おそらくアルケイン大学にはもういない。
  さて。
  「まだ残党が立て籠もってるとか言ってたな」
  蹴散らすか。
  それがアークメイジとしての責務。
  そう。
  ここを預かる者として責務を果たさなきゃね。