天使で悪魔
はぐれ魔術師
組織から外れた者達は今後、独力で生きていく必要がある。
組織にいては出来なかった事や発想が生まれるわけだから必ずしも不幸ではないだろう。
ただし庇護はなくなる。
援助も。
暴走する者が現れる、それは常だ。
「死体は構わないわ、処分して」
「了解しました」
私の寝室。
死体が3体転がっている。クラレンスとその手下2人だ。
クラレンスは一時期ラミナスの後を継いで折衝役の地位にいた、つまりはアークメイジの補佐官に就いていた人物。私が評議長に就任した際に失脚させた。
阿諛などが上手い小才子だと私は判断、役職を解いた。
そしてラミナスが返り咲く。
黒蟲教団との決戦後、私は評議会を永遠に解散させた。それに異を唱える少数派は離脱したけど……クラレンスは一魔術師として留まっていた。
当初死霊術師側の内通者だと疑ってたんだけど実際はそうじゃなかった。
深遠の暁のメンバーだった。
皇帝暗殺をやってのけたカルト教団。まさか魔術師ギルドの内部にも入り込んでいたとはね。
ずっと敵は死霊術師達だと思って戦ってきたけどカルトどもが入り込んでいたとは想定外だった。世の中は意外性に満ちているらしい。
「運び出せ」
ラミナスはバトルマージ達に指示する。
死体の運び出し。
それと戦闘の際に室内は大分ダメージを受けた。改修にも時間は掛かりそう。
……。
……まー、部屋の損傷は私の所為なんですけどねー。
虫の杖を手にして以来、魔法攻撃力が1.5倍になってる。魔法耐性も魔力そのものも底上げされている。理屈は分からないけど、おそらく虫の杖に封じら
れていた魂の一部を私が吸収してしまったからなのだと思ってる。おそらくこの理屈でそう間違いはないはずだ。
「アークメイジ、外に出ましょう」
「そうね」
室内の検分もある。
バトルマージ達の邪魔になるわけだから私はラミナスとともに外に出た。
寝室から出て執務室に。
「ラミナス、適当に座って」
「はい」
部屋に入って椅子を勧める。
ラミナスは……おいっ!
「どうしたのかね、フィッツガルド・エメラルダ君。アークメイジたる私に対して敬礼もないのかね? ああん?」
「そこは私の席なんですけど」
「ふっふっふっ。この席はアークメイジたるラミナス・ボラス様のものだ。さあ、下っ端魔術師よ。三つ編みと眼鏡だけ残して全裸となるのだーっ!」
「死ねーっ!」
ガンっ!
飛び蹴り敢行っ!
簒奪者ラミナス・ボラスはそのまま引っくり返った。私の蹴りはラミナスの顎をまともに蹴り上げた。
勝ったっ!
こうして魔術師ギルドを乗っ取りハーレムギルドを作ろうとした簒奪者ラミナス・ボラスの野望は挫かれたのだった。
「天国のお父さん、私やったよぉーっ!」
〜第三部、完〜
「へー。レアな本が手に入ったのね」
「そうなのよぉ」
神秘の書庫。
万年図書委員のター・ミーナと雑談。トカゲの彼女はご機嫌。レアな本が入手できたのでご機嫌らしい。もちろん彼女の私有物というわけではなく
大学の財産になるわけだけど本棚に収まっているだけで彼女は嬉しいのだろう、多分。その心境はよく理解できないけど。
「ところでアークメイジ様」
「……何かお願い事?」
「あらぁ。よく分かったねぇ」
「分かるわよ。付き合い長いんだから。それで何?」
「アミエル卿の日記が読みたいなぁ」
「それは無理」
盗まれたもん。
兜も指輪も一緒にね。
結局誰が盗んだかは分からないまま。深遠の暁の密偵クラレンスなのか、盗賊ギルドなのか、レリックドーン、蒼天の金色、様々な組織が浮かぶ
ものの確証はどの組織にもない。敵が多過ぎるというのは結構面倒だなぁ。
退場した組織は多いけど、増えた組織も多い。
……。
……何か戦えば戦うほど敵が増えてく?
そんな気がする。
うーん。
かなり殺伐とした行動繰り広げてるもんなぁ、私。今後はリラックマを背負って戦うべきかな?
そしたら和やか系になれるかも。
「さっきはよくもやってくれたなフィッツガルドっ!」
「ああ。生きてたんだ」
「どうしてラミナスはご機嫌斜めなのぉ?」
「更年期じゃないの?」
「なるほどぉ」
大声を発しながらラミナス・ボラス、神秘の書庫に乱入。学問の中枢ともいうべきでの大声ですので本の閲覧者達は眉をひそめる。ただ私の補佐役
のラミナスだと知って文句を言うものはいないけど非難の視線を彼に注いだ。ラミナスは視線に気付き声のトーンを落とす。
「さっきはよくも蹴っ飛ばしてくれたな」
「はいはい。こっちに座って話しましょう」
手招きする。
彼は不満そうな顔をしつつも私の目の前の席に座った。長机を挟んで向かい合う。ター・ミーナは苦笑しながら席を離れた。
やれやれだよ、まったく。
魔術師ギルドの運営を実質行っているラミナス、しかし私の前では不良兄貴でしかない。
まあ、私相手だから気軽に話せるというのもあるのかな。
家族だから?
