天使で悪魔






黒蟲教団 〜VS虫の王マニマルコ〜






  虫の王マニマルコ。
  おそらくは史上最強の魔術師。魔術師ギルドの始祖ガレリオンを追い詰めた戦績を持つ存在。
  伝承を読む限りではガレリオンの勝利はギリギリ。
  あれは幸運の領域だろう。

  史上最強の魔術師との戦い。
  それが今、始まる。






  「さあ。始めようか」
  「くっ!」
  バッ。
  私は後ろに飛んだ。
  神罰を使ったのは軽率だった。魔力が完全に尽きている状況だ。
  間合いを詰めて剣で勝負?
  それはご免蒙る。
  どんな能力を持つかも分からない相手に接近戦を仕掛けるのは正直嫌だ。もちろん相手は魔術師、距離を取れば逆に魔法の餌食になる可能性の
  方が高いけど私には完璧に近い魔法耐性がある。少なくとも物理攻撃より魔法攻撃の方が耐えられる。
  ……。
  ……まあ、どんな攻撃だろうが受ける前に相手を屠りたいですけどね。痛いのは嫌いです。
  もちろんそれが叶わないのは分かってる。
  伝説級の死霊術師が相手なんだ、激戦になるのは必至。
  実はなんちゃって虫の王でした、という展開ではない限り激戦になるだろう。こいつが虫の王を騙っているだけならいいんだけど、騙ってるだけの偽者に
  これだけ強大な組織をハッタリだけで仕切れるとは思えない。つまり虫の王は本物と思った方がいい。
  実力も本物。
  そう考えて挑んだ方が間違いは少ないだろう。
  さて。
  「その位置で良いのかね?」
  「……?」
  虫の王は私が距離を充分に稼ぐのを余裕の表情で見ていた。
  余裕?
  まあ、余裕なんでしょうね。
  すらり。
  私は剣を引き抜く。腰に差している雷の魔力剣ではなく、背中に背負っているパラケルススの魔剣の方だ。このパラケルススの魔剣は持ち主の魔力に
  比例してその鋭さを増していくという、ある意味で魔術師向きの魔剣。
  まあ、問題は私の魔力が現在ゼロに近いという事かな。
  「あんまり余裕をアピールすると後で後悔するわよ」
  「言ったはずだよ。そんな感情は既に忘れた」
  「思い出させてあげようか?」
  「やってみるといい」
  「はあっ!」
  タッ。
  地を蹴って私は間合いを詰める。
  走る。
  走る。
  走るっ!
  虫の王に肉薄、すれ違い様にパラケルススの魔剣で奴の脇腹を薙いだっ!

  フッ。

  「ちっ!」
  舌打ち。
  斬ったと思った瞬間、奴の姿が消えた。
  弟子のカラーニャも空間を飛ぶ能力があったんだ、師筋のこいつも同じ能力があってもおかしくない。むしろこいつがカラーニャに伝授した?
  そうかもしれない。
  私は立ち止まり周囲を見渡す。
  姿は掻き消えている。
  どこにもいない。
  どこにも……。
  「そろそろ戦うかね? それともまだデモンストレーションデモするかね?」
  「……っ!」
  ぞく。
  声がすぐ真後ろからした。
  私は一瞬動揺したものの、その内心の動揺を恥じるかのように闘志を剥き出しにして相手を確認するより先に後ろに向って蹴りを突き出す。

  フッ。

  また消えたっ!
  神経を研ぎ澄ませて相手の位置を把握しようとする。
  「くっそ」
  気配を掴む。
  また後ろかっ!
  ブン。
  パラケルススの魔剣を振るう。魔力がまだ半分も回復していないので鋭さのレベルはあまり自信がないけど剣は剣だ。虫の王の耐久力次第では
  あるけど真剣には代わりがない。当たりさえすれば斬れるっ!

