天使で悪魔






天の音





  響き渡るその音。
  それは神々しき天音(あまね)。





  <デッドアイ>
  古代アイレイド時代から存在する存在。
  その詳細は一切不明。
  外観は干乾びたアルトマー。もっとも露出している部分は顔だけで全身を鎧で武装している。武器は手にしている漆黒の魔剣。
  タムリエルを徘徊し無差別に命を奪う天災的な位置付け。
  基本不死身。
  魔法は通用せず物理的な攻撃も効果がない。
  最大の脅威は深紅に光る瞳。
  視線を交差させた者は生命力を奪われて死亡する。
  ただしデッドアイには意思というものは存在せず自我もない。あるのは視界に入るものを虐殺したいという衝動だけ。
  

  



  「裁きの天雷っ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  私はこちらを見てただ立ち尽くすデッドアイに向って雷撃を放つ。
  効果?
  効果はない。
  ただ試してみただけだ。
  デッドアイと直接対峙するのは当然これが初めてだけど魔術師内では有名な存在だから私も知ってた。
  まさか自分が戦うことになるとは思ってもなかったけど。
  何しろタムリエル全土を殺戮衝動だけで徘徊しているような奴だから遭遇率は極めて低い。そんな奴と自分の生涯の中で会えるなんてある意味ラッキー?
  ……。
  ……ほぼ100%アンラッキーですな(泣)。
  ともかく。
  私の雷撃を受けても平然としてる。
  噂通り魔法は効かない、か。
  なお奴とは視線を交差させていません。直接見ない限りは奴の死の瞳は問題ない。腹部の辺りに視線を落として対峙している。
  黄泉が囁く。
  「……奴に魔法は効かない……」
  「知ってるわ」
  試してみただけだ。
  まさか本当にまったく効かないとはね。
  まあ、銀色にも効かなかったけど。
  別に私の魔力が低下しているというわけではないだろう。放った雷撃の出力は自身の一撃だったのは確かだからだ。自画自賛ではなく本当にそう思う。
  なのに何故効かないのか?
  答えは簡単だ。
  要は相手が強過ぎるのだ。
  それと相性的なものもあるだろう。銀色にしてもデッドアイにしても魔法に対して強い耐性がある。
  そういうことだろ、たぶん。
  「……理解したか……」
  「まあね」
  無駄ということはよく分かった。
  だけどどういう理屈だ?
  何故魔法が効かないのだろう?
  あー、もうっ!
  銀色にしてもそうだけど何なんだあのデタラメな耐性はっ!
  「……フィッツガルド・エメラルダ……」
  「何?」
  「……私は奴と視線を合わしても問題ない。そもそも眼球などないのだ……」
  「はっ?」
  フードを目深に被っている黄泉を見る。
  眼球がない?
  こいつもデタラメだなぁ。
  ……。
  ……まあ、理解は出来る。
  そもそもこいつの存在はアヤフヤで幽霊みたいなもの。一番最初にローズソーン邸に現れた際には完全に幽霊状態だった。アンの攻撃がすり抜けたしね。
  その後私の生命力の一部を奪った、途端に実体化した。
  おそらくこいつは他者の生命力を糧に実体化しているのだろう。そういう意味ではこいつもデッドアイとそう変わらないのかもしれない。奴も生命力奪うわけだし。
  虫の王の手下の生き残り、黄泉。
  その存在は謎。
  カラーニャを筆頭とする四大弟子と同格もしくはそれ以上。
  虫の王最後の腹心。
  時に味方、時に敵。
  現在のところ何故デッドアイ戦の手助けをしてくれるのかすら謎。
  まあいい。
  手助けしてくれるならそれはそれでいい。
  利用させてもらうとしよう。
  何しろ銀色一派、ハーマン、シルバーマンは撤退してしまい取り残されている私。
  孤立無援です。
  黄泉を利用させてもらいましょう。
  もちろんこいつはこいつで完全に味方というわけじゃあないけどね。
  さてさて。
  どうしたもんかな。
  「……」
  私は無言でデッドアイと相対する。
  視線は交わせれない。
  死ぬから。
  ただし問題はその特殊能力故に相手の上半身から下あたりに視点を固定させるしかないということだ。
  戦いづらい。
  もしかしたら視線を合わせても死なないのかもしれない、都市伝説なのかもしれない噂なのかもしれない。
  だけどわざわざ視線を合わすというリスクは負いたくないです。
  あの銀色でさえ撤退したんだ。
  おそらく死の瞳の話は本当だと考えるべきだ。
  うーん。
  デッドアイが魔術師タイプの敵なら良かっただけどなぁ。希望に反して剣士タイプです。剣を交える相手な以上は相手の太刀筋を見る必要がある。だけど
  太刀筋なんか目視しようものなら奴の視線が視界に入る。太刀筋を見ないことには剣を交えれない一刀両断されます。
  厄介。
  非情に厄介な相手です。
  まあ、とりあえず。
  「煉獄っ!」

