天使で悪魔






死の瞳






  危険。
  危険。
  危険。





  <禁呪の収集家>
  アイレイド文明を始めとする古代の遺産を収集する者達の総称。
  2つの部類に分類される。

  @外法使い。
  手にした古代の遺産である禁呪を利己の為に使う者達。
  その際に周囲の犠牲を厭わない破壊の存在。
  なお世間的に禁呪の収集家=外法使いと認識されている。

  A黒魔術師。
  手にした古代の遺産を知識の探求の為に利用する者達。
  基本的に手にした力を行使することに対しては興味を抱かないことが多く、外法使いに比べると学者的な側面が強い。



  <外法使いの派閥>
  大別して3つ。

  @銀色の派閥。
  通称<銀色>と呼ばれているシルヴァを筆頭に綴(つづり)、翁(おきな)と呼ばれる3人組。
  徒党を組んでいるというよりは一緒にいるというだけであって信頼関係という感情は存在しない。
  なお翁は自分の甥と弟子で構成された独自の派閥を率いている。

  A白骨の派閥。
  通称<白骨>もしくは<廃墟の王>と呼ばれるザギヴの派閥。
  最大勢力を誇るものの既にザギヴは生きたアイレイドの遺跡に取り込まれて死亡。また派閥はシロディールに集結した際にハーマンに一掃された。
  壊滅。

  B死神。
  通称<死神>と呼ばれる死津奈(しづな)は派閥を組まない女性。
  その能力は外法使い最強とも謳われる銀色を遥かに超えており、最強よりも上の天災として恐れられている。



  <禁呪の収集家が求めるもの>
  外法使い&黒魔術師がシロディールに集結理由は虫の王マニマルコの遺産である<禁断の不死魔道書ネクロノミコン>。
  虫の王を倒した者が隠匿していると思っている。



  <虫の王マニマルコの手下の生き残り>
  黒蟲教団は完全に壊滅。
  現在活動している<黄泉>は虫の王マニマルコの腹心。
  時にフィッツガルド・エメラルダの敵として振る舞い、時として味方として振舞う。その真意は不明。相手の生命力を奪う能力を有している。
  四大弟子と対等以上の存在としてフィッツガルド・エメラルダは認識している。






