天使で悪魔






黒蟲教団 〜VS四大弟子ボロル・セイヴェル〜







  魔術師には師弟関係というものが主流。
  弟子とは必ずしも師匠の知識等の遺産を継ぐという意味合いだけではなく助手という意味合いもある。
  秘密の共有もし易い。
  師弟関係を結ぶ以上、弟子は弟子で師匠の知識を得ようとするわけだから自然と強い協力関係となる。

  死霊術にもまた師弟関係は存在する。
  虫の王には4人の弟子がいる。

  それは四大弟子と呼ばれる集団。






  雪原を越えて私は騎乗のまま山道を登る。
  険しい道。
  ただ最高の相棒である不死の愛馬シャドウメアは臆する事なく、的確な足取りで険しい山道を踏破して行く。
  山彦の洞穴はこの先にある。
  険しく、茂みが多い。
  どこに伏兵がいてもおかしくない状況だし、不意に敵が飛び出して来そうな気配はある。
  「ちょっと。寡黙過ぎましてよっ!」
  後ろかせ追従してくるのは白馬、そしてその馬に騎乗したアルラ・ギア・シャイアだ。途中から私と合流、今に至る。どうやら私と同じ事を考えた上での
  決断らしい。虫の王を倒せば全てが終わる、それを踏んだ上で合流して来たのだ。
  それにしても。
  それにしてもなかなか度胸のある事ですねぇ。
  敵の中枢に少数で突っ込もうだなんてなかなか根性がある。まあ、それは私にも言えるんだろうけどさ。
  「ちょっとっ!」
  「うるさいなぁ」
  私は振り向きもせずに苛立たしげに応じる。
  色々とイライラしてる。
  お父さんの死もある、虫の王の台頭もある、死霊術師に良い様に今まで掻き乱されたのもムカつく。

  
わあああああああああああああああああああっ!

  どこかで喚声が聞こえる。
  何の喚声?
  簡単よ。
  黒蟲教団のアンデッド軍団が動き出した、そしてそれを魔術師ギルドが迎え撃っている。
  そう。
  喚声は戦いの声だ。
  結局のところ私の読みは正しかった。圧倒的な戦力を保持しながら連中が黙して動かなかったのは私を誘っていたからだ。おそらく虫の王が私をご所望
  なのだろう。もしくは私が持っている黒魂石かもしれない。ともかく私が洞穴内に対しての潜入待ちで軍団を動かさなかった節がある。
  ラミナス達は勝てる?
  ……。
  ……どうだろ。
  純粋な数では圧倒的に不利だ。
  人間だけの数で言えばこちらが上。しかし人間の数で勝っていても私達の側は寄り合い所帯。それに対して黒蟲教団は虫の王の一声で全軍が動く統率
  さを誇っているだろう。実際にそれをお目に掛かってはないけど、虫の王は連中にとっては神同然。
  統率の上では向うが上。
  さらに連中は2000〜3000という数のアンデッド軍団を従えている。
  まともにぶつかれば潰されるだけ。
  ただ、魔道に特化したバトルマージ&魔術師がこちらの中核を成している。魔道を駆使すればしばらくは何とかなるだろう。敵を寄せ付けずに何とかね。
  だけど時間的にはリミットは少ない。
  とっとと虫の王を倒す必要がある。色々と私の中には焦燥感がある、イラっとする。アルラと喋らないのもその為だ。
  ザッ。
  「シャドウメア?」
  「どうしましたの?」
  馬が勝手に止まった。アルラも続いて止まる。
  周囲の様子を窺う。
  「敵が潜んでいますわ」
  「敵が?」
  気配がまるでしない。
  その時、私は何の気配も読めない事に初めて気付いた。強力な結界が周囲に展開されているらしい。後ろにいるアルラの気配すら感じない。
  だけど何故アルラは敵を感じれる……何あれ?
  いつの間にか妙な頭巾を被ってる。
  手配書にあるグレイフォックスが装着している代物に似てる。
  まあ、そこはいい。
  「包囲されてますわね。そこかしこにいますわ」
  「何故分かるの?」
  「この仮面、生命探知の効力がありますの」
  「ああ」
  なるほど。
  生命探知の魔法は全ての存在を探知出来る。
  アンデッドでも?
  そう、アンデッドでもね。
  結局のところゾンビもスケルトンも低級霊を憑依させて動かしているに過ぎない。魂はあるのだ。だからこそ探知出来る。ゴーストに関しては魂そのものだし
  言うまでもない。基本的にこの世界には無生命体という代物は存在しない。何らかの形で魂が関係している。
  だから生命探知に引っ掛からない存在はいない。
  さて。
  「よっと」
  私は馬を降りる。
  瞬間、矢が降り注ぐ。咄嗟にシャドウメアの陰に隠れる私。無数の矢がシャドウメアに降り注ぐものの私の愛馬はそのまま敵が潜んでいるであろう茂みに
  突っ込んだ。不死の愛馬は死にません。もちろん後で今の事は謝るし労いますけどね。愛馬は相棒。意思の疎通もしてるつもり。

