天使で悪魔






連携攻撃っ!





  強敵との戦い。
  戦いの中に傷付き、挫折し、そして苦悩する。
  敵の強大な戦闘力の前に苦戦する。

  隣を見てみよう。
  仲間がいる。

  そう。
  私達は一人ではない。連携を組む事が、出来るのだ。






  アリス達が合流。
  直後に虫の王が放った雷の魔法『神罰』で私達は全滅。……つーか私の魔法をパクったわけ?
  ともかく私達は全滅。
  気絶した。
  普通はそこで殺される。戦闘中に意識を失うというのは即座に死を意味する。
  私達は死ぬ……はずだった。

  単身でアリスが虫の王に立ち向かった。
  結果として私達は誰一人欠けずに存在している。アリスのお陰だ。
  意識を取り戻した私達は最終決戦に挑む。

  最終決戦に……。




  連携攻撃っ!
  虫の王を相手に私達は持てる力を全て注ぎ込む気力で敵に挑む。
  それぞれが一気に肉薄する。
  杖を掲げる虫の王。
  「無益っ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』

  雷撃が踊り狂う。
  私達はそれぞれに吹っ飛んだ。
  威力?
  威力は大した事がない。
  魔法耐性的にあまり強くないインペリアルのアルラ、ダンマーのアリスも立ち上がるのだから威力的には大した事がない。要は今の雷撃は相手との間合を
  保つ為の意味合いなのだろう。威力そのものよりも衝撃の方が強かった。私も後ろに吹っ飛んだ。
  虫の王は叫ぶ。
  「何故貴様らはそこまでして立ち向かうっ! 煩わしいっ! 目障りっ! 忌々しいっ! ……ええい、消えるがよいっ!」
  雷撃が虫の王の手に宿る。
  させるかっ!
  「裁きの天雷っ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  「くあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  今度は虫の王が吹っ飛んだ。
  威力?
  私のは威力が高いです。
  間合を保つ為の魔法ではなく相手を雷撃で焼き殺す為の魔法。当然ながら威力は高い。
  これでまた一回虫の王は死んだかな。
  ……。
  ……にしても虫の王って魔法耐性低いな。アルトマーの特性を完全に引き継いでる。肉体的には脆弱そのものだ。
  伝説の死霊術師と言われればデタラメに強いのかと連想するけど実際にはそうではない。
  死なないわけではないのだ、こいつ。
  殺せる。
  殺せるんだけど……魂のストックが数千単位であるから殺しても殺しても生き返ってくる。魂を魔力に変換しているから私の100倍ぐらいの魔力があるん
  だけど魔力の最大量と攻撃力は必ずしもイコールしない。
  つまり?
  つまり殺すのは容易という事だ。
  殺すのは出来るのだから次は滅するという難題に取り組むとしよう。
  まあ、簡単かな。
  戦ってるのは私ではない。
  戦ってるのは私達、だ。
  連携攻撃あるのみっ!
  虫の王がゆっくりと立ち上がった。
  「満足か?」
  「ええ。少しは気が晴れた。ありがとう、わざと死んでくれて。……あれ? もしかしてわざとじゃなかった?」
  「……小賢しい小娘だっ!」
  「そりゃ失礼」
  「礼儀のない者は嫌いだよ。余に逆らう者は特に嫌いだ」
  「お互いに嫌い合う仲。実に結構だと思わない? 何の情も挟まずに殺し合えるわけだからね。お前殺すよ」
  「小娘っ!」
  「フォルトナ」
  構える虫の王は突如としてズタズタに切り裂かれる。人形姫フォルトナの魔力の糸でね。
  敵は1人。
  こちらは4人。
  つまり手数としてはこちらの方が圧倒的に多い。
  連携ってこういう事でしょう?
  さてと。
  「一気に畳み掛けるわよっ!」
  『はいっ!』
  フォルトナとアリスは叫ぶ……ってアルラは?
  「アルラ?」
  「わたくし、魔法が使えませんの」
  「はっ?」
  「魔法を封じられてるんですわ」
  「アリス、フォルトナ、虫の王の相手を」
  2人に指示……って、あれー?
  虫の王は空間転移を繰り返して間合を保つ、アリスが何故かその位置を的確に読んでフォルトナにナビ、フォルトナは魔力の糸で虫の王を追撃。
  ふぅん。
  指示するまでないじゃん。
  初顔合わせではあるけど2人の連携は息がピッタリ。
  フォルトナには特殊能力『魔力の糸』がある。アリスはアリスで相手の動きを読んでる、いつの間にあんな能力を身に付けたんだろ。
  というかどんな能力だ、あれは?
  位置を読むってまるで鷹の目じゃん。
  まあ、いい。
  虫の王の相手は2人に任せるとしよう。虫の王は魔力の糸には不慣れなようだし、しばらくは大丈夫だろう。
  バツの悪そうな顔をするアルラに魔法が使えない理由を問い詰める。
  アルラの魔法は私に匹敵する。
  もしかしたら私よりも高い。
  つまり大切な戦力なのだから『わたくし、魔法が使えませんの』では困る。
  「魔法が使えないってどういう意味?」
  「そのままの意味ですわ」
  「魔法が使えない豚はただの豚なのよっ!」
  「誰が豚ですの誰がっ!」
  そういえば剣で接近戦しかしてなかったな、アルラ。
  魔法を封じられてるのか。
  「で? 何で使えないわけ?」
  「四大弟子のパウロとかいう奴に天霧病を感染させられたのですわ」
  「天霧病」
  脳内を検索。
  ……。
  ……知らん。聞いた事がない病だ。
  未知の病?
  そうかもしれない。
  「聞いた事がない病ね」
  「それは当然ですわ。パウロが作り出した病気みたいですもの」
  「ふぅん」
  アルラの顔をよく見る。
  顔が少し火照っている、瞳孔も少し拡大してる、彼女の喉に右手を当てる。異常に熱い。
  「天霧病のデメリットは?」
  「魔力の低下、魔力の自己回復不可、魔法耐性の低下、ですわ」
  「これは肺が温床ね」
  「肺?」
  「ええ。だからこうすればいい」

