天使で悪魔






聖戦士の剣を求めて






  聖戦士の装備。
  それは神々からの贈り物。






  ブルーマ視察から帝都に戻って早3日。
  最近、雑務に追われてます(泣)。
  うー。
  冒険したいよーっ!
  「……」
  無言で羽ペンを走らせる。
  場所は私の執務室。
  つまりはアークメイジの執務室。そこで私は書類の整理をしている。魔術師ギルドの再建の為にはやる事が多い。バトルマージの再編、ブルーマ支部
  の復興、魔法約の納品とか生産とかの管理もしなきゃいけないし研究費を申請する魔術師達の選考の必要もある。
  評議会を永遠に解散させたので私がやらんといけない。
  ……。
  ……解散させて後悔してる?
  うーん。
  それはないかな。
  妙な官僚機構になっていた評議会は不必要だと思う。私は解散させた自分の判断が誤りだとは思わない。
  それに忙しいのは評議会がない事とはさほど関係ない、かな。
  戦士ギルドの雑務もここでしてます(泣)。
  あっちはあっちでブラックウッド団絡みで再建が必要だから大変なのですよ。
  アリスがレヤウィン支部長辞任したし。あちこち旅したいらしい。
  羨ましいなぁ。
  私も辞任したい今日この頃(号泣)。

  コンコン。

  扉がノックされる。
  「入ってもよろしいですか?」
  ラミナスの声だ。
  またお仕事の追加なのかな?
  そんな気がする。
  嫌だなぁ。
  「アークメイジ」
  「どうぞ」
  「失礼します」

  ガチャ。バタン。

  部屋に入ってくるラミナス。手には書類の山は持っていなかった。珍しい。
  仕事これで打ち止めかな?
  「何か用?」
  「吉報があります、アークメイジ」
  「フィッツガルドでいいわ」
  「そうですか?」
  「何度も言わせないでってば」
  「では。……フィッツガルド。良い話を持ってきたぞ。聞きたければネクタイと靴下を残してスッポンポンになるのだふははははははははははははっ!」
  「マニアックのエロかお前は」
  「失敬な奴だな」
  「はあ」
  相変わらずの性格のようなので安心です。
  階級や身分って時に人間関係を壊すから心配してたけどラミナスはいつまでもラミナスのご様子。
  ま、まあ、不敬罪で降格させてもいいレベルなんですけどね、ラミナスの言動。
  おおぅ。
  「アークメイジ」
  「何?」
  「報告があります」
  「どうぞ」
  「妻と別れた」
  「はっ?」
  「だから今後はお前と公然とエロエロを楽しむ事が出来る。しかし1日3回は多いぞ。お前は若いから良いが私は結構歳なのだからな。やれやれだぜ」
  「ぶっ殺すわよっ!」
  「アークメイジの言動とは思えませんな。もっと理知的になってください。お願いします」
  「……」
  「そろそろ報告してもよろしいでしょうか?」
  「……」
  こ、こいついつかどっかに左遷してやるぅーっ!
  首を洗って待ってろボケーっ!
  「報告は2つあります」
  「2つ、ね」
  「1つは血虫の兜の件です。これはおそらく追跡不可能でしょう。何の手掛かりもありません」
  「そう」
  「宝物庫に侵入したのは2組です。これは確かです。血虫の兜の強奪、その他の魔法アイテムの強奪、それぞれ手口が違います。後者はおそらく
  盗賊ギルドでしょう。手口が酷似しています。しかし前者は内部の犯行と見るのがよろしいかと」
  「内部? なのに何故追跡が不可能……」
  「アークメイジのやり方に不満を持った魔術師達の一部は離反しました。その者達の足取りは不明。もしもその者達の中の誰かが盗んだのであれば
  追跡が不可能です。それにまだ犯行に及んだ人物が内部にいたとしても不可能でしょう。我々は魔術師の組織、憲兵はおりません」
  「なるほど」
  私にも理屈は分かった。
  内部調査する部門がアルケイン大学には存在しない。現在の調査はあくまでもラミナスが暫定的に担当しているだけであり調査の専門ではない。
  「ラミナス。調査部門の必要性は?」
  「あります。しかし我々は魔術師。憲兵的な部門は息苦しさを感じます。おそらく他の者達も」
  「確かにね」
  だけど虫の王は残滓だけではあるものの現在進行形でまだ存在している。
  奴の手下は壊滅させた。
  黒蟲教団は既に存在していない。あの雪原の大地で壊滅した。主力であるアンデッドの大軍団とともに崩壊した。瓦解した。
  だけど残党がいないとも限らない。
  虫の王を信奉する者はまだいるだろう、そいつらが血虫の兜が虫の王に献上したら?
  ……。
  ……それは、実に良くない。
  現在のあの残滓は全ての力を失っている。しかしまだ諦めているわけではない、この世界に固執し続けている。復活の機会を窺っている。
  血虫の兜は虫の王復活の要にもなりかねない。
  「ラミナス」
  「はい」
  「命じます。追跡調査をして。禍根は完全に断つ必要があります」
  「了解しました」
  「それでもう1つの報告は?」
  「虫の王を倒せるであろう武器の存在が判明したと神秘の書庫のター・ミーナが私に報告して来ました」
  「ター・ミーナが?」
  「はい」
  万年図書委員の彼女がそう報告したのであれば。
  それは確かなのだろう。
  彼女の知識と判断に疑問の余地はない。信じるに値する。デマではないだろうよ。
  「ここに呼び出しますか?」
  「私が行くわ」
  「しかしアークメイジとあろうものがそんな尻軽な行動。……まあ、お前は尻軽だけどな。次から次へと。まったく」
  「殺すわよっ!」
  「ははは☆ お前を弄るとストレス解消になるなぁー☆」
  根も葉もない話ですっ!
  断固として控訴する気概で私はラミナスに食って掛かる。
  もうやだこいつー(泣)。