  「ぎゃっ!」
  「ぐああああああああああああああああっ!」
  「ひぃっ!」

  茂みの中から悲鳴。
  人間の声だから死霊術師か。シャドウメアがフルボッコしてるのだろう。アルラは自分の白馬の尻に突き刺さった矢を引き抜いている。
  その時、無数の敵がこちらに向かって姿を現した。
  弓矢を手にしたスケルトンが主力。
  数は30。
  この程度の数でどうにかできるものか。ただ骸骨の戦士達を統率しているのは人間ではなかった、リッチ、つまりは虫の隠者。
  そいつは名乗る。
  「トレイブンの愚かなる支配は終わったっ! 今日この日こそ猊下の世界の始まりの日っ! 我こそは虫の隠者ノランクェラなりっ!」
  手にしている杖をこちらに向ける。
  だけどこちらのモーションの方がわずかに早い。
  「裁きの天雷っ!」
  「霊峰の指っ!」

  
バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  「くああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  私とアルラの連携の雷の前に絶叫とともに果てる虫の隠者。
  スケルトン軍団?
  ああ、そいつらも吹っ飛んでます。
  「なかなかやりますわね」
  「あんたこそ」
  アルラ、なかなかやる。
  このコンビ何気に最強?
  魔術師としては私と良い勝負なのかもしれない。敵にはしたくないなぁ。
  まあ、敵にしたらしたで私が勝つけどさ☆
  ほほほ☆
  「お帰り、シャドウメア」
  敵を蹴散らしたのだろう、シャドウメアが戻ってくる。先ほどの矢が無数に刺さっているけど、煩わしげにシャドウメアが首を振ると矢が全て抜けて落ちる。
  その様に驚くアルラ。
  まあ、それが普通の感性なんだろうけど。
  「何ですの、この馬っ!」
  「不思議な馬」
  「……」
  説明に不服なのか沈黙。
  私は私で生命探知の魔法を唱える。この近辺は死霊術師の結界が展開されているらしいので用心の為に発動させるに越した事はない。
  そしてそれは正解。
  新たな敵がこちらに迫ってくる。
  ……。
  ……あー、厳密には魂を宿したのがこちらに向かってくる、かな。探知しているのが敵とは限らない。鹿の群れの可能性もあるわけだ。
  数は30ほど。
  鹿にしては多いかな。
  「アルラ、どう思う?」
  「敵ですわね、きっと。可能性としては敵であると思った方が良さそうですわ」
  「じゃあどうする?」
  「先制攻撃あるのみですわ」
  「気が合いそうね」
  微笑。
  そしてそのまま再び雷の魔法を同時に放つ。

  
バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  粉砕。
  敵味方の確認?
  する意味はないと思う。私の側の軍勢はここまで達していないし鹿とは思えない。鹿にしては数が揃いすぎてるしね。
  敵だと判断、先制攻撃で問答無用で沈めた。先制攻撃の処方箋はそういう意味合い。
  アルラとは気が合いそうだ。
  「私の馬は不死だから問題ないにしても、そっちの馬は大丈夫?」
  「しばらく無理そうですわ」
  ならば徒歩で向かうしかないか。
  ブルルル。
  シャドウメアが嘶いて上を見る。

  ズザザザザザザザ。

  高所から滑り降りてくる甲冑の戦士達。
  一瞬バトルマージかと思った。
  少なくとも武装は同じ。ただし頭巾の色が黒。どうやら黒蟲教団側に転んだバトルマージというわけか。バトルネクロと言うべき?
  うーん。
  バトルネクロだと語呂合わせ的に響きが悪い。
  いっそ響きだけで考えよう。
  ネクロマージ、そうね、ネクロマージにしよう。響きだけで決定。意味は気にすんなって(笑)。
  敵の数は30。
  滑り降りながら登場したネクロマージは弓矢を構えながら現れた。
  私達は一気に魔法で……。