  グググググググっ!

  「……ちょ、ちょっとっ! く、苦しい……っ!」
  「……」
  無言で私はアルラの首を絞める。
  その手には淡い光が灯る。
  未知の病は治癒出来ない。しかしその特性が分かるのであれば、そして病原菌の温床が分かるのであれば何とかなる。
  天霧病が肺に寄生するのは酸素を必要としているから。
  だから。
  だからその酸素の供給を断てば弱体化する。
  ま、まあ、思いっきり首を絞められてアルラも弱体化してるけど(苦笑)。
  弱体化した菌なら私の魔法で快癒……は不可能かもしれないけど、それでも一時的に症状を緩和する事が出来る。治療に関してはこの戦いが
  終わったら私が解毒薬を作るとしよう。錬金術(厳密には薬術の範疇)に関してはシロディール随一の腕前だと自負していますわ。
  ほほほ☆
  私はアルラの首から手を離す。
  「けほけほっ!」
  咳き込むアルラ。
  非難がましく私を見ている。まあ、気持ちは分からんではないですけどね。
  事務的に私は言う。
  「症状は緩和させたわ。魔力、回復してきてない?」
  「魔力……ああ、そういえば……」
  「一時的に治したわ」
  「あ、あなた、錬金術を会得してますの? 錬金術師のスキルを身に付けるのは並大抵の量の文献の読破では済みませんわよっ!」
  「意外?」
  「ま、まあいいですわ。破壊魔法ではわたくしの方が上ですからねっ! あと、召喚魔法っ!」
  「それを証明する気は?」
  「ありますわっ!」
  「じゃあ戦闘継続おっけぇ?」
  「望むところですわ」
  不敵に笑うアルラ。
  確かに破壊系と召喚系のスキルでは私はアルラに劣るかもしれない。
  対抗心燃やす?
  まあ、良い感じに燃えては来るかな。だけど向上心は生まれては来ても対抗心は出て来ない。何故なら仲間だからだ。別に仲間の能力に嫉妬する
  必要もないし、嫉妬するほど私の能力が劣っているわけでもない。
  「アルラ、行くわよっ!」
  「ええ。分かりましたわっ!」
  戦場に向き直る。
  戦況は……。
  「フィッツガルド・エメラルダ、あのダンマー戦士……空間転移先が見えてるんですの?」
  「さ、さあ?」