  フッ。

  ちっ。
  私は攻撃するのをやめた。
  敵のいなくなった空間の中、私は漆黒の黒水晶という未知の材質で構成されているパラケルススの魔剣を構えたまま相手の動向を探る事にする。
  どう攻撃しても無意味だろう。
  何故?
  虫の王に戦う意思などないからだ。
  いや。
  厳密には戦う意思はあるのだろう。ただ、当分は私の好きにさせて絶望に叩き込みたいのだろう。どう攻撃しても無駄、無意味、徒労だと奴は言いたいのだ。
  魂なんぞ取り込んだことないから分からないけど、絶望に支配された魔術師の魂の方が質が良いらしい。
  だから。
  だから私に絶望を叩き込みたいのだ。
  そういう意味合いでしばらくは私の好きにさせておくのだろう。
  奴と私のレベルの圧倒的な差を見せ付けて私に絶望感を植え付ける為に何もせずにしばらく傍観するのだろう。
  それに外の両軍の戦いもこいつの思惑の内。
  意味?
  それもまた簡単よね。要は私がどう足掻いても叶わないという印象を植え付けたいのだ。逆さになっても叶わないと私に教え込みたいたのだ。そして私の魂
  を絶望に染め上げて自らの内に取り込むつもりなのだ。多分それで間違いないと思う。
  ふざけやがって。
  「納得したかね?」
  「さあね」
  少し離れたところに奴は出現する。
  柔和な笑みを浮かべて?
  いや、それは限りなく邪悪な嘲笑だろう。悪魔めっ!
  「君に余は倒せんよ」
  「その心は?」
  「真理だからだ」
  「真理」
  「人が神に勝てるか? 人が魔王に勝てるか? どうしようもない事象など山ほどある。君にとって余はどうしようもない存在なんだよ」
  「ふん」
  思い上がったもんだ。
  神だとぉ?
  そして自身は魔王にも同義だとも言いたげだ。
  言ってくれる。
  言ってくれるわ。
  こいつがどんなに強力な魔術師でも超えられない領域というものがある。九大神にも魔王にも興味はないけどこいつがそれに勝ってるとは思えない。
  この世界でそれらの存在と勝っているのは誰?
  ふふふ。
  「私だけよ」
  「何を言っている?」
  「神や魔王に勝っているのは私だけ。それが言いたいのよ」
  「ほほう? 思い上がったものだな」
  「闇の神シシスを退けたという実績が私には一応あるんだけどね。……まあいいわ。魔力回復の時間稼ぎありがとう。ここからが本番よね?」
  「全力で来るといい。そして知れ。完全なる存在をっ!」
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  ブーストなしでの最高の一撃を放つ。
  「下らぬな」
  バジィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  その一撃、魔力障壁に阻まれた。
  ……。
  ……あれ?
  魔力障壁で阻む?
  それはつまり虫の王は魔力耐性に自身がないという事だと私は瞬時に察した。そうでなければ魔力障壁など張るはずがない。
  私を魔法だけの女だと思うなよーっ!
  最大の武器は明晰な頭脳だと自負しております(もちろん自慢です☆)。
  「煉獄っ!」
  「無駄だ」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  雑魚相手なら充分な炎の魔法、当然ながら虫の王に届かない、届かないけど……これまた魔力障壁を展開しての防御。
  間違いない。
  こいつは魔法耐性に自信がないのだ。
  ならばっ!
  「裁きの天雷っ!」
  「まだ分からぬか? 無駄なのだよ、無駄」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  雷を放つと同時に私は地を蹴って相手に迫る。
  虫の王が純然たる魔術師タイプなのであれば接近戦が効果的だろう。一気に片をつけてやるっ!
  タタタタタタタっ。
  走る。
  一気に間合いを詰めて私は斬撃を叩き込む。
  瞬間っ!