  「本日神はこの場に虫の王の遺産を巡る戦いを開催されたっ! さあ子羊たちよ、互いの欲望の為に争おうではないかっ!」
  銀色が叫ぶ。
  両手を広げ芝居じみた動作で。
  見た感じは爬虫類人間、つまりは銀色のアルゴニアンに見えるものの良く見るとまったく別物だというのが分かる。
  右目は潰れてる。
  隻眼。
  銀色は伝説の種族ドラゴニアンだった。
  ふぅん。
  前にフォルトナが連れてた仲間もドラゴニアンだった。確か名前はチャッピーだったかな?
  こいつらは珍しい種族のはずだ。稀少種族。
  それにも拘らず今年に入って2人も見れた私ってある意味で強運?
  古代アイレイド時代には既に存在していたとされるドラゴニアンは繁殖能力が極めて低く個体数が少ない。
  その反面、魔法とはまったく別系統(沈黙の魔法では封じれないという意味)の炎のブレスが使用できたり鋼鉄よりも硬い皮膚を持っていたりする。そして
  最大の特徴はその寿命。おそらく一番不老不死に近い種族といっても過言ではない。古い個体は古代アイレイドから存在し続けているはずだ。
  基本的に時間では死なないとされている。
  さてこの銀色のドラゴニアン。
  外法使いの中では一番有名所と言ってもいいだろう。
  名をシルヴァ。通称<銀色>。
  銀の鱗を持つドラゴニアンは銀製の甲冑に身を包んでいる。ただし盾と剣の類は持っていない。
  拘りなのかな、この武装?
  シロディールでは銀製の武器は存在しても銀製の防具は存在しない。
  何故?
  何故ならシロディールでは銀は稀少だからだ。
  まったく産出しないというわけではない。ここ近年ではたくさんの銀山が発見されている。ただしそれはここ近年であり数十年前までは、少なくとも50年ぐらい
  前までは銀はあまり産出しなかった。結果として甲冑に使うほどの大量の銀の確保は困難で、仮に作ったとしても莫大な費用が掛かる。
  そういう意味合いで銀製の防具は流行らなかった。
  高いからね。
  ここ近年は銀不足には陥っていないものの今さら銀製の防具を作ろうという流れは鍛冶師達の間にはないらしい。
  銀よりも丈夫で魔力を帯びたミスリルが流通しているからだ。
  鉄よりは丈夫でもミスリルよりは劣る銀。それに今の今まで銀甲冑の技術はまるで発達してこなかった為にわざわざ手を出す鍛冶職人がいないのが現状。
  「あんたが銀色?」
  「そうだ」
  「ふぅん」
  私は油断なく相手との間合を保つ。
  相手は一応3人いる。
  1人は銀色。
  1人は杖を手にしているローブ姿の白髪老人。腰がかなり曲がってる。
  1人は異様なまでに大きく目を見開いている青年。20歳前後かな。緑色の平服を纏っている。腰にはショートソード。何製の剣かまでは分からない。
  こいつらは有名な3人組。
  基本的に外法使いと言ったらこの3人組を指すぐらい、有名な連中。
  <銀色>シルヴァ。
  <屍解仙(しかいせん)>翁。
  <百目>綴。
  まさか有名どころ3人が私の目の前にいるとはね。
  こちらは私1人。
  さてさてどこまでやれることやら。
  ……。
  ……あー、欠伸を噛み殺すことなく平然と欠伸してるダンマー少女ハーマンがいますね。
  ただし仲間ではないと思う。
  私の仲間でもなければ銀色の仲間でもあるまい。
  面倒。
  「銀色殿」
  老人が、つまりは翁が銀色の耳元で囁く。もっとも小声でも何でもないから聞こえるけど。
  意味深な目で私を見ている。
  「あの小娘が持っているようですぞ」
  「ほう?」
  「確実です」
  「これぞ天恵と言うべきか? ……神は偶然我々を出会わせた、しかしこれは必然だったというわけだ。神の御心は計り知れないっ!」
  あー、うるさい。
  神。
  神。
  神っ!
  何なんだこの銀色という奴は。神父気取りか。
  もっともどこの神様を信奉してるかは知りませんけどね。九大神とは思えない。
  まあいい。
  一気に蹴散らしてやる。
  先手必勝っ!
  「煉獄っ!」
  「弾けて散れ」

  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  「……っ!」
  爆風で吹っ飛ぶ……私っ!
  手元で爆発した。
  引っくり返りながら私はハーマンを睨みつける。
  この期に及んで邪魔をーっ!
  「すいませんさっきまでの流れ引き摺ってましたわざとじゃないんです(棒読み)」
  この娘の関係者でてこーいっ!
  100回殴ってやるっ!
  ハーマンは3歩ほど後ろに下がる。どうやら傍観の姿勢らしい。
  ……。
  ……んー、むしろ漁夫の利?
  そうね。
  そうかもしれない。
  白骨のザギヴの派閥を1人で潰したみたいだけど銀色、翁、綴は外法使いの代名詞のような連中だ。
  さすがにハーマンが稀代の天才だとしても1人では手が余るだろう。
  かと言って私達は協力するほどの関係性ではない。
  つまり連携は不可能だし、あえて連携しようとすれば逆に足を引っ張り合う展開になるだろう。
  だから。
  だからハーマンは離れて傍観の姿勢を取っている。
  機会あれば一網打尽にする腹もあるだろうよ。
  まあいい。
  近くにいて邪魔されるよりはまだマシだ。
  「裁きの天雷っ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  雷撃を放つ。
  それと同時に私は走った。手にはパラケルススの魔剣。雷撃を追う形で走る。
  「くだらぬの」

  バヂィィィィィィィィィィィィィンっ!