  「フォルトナちゃん、あたしが進む先が常に虫の王の転移先っ! そこを狙ってっ!」
  「分かりましたっ!」

  アリス、善戦。
  初顔合わせのフォルトナとの連携はばっちり。
  虫の王は魔力の糸を空間転移で回避、しかし転移先を何故かアリスが分かるらしくフォルトナにその位置を教えている。
  アリスが常に虫の王の真正面という位置をキープ、フォルトナはその先を狙えばいいというわけだ。アリスは立ち止まっているわけではなく走っている、
  虫の王が空間転移するたびに方向転換。虫の王は魔法で迎撃するより間合を保ちたい一心らしい。
  後ろに後ろに空間転移。
  それをアリスが魔剣ウンブラを手に追っていく。
  ……。
  ……何故位置が分かるのだろ?
  うーん。
  奥の手があるのか、アリスにも。私にもああいう特殊能力が欲しいものだ。
  「いい加減しつこいぞ、ダンマーの戦士っ!」
  虫の王は虫の杖を地面に突き刺し、両手をアリスに向ける。これまでにない雷撃が宿った。
  アリスと虫の王の距離はまだある、剣で斬り込むよりも先に魔法が放たれるだろう。私達が援護するにも、ちょうど私達と虫の王の間にアリスがいる。
  魔法がアリスに当たる。
  ならばっ!
  「アルラ」
  「分かっていますわ」
  その時、虫の王が叫んだ。

  「覇王・雷鳴っ!」
  
バチバチバチィィィィィィィィィっ!

  雷撃が踊る。
  「な、なにぃっ!」
  空しく虫の王の声が響く。雷撃はことごとく遮断される。虫の王のすぐ目の前で雷撃は遮断、そこから先には届かない。
  何故?
  私とアルラが奴の目の前に魔力障壁を展開したから。
  別に魔力障壁は術者の目の前に展開しなければならないという法則はない。虫の王の目の前に展開できないという理屈はない。
  魔法障壁に距離は関係ないのだ。
  雷や炎などの魔法は当然放ってから対象に直撃するまでの距離が必要となる、時間が必要となる、放ってすぐに当たるわけではない。
  だけど障壁に距離は必要ない。
  その証拠に虫の王の放った一撃を、虫の王のすぐ近くで遮断した。
  ……。
  ……にしても重かったな、今の一撃。
  アルラと一緒に展開したのでなければ魔法障壁は貫通されていたかもしれない。
  ともかく虫の王の一撃は阻んだ。
  その間にアリスが虫の王に肉薄し……。
  「やあっ!」
  「小賢しいわぁっ!」
  バッ。
  両手を勢い良く掲げる。

  
ゴオオオオオオオオオオオっ!

