天使で悪魔





殺意が招く者


  帝都随一の情報量を誇る黒馬新聞より一部抜粋。
  『……我々の偉大なる指導者であらせられる皇帝ユリエル・セプティム陛下は崩御なさったのです』
  『親衛隊であるブレイズは任務に失敗』
  『皇帝の血筋である三皇子殿下もそれぞれ別の場所で襲撃され死亡』
  『この緻密で用意周到な計画を企てた者は今だ不明』
  『皇帝の血筋は途絶え、今後の治世は元老院のオカート評議長が引き継ぐ事になりました』
  ……。
  皇帝暗殺。
  その悲報は一夜にして全国民に伝わる事となる。
  嘆く者、笑う者、無関心な者、煽る者。
  全ての者達はまだ何も知らない。これが『はじまり』ですらない事に。

  これは『はじまり』の『はじまり』なのだ。世界はやがて知る事になる。このタムリエルは知る事になる。
  ……真紅の空の色を。
  夕日よりも濃く、禍々しく、毒々しい、赤を。
  時は近い。
  ……暁の到来は、いずれ必ず……。




  「ネコも杓子も皇帝暗殺暗殺暗殺……ふぅ。爺一人いなくなっただけじゃん」
  帝都のスラム街にある、貿易倉庫の中。
  ここは船で運ばれた品物を一時的に保管しておく場所。私、フィッツガルド・エメラルダはそこに潜み準備を
  している。念入りに、アダマス・フィリダ暗殺の手筈を整えている。
  皇帝曰く『運命の者』らしいけど脱獄してまずやりたい事、それで帝都軍総司令官暗殺だ。
  あのハゲは舐めた事してくれた。
  私の家などの資産は全部没収されるわ牢獄に入れられるわ挙句に懲役30年だとぉ。はっ、ふざけんな。
  そもそもの発端は私の汚職衛兵隊長の告発。
  帝都軍のイメージを護る為に私を犯罪人に仕立てて衛兵隊長を護った……つもりがその直後、市民達からの
  告発でその衛兵隊長は逮捕、牢獄に繋がれた。
  そこはいい。
  そこはいいのだが、今度はアダマス・フィリダ帝都軍総司令官閣下は自分の揉み消し行為を隠す為に私を口封じ
  にあんなネズミ臭い地下監獄に30年も放り込みやがった。
  さすがに50のオバちゃんになるまであの爺の都合で人生奪われるのは殺意が湧く。
  ……まぁ一週間投獄された時点で生かしちゃおかないけどねぇ。
  「そろそろ時間かな」
  現在午後の2時。
  皇帝暗殺から三日が過ぎた。何の手掛かりも帝都軍は掴めていない。
  帝都内外を問わず帝都軍は兵士を繰り出し、懸命に手掛かりを探している。皇帝暗殺犯重視。
  その為、治安維持の方が手薄になっている。
  ……本末転倒じゃん?
  ともかく、アダマス・フィリダも子飼いの衛兵達……あの時真相知りながらも私の投獄に加担した連中……アダマス
  付きの12人の衛兵達も巡察に加わっている。その時を殺る。まさに好都合。
  一人たりとも生かす気はない。
  ……全員殺してやる。ふふふ。
  「さて、はじめますか」



  整然と、脇目もせずに衛兵の一団が商業地区を行く。
  士官用の純白の鎧に身を包んだアダマス・フィリダを先頭に、アダマスが鍛え上げた子飼いの衛兵12人がその後ろに
  従い帝都の巡察の任務に就いている。
  威風堂々。
  市民達は遠巻きにその様を見ている。感嘆、もあるだろうが触らぬ神に祟りなし。
  道の脇に避け、一行が過ぎるのを待つ。

  帝都インペリアルシティは世界の中心。様々な種族が溢れる場所。
  様々なのは種族だけではない。
  職業も様々だ。貧富の差も激しい。格差世界。しかし、生きる以上格差は公然と存在している。
  格差がないなどありえない。