  翁が煩わしげに手を振るうとそれだけで雷撃は消失した。
  この程度のことは予測してる。
  というかこの程度で勝負が決してしまうようでは拍子抜けだ。
  走る。
  走る。
  走る。
  一直線に銀色目掛けて走る。
  翁と綴は私にとってはどうでもいい。正確には能力は知らないけど……銀色から一気に潰した方がいいに決まってる。
  奴は災厄。
  奴は天災。
  その姿を見たものは等しく死に絶える。
  故に誰も正体を知らない。
  私も奴がドラゴニアンだということを初めて知った。銀色という有名な存在は知ってた、しかしその種族すら知らなかった。銀色にしてみれば私をここで
  殺すつもりだろう確実に。そうすることで誰もその姿を知らないという伝説を存続させようとするだろう。
  奴にしてみれば私の相手は日常の雑魚退治と同じこと。
  だけど奴は知らない。
  私を今までの相手だと思うなよ?
  自信の根拠?
  だって私は主人公だもんそれもメイン主人公っ!
  負けてたまるかーっ!
  「綴殿、ワシは接近戦は遠慮する。お相手してはいかがかな?」
  「メンドクサイけど仕方……」
  立ち塞がろうとする綴。
  どんな能力かは知らないけど通称<百目>。おそらく奴の瞳に何らかの能力が宿っているのだろう。わざわざ奴の能力を試そうとは思わない。
  ならばこうするまでだ。
  「光よっ!」

  カッ。

  走りながら私は左手を奴に向ける。
  照明の魔法。
  ただし持続時間はゼロ。一瞬激しい光を放ってすぐに消失する。しかしそれで充分。
  「目がぁーっ!」
  ラピュタのムスカのように顔を押さえながらのた打ち回る綴。一瞬とはいえ光で眼が潰されて盲目状態。
  私はバラケルススの魔剣を手にしたまま綴の真横を通り過ぎる。
  斬らない?
  斬らない。
  絶好のタイミングだとは思うけど斬るモーションを入れるとどうしても銀色に肉薄するまでの時間が数秒とはいえロスする。それは避けたい。
  銀色は油断してる私を甘く見てる。
  だから。
  だから一気に倒したい。
  奴は動きすらしない悠然と腕を組んでいる。
  パラケルススの魔剣は持ち主の魔力に応じてその威力が増す。
  私の通常状態での魔力でも鉄ぐらい簡単に切り裂けるけど相手は銀色、そこらの賊と同等と考えるのは失礼だろう。
  ブーストっ!
  一度のブーストで充分だろ。
  魔力が一時的に増幅。
  そして……。
  「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

  ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  えっ?
  鈍い反応が返って来る。手が痺れた。銀の鎧ごと真横に体を切り落した……つもりだったけど……弾かれた?
  「それで?」
  「ちっ」
  私は一歩後ろに飛ぶ。そして突きの構えに転じ、軽やかに動作。鋭い一撃を奴の顔に叩き込む。
  今度は鎧は無視。
  奴の顔に風穴を開けてやるっ!

  ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  「なっ!」
  「満足か?」
  ありえないっ!
  私は一時的にドラゴニアンの防御力を得る<竜皮>という魔法を習得している。だからこそドラゴニアンの防御力は知ってる。
  ブーストしたんだぞ?
  何で奴の顔に穴が開かない何故弾かれるっ!
  おかしいでしょあの防御力っ!
  「煉獄っ!」

  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  奴の足元に叩き込む。
  目くらまし。
  私は状況に応じて逃げることも厭わない。素早く後退。銀色は追撃してこないものの視力の回復したつづりはこちらを睨みつける。瞳の色が変わっていた。
  どんな攻撃してくる?
  それとは別に翁も何らかの構えに入っていた。
  ちっ。
  めんどうなっ!

  ジャジャジャジャジャっ!