  フッ。

  再び姿が掻き消えた。
  私は瞳を閉じて刃を構えたまま立ち止まる。空間転移している間は気配は読めない、しかし具現化すれば話は別だ。相手に当面は攻撃の意思が
  ない以上、視界を封じても問題あるまい。気配を読むには視界が邪魔になる。目を開いているとどうしても視界に頼ってしまうからだ。
  待つ。
  待つ。
  待つ。
  「まだ分からぬか」
  奴の声。
  位置が読めたっ!
  私の右斜め後方に気配と声を感じた。私は護身用のナイフを左手で振り向き様に投げ放つ。
  ザシュ。
  それは寸分違わず奴の心臓に突き刺さった。
  「小癪っ!」
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  心臓貫かれただけで死ぬとは最初から思ってない。そもそもそんな常識程度で死ぬのであれば神だの魔王だの名乗らないはずだし、ここまで余裕を
  見せる必要性もなかった。その程度では死なないからこそ余裕が生じていたのだ。
  虫の王、魔力障壁も回避も空間転移も出来ないまま雷の魔法が直撃、そのまま弾け飛ぶ。
  倒した?
  さあね。
  だけどまだまだ私は相手の死を確信していない。
  タッ。
  さらに大地を蹴って相手に迫る。
  「……小娘が」
  確かな足取りで奴は立ち上がった。
  カラン。
  心臓に突き刺さったナイフを抜き捨てる。血は一滴も流れていない。やはりあの程度では死なないか。そして雷の魔法の洗礼でも死んでない。
  肉体的に雷の影響での焦げはある。
  ただしそれは瞬時に治癒した。
  ローブそのものは焼け焦げていないところを見ると何らかの魔法装備なのかもしれない。だけど瞬時に再生するとはいえ肉体的に損傷が見えるので
  あればこいつは殺せるわね。物理防御も魔法防御も基本的には脆弱と見るべきだろう。物理も魔法も無効化し切れていない。
  これは勝てるっ!
  「はあっ!」
  「余に挑むか。不届きっ!」
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  パラケルススの魔剣と奴の杖は交差する。
  切れないっ!
  この魔剣は持ち主の魔力に応じて切れ味が増す。現在のところ最大まで回復している。つまり私の中では最高の威力。にも拘らず切れない。
  まあ虫の杖には数多の魂が封じられているらしいから、純粋な力としたら奴の杖の方が威力が上なのだろう。
  ググググググググっ!
  交差した状態、力で押す。虫の王は腕力はないらしい。そのまま押し切り、相手の体が空いたところで私はパラケルススの魔剣で奴の首を薙ぐ。
  「……っ!」
  声もなく仰け反る虫の王。
  首?
  繋がってる。
  原理は分からないけどすぐに繋がった。
  ……。
  ……いや。正確には斬った部分から再生&結合した、といったところかな。
  右から入った一撃が左に出て行った時には既に傷すらない。
  虫の王は魂を多数取り込んでいる。
  推測ではあるけど魂分は死なない?
  そうかもしれない。
  ならば完全に死ぬまで殺し続けてやるっ!
  「はあっ!」
  「小娘がっ!」
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  数合打ち合う。
  相手もなかなかの腕はあるようだ。少なくともそれなりに体術には長けているのだろう、私と剣を交えている。しかし純粋な剣術家ではない。
  私は一歩跳び下がる。その際にパラケルススの魔剣を左手に持ち返る。
  虫の王、追撃。
  「余に勝てると思うなよっ!」
  「くぅっ!」
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  次第に私は押されだす。
  少しずつ後退、相手の乱撃に押されていく。
  だけどそれはワザとです。
  剣術とは別に卓越した腕前だけが必要なわけではない。虚実の使い分けが必要。
  だけど相手はそれに気付かない。
  こいつ意外に弱い?
  付け入る隙が無数にある。
  「終わりだな、小娘っ!」
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  虫の王の渾身の一撃。
  私はそれを受け流す。パラケルススの魔剣で攻撃を受け、そしてそのまま体を左に空けると奴は前につんのめる。
  「はあっ!」
  その瞬間、右手で私は雷の魔力剣を引き抜く。抜き打ちに奴の胴を切り裂いた。
  「ぐぅぅぅぅっ!」
  呻く虫の王。
  私は情け容赦なく奴にパラケルススの魔剣&雷の魔力剣の二刀流で切り裂く。
  ある意味で一方的。
  情けなどいらないし遠慮も必要ない。
  殺すまでだっ!
  「ぐぅぅぅぅっ!」
  その場に膝を付いたままの虫の王。私は奴の背中に乱打を何度も何度も叩き込む。左手は利き腕ではないけれどパラケルススの魔剣は羽毛のように
  軽いので腕の疲れは皆無に近い。右手の雷の魔力剣は銀製なので重いし疲れるけど、まだまだいけるっ!
  「小娘がっ!」
  ブン。
  虫の杖を振り回す。
  私はそれを軽く受け流して奴に乱打を継続実行。
  既に何度殺した?
  完全なる推測でしかなかったけど奴は死んでは生き返ってるのだと思う。だとすれば推測どおり取り込んだ魂の分復活を繰り返すのだろう。