そうかもしれない。
私はラミナスに兄的な親しみを感じてる。
さて。
「生きてたのね、ラミナス」
「ちょっとしたジョークで蹴り飛ばすなんて酷いじゃないか」
「ちょっとしたジョークで魔法ぶっ放す方が良かった?」
「……」
「ん?」
「と、ところで」
あっ。
話題転じた。根性なしめ。
「禁呪の収集家がシロディール入りしたとの情報があります」
「禁呪……外法使いか」
「はい」
「対応は?」
「第3レベル発令をしております。バトルマージ三個小隊を派遣して情報収集を開始させました。事後報告ですが、アークメイジはいらっしゃらなかったので」
「迅速な行動に感謝します、ラミナス」
「ありがとうございます」
外法使いか。
確か20年前にアイレイドの遺跡を荒らし回ってシロディールから去った連中だ。もうこの地には連中の望むものはないはず。何しに舞い戻った?
それにしても厄介だなぁ。
「何人シロディール入りしたの?」
「確認されているのは3名です。翁(おきな)、綴(つづり)。この2名は、まあ、問題ありません。問題はシルヴァです」
「シルヴァ……銀色?」
「はい」
「ちっ」
外法使いの数は少ない。多分収集家と呼ばれる連中は10人もいない。そして基本的に群れない。あくまで同盟関係であり全員が対等の立場の連中。
ただし銀色はそうじゃない。
奴は外法使いの頂点に立つとされる人物。本当かどうかは知らないけど2人の外法使いを従えている以上、まんざらデタラメではないだろう。
見た事ないし容姿も知らないけど面倒な奴が来たなぁ。
他の外法使いも続々と入る可能性もある。
だけどシロディールに何がある?
連中を惹き付ける何が?
「アークメイジ」
「何?」
「実はアークメイジに任せたい案件がありまして」
「外法使い絡み?」
「別件です」
「別件」
「はぐれ魔術師が問題を起こしています」
「はぐれ魔術師」
その名称は一般的に魔術師ギルドから脱退もしくは追放された者を指す。独学で魔術を学んだ者には適用されない名称。
問題を起こす者が多い。
偏見?
いえいえ。
魔術師ギルドに属していれば研究資金とか機材は提供される、しかし制約や規約が生じる。脱退すれば規約云々からは解放されるけど、研究を続ける
資金や機材は自己調達となる。今まで庇護下で研究していた者達は調達作業に耐え切れずに犯罪に走る者が多い。
はぐれ魔術師は結構多い。
……。
……まあ、全員が全員そうなるとは言い難いけど。
ああ。じゃあ偏見なのかな。
まあいい。
「私に討伐しろと?」
「はい」
「何故に?」
「一番暇そうですから。暇でしょう? 暇ですよね? はい暇決定。はぐれ魔術師を捕縛もしくは始末してください。何か異論はありますか?」
「……いえ」
「よかった。アークメイジの英断に感謝します」
「……」
強引な話術。何かスキングラードの暗殺家族に似た奴いるぞ。オチーヴァも聖域時代はこういう決め付けよくしたなぁ。
しみじみです。
「バトルマージは送り込めないの?」
「再編成までに時間が掛かります。今までの展開でかなりの損害がありますので。それにバトルマージでは勝てないでしょう」
「強いの?」
「はい。それに今回は市民団体から何とかして欲しいとの要求もあります。かなり大きな動物愛護団体なので無視できません。もちろん無視するつもりは
ありませんが万全を期す為にバトルマージの大部隊を編成している時間はないのです。単独で相対出来るのは貴女ぐらいかと」
「ふぅん」
少し興味湧いた。
強い魔術師か。
戦ってみたいという衝動は少なからず私にもある。今まで自分が学んだ魔法で高位魔術師と張り合うというのは一種の衝動だろう。これは魔術師限定の
衝動ではないと思う。アリスだって戦士として他者と剣を交えたいという衝動はあるはずだ。
「動物愛護団体って?」
「キナレスを信奉している組織です」
「キナレスって九大神?」
「はい」
キナレス。
九大神の1人で野生動物や自然の創造神。他の九大神とは異なり聖堂を持たない神。自然そのものがキナレスの聖堂と考えられてる、らしい。
神様に興味はないからよく知らないけど。
「はぐれ魔術師の見当は?」
「ついてます。名前も素性も判明しています」
「何者?」
「ブラルサ・アンダレン。ダンマーの女魔術師です。破壊魔法に長けた女性で元々はカラーニャ評議員の弟子の1人でした」
「カラーニャの?」
「はい」
「じゃあ死霊術師関連と見るべき? 虫の王の手下の生き残り?」
「いえ。それは関係ないでしょう。魔法実験と称して動物を虐待し続けた為に追放された女性です。死霊術師の蜂起よりも3年も前の話です。関わりは
ないと思います。現在彼女はスキングラード近辺の九大神の祠近くで野生動物を殺し続けているようです」
「なるほど」
「受けていただけますか?」
「分かったわ。暇だからね」
はぐれ魔術師か。
魔術師ギルドにとって百害あって一利なし、と見るべきだろう。同情は必要あるまい。
さて。
「お仕事お仕事」