  薄汚いフード付きのローブに身に纏った、明らかに物乞いと思われる者が道の真ん中に項垂れるように座っている。
  自然、アダマス達の足を止める。
  「何だ、お前?」
  「……」
  兵士の一人が威圧的に詰問する。物乞いは答えない。
  俯いている為、種族も性別も分からない。
  「用がないなら退くがいい」
  「……」
  皇帝暗殺犯捜索の為に人手不足。その為、アダマス達が巡察を請け負っているものの、正直面白くない。
  どちらかというと暗殺犯捜索に加わりたいのだが、ボーラスが元老院を通じてアダマス達を故意に外した。
  命令違反、である。
  使用禁止の牢獄を無断で使った為だ。その牢獄とは秘密の抜け道がある牢獄。
  「貴様、口と耳がないのかっ!」
  「……」
  「おいっ!」
  「……」
  イライラしている。
  帝都軍一等部隊である自分達が、しかも総司令官であるアダマスが巡察などという卑役を受け持つという腹立
  たしさが兵士達を倣岸にさせていた。
  元々、アダマス付きの兵士という事で優越感があったのも事実だ。
  ローブの人物、動じない。
  まるで聞えていません、という様子に他の兵士達も苛立ちが増す。
  「皆、やめよ」
  亀の甲より年の功。アダマスは露骨に怒りを露にする兵士達を叱咤した。市中での任務、当然誰もが見ている。
  ここで威圧的に出れば知名度に傷がつく。
  そう判断し、アダマスは物乞いを無視して通り過ぎる事を指示した。
  一悶着は回避出来た、と思った瞬間。薄いグレーの服を着た女性が叫ぶ。
  「あそこに皇帝暗殺犯がいるわっ!」
  ざわっ!
  アダマス達も、市民達も、その場は騒然となる。女性が指差した先。建物の屋根の上に真紅のローブの人物。
  「捕らえよっ!」
  『はっ!』
  身を翻し、逃げる真紅のローブの人物。
  追撃の号令に沸く兵士達。最大の手柄首だ。半数が離れた時、物乞いがいきなりアダマスに抱きついた。
  「な、何をするっ! おい、引き剥がせっ!」
  執拗に抱きついて離れない。兵士達は一斉に引っ張り、そしてローブが裂けた。
  「うわあああああああああああああスケルトンだーっ!」
  ノルドの市民が微醺を帯びた息を吐きながら叫ぶ。
  物乞いはスケルトン。
  一斉に抜刀する帝都兵。アダマスは振りほどき、少し芝居がかったような丁重な抜き方で剣を抜く。
  しかし当のスケルトンは何するわけでもなく、ただそこに立っている。
  取り囲む兵士達。
  その時、声が響いた。
  「アダマス・フィリダ、さようなら」
  「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」





  「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  悲鳴が響く。声の主は、あの忌々しいハゲ。
  薄いグレーの服を着込んだ女性、それは私だ。私の長袖の下に矢を一本隠していた。
  弓は武装召喚。
  弓だけだから、弓召喚か。私だって魔術師。あの暗殺者集団の芸当だってやろうと思えば出来る。

  矢を放ち、その矢はアダマスの背中に深々と刺さっている。
  その場に倒れ伏す。

  苦悶の顔が見れないけど、これはこれでいい。復讐に、あまり美学は求めないのよ私は。
  「閣下っ!」
  スケルトンを取り巻いていた兵士達は虚を突かれた感じ。
  その為に私が召喚し、注意を引かせる為に連中に絡ませのだ。一定時間か過ぎた為、弓もスケルトンも消える。
  あの真紅のローブの人物はジョニー・ライデン。
  妙に私に懐いたので、働いてもらった。彼の役割は、アダマスの手駒の分散。
  お陰で随分とやりやすくなった。
  アダマス・フィリダ。誰に喧嘩を売ったかようやくお分かり?
  おーっほっほっほっ。来世では間違いないようにちゃんと学習しておく事ねー♪
  「……や、奴を捕らえよっ!」
  はい?
  アダマスは……い、生きてるーっ!
  必殺の一撃だった。余程タフなのか余程士官用の鎧は質がいいのか……まあ多分両方だ。指揮官である彼が
  健在だと知ると俄然やる気の出る兵士達。私は回れ右をして、遁走。