  物凄い衝撃波が生じた。
  魔力を帯びていない物理的な攻撃なので魔力障壁では阻めない。物理障壁じゃないので衝撃を阻めない。
  アリスは数秒耐えたものの耐え切れずに後ろに吹き飛ばされた。
  私達にも衝撃波が襲いかかる。
  物理障壁が間に合わないっ!
  結果、私達もまた後ろへと吹き飛ばされた。衝撃波に威力そのものはない、豪風のようなものだった。
  虫の王、どうやら距離を取りたかったようだ。
  私達は立ち上がる。
  「無事?」
  「大丈夫です、フィッツガルドさん」
  「問題なくってよ」
  「フィーさん、問題ないです。いつでも行けます」
  よし。
  全員特にダメージはないようだ。虫の王は杖を手にし忌々しげに舌打ちをした。
  挑発してやるかな。
  私は言う。
  「びびってんの? 私達に?」
  「トレイブンの養女よ、余に対しての暴言は許さぬ。いかに貴様が希代の魔術師だとしてもこの肉体の持ち主には遠く及ばぬ」
  「……?」
  この肉体の持ち主?
  妙な言い回しをした。
  何故『虫の王である余には勝てぬ』というシンプルな言い回しをしなかったのだろう?
  シンプル嫌い?
  妙に捻くれた言い回しにしても意味はないと思うんだけど……何か意味がある?
  虫の王は低く笑う。
  「余はお前達魔術師ギルドの祖だと言ったらどうする?」
  「はっ?」
  「この肉体、ガレリオンなのだよ」
  「どういう意味?」
  「余はあの時、ガレリオンに敗北した。しかし余は奴の肉体を乗っ取った。死の間際にな。……考えてみよ。何故ガレリオンは余の遺産を破壊せずに
  隠匿したと思う? 分かるかな? お前達は結局は余の計画したシナリオ通りに舞っているに過ぎぬ」
  「……」
  さすがに私は沈黙する。
  魔術師ギルドに加盟こそしていないもののその内情をよく知るアルラもまた黙った。
  このカミングアウト、かなり衝撃的。
  別にガレリオンを崇拝していないけど事が大事過ぎる。
  虫の王は続ける。
  「次第に余に取り込まれ狂っていくガレリオンの魂は美味であった。余は魔術師ギルドを鍛えた、余の部下である死霊術師とぶつけた。何年も何十年も。
  結果として魔術師ギルドの魔術師達は鍛え上げられた、魂の質が向上した。それを余は取り込んだ。結果として余の生命と魔力はより高まった」
  「……」
  「その後、余は……いや、ガレリオンはこの世を去った。永遠に居座るのは無理なのでな、死んだ振りをした。今度は余は黒蟲教団を鍛え上げて、魔術師
  ギルドにけし掛けた。戦いの中で魂の……くくく、以下略だ。余は同じ事を何度も繰り返してきた。分かるかな? 今回の一件もまた同じ」
  「……」
  「そうともっ! お前達が命を賭けているこの戦いも何度も繰り返されてきた、他愛もないイベントなのだよっ!」
  「あんたの生贄の儀式ってわけ?」
  「そうなるな」
  「それでスケール大きいと威張れると思ってるわけ?」
  「何?」
  「そんなに死ぬのが怖いのか、この腰抜け」
  「……何だと?」
  「だってそうじゃない?」
  私は静かに微笑を浮かべる。
  微笑。
  厳密には半分ほど冷笑を込めている。
  私の持ち味は戦闘だけではない。戦闘に特化しただけではないのを虫の王に教えてやる必要がある。
  話術だって立派な武器だ。
  仲間達は傷付いている。
  多少の時間稼ぎは必要。多少は、ね。そしてそれが反撃の狼煙を上げる為の時間となる。
  魔剣ウンブラが要。
  それをどう扱うかは既に脳裏にある、絶対的で、そして最大の反撃の方法。
  だけどその為には時間が必要。
  そう。
  わずかとはいえ時間が必要だ。
  傷付いた仲間達の荒くなった息を少しでも和らげる為にも時間が必要。
  冷笑に虫の王は気付いたのだろう。
  顔をしかめた。
  「何だ、その笑いは」
  「あら敏感なのね。やっぱり弱虫の王は人の侮蔑には敏感なのかしら?」
  「……貴様……」
  押し殺した声で私を恫喝してくる。
  アルラは小さく呟いた。
  「……あなた、このトークは何の意味ですの?」
  「時間稼ぎ」
  「……時間稼ぎ? それは挑発って言うんですのよ……」
  「あら失礼」
  「まったく」
  アルラの呟きをそこで無視する事にする。
  今はそんな事はどうでもいいからだ。
  「無敵の死霊術師、伝説の死霊王、誰もが恐れて震える虫の王マニマルコ……だけどその実態はただの臆病者ってわけだ。あんたって噂ほどじゃないわね」
  「……何?」
  「聞こえなかったわけ? 噂ほど大した事ないって言ってんのよ、小物」
  「小娘っ!」
  「吼えるしか能がないってわけ? あんたの囀りは聞き飽きたわ」
  「囀りだと?」
  「わざわざ聞き返さないで。それとも何? あんた耳が遠いわけ? 隠居すれば? そろそろさ」
  「小娘っ!」

