天使で悪魔






聖戦士の兜





  栄光。
  それが必ずしも幸福に繋がるとは限らない。






  私は飛び降りる。一列縦隊で遺跡の奥に進む眼下の部隊に襲い掛かる為に。
  敵?
  敵です。……多分ね。
  少なくともレリックドーンはマラーダ遺跡で敵対した。邪魔する奴は敵、それはレリックドーンの主義と判断してもまず間違いじゃあるまいよ。
  蒼天の金色はよく分からんです。
  今まで組織名だけは何度か聞いたけど初見の相手ですので。
  魔王メリディアを信奉するカルト教団だと聞いている。魔術師ギルドがマークしている組織だとも。要は魔道法を犯しちゃったりしてるのだろう。
  まあいい。
  とりあえず全滅させる。
  聖戦士の装備品をお互いに狙い合ってる。私は入手するべく、相手は破壊するべく。同じ物を狙い、異なる対処法をする。それで敵と認定しても
  問題あるまい。それに既に賽は投げられた。私はパラケルススの魔剣を抜き放ちながら飛び降りた。

  タン。

  連中のど真ん中に舞い降りる。
  「ハイ。皆様元気?」
  微笑。
  呆気に取られている隙にパラケルススの魔剣を振り回す。魔術師達は突然ど真ん中に現れた私の振るう刃の前にバタバタと倒れる。能力のチョイス
  が悪いですね、魔術師では接近して刃を振るう私には対処出来ない。前後を護っているレリックドーンの兵士も問題を抱えてた。
  魔術師達が邪魔で私に詰め寄れないでいる。
  蒼天の金色の魔術師達は私との間合を保つべく離れようとし、レリックドーンの兵士は私に斬りかかろうと間合いを詰めようとする。
  一時的に混雑状態。
  つまり。
  つまり相手さんの動きは完全に硬直している。
  その間に一気に蹴散らすっ!
  「そこっ!」
  パラケルススの魔剣で杖を構えた魔術師を突き刺す。
  斬る、斬る、刺すっ!
  容赦ありません、私。
  基本的にレリックドーンのやり方に関しては知っているので容赦しません。相手さんも結構過激な方々なのでね。
  どっちにしても敵だ。
  ならば排除する。
  私の考え方は極めてシンプル。いつだって簡単。敵は排除する。
  何故?
  自分は死にたくないからだ。
  魔術師達は至近距離過ぎて魔法を放つに放てないでいる。仲間を巻き込む以前に放った当人が自身の余波に巻き込まれるからだ。そこが狙い目。
  バッタバッタと薙ぎ倒す。
  新感覚の爽快感。オブリビオン無双、近日発売っ!(嘘)
  魔術師の服装はローブ。
  パラケルススの魔剣を防ぐほどの防御力はない。刃が服に接した瞬間、その者の運命は決する。両断されるのだ。

  「ぎゃっ!」
  「ぐああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「ひっ!」
  「ヘインリック、逃げるな、戦え……ぐはぁっ!」

  「はっはぁーっ!」
  テンション高いですな、私。
  久々に大暴れし血の香りに酔っている。別に変な人というわけじゃないです、ただ戦闘漬けの人生なのでこんな感じなのです。
  養父母は私の目の前で強盗に殺されるわ(注意。フィーちゃんが知らないだけで強盗はブレイズ。皇帝の庶子のフィーちゃん抹殺の為に
  差し向けられました)死霊術師の叔母にゾンビの具材にされかかるわオーガに飼われるわオブリに飛ばされるわ。
  ……。
  ……最悪な半生ですな(泣)。
  正直、まっすぐ育った方だと思う。マシウ・ベラモントみたくならんかっただけまともかも。
  まあいい。
  奇襲で敵の戦力はほぼ壊滅していた。
  魔術師系は1人を除いて全滅。
  1人だけ生きてる?
  ええ。
  フードをこいつだけ被ってた。もしかしたらこの一団の責任者かと思ったからね。敢えて攻撃しなかった。フード付き魔術師は私から離れる。これで
  凶刃の洗礼の範囲から逃れられたってわけだ。金色の戦士達がドワーフ製ロングソードを手にジリジリと迫ってくる。
  レリックドーンの兵隊か。
  さてさて。どの程度の腕前なのかしらね。
  右手にはドワーフ製のロングソード、左手にはドワーフ製の盾。
  数は8名。
  構えは様になってるけど、どの程度の実力かしらね。
  私の前後を囲む。
  それぞれ4名ずつ。
  「それで? 誰から死ぬ?」
  「小娘。お前の事は知っているぞ。前にマラーダで会ったな。貴様、ウンバカノの飼い犬だったな」
  ふぅん。
  どうやらマラーダ遺跡の生き残りらしい。この金色戦士だけなのか、他の連中もそうなのかは知らないけどさ。しかしウンバカノ?
  どんだけ昔の展開だ。
  「雇われトレジャーハンターなどに身を落としてどうする? 時代は動いているのだ。そうっ! 秘宝の夜明けは近いのだっ!」
  「……」
  時代は動いてるって……どの口が言うんだどの口が。
  ウンバカノ云々持ち出す奴に言われたくないやい。私はあれからシシスとか夜母とか虫の王とか修羅場と展開を乗り越えてるんだ。ウンバカノとか昔の
  事を持ち出すやつにいわれる筋合いはない。それにたかが盗掘集団如きに、しかも一構成員如きに説教される筋合いもない。
  つまり処方箋は1つだけ。
  「お前殺すよ」