  フッ。

  姿が掻き消えた。
  今度は私が相手の出現位置を読む前に奴は現れた。
  これ以上接近戦をする意思はないらしい。
  10メートルほど離れて出現した。
  奴の顔からは見せ掛けの紳士然とした笑みは消えていた。憤怒に変わっている。
  「余に対しての不届き、万死に値するっ!」
  「最初から殺すつもりだったんでしょ。だったら意今さらその決意表明は無駄じゃない?」
  「貴様の攻撃も無駄だがね。既に気付いていると思うが余は無限の生命を得ている。貴様程度に崩せる絶対ではないわっ!」
  「貴様、ね」
  呼称が変わったらしい。
  親愛なるトレイブンの養女→小娘→貴様。まあいいわ、呼び方なんてね。それに今の方がしっくり来る。敵の性格はこういう方が分かりやすい。
  私は雷の魔力剣を鞘に戻し、パラケルススの魔剣を右手に持ち返る。
  「無限の生命じゃないでしょ?」
  「なんだと?」
  「取り込んだ分だけ生き返る、それだけの話。殺しても殺しても死なないのであれば、命が尽きるまで殺すまでよ」
  「貴様にそれが出来るかな?」
  「やってみなきゃ何事も分からない。そうじゃない?」
  「まさか余に勝てると思っているのか。面白いではないか、やれるものなら、やって見せるがいいっ!」
  「言われなくてもそうするわ」
  「目障りな小娘だ。貴様の魂を剥奪し余が辱めてやるっ!」
  「はあっ!」
  タッ。
  走る。走りながら裁きの天雷を放つ。牽制の為だ。どんな魔術師でも同時に2つの魔道は操れない。魔力障壁を展開と攻撃魔法で攻撃は同時には
  行えない。ある意味でリッチ以上の不死を有している奴が死を恐れて防御魔法を展開するのは、おそらく獲得した魂の消失を恐れているのだ。
  だとすれば。
  だとすれば付け入る隙は幾らでもある。
  随分と滑稽な話ではあるわね。
  死を超越し、死を弄び本人そのものが実は誰よりも死を恐れている。笑える話だ。
  その一環が魔力障壁による防御。
  本当に不死身で、本当に死なないのであれば取り込んだ魂の一部の消失になど気にも掛けずに防御などしないだろう。防御ではなく攻撃に転ずるはず。
  なのにそれをしない。
  つまりこいつは死を恐れている。
  ならば勝てるっ!
  バジィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  雷は奴の魔力障壁で遮断。
  それでいい。
  私はその時、既に奴との間合いを詰めつつあった。何度でも何度でも殺してやるっ!
  「甘いわ、小娘っ!」
  コン。
  虫の杖で奴は足元を軽く突く。