  神秘の書庫。
  タムリエルの知識全てがここにあるといっても過言ではない。
  私はそこに足を運んだ。
  アークメイジになってからここに足を運ぶのは始めてかも。
  最近忙しいもんなぁ。
  「ハイ。ター・ミーナ」
  「久し振りねぇ。アークメイジ様、ご機嫌麗しゅう」
  「やめてよ」
  「アークメイジ様。あなた様の特権でここの予算を三倍に増やして欲しいなぁ」
  「……持ち上げる魂胆はそれかい」
  「あははは」
  まったく。
  どいつもこいつもアークメイジを何だと思ってんだ。
  まあ、いい。
  今の問題はそこじゃあない。
  「ター・ミーナ。虫の王を倒す代物の情報があるんだって?」
  「ええ。まあ、座って」
  手近な椅子に座る。
  本を閲覧している魔術師達はチラホラといるけど私達は出来るだけ周囲に人がいない場所に座る。
  聞かれたらまずい?
  そんな事はないけど落ちかつないからね。
  さて。
  「魔王装備は知ってるぅ?」
  「ウンブラとかゴールドブランドとかクラヴィカスの仮面とかの類でしょ?」
  「良く出来ました」
  「……常識でしょうが。それで?」
  「それじゃあ聖戦士装備は知ってる?」
  「聖戦士装備?」
  知らん。
  私の顔に『?』が浮かんでいるのがおかしいらしい。ター・ミーナは微笑した。
  「な、何がおかしいのよ」
  「まさか天下のアークメイジがそんな事も知らないとはねぇ」
  「わ、悪かったわね」
  「神に愛された装備品よ」
  「神に……ああ。ベリナル・ホワイトスレーク」
  「ご名答」
  あんまり神様関係は好きじゃなかったけど咄嗟には思い浮かばなかったけど、ようやく理解出来た。
  ベリナル・ホワイトスレークは古代アイレイドの人物。
  魔術王ウマリルと相打ちになった勇者。
  もちろん当時奴隷だった人間側の勇者であってアイレイドエルフにとっては悪魔であり天敵。聖戦士の装備品は八大神が人間に与えた代物とされている。
  当時は九大神ではなく八大神だった。
  神々の末席であるタロスはこの当時はまだ存在していなかったからだ。
  ちなみにタロスとはタムリエル全土統一をして現在の帝国を築いた皇帝タイバー・セプティムが死後神格化した存在。
  さて。
  「神に愛された装備品」
  「そうよぉ」
  「まさかそんなものが実在してるとでも?」
  「そうとは言ってないわぁ。ただ実在する可能性のある場所が発見された、というだけよ」
  「場所……どこ?」
  「ここの予算が少ないなぁ」
  「わ、分かったわよ。通常の……1.2倍にしてあげるわ」
  「少ないなぁ」
  「分かった分かった。ラミナスと相談して後できちんと報告するわ。……つーか私はアークメイジなのになんであんたに報告せにゃならんのよーっ!」
  「抑えて抑えて」
  「がるるーっ!」
  なんか腹立つぞーっ!
  弄られてる?
  弄られてるのか、私は?
  何て不幸なアークメイジなんだろ。今だかつてこんなアークメイジは存在しなかったに違いない。
  おおぅ。
  「それでター・ミーナ、場所はどこ?」
  「最近調査で判明した場所なのよぉ。まだ手付かず。海中に没しているからトレジャーハンターの類に荒らされてはないと思うわぁ」
  「海中に……厄介といえば厄介ね」
  「場所はルマーレ湖南東の海中にあるの。過去の文献を徹底して調査した結果、その遺跡はヴァヌアと呼ばれているみたい。確実ではないけど
  そこには八大神の装備品の1つが隠されている可能性があるわぁ。もしもそれが聖戦士の剣であるならば」
  「聖戦士の剣であるならば?」
  「虫の王の残滓も斬れるかもしれない」