  タッ。

  足元を蹴って駆ける。
  前方の3人に肉薄する。パラケルススの魔剣の切っ先を床に滑らせながら迫る。まさかいきなり仕掛けてくるとは思わなかったのだろう、金色戦士達は
  攻撃も防御も、どちらの構えも中途半端なままだ。後方の3人に関しては私の背に一撃を与えるという発想すら思い至っていない。
  「はあっ!」
  パラケルススの魔剣を一閃。
  金色戦士の一人を切り伏せる、さらに1人、もう1人。

  ガッシャーンっ!

  はっ?
  崩れ去る4人。
  ……。
  ……いや。4つの鎧?
  中身はない。
  空っぽだ。
  リビングメイルっ!
  鎧に魂だけを定着させていたのか。しかしこれって死霊術の部類よね。しかも大分古い技術。今時の死霊術師は鎧に魂の定着なんてしない。
  その証拠が雪原の決戦。黒蟲教団は生きた鎧を戦力として組み込んでなかった。
  じゃあ後ろの4人も?
  「煉獄」

  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  粉砕。
  虫の杖を触ってから魔法の威力は全体的に1.5倍になってる。威力が増した分、魔力の消費量も増したけど魔力そのものも増幅しているので問題ない。
  何故魔力が上がった?
  さあ?
  知らん。
  まあ別にいいよ。強くなったわけだし理由なんて。
  ともかく。
  ともかく金色戦士達を一掃。
  背後の連中も中身はなかった。
  「ふむ」
  今時生きた鎧使ってるなんてね。どんな組織なんだ、レリックドーン。
  リビングメイルが廃れた理由。
  鎧が元だから目立つ、重い、隠密不可能、デメリットばかり。それにスケルトンとかゾンビは元手は要らないけど鎧一式となるとそうはいかないし。生きた鎧で
  軍団作るとなると莫大な費用が掛かる。だから廃れていった。別に鎧限定ではなく布製の服に魂定着させれば軽いし安いけど弱いという欠点もある(笑)。
  あんまり今のご時世、リビングメイルっていうのは流行らない。
  ゾンビとかスケルトンがお手軽だし数揃えれるしね。そういう意味では生きた鎧は前時代的な発想。
  さて。
  「あんたを生かしておいた理由は分かるわよね?」
  「くそっ! 役に立たん護衛どもだっ!」
  「同感」
  フード付きの魔術師は毒づいた。アルトマー……かな?
  「何故我々の邪魔をしたっ! 貴様、誰だっ!」
  「気まぐれな殺戮者」
  「ふさげるなっ!」
  「こりゃ失礼」
  「我々を蒼天の金色と……っ!」
  「知っての行動よ。で? レリックドーンとはどんな関係?」
  「……ほぅ? 奴らの事も知っているのか。どうやらただの遺跡荒らしではないようだな。いいだろう、教えてやろう。ただし条件がある」
  「条件として私の命を寄越せとかベタな事を言ったりするわけ?」
  「いや」
  「じゃあ何?」
  「次の機会にという事さ。さらばだ」

  フッ。

  「……消え……くそっ!」
  空間転移か。
  逃げられた。術者の力量によって飛べる範囲が制限される。あのアルトマー、どの程度の力量かは知らないけどこのフロアにはもういないだろう。
  逃げられたかーっ!
  それにしても空間転移、やけに使える奴が増えてきたわね。
  虫の王が使えるのはいい。しかしあんなカルト教団の貧相アルトマーが使えるとなると空間転移のバーゲンでも始まってるの?
  ちなみに私は使えません。
  結構難度の高い技術。魔術師ギルドの中で使える術者はいない、それだけレベルが高い。
  ……。
  ……まあ、悪魔に魂を売った奴らは使えるらしいけど。
  蒼天の金色は魔王メリディア信奉者。
  魂を売って得た可能性もある。
  そう考えると自己の魔力だけで空間転移が使えた虫の王は絶対的だったんだなぁ。
  もっとも過去形ですけどね。
  「何やってんの?」
  アルトマーが消えた事によりギャラリーはいなくなった、だから虫の王の残滓が私の少し後ろに出現していた。
  背後霊め。
  リビングメイルの残骸に寄生しようとしているのか、しきりに鎧の残骸の上を行ったり来たりしている。しかし何も起きない。随分と落ちぶれたものだ、虫の王。
  人間はああはなりたくないですなぁ。
  さて。
  「奥に進もうかな」



  結局この遺跡に聖戦士の剣はなかった。
  あったのは兜。
  これだけでも大発見だ。本当に聖戦士装備が実在したという証明になるわけだからね。しかし私の求める物ではなかった。残念です。
  一緒に発見した日記と指輪も回収。
  誰の日記?
  聖戦士装備を追い求めていた騎士の所持品。纏っていた武装の残骸から察するにかなり昔の人物だと思う。
  まあいい。
  それなりに大発見なので魔術師ギルドに持ち帰るとしよう。
  帰ろう。