  「……ちくしょう。仕留めそこなったかぁ」
  必要であれば私は逃げる事も躊躇わない。
  一撃で殺し損なった以上、あの場に留まるのは危険だ。私は一応、懲役30年の女だし。……それにしても。
  因縁深い顔なのに私を見ても反応がなかった。
  この間監獄に送った奴、という発想には至らなかったようだった。あいつ見る限りでは。
  ……それはそれでムカつくな。
  ちなみに私は皇帝暗殺のドサクサで死んだ事になっているらしい。
  ジョニーに街の様子を探ってきてもらったら、囚人死亡者に私の名が載っていたらしい。

  ただの嬉しいミスか、それともボーラスが罪科を消す為に死んだ事にしてくれたのか。
  どっちにしろこれで脱獄云々は言われない。
  帝都軍の犯罪者履歴からは抹消されるわけだから、楽といえば楽よねぇ。
  「待てっ!」
  「部隊を召集させてくるっ!」
  「閣下に対する反逆罪で奴を斬れっ!」

  タタタタタタタタタタタタタタタッ。
  走って逃げながら、アダマス兵達の会話を聞いてると……連中、馬鹿じゃない。ジョニーが陽動だと気付いたか。
  合流される前に少し消すとしよう。
  パン屋の角を曲がる。道の脇に茂み。そこに弓矢と短刀が隠してある。
  私は武器を身につけ、弓に矢を番えて……。
  ヒュン。
  「ぐぁっ!」

  勢いよく角を曲がって着た兵士は胸板を矢で貫かれて、滑稽なまでに飛んで倒れた。
  まず一人。

  アダマスの精鋭は12人。そのうちの2人はアダマスの側に残り応急処置やらで居残り。1人は分散した半数の
  召集に走り、今1人射殺した。ここにいるのは後二人。
  続け様に額を狙って矢を二発放つ。
  「ふっ、やるやる」
  兵士達は盾でそれを受け止める。しかし全身ガードとはいかないわよね、そんなに器用にはさ。
  ひゅん。ひゅん。
  「がっ!」
  「いてぇっ! いてぇよっ!」
  上段に盾でガードした衛兵2人は足を押さえて転げまわる……までは軍人根性でいかないものの、その場に蹲り
  悲鳴を上げる。攻撃はコンビネーション。次の手は常に考えるべきよ。常にね。
  足を矢で射られた衛兵二人の喉元を私は容赦なく切り裂いた。
  これでまとめて二人撃破。三人目終了。
  「いたぞぉっ!」
  「こっちだっ!」
  集合を呼び掛けた兵士が、残りの半数を呼び戻してご来着。
  市街戦は、とかく目立つ。
  懲役30年の私は死んだけど、新しい犯罪者になるのは勘弁だ。長く留まると特徴を残す事になる。
  私という存在が曖昧なうちに、逃げよう。
  この街には逃げる場所は幾らでもある。