  ひゅん。
  ひゅん。
  ひゅん。

  矢が飛ぶ。
  だけどそれは敵の側の矢ではない。矢はすべてネクロマージの喉元に突き刺さった。絶命したのはわずか3名だけど相手は動揺した。そして矢を放て
  ないまま私達と同じ位置に滑り落ちてきた。その一瞬の隙が命取り。私は雷の魔力剣を、アルラはショートソードを引き抜いて相手に肉薄。
  「はあっ!」
  「そこ、ですわっ!」
  次々と切り伏せていく。相手はそれでも立ち直りつつある。

  ひゅん。
  ひゅん。
  ひゅん。
  
  的確に。
  的確に矢はネクロマージの額を貫く。
  「加勢しますっ!」
  声がした。
  その声はアリスの声だった。彼女は矢を捨てて銀の剣を引き抜いてネクロマージ軍団に突っ込む。
  ん?
  銀の剣?
  剣から何の魔力も感じない。私のあげた雷の魔力剣は……ふぅん、魔力を失ったのか。それともなくした?
  まあ、別にいいんですけど。
  私は叫ぶ。
  「悪いけどパーティーは先に始めてたわ。今のところ撃墜数は私が上。アリス、勝負しない?」
  「望むところですっ!」
  「勝手に話を進めないでくださるっ! エースはわたくしですわっ!」
  剣で圧倒していく私達。
  魔法?
  使うまでもない。
  足場としては狭い。敵の人数が多かろうと勢いがある方が勝つ。
  「何をしているたかが3人の女にっ!」
  怒りの声。
  ネクロマージの声ではない、別の声だ。新手が登場した模様。しかしそいつは声をそれ以上紡げなかった。相手が虫の従者か、虫の隠者か、それとも
  雑魚の死霊術師なのかは知らないけどそれ以上の声は紡げなかった。断末魔だけが聞こえる。
  いや。
  正確にはもう1つの声がした。
  少女の声だ。
  「フィーさん、こちらの敵は一掃しましたっ!」
  フォルトナの声。
  伝説のアイレイドの人形姫のご登場。
  これで役者は揃った。
  一気に山彦の洞穴の入り口目指して突撃するとしようっ!
  「行くわよっ!」
  「フィッツガルドさん、御供しますっ!」
  「問題なしです、行けます」
  「勝手に仕切らないで欲しいですわねーっ! 仕切るのは、わたくしですわーっ!」



  敵の小部隊を蹴散らし私達は山彦の洞穴の入り口を目指す。
  敵の数、そう圧倒的ではない。
  まあ、私達4人娘が強過ぎるのもあるだろうけど呆気ない。歯応えがまるでなかった。そもそも数で叩き潰そうと思えばアンデッド軍団全軍投入で簡単
  に死霊術師側は勝てた。しかしそれをせずに私をまるで誘うかのように停止してたのだから今さら雑魚で足止めをしようとは思ってないに違いない。
  ならば何の為の伏兵?
  おそらくはこちらの体を温める為。
  理由は分からないけどそう考えるのが筋だろう。
  ……。
  ……本当、意味はまるで分からんけどさ。
  ともかく。
  ともかく山彦の洞穴の入り口に到着。
  顔色が緑のダンマーの男が立ち塞がっていた。顔色気味が悪いな、この色は。
  他に敵はいない。
  ドクロの刺繍をした黒いローブ、フードを身につけている。腰には大振りのロングソード。どうやら剣に自信があるのだろう。
  そいつが私達を順に見て、言う。
  「どいつが愚かなるトレイブンの後を継いだ女だ?」
  ご指名らしい。
  「私よ」
  一歩前に出る。
  抜き身のまま歩き回る趣味はない、敵を撃退次第私は鞘に剣を戻したので、剣は鞘の中。つまり今のところは無手だ。
  「そうか。お前が後継者か。思ったよりも雑魚そうだな」
  「あんたに言われたくはないわ」
  「ここまで無謀にも来た。お前は身の程知らずにも虫の王に、猊下に会うつもりか?」
  「いいえ。殺すつもりで来た」
  「謁見したいのであれば俺を殺すしかないぞ。虫の王マニマルコ様の四大弟子が1人、虫の狂者ボロル・セイヴェル。剣には自信がある」
  「あら本当? 試してみる?」
  「くくくっ! ファルカー程度の剣術だと思うなよっ! 俺は随一の剣術を誇っているのだっ!」
  「御託はいいわ」
  静かに対峙する。
  ボロルとか名乗ったダンマーは右手を腰の柄に当ててゆっくりと円を描きながら私の周囲を動く。
  吼える奴ほど弱い。
  少なくともこいつは現状に満足し切っている。そんな奴に向上心など存在しない。
  バッ。
  相手は動いた。
  剣を引き抜く。しかしそれよりも早く私は剣を引き抜いた。腰に差している雷の魔力剣ではない、背負ったパラケルススの魔力剣の方だ。
  軽い。
  まるで重みを感じない。
  私はそのまま相手の脳天から真っ二つにした。
  四大弟子の1人と名乗ったそいつは断末魔すら発する事が出来ないまま事切れた。死んだのすら気付いていないかもしれない。
  「ふぅん」
  私は果てた弟子なんぞどうでもいい。パラケルススの魔剣の威力に感嘆していた。
  魔力が高ければ高いほど威力が増す魔剣。
  ブーストして使ったら虫の王すら簡単に殺せるだろう。
  気に入った。
  実にこの魔剣気に入った。
  さて。
  「邪魔は消えたわ。行くわよ、皆」