  ドンっ!

  力強く足を踏み鳴らす虫の王。
  こいつ本気で虫の王?
  ……。
  ……弱くはない、弱くはないけど……うーん、中途半端なんだよなぁ。
  そして今ならその理由が分かる気がする。
  こいつ結局は肉体に縛られてる。
  魔術師ギルドの祖ガレリオンの肉体に寄生しているとはいえ、絶対的な魔力を誇っているとはいえ肉体が耐えられる負荷以上の力を発揮する事が出来ない。
  虫の王もまた肉体に縛られている。
  つまり。
  つまり肉体の限界を超えれていないのだ。
  そういう意味ではそこらの死霊術師やリッチとそう大差はない。こいつもまた未完成の存在でしかない。
  魔剣ウンブラの特性を的確に使えば勝てるだろう。
  私は言葉を続ける。
  「何をびびってんの? 無敵の存在なんでしょう? だったら大物らしくデーンと構えたらどうなの? 私は思うのよ、あんたは結局死を恐れてるってね」
  「死を恐れる? 馬鹿な。余は死を超越した……」
  「その発想がそもそもおかしい。本当に死と向かい合えるのであれば、超越はおかしいの。だって越えるべき対象ではないでしょう、死は」
  「何が言いたい?」
  「死とは受け入れるもの。越えるべき事ではないわ。その発想をした時点でお前はただの落伍者でしかない」
  「撤回せよ」
  「いいえ。むしろ繰り返す。あんたは、ただ、死を怖がってるだけに過ぎない。あんたの同類の死霊術師もそうよね。死を越える、死を否定する、その定義は
  そもそもが過ちそのもの。死は超えるべきでも否定すべきでもない、受け入れてこその、強さなのよ」
  「ではお前はトレイブンの死を受け入れたというのか? 死は悲しむべきではないと?」
  「そうは言ってないわ」
  「ではお前に問おう。トレイブンの養女よ、お前は死を身近な存在としたいというのか?」
  「それはおかしな質問ね。死は私達の一部。私達は生れ落ちた瞬間から死の抱擁を免れる術などない。ただ私達は死を人生の一つとして、生活の一部とし
  て受け入れるしかない。人生を送っていく内に私達は死の観念を学ぶ。それが正しい人間としてのあり方。不老不死などただの逃げ道でしかない」
  「死を否定して何が悪い?」
  「死を否定する為の代価は何? 何を等価交換した? ……あんたはね、自分以外の命を代価として払って生きているに過ぎない」
  「それが悪か? 自分だけが幸せでありたいと思うのは悪か? 競争なのだよ、全ては。勝つ者がいれば負ける者もいる。真理だ」
  「真の理、なるほど、それは真理足りえる。だけど外道に落ちた者が言うべき言葉ではないわね」
  「何?」
  「死を越えようと行動した瞬間、お前はこの世界の全ての敵となった。私は死を否定するお前を、否定するまでよ」
  「余を否定するだと?」
  「ええ」
  「それはつまり、不老不死となった、つまりは死を超越した余を殺すという事か?」
  「ええ」
  「……やれるものなら、やって見せるがよいっ!」
  「アリスっ!」
  瞬間、アリスは動く。その叫びの意味を察したのだろう、魔剣ウンブラを手に虫の王に向って走る。
  時間稼ぎが功を喫したらしい。
  少しとはいえ体力が回復したようだ。走る足取りは力強い。