  ……人目につかない場所もね。



  下水道。
  帝都の地下に網の目に張り巡らされている、汚水処理の場所。ここは塀の外にも通じているし王宮にも通じている。

  いかなる方もここでは適用されない。
  というか、帝国は適用しようとしない。賊の類に吸血鬼、ゴブリン、異常に成長したネズミなど何でもござれ。

  ここでは誰もが等しい。
  そう、誰もが等しく弱肉強食だ。皇帝でさえ、死んだのだ。……下水道に辿り着く前の洞窟で死んだけど。
  私はそこにいる。
  マンホールを開けて、地下の世界にやって来た。
  閉めたはずのマンホールが頭上で開き、太陽の光と一つの影が石で造られた汚水塗れの床に映る。
  ひゅん。
  がぁっ、という絶命とともに兵士が落ちてくる。喉に突き刺さり即死。
  これで四人目。
  ……馬鹿め。不用意に覗き込むからだ。
  ここに至ると兵士達は何が何でも私を斬り殺すという異常なまでの情念に取り付かれているご様子で、私のいるであろ
  う場所に矢を一斉に打ち込んでくる。牽制し、それから続々と下水道に降り立った。
  残り6人。
  今のところはアダマス付きの兵士だけ。こいつらは有罪、そして判決は死刑。
  私が無実と知りながら逮捕し、収容に加担したのだ。生かしておく価値はないし、神が許すなら私は神を殺す。
  だが長引くとやばい。
  他の帝国兵は……うにゅー……出来れば殺したくないねぇ。恨みがないのに殺すのは、ただの作業で疲れる。
  こいつらを殺すのは復讐という大義名分があるから、燃えるわぁ。
  ……萌える?
  私は物陰に隠れた。兵士達は下水道の汚水の中をジャブジャブと進んでくる。
  ギリギリギリ……プッツーン……。
  「はい?」
  張りすぎたのだろう。弓の弦が切れた。ジョニーの奴め安物を手に入れてきたなーっ!
  弦の切れた音を敏感に察知した兵士達は私に向って走ってくる。
  双方、松明を持って来るという準備はしていない。どちらも四苦八苦しながら逃げて、追って。
  「……あれ? 明かりが……ははぁん。利用できるかも」
  ジャブジャブ。
  あー、きっと体中臭いんだろうな、今の私は汚水の女。
  ……ちくしょう。
  兵士達は全身鋼鉄装備を身に纏っている為、速度は遅い。完全に撒く、事は出来ないにしても距離は稼げた。
  そして私は明かりの中にいる者達の元に駆け込んだ。
  「何だお前はっ!」
  下水道に引き篭もっておられる盗賊の方々。どこから調達したのか寝床や生活用品が置いてある。
  ここで暮らし、夜な夜な上に出て窃盗をしている連中だ。
  「帝都軍がここを摘発しに来てるのよっ! 早く逃げなきゃっ!」
  「なっ! そりゃ本当か姉ちゃんっ!」
  「本当よ、ああほら来たわっ! あいつらよっ!」
  「ちっ、帝都の豚どもめっ! 野郎ども、行くぜぇっ!」
  盗賊8人はアダマス兵の6人に対して突撃を開始した。当然、兵士達は面食らう。いきなり敵意剥き出しの連中
  が襲って来たのだ。片方は私の嘘に乗り、片方は訳も分からずに戦闘を開始。仲良く殺し合えばいい。
  「……おーっと、また1名脱落。これで残り5名ね」
  私は少し離れ、戦闘を傍観。
  何だかんだ言っても、やっぱり帝都兵は強い。最初こそ先制され、1人殺されたものの多少の数の差では負ける
  事はないようだ。あっという間に形勢逆転、このままでは盗賊が簡単に負ける……ふむ。
  「絶対零度」
  冷気の魔法を松明や焚き火に向って放つ。途端、一切の明かりは消えた。
  暗闇での手探りでの戦闘。
  さて、これからどうする?
  ……。
  私が連中に対して魔法を使わないのは、牢獄に面会に着た際のボーラスの『足がつく』という発言を考慮してだ。
  脱獄しました、その直後アダマス死にました、死因は魔法です、ああ犯人はあの脱獄囚かー、という方程式にな
  るかもしれない可能性も微々ではあるものの確かにあったからだ。
  まっ、もっとも私はもう死亡扱いだからそんな思慮もいらないだろうけど……演出も必要よね。
  ……殺戮にはさ。
  ふしゅしゅしゅしゅぅぅぅぅぅっ。
  「ん?」
  ふしゅしゅしゅしゅぅぅぅぅぅっ。
  金属の音、悲鳴、怒号。しかしそれ以外に、何か獣のような唸り声が聞える。