  四大弟子の1人ボロル・セイヴェルを一刀で屠り、私達は洞穴内に入り込んだ。
  異様なほどに静かだ。
  敵の姿はない。
  罠?
  ……。
  ……まー、ここまで誘き出されたんだ、相手にしてみれば絶対の自信があっての事だろう。
  罠と考えるのが普通だ。
  そして罠だと知った上で私達は踏み込んだ。
  だから今さら罠だとしても驚かない。
  「フィッツガルドさん、誰も、いませんね」
  「いえ。いるわ」
  「……何も感じませんけど」
  何だろう、この感覚は。
  背筋がゾッとするような感覚。第六感的な感じだろうか。
  「ようこそ、子猫ちゃん」
  「カラーニャっ!」
  洞穴の闇の奥からドレス姿で現れたのはカラーニャ。
  笑みを浮かべているけど、どういう意味で浮かべているのかは不明。こいつも四大弟子、おそらくは最強なんだと思う。ファルカーよりもこいつの方が強い。
  思わず身構えする私。
  剣術の長けた相手よりも魔術に長けた相手の方が怖い。
  私自身が魔術師だからそういう視点で考えれる。一握りの強力な魔術師は万物すらも創り返れる。そういう意味で魔術師は怖い。
  少なくとも。
  少なくともカラーニャは私よりも強い部類の魔術師だ。
  油断は出来ない。
  「猊下が奥でお待ちよ」
  「そう。待たせて悪いわね。案内して貰える?」
  「早合点ね。私を倒した後に、お待ちって意味よ」
  「ふぅん」
  「ボロル・セイヴェルを倒したようね。だからって調子に乗らない事ね。結局奴は末席。倒したからといって手柄にはならない」
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  「避雷針」
  雷はそれる。
  「ご挨拶ね、いきなり攻撃だなんて。相変わらず淑女の礼儀を知らないわね、子猫ちゃん」
  「霊峰の指っ!」
  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  私よりも威力の高い雷がカラーニャの顔面を焼き尽くす。カラーニャ、体を大きく後ろに吹き飛ばした。
  アルラだ。
  アルラの攻撃だ。
  「残念ですわね。最近の淑女は先制攻撃するものですわよ?」
  「……あら、それは知らなかったわね」
  むくりとカラーニャは起き上がる。
  馬鹿なっ!
  あれで死なないなんてっ!
  そして私達は凍り付く。
  カラーニャの顔は変異していた。霊峰の指で完全に焼け焦げていた。眼も鼻も口も既に原型はない。ただ真っ黒な顔があるだけ。
  「……何あれ」
  アリスは呟く。
  フォルトナは無言のまま息を呑んだ。
  カラーニャ、笑う。
  「メイクが落ちたかしら? きひひひ。アルトマーの振りをするのは疲れるわぁっ!」
  狂気の声。
  どこから声を発しているかは不明。顔はほぼ炭化しているからだ。それにしても『アルトマーの振り』って何?
  その時、さらに奥から人影が出てくる。
  「もう本性を現したのか。随分と早いな、カラーニャ」
  ファルカー。
  「っていうかボロル・セイヴェルはもう死んだ? あのおっさん、随分と呆気ないなー。あはははー☆」
  名も知れぬブレトンの少年。
  多分こいつが四大弟子の最後の一人なのだろう。
  残ってる幹部勢揃いってわけだ。
  「フィッツガルドさん、ここはあたし達が相手をしますっ! それぞれ一対一、そうすれば時間のロスは避けられますっ!」
  「アリスっ!」
  「そこのダンマー娘の言葉は妥当ですわね。わたくし達も貴女のように幹部を瞬殺してから追いつきますわ。御機嫌よう」
  「同意します。フィーさんは奥にっ!」
  残りの幹部は3人。
  アリスはそれぞれでサシで勝負すると言っている。そして相手もそれを楽しんでいる節がある。
  ファルカーは笑った。
  「こいつは面白い。俺はそのダンマーの剣士をいただく。おい、付いて来いっ!」
  「じゃあ僕はあのおばさん殺すとしようかな、人形劇でねっ!」
  「きひひひっ! では私はそこの餓鬼を殺すとしようっ!」
  ……。
  ……すいませんカラーニャさん、完全に人格吹っ飛んでるんですけど。
  顔を雷で潰されて切れたらしい。
  完全に顔がこんな状態なのに平然と立っている。こいつ化け物?
  少なくとも無効化しているわけではなさそうだ。私と同じような原理で魔法耐性を上げているのであればそもそも焦げる事すらしない。焦げるという
  事は肉体的なダメージになっているという事だ。だからこそ顔が焦げている、つまり無効化されていない。
  なのに何故平気でいられる? 
  こんなのが同じ大学にいた、それを考えると怖いなぁ。
  「後で会いましょうっ!」
  私が叫ぶと3人の仲間達は頷いた。
  奥に走る。
  目指すは虫の王マニマルコの首っ!