  えっ!
  その時戦いの場に幾条もの雷撃が降り注ぐ。翁、綴は慌てて飛び退いた。銀色にも降り注ぐものの奴は悠然と立っている。当たっても涼しい顔してる。
  ハーマンを見た。
  違う。
  彼女は何もしてない。
  「ハニー☆ 来たよ☆」
  「シ、シルバーマン?」
  魔術師風の男。
  前に偶然会ったナンパ男だ。妙な杖を持っている。多分あの杖の力?
  分からないけど助かった。
  無事に私は間合を保つことができた。
  だけどどうしてこいつがここにいるんだろ。こいつは確か<強力な力の源>を探しに遠くハイロック地方から来た男。どうして銀色戦に絡む?
  「何しにここに?」
  「銀色ですよ」
  「えっ?」
  「奴には恨みがありましてね。手伝いますよ。……それで……そこの人もお仲間ですか?」
  「ハーマンは、まあ、何というか……」
  「いえそこのローブとフードの女性」
  「はっ?」
  見る。
  「黄泉ぃーっ!」
  「……手助けしてやろう……」
  何でまた虫の王の手下の生き残りが手助けなのさ?
  意味不明です。

  「話は済んだか?」

  「……っ!」
  銀色は私達のすぐ側まで肉薄していた。
  速いっ!
  あの距離を一気に詰めるなんてっ!
  だけどまだ魔法を放てる間合。
  「裁きの天雷っ!」
  「援護しますねハニーっ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  私とシルバーマンは雷撃を放つ。私は魔法、シルバーマンは杖魔法。
  ……。
  ……まさかシルバーマン、魔法が使えない?
  別に魔術師の格好しているから必ずしも魔術師というわけではないから別にいいんだけど。
  まあ、そこはいい。
  雷撃を受けながらも銀色は止まらない。
  そして……。
  「効かぬわぁっ!」
  「シルバーマンっ!」
  私は咄嗟に飛び退いたもののシルバーマンはその場に留まった。銀色は右拳をシルバーマンに叩き込む、それを彼は杖で受け止めるものの
  威力は半端なく彼は防御したまま吹っ飛ばされた。銀色って肉弾戦の鬼なわけかっ!
  外法使いっていうから外法を使うのかと思ってた。
  意外性、か。
  確かに。
  確かにその意外性が勝敗を分ける。私も剣士という前面を押し出しながらも、より純粋に魔術師だから意外性を利用しています。
  さて。
  「神は言った。人は等しく神の召されるとな」
  「ちっ!」
  こっちに一直線に突っ込んでくる銀色。
  回避するには距離が近い。
  ならばっ!
  「砕けろ」
  「竜皮っ!」
  一時的に私は防御力を底上げする。
  結果として銀色の拳は私の鎧すら貫通しない。私にも痛みはない。現在の私はドラゴニアンと同等の防御力。……一分間だけど。
  「ほうっ! 面白いではないかっ!」
  「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  パラケルススの魔剣を振るう私。
  拳を私に連打する銀色。
  双方、攻撃は通じず。
  くっそ何なんだこいつは。次第に私は焦ってきていた。
  魔法攻撃は効かない。
  物理攻撃は効かない。
  どっちも通用しないなんてありえるか?
  パラケルススの魔剣は持ち主の魔力に応じて威力が増す。
  私ほどの魔力なら鉄すらも斬れる。しかも常にブーストしてる状態だ。
  なのに何故斬れないっ!
  互いに無意味な攻撃を乱打し続ける。そんな中、綴と翁がこちらになんらかの攻撃をしようとしているのが目に入ったものの私は敢えて何もしなかった。
  何故?
  一応この戦いはチーム戦ですから。
  ……。
  ……まあ、お互いに素性の知れないもの同志の寄り合い所帯ですけどね。
  それでも一応は協力関係にある。
  綴、翁に対して黄泉が空間転移して奇襲を敢行。何だかんだで黄泉は強い。虫の王の手下の生き残りのあいつは外法使いとも対等に渡り合えるらしい。
  2人の相手は黄泉に任そう。