  タタタタタタタタタタタタタタタッ。

  虫の王に向って疾走するアリス。虫の王、当然ながら警戒する。
  魔剣ウンブラは唯一効果的に虫の王を殺せる武器となるのだから当然だろう。虫の王は虫の杖を再び足元に突き刺して両手で身構える。
  あの構えは『覇王・雷鳴』か。両手に雷を宿らせる虫の王。
  先ほどのあの大技をするつもりなのは明白だ。
  私はもう一度叫ぶ。
  「アリス、魔剣ウンブラをこっちにっ!」
  「分かりましたっ!」
  打てば響く。
  アリスは何の疑問も発せずに私に向って抜き身の魔剣ウンブラを中に放った。くるくると回転しながら宙を舞う魔剣ウンブラ。
  虫の王の視線がアリスから魔剣ウンブラに向く。
  それはそうか。
  奴にしてみれば一番怖いのはアリスの卓越した剣の腕前ではなく魔剣ウンブラの方だからだ。
  両手に宿った雷、放たれず。
  迷っているのだ。
  アリスを吹き飛ばすべきか、魔剣ウンブラを奪取すべきか。
  「ちっ」
  舌打ち1つして虫の王は手の雷を消した。
  魔剣ウンブラを手放したアリスを脅威ではないと踏んだらしい。甘い甘いっ!
  わずかに躊躇いと隙が命取りっ!
  「フォルトナ、魔力の糸で魔剣を奴にっ!」
  「分かりましたっ!」
  フォルトナが動く。
  手から魔力の糸を紡いで宙を舞う魔剣ウンブラを絡め取る、その魔剣ウンブラは一直線に虫の王に向って突き進む。この間、わずか数秒。
  一直線に進む魔剣ウンブラ。
  「おのれぇっ!」

  バッ。

  虫の王、両手を突き出した。しかし今回は雷は宿らない。
  ただ魔剣ウンブラの動きが止まった。
  この波動、念動かっ!
  どうやら虫の王は念動の力で魔剣ウンブラを押し留めている。そう、フォルトナの魔力の糸で操られた魔剣ウンブラを阻んでいる。

  カタカタカタ。

  魔剣ウンブラが揺れる。
  少しずつ。
  少しずつ向きを変えようとしている。
  虫の王の念動の力がフォルトナの魔力の糸の力を上回ろうとしているのだ。虫の王は念動に全ての神経を集中している。つまり防御を完全に無視し
  ている状況だ。虫の王はフォルトナが完全に1人で受け持って貰っている状況であり、こっちにはまだ手の空いている人数はいる。
  例えば私とアルラ。
  「裁きの天雷っ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  雷撃が虫の王を焼く。
  もちろん一回殺した程度の意味合いしかないけど……私の魔法の最大の目的は殺す事ではなく念動のコントロールを狂わす事。
  精神が乱れればコントロールも乱れる。

  カタカタカタ。

  魔剣ウンブラは次第に軌道を変えつつある。
  まずい。
  私はさらに裁きの天雷を放つけど一向に虫の王の念動のコントロールは狂いそうもない。さすがと言わざるを得ない、腐っても伝説の魔術師ってわけか。
  というか……。
  「アルラっ! 手伝ってよっ!」
  「うるさいですわ」
  当のアルラは攻撃には加わらずに何かの印を切っている。
  召喚系の動き、かな。
  ラミナスに噂程度に聞いた事があるけどアルラは精霊使いらしい。しかし幾ら精霊を召喚しても虫の王には通用しないようにも思える。
  だけどそれを口にしている暇はない。
  魔法は全て精神的な制御で成り立っている。虫の王の念動然り、私の裁きの天雷然り。
  今は喋っている暇はない。
  余計な神経を使っている余裕などない。
  「裁きの天雷っ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  駄目だ。
  この出力では虫の王を阻めないっ!
  ブーストするには時間が掛かる。少なくともブーストしている間にフォルトナは魔剣ウンブラで刺し殺されるだろう。裁きの天雷を浴びているからこそわずか
  ではあるけど念動のコントロールに乱れが生じているのが確かな以上、ここでやめるわけにはいかない。
  ちっ!
  アルラの協力があると思ってたのにっ!
  予定が狂った。

  タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ。

  その時、無手となったアリスが私の左隣に走り寄ってきた。すぐ近くで、私の真横で止まる。
  そして物言わず左腰に差してある鞘から剣を引き抜いた。
  雷の魔力剣だ。
  右手でアリスはそれを構えて、そして虫の王に向って投げ付けた。
  「やあっ!」
  ああ。なるほど。
  その手があったか。思いも付かなかった。
  ナイス、アリスっ!
  虫の王はたかが剣と侮っているのだろう、死んでも魂1つの損失だと思っているのだろう、その考えは甘い。実に甘い。アリスを舐め過ぎっ!
  雷の魔力剣は虫の王の胸元に吸い込まれるように突き刺さる。
  私は魔法をさらに強める。
  「裁きの天雷っ!」

  
バチバチバチィィィィィィィィィィっ!

  突然、突き刺さった雷の魔力剣から雷撃が踊り狂う。
  神罰級の雷撃が。
  そう。
  これは私とアリスしか知らない魔力剣の秘密。魔力剣に込められている同属性の魔法を魔力剣にぶつける事で、魔力剣に込められている力を解き放つ事
  が出来る。その時の威力、爆発的に高い。その代償に魔力剣はただの剣になるけれど奥の手に相応しい威力となる。
  私達はそれを知っていて、虫の王はそれを知らなかった。
  それは勝敗に響く。
  大きな差となる。
  虫の王は踊り狂う雷撃で焼き尽くされる。揺れる魔剣ウンブラは少しずつフォルトナのコントロール下に置かれていく。
  だけどまだ完全に虫の王の念動の影響を離れていない。
  この状況でも念動を使うかっ!

  ゾク。

  「……っ!」
  その時、私は寒気がした。虫の王から異様な雰囲気が飛んできた……わけではない。
  異様な雰囲気はすぐ近くからだった。
  アリスも顔を蒼褪めていた。アリスも感じ取っているらしい。
  私は力の出所を見る。
  アルラだった。
  そのアルラの側には赤い……いや、紅い紅い炎が具現化していた。炎は、ただの炎の形をしていなかった。
  それはまるで生き物のような、そんな印象を受ける。
  炎の精霊?
  そうじゃない、これはそんな生半可な存在ではない。
  アルラは叫ぶ。
  「火の精霊王よ、紅蓮の吐息をっ! 我が意に従い敵を焼き尽くせっ!」
  やっぱりっ!
  全ての炎を司る存在を召喚したのかっ!

  
ゴオオオオオオオオオオオオっ!

  絶対的な火力を放出する炎の塊……いや、巨大な炎のトカゲは口と思われるところから灼熱の炎を発する。
  火の精霊王サラムス。
  それがアルラが召喚した至高の存在だ。
  この世界に存在する四つの元素を司る四体の精霊王の一体をアルラは召喚したのだ。特に火の精霊王は属性柄、気性が荒く制御は不可能とされている。
  ……。
  ……まあ、そもそも精霊王を従えれるのは不可能だとされているんだけどね。
  今だかつて精霊王を召喚した術者の存在を私は知らない。
  火の精霊王サラムス。
  水の精霊王ウン・ディアーネ。
  土の精霊王ノームルン。
  風の精霊王シルフィス。
  アルラは絶対的な存在である四体の精霊王のその内の一体を完全に制御して召喚している。
  侮れないなぁ、アルラ。
  虫の王もさすがに精霊王が召喚されるとは想定していなかったらしい。
  そりゃそうだ。
  多分虫の王ですら召喚できないだろうし。
  灼熱の業火で焼き尽くされる虫の王、そして魔剣ウンブラを押し留めている念動は当然ながら霧散する。
  そして……。