  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  相手に向って炎の球を放つ。
  爆発。
  黒煙が奴を包んだ。黒煙に包まれる奴の体、しかし赤い瞳だけはこちらを見据えていた。
  あっ。
  1つ発見。
  直接視線を交わさない限りは問題ないらしい。つまり煙のなどの遮蔽があれば特に問題はないらしい。
  ならば取るべき道はただ一つっ!
  「煉獄っ! 煉獄っ! 煉獄っ!」

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  3連発が大爆発。
  私はそれと同時に走る。
  右手に収まっているパラケルススの魔剣は羽毛の如く軽い。錬金術師パラケルススが鍛えし伝説の魔剣。
  鍛え上げた伝説の錬金術師の腕前が神懸かっていたのか、それとも未知の材質である黒水晶の力なのかは分からないけどパラケルススの魔剣は強力。
  持ち主の魔力に応じてその威力が上下する。
  私の魔力は高い。
  魔力の高い魔法民族とも言うべきブレトン。それにアルケイン大学での修練により魔力のコントロールは得意。さらに言うのであれば私が独自に作り上げた
  魔法アイテムのアクセサリの効力で魔力を増幅させている。
  さらにさらにさらにーっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  一気に魔力を高める。
  まあ、三度ぐらいのブーストなら疲労困憊にはならないかな。
  ギリギリ限界のラインだが、まあ、仕方ない。
  勝負をこれで決めるっ!
  間合いを詰める。
  「……避けろ……」
  「えっ?」

  ブォンっ!

  「……っ!」
  黒煙を裂いて何かが飛んでくるっ!
  私は咄嗟に身を捻って回避。しかし慌てて身を捻ったのでそのまま引っくり返ってしまう。さらに黄泉が呟く。
  「……上だ……」
  「なっ!」
  大きく跳躍して深紅の瞳の物体が降下してくる。
  デッドアイっ!
  「裁きの天雷っ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  効くとは思ってない。
  だけど直撃させることにより効果の速度を緩む。それが狙い。私は放った次の瞬間には起き上がりその場を離れる。奴の背後に回る形で。
  ドスンと奴は着地。
  この時、私は奴の背後でパラケルススの魔剣を構えていた。
  まだブーストによる魔力増幅は持続している。
  「やあっ!」

  ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  くそっ!
  こいつも銀色同様に斬れないっ!
  ただ奴と違うのはこいつは踏ん張れなかった。銀色は攻撃を受けても微動だにしなかったけどデッドアイは大きく前のめりとなった。
  背後にさらに乱撃を加える。
  これで決めるっ!
  「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!」
  「……っ!」
  振り向き様にデッドアイは漆黒の刃を振るう。
  私は後ろに飛んだ。
  受ける気はない。
  受け流す自信がないというわけではなく奴とまともに刃を交えたくないのだ。刃を交えれば必然的に視線が合う。
  死の瞳に晒される。
  それは困る。
  「煉獄っ!」

  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  奴の足元に叩き込む。
  再び黒煙が包む。
  「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!」
  「ちっ!」
  スイッチ入ったのかよこいつっ!
  猛然とこっちに突っ込んでくる。
  視線を下に落として私は右手でパラケルススの魔剣を構え、左手を奴に向ける。
  「裁きの天雷っ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  魔法で牽制。
  雷撃を物ともせずにデッドアイは走りながら向ってくる。走りながら黒い刃を上に構え、こちらに振るう。

  ブォン。

  黒い三日月状の衝撃波が生じこちらに飛んでくる。
  なるほど。
  さっきのはこれか。
  魔力障壁を展開しこれを防ぐ。ただしデッドアイに対しての対処法はまだ思いつかない。
  ブーストが切れた為に一時的に倦怠感が襲う。
  まあ、立ってられないほどじゃないけど。
  私は腰を低く構える。
  そして……。
  「はあっ!」

  ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  視線を交えずにすれ違い様にパラケルススの魔剣を一閃。
  奴の腹部を薙ぐ。
  そして通り過ぎた奴の背後に魔法の連打。
  「裁きの天雷っ! 煉獄っ! 絶対零度っ!」
  3属性同時攻撃。
  奴は大きく吹っ飛んだ。
  効いた?
  効いたの?
  「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!」
  「……はあ」
  何事もなかったように立ち上がりやがった。
  くっそ。
  銀色に比べて攻撃を与えたら与えただけぐらつくんだけど効いたようには見えないんだよなぁ。
  まあ、ぐらつくだけやり易いのは確かだけど。
  こちらに向き直るデッドアイ。
  私はすぐ視線を逸らす。
  その時……。

  「……今だ殺れ……」

  「黄泉っ!」
  奴がデッドアイに抱き付く。顔を覆う形で。
  当然死の瞳は遮られる。
  どういうつもり?
  黄泉は虫の王の手下の生き残り。
  当然私の敵であり奴にしてみても私は虫の王の敵。
  なのにこの犠牲的な行動は何?
  ……。
  ……黄泉って行動不明なのよね、うん。
  敵対してるかと思えば急に味方として登場する。今のこの行動なんて生半可な仲間じゃ出来ないでしょうよ。
  盟友?
  盟友的な関係を希望してんのこいつ?
  「……今だ殺れ……」
  黄泉はもう一度呟く。
  デッドアイは黄泉が近くに密着し過ぎて刃が振るえないし、あまりにもがっちりしがみ付いているらしく黄泉を引き剥がせないでいる。
  好機っ!
  これが普通の仲間ならさすがに私も躊躇う。
  冷徹な私が躊躇うかって?
  躊躇うわね。
  私はアン達聖域メンバーを浄化の儀式で殺せなかった。あの時殺していれば少なくとも再起動した新生闇の一党とは敵対せずに済んだ。
  ドライなクールビューティーでいるつもりだけどこれでも人間ですから。
  超えられない一線はある。
  ただしこの場合はその一線が適用されません。
  何故?
  だって仲間じゃないもん黄泉。
  むしろこいつも敵。
  何しろ今まで出会った敵の中でも一番厄介な虫の王の手下の生き残りだ。
  一気に消してやるっ!

  タッ。

  思いっきり私は地を蹴る。
  デッドアイが有史以前のアイレイド時代から存在し続けたのは知っている。しかしこの世界に永遠なんてない。倒せない相手は理論上存在しない。
  強敵への対処法、実に簡単。
  力には力。
  より強大な力があればデッドアイとて敵ではない。
  最大限の増幅。
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  本来ならばこれは<神罰>使用用のブースト。使用したら最後、強大な魔力と同時に強力な疲労感に襲われる。
  あまり時間はない。
  黄泉もろとも一刀両断に……っ!

  ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  「……な、なにっ!」
  突然耳障りな音が響き渡る。
  不快?
  そう、とても不快な音。
  だけどどこか心地良い。甘くて心蕩けるよう、それでいて不快で吐き気を催す音。
  何なんだこの音は。
  「くそ」
  私は膝を付く。
  残ったのは倦怠感だけ。
  意味?
  今の音で魔力が完全に消失した。
  デッドアイの攻撃ではないだろう、奴自身もその場に膝を付いている。……あー、いや、機能を停止しているというべき?
  完全に停止している。
  瞳に色すら灯っていない。手にしていた漆黒の刃は魔力によるものだったのだろう、消失している。どうやらデッドアイは魔力で動く魔道人形の代物?
  そうかもしれない。
  奴はマリオネットだったのかもしれない。
  黄泉も消えていた。
  あるのは奴が纏っていたローブだけ。
  この理由も曖昧だけど、黄泉は相手の生命力を吸収してあの実体を保っていた。最初に現れた際にはほとんど霊体だった、私の生命力を吸収して
  実体を得た。生命力と魔力は密接な関係がある。この場における魔力の消失で存在を維持できなくなったのだろう。
  だけど何故?
  どうして魔力がこの場から消えた?

  カサ。

  「はあはあ」
  物音がした。
  私はそちらを荒い息をしたまま見る。立っていられないのでその場に座ったままで。
  少女がいた。
  ハーマンよりも年長。
  10歳ぐらいかな?
  金髪の女の子。
  その子は私に向って手をあげた。
  「(゜▽゜)/」
  「はっ?」
  意味不明な言語が彼女の口から発せられた。


  絵文字を操る少女、天音(あまね)登場。