天使で悪魔







死者の門






  門。
  屋敷や庭園などの出入り口。
  どこに通じているかはその門次第。





  ネラスタレル邸。
  怪奇現象やら幽霊やらでスキングラードで有名な幽霊屋敷。
  最下層には、地下には死者の門とかいう代物が存在しているらしい。どんな代物かは不明。
  この厄介な屋敷に私は閉じ込められた。

  私のすべき事は死者の門の近くにいるとかいうネラスタレルの魔術師を倒す事。
  それによりハシルドア伯爵の結界が解けて外に出れるらしい。
  伯爵めーっ!
  ネラスタレルの魔術師と死者の門を屋敷ごと封印したのは彼、つまり私を派遣した真意は魔術師の討伐もしくは死者の門の破壊、なのだろう。
  厄介な事だ。

  まあ、ここ最近は体が鈍ってるし暇してるからいいけどさ。
  闇の一党の残党。
  スカイリム解放戦線。
  いずれにしても私の相手をするにはスケールが小さ過ぎる。あの連中との戦いは暇潰しにもならない。
  死者の門、ね。
  それなりに楽しめそうだ。

  さて。
  やるかっ!



  コツ。コツ。コツ。
  私はゆっくりと地下の階段を降りる。
  完全武装してきてよかった。
  ……。
  ……まあ、私の歩みを止められる敵は今のところは出て来てないけどさ。
  道を阻むのはアンデッドのみ。
  リッチ?
  リッチはいない。
  あー、ネラスタレルの魔術師がリッチの可能性はあるかもしれない。何しろ死者の門の開放が目的なんだろうから、どう考えても死霊術絡みだろう。
  ただの偏見?
  そうかもしれない。
  「煉獄」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  まるで底の見えない、一寸先が完全なる深遠の闇の地下から私を迎え撃つべく登ってくるゾンビ&スケルトン。
  何体屠ったっけ?
  数えてないから分からないけどとりあえず20体は越えるだろう。
  うーん。
  封印されているから外部からは死体は調達できない。……いやまあ、死体の前の段階でもいいんだけどさ。いずれにしても外部から調達出来ない
  のにどこからこんなに出てくるんだろう。
  何か裏がある?
  そうかもしれない。
  「やれやれ」
  まともなイベントはないのか、まともなイベントは。
  いつもいつもいつもーっ!
  裏がありまくり。
  嫌だなぁ。
  「ふぅ」
  溜息。
  まだ私は雷の魔力剣を抜いてすらいない。煉獄の一撃でアンデッドどもを粉砕していく。
  温いな、この展開。
  死者の門がどんなのかは気になるけど、その興味だけでモチベーション保てるかなぁ。
  ちょっと自信ない。
  少なくとも最下層のアンデッドの元締めであるだろうネラスタレルの魔術師はそれなりに歯応えあるのを期待しよう。
  別に『おめぇ強いなっ! オラわくわくすっぞっ!』という性格ではないけど暇だけはしたくない。
  天才過ぎる故に退屈する。
  贅沢な悩みですなぁ。
  ほほほー☆
  ヒタヒタヒタと階段を上る音が響いてくる。
  またか。
  足音から推測するとゾンビ、それも数は3体。実に少ない。出し惜しみしてるのか、それとも私のウォーミングアップのつもり?
  もしくは生贄を殺すつもりが最初からない?
  ふむ。それはそれでありえるかな。
  少しの想像力で死者の門=生贄必要っぽい、というのは容易に想像出来る。それに美女=生贄の方程式も成り立つし。
  まあいいさ。
  「とっとと下に降りよう。面倒になってきた」
  生欠伸を噛み殺す。
  終わらせるとしよう、特に興味ある展開でもないし。
  下に。
  下に。
  下に。
  最下層にあるモノを黙らせる為に私は降りる。
  さあ、下に向おう。



  「デイドロス、片付けといて」
  ワニ型の二足歩行の悪魔はスケルトンの戦士どもを蹴散らす。手近にいる相手は強力な爪と牙で、離れた場所から矢を放ってくる相手には口から
  放たれる火の玉で撃破している。骸骨どもには勿体無いほどの高価な対戦相手だ。
  せいぜい楽しんで戦ってくださいな。
  まあ、骸骨に知能はないけど。
  私はデイドロスに戦いを任せて最下層をぐるりと見渡した。
  地下室ではなかった。
  天然の洞穴だ。
  「街の地下にこんな場所があるなんてね」
  洞穴は青く淡く光っている。
  ウェルキンド石?
  最初はそう思ったけどそうではない。発光源は周囲にその存在を誇示していた。まるでアピールするかのように。
  私はそこに近付く。
  その時、デイドロスは最後のスケルトンを叩き潰しその姿を消した。役目を終えたので私が異界に戻した。延々こちら側の世界に維持しておくのも私の
  魔力が消費されるから疲れるしね。それに当面の敵は今ので最後だ。
  ネラスタレルの魔術師とやらは見当たらない。
  まあいいさ。
  その間にあの光る物体を調べるとしよう。
  近付いて間近で見る。
  「うーん」