  バッ。

  私は後ろに大きく飛んだ。
  竜皮の持続時間が尽きたのだ。尽きて元の防御力に戻った以上、銀色とガチンコはしたくない。
  銀色は追撃してこなかった。
  何故?
  傍観していたハーマンが突然笑い出したからだ。
  可愛い笑い声。
  銀色は怪訝そうに彼女を見た。
  「何がおかしい?」
  「銀色、銀色、銀色、外法使いと言ったら銀色。私も初めて見たけど……大したことないなぁって」
  「何だと?」
  「あんた、その鎧脱げないでしょ?」
  「……」
  「だんまりって事は図星なわけ?」
  「貴様何者だ?」
  「黒魔術師ハーマン。よろしく」
  すいません主人公の私を無視して熱い視線を交わされるのは困るんですけど。
  無視ですか?
  まあ、勝手にやり合ってくれればそれでもいいんだけどさ。

  「よ、よくもやってくれたな、小娘っ!」

  「ん?」
  全身焦げまくりのアルトマーが現れる。
  誰だこいつ。
  銀色の仲間ではなさそう。
  「まだ生きてたの? しぶといのね。火力弱くてレア焼けになった死に損なったわけね」
  「黙れハーマンっ!」
  レア焼け?
  ああ。私が遺跡潜ってる間にハーマンが倒したザギヴの手下か。多分奴はその生き残りなわけだ。
  「ハーマン、お前の所為でザギヴの後釜に入る計画が狂ったっ!」
  「ごめん」
  ふぅん。
  後釜、要は派閥を乗っ取るつもりだったのか。だとしたら派閥を召集したのはこいつか。ザギヴの名を騙って招集させた。どうやって乗っ取るつもりだった
  のかは知らないけどそれをハーマンが潰してしまったらしい。だったらとっとと退場してもらおう。
  私は護身用のナイフを懐から取り出す。

  「働き過ぎよ。休んどきなさい」

  ドサ。

  胸元にナイフが突き刺さったザギヴの手下がその場に膝をつく。
  私が投げた。
  狙いは完璧でした。
  吸い込まれるように相手の胸元に突き刺さってる。
  刺さった位置、深さ、そして出血。
  どれを取ってもこいつはもう長くないのが分かる。
  私をただの魔術師と思うと痛い目見ることになる。こんな風にね。
  「く、くそ」
  「飛び入り参加は許してないわ。そこで寝ときなさい」
  瀕死のアルトマーから視線を外す。
  他のメンツもだ。
  結局のところザギヴの手下であるアルトマーは、この場には相応しくない。イレギュラー。分不相応な力量の相手は排除するに限る。
  それはおそらくこの場にいる誰もが共通した考えを持っていることだろう。
  雑魚はさがっとけ。
  「俺はもうすぐ死ぬぅーっ!」
  「はっ?」
  突然叫ぶ瀕死アルトマー。
  名前は……なんだっけ?
  まあいい。
  瀕死は叫ぶ。
  ハーマンは呆れたような声で呟いた。
  「宣言しなくても見たら死ぬのは分かるけど。馬鹿? 馬鹿なの?」
  同意します。
  「俺は死ぬ、ザギヴの派閥を乗っ取ることもなく……いや、乗っ取る派閥もすでに潰された。俺の人生設計は狂わされたっ!」
  勝手にほざけ。
  そもそも乗っ取りを人生設計と叫ぶな。
  そんなに平穏に生きたいなら山奥で隠居でもしておけばいい。
  「この俺が1人で死ぬわけがないっ! お前達も一緒に連れて行くぞっ!」
  パプティマス・シロッコかお前は。
  瀕死は両手を天に掲げる。
  何する気だ?
  「来たれ来たれ来たれーっ! 来たれデッドアイっ!」

  ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。

  「デッ、デッドアイっ!」
  「くくく。後悔しろ後悔しろーっ!」
  奴の叫びに答えるように漆黒の闇が私達の側に出現する。
  瀕死はニヤリと笑った。
  そしてそのまま倒れ二度と動かなくなる。
  ……。
  ……厄介なものを召喚しやがった……。
  これは甘く見すぎてたな。
  こいつデッドアイを使役してたのか。
  『……』
  一同沈黙。
  漆黒の闇の中に何かいる。
  シルバーマンはどうか知らないけど、ハーマンや銀色達はこの闇の意味を知っているだろう。闇の中から赤い2つの光が灯る。
  私達は視線を逸らした。
  何故?
  命を奪われるからだ。

  「……銀色殿。デッドアイは厄介ですぞ。どうされますか?」
  「ふむ。綴、奴の目は欲しくないのか?」
  「シルヴァ様。さすがに僕も奴の目は遠慮しますよ。欲しいには欲しいですけど、死にますからね」
  「撤退だ」

  銀色がそう宣言した次の瞬間、翁と呼ばれていた老人が空間を歪めて一同そのまま消える。
  空間を飛んだか。
  外法使いとなると空間転移はありきたりの能力なのかもしれない。
  それにしても銀色達はデッドアイとの対決を避けた、か。
  まあ無理もない。
  デッドアイとは天災的な存在。デッドアイはどういう経緯で存在しているかすら不明。ただアイレイド文明から存在していたらしい。
  わだかまっていた闇が収束、そして1つの形を成す。
  鎧を着た人影。
  形は人ではあるものの唯一露出している顔は完全に干乾びている。そしてその顔にある深紅の目を見た瞬間に魂を奪われる。
  それは死の瞳。
  故にデッドアイと呼ばれている。
  深紅の瞳を持つ鎧騎士。
  奴がその場に立った瞬間に足元の草は瞬時に枯れていく。命を奪う為に存在している、そんな感じもする化け物。ザギヴの派閥を乗っ取るつもりだった
  宣言したあのアルトマー、ただの雑魚ではなかったようだ。少なくとも奴自身の戦闘能力は雑魚だったけど、召喚技術は高かった、か。
  失敗したな。
  一気に殺しておくべきだった。
  私にしても銀色達にしてもあのアルトマーを甘く見すぎてた。
  「どうする? シルバー……マンっ!」
  「な、何ですか突然大きな声出して」
  「何逃げようとしてんのっ!」
  「関係者じゃないですのでそろそろお暇しようかと。それに」
  「それに、何よ?」
  「幼女も姿を消していますよ?」
  「幼女……ハーマンっ!」
  姿なし。
  逃げ足の速いことで。
  まあ、あの幼女も仲間というわけではないから仕方ないといえば仕方ないか。だけど逃げ足速すぎだろっ!
  うがーっ!
  「じゃあこれで。生き残ったらデートしましょう。あなたにメロメロですから。では」
  「……」
  シルバーマン、悠々と撤退。
  この場に取り残されるのは私とデッドアイだけとなる。
  メロメロとか言いながらあの素早い身のこなし。
  侮れません。
  ……。
  ……というかハーマンもそうだけどシルバーマンも結局のところ素性不明なのよね、うん。
  何者なんだろ?
  まあ、いい。
  問題はとりあえずデッドアイをどうするかだ。
  シロディールの災厄といっても過言ではない深紅の瞳を持つ鎧騎士デッドアイは手に漆黒の闇を剣状に収束させる。
  瞳を見ずに倒せるかどうか。
  そもそもこいつの存在や能力は謎が多い。魔術師内では有名な奴なんだけど謎が多い。というのもここ50年ほどは消息不明の存在だった。
  その空白の50年の間にさっきのアルトマーが従えることに成功し、制御していたのだろう。
  さてさて、どうする?
  「……奴に魔法は効かん。どうする……?」
  「黄泉。あんたまだいたの?」
  「……一緒に倒そう……」
  「はっ?」
  共闘するつもり?
  何気に完全敵決定の黄泉が一番頼りになるって一体?
  「……来るぞ……」
  「ええい。仕方ない。行くわよ、黄泉っ!」


  虫の王マニマルコの手下の生き残り黄泉との共闘。
  デッドアイ戦、スタートっ!