  全てを焼き尽くす雷撃が踊り狂う。
  灼熱の化身たる火蜥蜴の王者の口から発せられる業火。
  おそらく。
  おそらく人が具現化できる、最大にして最高の攻撃。もっとも地獄に近いであろう光景がここに具現化している。
  全てが掻き消される。
  悲鳴も。
  生命も。
  存在も。
  ただただ掻き消されていく。
  虫の王マニマルコといえどもただで済むわけがない。例え魂が何千あろうとも無事では済むまい。
  消滅するしかない、消滅するしか。
  例外など存在しない。
  雷と炎が終息した後、そこには頭蓋骨が1つ残っているだけだった。
  虫の王マニマルコ、撃破。





  私達はしばらく何の声も上げられなかった。
  連戦に次ぐ連戦。
  洞穴の前で私が倒した四大弟子は雑魚だったけど……アリス、アルラ、フォルトナが相手をした四大弟子は強力な相手だったらしい。
  その後、ここで虫の王との戦いへの参戦。
  仲間達の消耗は激しいはずだ。
  もちろん私だってかなり消耗している。最初から最後まで虫の王の相手をしていたわけだから疲れるのは当然だ。
  ……。
  ……ま、まあ、途中で意識を失ってアリスに押し付けちゃったけどさ。
  というかアリス侮れんなー。
  強くなったんだなぁと実感中。一番最初に会った時はゴブリンに苦戦していた。光るものは感じたけど、まさかここまで化けるとは思ってなかった。
  精霊王を従えるアルラ。
  有史以前のアイレイド文明時代に最強と謳われた人形姫フォルトナ。
  アリスは2人に比べたらある意味で地味かもしれない、器用貧乏かもしれない、だけど意外性はアリスがずば抜けている。
  おそらく才能だけを見ればシロディール随一かもしれない。
  まあ、アリスの上には私がいますけどね?
  ともかく。
  ともかくもう少し経験を積めば私でも勝てない戦士になるかもしれないな、アリスは。
  虫の王マニマルコ撃破。
  完全なる骨と化した。
  「随分と綺麗に骨になったわね」
  「ですわね」
  「これぞ団結の勝利ですっ!」
  「強い相手でしたね、フィーさん」
  私達は見下ろす。
  完全なる骸と化した虫の王を。
  現在残っているのは頭蓋骨の一部のみ。完全なるシャレコウベと化してしまった虫の王を見る。アリスは魔剣ウンブラを鞘に戻し、私は私で奴の
  手にしていた虫の杖を右手で持つ。激闘は終わった。アルラの火の精霊王サラムス召喚が大きかったかな、やっぱり。
  まさに意外性の召喚だと思う。
  というか誰だって精霊王を召喚出来る存在がいるだなんて思いも至らないだろう。
  それが当然だ。
  私だって虫の王だってこの召喚は予想外だった。
  「フィッツガルドさん、そろそろ……」

  「まだだっ! まだ終わってないっ!」

  ……っ!
  虫の王の声が突然響き渡った。
  頭蓋骨の一部でしかなかった虫の王は、頭蓋骨から他の部分の骨が形成、数十秒で一揃いの骨と化す。それが立ち上がり、臓器が、そしてそれを覆う
  筋肉、皮膚が形成されていく。ありがたいのはご丁寧にも服も再構築された事かな。死霊術師のユニフォームともいえるあのローブが具現化。
  復活しやがった、まだ魂が残ってたのか。
  「全員外にっ!」
  有無を言わさずに私は宣言。
  完全に消耗しきった仲間達では荷が重い。私1人で相手をするとしよう。私1人でね。
  「虫の王、決着を付けましょう、2人きりでね」
  「決着を決しようぞ、希代の魔術師よっ!」


  最強は2人も要らない。
  さあ決着をっ!
  さあっ!