  何だこれ?
  蒼い光が収束していた。門のような形。
  そこから発せられる光がこの天然の洞穴を照らしていた。
  どの程度の広さかは分からないけどもしかしたらスキングラードの街の面積ぐらいは広がってるのかな?
  もちろん適当な推量だけどそれほど広大に感じる。
  だけどこの蒼い光は何?
  ……。
  ……まさかこれが死者の門?
  文献で見たオブリビオンの門に似てる。ただしあれは深紅だった。だけど、もしかしたら似たようなものなのかもしれない。
  実は扉の向こうは死者の世界ではなくオブリビオンなのかもしれない。
  オブリビオン16体の魔王はそれぞれ自分の世界を有している。
  つまり。
  つまり一見すると死者の世界っぽいけど実は魔王の支配する世界という流れも容易に予想できる。
  だけどそうなると……。
  「やばいじゃん、この街」
  スキングラードはオブリビオンに通じる門の上に存在している事になる。
  この屋敷を結界で封印したのはハシルドア伯爵。
  破壊ではなく封印。
  それはつまり死者の門の破壊が出来なかった、という事になる。
  厄介だなぁ。
  何しろハシルドア伯爵はシロディールにおいて最強の魔術師の1人だ。一説では魔術師ギルドの頂点に立つアークメイジのハンニバル・トレイブンと
  互角に渡り合うほどの魔術師。その伯爵が破壊ではなく封印しか出来ないというのであれば。
  この門、相当物騒な代物という事になる。
  「はぁ」
  溜息。
  伯爵が破壊出来ない意味が分かる気がする。
  私も魔術師。意識を研ぎ澄まして観察したら死者の門の本質がよく分かる。
  この門、高出力の魔力で形成されている。
  「破壊は可能かな」
  うん。
  前言撤回。破壊は出来る。
  ただし破壊するとこの門を形成している高出力の魔力が爆発してこの街の半分はクレーターと化すだろう。
  だから伯爵は屋敷ごと封印に留めたわけだ。
  それで?
  私にどうしろと?
  わざわざ今回私を送り込んだのだから……何かしろという事なのだろうけど……意味不明です。
  何の為に送り込まれた?
  うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ秘密主義過ぎるだろーっ!
  どうリアクションすればいいんだこの現状っ!
  伯爵なのかラミナスなのかは知らないけど送り込むなら情報をまずくれっ!
  ……。
  ……まったく。普通に頼めば受けてやるのに。
  何も言わずに送り込むから面倒な展開になったじゃないか。
  ただ、私のスキルは基本的に破壊オンリー。それを考慮したら、そしてこの幽霊屋敷で得た情報を考慮したらネラスタレルの魔術師を倒せばいいん
  だろう、多分ね。まさか死者の門を開けという斬新な展開を望んではないと思う。
  まあいいさ。
  私はトラブルメーカー、問題は向うから勝手にやって来るさね。
  私はそれを対処すればいい。
  相手の反応を考慮し、吟味し、その上で適切に対処するだけ。
  うん。
  分かりやすい。

  「誰だ貴様はっ!」

  「ん?」
  その時、背後から鋭い声が響き渡った。
  男の声だ。
  私はゆっくりと振り返る。声には敵意が籠もっていたが相手の表情は読み取れない。場所が暗いからではない、仮面を被っているからだ。
  奇妙な文様の記された、白い石で作られた仮面だ。
  服装は薄汚れたローブ。ボロボロだ。
  何者だろう?
  こいつがネラスタレルの魔術師だろうか?
  少なくともアンデッドの類ではなさそうだ。自らの知性を持っている。
  魔術師本人かその仲間か。
  まあ、そのどっちかだ。
  「何者?」
  「そいつはこっちの台詞だな、女。俺を殺しに来たんだな? そうなんだな? そうなんだろ?」
  「まあ、一応はそんな感じ。そっちの対応次第だけど」
  「無駄な事だ」
  「無駄?」
  「どれだけの刺客を送ってこようとも俺を殺す事は出来ない。まだ分からんようだな」
  「つまりあんたは敵って事ね?」
  バッ。
  仮面男は私に手のひらを向ける。
  魔法でも放つ気?
  無駄よ無駄。
  私に魔法はまったく通じない。
  無駄な……。
  「雷帝・発剄っ!」
  「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  雷が私を絡め取る。
  そして。
  そして私は激痛のあまり膝を付いた。
  魔法じゃ、ない?