  そして臭うのは濃い血の臭い。
  修羅場なのはそうなんだけど、それとはまた違う。この臭いは……。
  「血血血血血血血血血ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!」
  キィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  鋭い鉤爪を、咄嗟に抜いた短刀で弾き返す。
  厄介な。この暗がりの中に、戦闘の血の臭いにつられて下水道在住の吸血鬼を呼び寄せてしまったらしい。
  それも自我の崩壊した奴。
  明かりを消したのはまずかったか。私も見えない。ゆっくり、ゆっくりと後退する。
  どん。
  背中があたった。壁だ。
  獣の呼吸音が聞える、前方から次第に次第に近づいてくる。そして……。
  「炎帝っ!」
  ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
  吸血鬼の腕が私を押さえつけた瞬間、奴の体にゼロ距離専用の炎の魔法を叩き込んだ。炎上し、崩れ落ちる。
  ……けっ、変なところに出てきやがって。
  「お前、あの時の女かっ!」
  燃える吸血鬼の遺骸に照らされる私を見て、兵士の1人が叫んだ。どうやら気付いたらしい。
  ……って遅いって。
  兵士は残り3人。盗賊は全滅していた……ほっほぅ。あの暗がりで勝つとは、なかなか強いじゃん。
  「閣下に恨みを抱いての犯行か」
  「恨むなって言う方がおかしいって。今が旬の私が腐るところだったのよ。それは犯罪よ、色んな意味で」
  「しかし露見した以上、後がないな」
  「あらそう? 露見した以上、ここから生かしては帰さないわよ。絶対に」
  「お前が魔法の名手だろうと、後ろは壁、前には剣を構える我ら。勝てると思うなよっ!」
  ゆらり。
  ……?
  何かが、兵士の後ろで揺らめいた。吸血鬼、じゃない。盗賊でもない。眼に、見えない。
  ジョニー……なわきゃないわね。さすがにここには来ないだろう。
  目線を下に移す。
  ……影だ。姿がないのに、影が一つある。
  誰かいる。それも擬態化の魔法で背景に溶け込んでいるんだ。
  「女っ! 帝国の正義の元に、裁断するっ!」
  「正義が聞いて呆れるわ」
  「殺せっ!」
  しゃああああああああああああああああああああああっ!
  叫んだ真ん中の兵士は、全身が真紅に染まる。私は何もしていない。兵士もまだ動いていない。
  訳の分からない顔をしている。視線を左右に移す。
  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  下水道に絶叫が響いた。
  その気持ち、分かるわよ。左右の兵士は、それぞれ中央の兵士側の動脈が切断され、その血を中央の兵士
  に浴びさせているのだ。私は見ていた、虚空から出るナイフを。
  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「うっさいっ!」
  ああああああ……絶叫は止まった。汚水に倒れる兵士。私は喉元に短刀を突き刺したのだ。
  これでアダマスの兵士は、介護中の二人を残して全滅。
  奴の威風も、これで地に落ち……つつあるわね。まだ、手を加える必要がある。
  さて。
  「出てきなさいよ。……出てこないなら、魔法で消し飛ばすわ」
  「……あれだけの殺戮をこなしながら淡々とした表情、口調。やはりお前は私の申し出を受けるに相応しい」
  「あんた誰?」
  「私の名はルシエン・ラシャンス。ある特殊な……そう、風変わりなギルドの幹部を務めている」
  「私、忙しいんだけど? 用件は何?」
  「お前をスカウトしに来たのだ。我らダークブラザーフッドの新しい家族として」
  「ダ、ダークブラザーフッドっ!」
  さすがの私も動揺した。目の前にいるのは闇の一党の、暗殺者。
  こりゃまた厄介なのが出てきたわね。
  ……いや、自己責任か。
  これは私の殺意が招いた、者なのだ。
  「一党に加わればアダマス暗殺を最大限に協力しよう。……どうする?」
  「さあ、どうしましょう?」
  そして私は……。