  
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

  瞬間、地表が裂ける。
  岩肌が爆発、無数の礫となって奴の四方八方となって襲い掛かる。
  「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「小娘が調子に乗りおって。余こそ虫の王マニマルコなりっ!」
  無数の礫に襲われて私は転がった。
  礫そのものは小さい。
  だけどまともに受けたら一時的に行動不能になる。鉄の鎧は魔法で強度を強化しているとはいえ露出した肌の部分はまともに切り傷が出来る。
  回復魔法発動っ!
  全身の傷を癒す。
  それにしてもあんな無差別攻撃もあるのか。魔法ではなく物理的な攻撃な以上、私は防ぎきれない。
  無様に転がる私。
  「もうよい。貴様にはウンザリだ。やはり生贄として魂を取り込んでやろう。雷光の調べ」
  「……っ!」
  カラーニャの雷の魔法っ!
  それもスケールが違う。威力そのものが高いという意味ではない。カラーニャは手のひら全体から放っていた。マニマルコは指先からだ。
  本気ではない?
  それともそういうスタイルで放つのが好きなだけ?
  「くっ!」
  私は身をかわして回避。
  魔法攻撃は無効化できるけど、直撃したら吹っ飛ばされる。その際に衝撃で肉体をどこかでぶつけてダメージとなる。それは勘弁だ。
  回避しつつ私は次の一手。
  「デイドロスっ!」
  オブリビオンのワニ型悪魔を召喚。
  「ごーっ!」
  「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」
  ノッシノッシと地響き立てて奴に向かう。
  その背に向って……。
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  デイドロスミサイルっ!
  物凄い勢いで虫の王に突っ込むデイドロス。虫の王は虫の杖を私に向け、そして素早く空中で円を描いた。その描いた円が光となって宙に浮かんでいる。
  なんだ?

  フッ。

  その円に接触したデイドロスミサイルは消失。
  えっ!
  次の瞬間、私の意識は衝撃とともに暗転していた。
  「な、何?」
  衝撃は後ろから来た。
  状況判断出来ないまま私は押し倒される。何に押し倒されたのか一瞬分からなかったものの、私の上にはデイドロスの巨漢が横たわっていた。
  これって……。
  「空間を歪ませたってわけっ!」
  あの円はゲートかっ!
  なんちゅう面倒な能力有してるんだ、あいつはっ!
  「分かったかね、力の差というものが」
  ぽう。
  虫の王の手のひらに球状の雷が浮かぶ。バチバチと音を立てているから多分雷だろう。
  それを宙に向って投げる。
  ある一定で停止したその雷は突然膨張。
  ま、まさか……。
  「雷破・放雷(らいは・ほうらい)」
  雷の玉は爆ぜて無数の雷撃となって無差別に大地に降り注ぐ。魔法そのものは効かない、しかし私の上にはデイドロスの巨漢がある。雷そのものは
  デイドロスが盾となって私に届かないだろうし、届いたとしても効かないだろう。しかしデイドロスを通じて襲ってくる衝撃は?
  ミンチになる気はないぞっ!
  ググググググ。
  「くっそっ!」
  懸命に這い出る。それと同時に雷が降り注いだ。
  バジィっ!
  頭に1発雷を受けるものの魔法そのものの痛みはない。衝撃の反動で首が折れそうになるけど大事はない。私は走る。奴に向って。
  もちろんそれだけでは芸がない。
  走りつつ、突然私は後ろを向く。そして時分の胸元に手を向けて魔法を叩き込む。
  「煉獄っ!」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  魔法の威力そのものは消える。しかし衝撃は残る。
  物凄いスピードで加速……いや、完全に吹っ飛びながら私は虫の王に肉薄。そして体の向きを直しつつ剣を一閃。
  ズザザザザザザ。
  私は奴の首を切断しつつ、さらに行き過ぎて地面を滑る。爆風が強過ぎたらしい。
  やったかっ!
  「まだ分かってないらしいな」
  「……っ!」
  「余の肉体は取り込んだ魂全て殺さぬ限りは死なぬ。それはお前が推測しているとおりだ。しかし余の魂がどれだけあるかは知らぬだろう? 貴様
  は既に余を20回ぐらいは殺しているな、しかしそれではまだまだ不足だな。お前に教えてやろう、余の魂の数を」
  「教えて欲しいわね。いくつあるの?」
  「3000だ」
  「なっ!」
  「無敵の定義が分かったかな、トレイブンのクソ養女。くくく。はっははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
  「……」
  化け物めっ!