  その頃。
  雪原で激戦を繰り広げているラミナス達。
  「寄せ付けるなっ! 魔法で阻めっ!」
  アンデッド軍団は数で押してくる。
  その後方に陣取る死霊術師達はさらに新手のアンデッドを召喚、数で圧倒しようとしている。いや。事実圧倒している。
  ラミナスは焦った。
  魔法の弾幕で相手を寄せ付けてはいないものの相手の数の方が圧倒的に多い。
  次第に。
  次第にアンデッドの軍団は近付きつつある。
  迎撃が間に合わないのだ。
  さらに倒す以上の早さで新手が召喚されている。戦士ギルド&シャイア財団は火矢で応戦している。もちろんその中には魔法が使える者も多い。遠距
  離戦を挑むものの敵は確実に接近しつつあった。それでも後方に位置する帝都軍は動きそうもない。
  「クソの役にも立たん奴らだぜっ!」
  戦士ギルドの指揮官モドリン・オレインは毒づく。
  それもそのはずだ。
  接近されたらお終いなのだ。結局数で押し潰される。
  その時……。
  「随分と苦戦しているようだな、ラミナス」
  「ハシルドア伯爵っ!」
  「援軍に来たぞ」
  そう言って引き連れた人数を配置につける。その数は30。
  「私の素性を知っている親衛隊だ」
  伯爵は吸血鬼。
  その素性を知る者は少ない。吸血鬼故に日光を嫌う。ローブ、フード、さらに顔はマフラーでグルグルに覆っている。眼だけ露出しているだけだ。
  そして同じ格好をした者がもう1人いた。
  伯爵は紹介する。
  「彼はヴィンセンテ。君の妹分の義兄だよ」
  「フィッツガルドの?」
  ラミナスはヴィンセンテに軽く頭を下げた。そして知っている顔を見た。前にフィッツガルド・エメラルダの義理の姉を自称していた金髪の少女だ。
  そう考えて見るとローズソーン邸で見知った者が多い。
  「彼女の家族が参戦したいと言ってここまで来たのだ。実に愛されているな、トレイブンの娘は」
  「あたし達も戦う。どう戦えばいいか指示して。暗殺家族は無敵、どんな任務でもこなすから何でも言って」
  暗殺家族の意味がラミナスには分からなかったが心強い援軍に胸が熱くなった。
  決戦の結末はまだ決まっていない。
  「全軍、アークメイジは恐ろしい虫の王と戦っているっ! 我らが挫けるわけにはいかん、攻撃続行っ!」
  『おうっ!』