天使で悪魔







放たれた刺客







  一度関ると後の展開は全て責任持たなくてはいけないらしい。
  実に面倒。
  実に迷惑。
  好んで厄介を求めたわけではないのに。





  「闇の一党の残党に襲われた、ですか?」
  「うん」
  翌日。
  お昼も終わり家でゴロゴロしてた。だけどあまりにも暇で……いやまあアンの攻撃を受け流すのに必死で防戦してたんだけど……ともかく、家でゴロゴロし
  ているのもなんなのでサミットミスト邸のヴィンセンテを訪ねた。
  現在この屋敷は黒の乗り手の本社。
  黒の乗り手って何?
  おいおい君達、最近更新ないからって忘れてるなぁ?
  仕方ないなぁ。
  以下説明。

  黒の乗り手。
  郵便配達を業務とする会社でありその利便性から瞬く間にシロディール全域に広まった会社。
  株式非公開。
  各都市には既に支社がある。
  元シェイディンハル聖域の暗殺者の面々が立ち上げた会社。
  この会社の出現によりスキングラードの税収が一気に二倍に跳ね上がるというミラクルな結末を生むことになった。

  はい。
  説明終了☆
  ……。
  ……だけど私は誰に説明しているのだろう?
  たまに不思議。
  うーん。
  最近疲れ過ぎてるからかなぁ。
  まあいい。
  話を元に戻そう。
  「難儀しているようですね、妹よ」
  「他人事だと思って」
  「家族ですが個々に独立した人間、そういう意味でいえば人は誰しもが他人です」
  「いやそういう哲学はいいから」
  「ははは」
  ここはサミットミスト邸の三階。役員の階層だ。……以前ここでレッドガードの衛兵殺したなぁ。ダンマーの女も。
  懐かしいです。
  まあ、昔話は置いておこう。
  ともかくここは三階で、そしてヴィンセンテの執務室だ。考えてみればこうしてゆっくり喋るという事はあまりなかったなぁ。最近私は忙しかったしさ。という
  かそもそも家にいなかったし。ウンバカノとか闇の一党とかブラックウッド団とか死霊術師の一団とか黒の派閥とか。
  思えば色々と関ってるなぁ。
  まあその中には『済み☆』のものがあるけどさ。
  だけど大概面倒臭い事ばかり。
  どんな星の元に生まれてるんだ私は?
  おおぅ。
  「それにしても妹よ。残党ならば問題はないのではないですか?」
  「まあね」
  頷く。
  残党なら確かに問題はない。
  何故?
  だって確実に分裂しているはずだもの。上層部が全て吹っ飛んでるから末端連中は好き勝手出来る。だから昨日出てきた奴は……えーっと、名前なんだっけ?
  まあ名前はいいか。
  ともかくそいつは自分を聞こえし者と勝手に名乗っていた。自称です。つまり誰でもその気になれば名乗れる。統制なんかあったものじゃない。かくて闇の一党
  の残党どもは勝手に大幹部を名乗り分裂し分派しバラバラになっていく。
  つまり。
  つまり襲ってきたのもそんな残党の一派の1つに過ぎないだろう。
  数もそんなに多くなかったし。
  まあいいさ。
  数の差は関係ない。多ければ多いでもいいです。
  いずれにしても叩き潰すだけだ。
  それだけ。
  処方箋は簡単なので楽でいいですねー。
  「妹よ」
  「ん?」
  「何でしたら我々も力を貸しましょう。事業が安定してきましたし従業員が増えたので役職者である我々は多少は暇が出来るようになりました」
  「その必要はないわ、お兄様」
  「遠慮はいりません。家族なのですからね」
  「いや。そうじゃないわ。たかだか残党程度にお兄様達が出張るまでもないわ」
  ローズソーン邸に住む家族達は暗殺者揃い。
  ヴィンセンテもまた暗殺者。
  他の聖域の暗殺者の質は知らないけどシェイディンハル聖域の面々は強い。精鋭揃いだ。一山幾らかは知らないけど雑魚暗殺者の駆除に出張るまでもない。
  私1人で充分過ぎる。
  「蹴りは付けるわ、私がね」
  「なるほど。妹は強いですからね」
  「そういう事」
  まあ、私が出張るのも勿体無いぐらいなんですけどね。
  たかだか残党程度に私が出張る?
  実に勿体無い。
  「ところで妹よ。配達人から聞いたのですけどアンヴィルで動乱があったそうです」
  「アンヴィル?」
  「ええ」
  最近行ってないな。
  ここのところはずっとスキングラード住まいだし。
  情報にも疎い。
  うーん。
  頂点を極めちゃうと何もする事がなくて暇ですなー。闇の神シシスすらも倒したフィーちゃんです☆
  ほほほ☆
  「どんな動乱?」
  「アンヴィルの港湾地区にあった倉庫が全焼したそうです」
  「……? それ動乱? ただの火災でしょ?」
  「いえ。ここはルドラン貿易という会社の所有していた倉庫でしてね」
  「ルドラン……ああ、輸入雑貨で有名な会社よね」
  「それは仮の姿。実際は港湾貿易連盟に所属する1つの犯罪組織でした」
  「そうなの?」
  「ええ。倉庫は完全に焼け落ちました。そこには大量の焼死体。アンヴィル当局は大規模な抗争があったと判断して調べているようですよ」
  「へー」
  世の中、色んな事が起きてるらしい。
  私がスキングラードで寝ぼすけている間にね。
  こりゃ油断出来ないな。主人公に相応しい振る舞いをしなきゃね。
  そろそろ行動しないと。
  そろそろ。
  ……。
  ……じゃないと歴史の流れから置いて行かれる様な気がしてきたー。
  フィーちゃん再始動。
  さて。
  「お兄様、邪魔したわね」
  「いえいえ。妹との会話は楽しかったですよ。ただ……」
  「ただ?」
  「最近アンといちゃつくのを見せつけませんが……まさかマンネリの時期ですか?」
  「すいません別に私は見せつけているわけではないです」
  「そうなのですか?」
  「……」
  まったく。
  いつの間にか完全にアンと出来てるという設定になっている。
  それはそれで面倒だなぁ。



  「ふぅ」
  サミットミスト邸を出た。
  まだ日は高い。
  このまま帰るのは、うーん、勿体無い。家に帰ったらもう今日は外に出ないだろうし。ローズソーン邸はここから数分の距離。簡単に帰れるけど私は家
  とは逆方向に進む。主役らしく何らかの行動をしないとね。
  家族は皆働いてる。
  黒の乗り手の仕事をしてる。ただまあ、アンは基本的にエイジャの手伝い。ゴグロンは戦士ギルドのお手伝い。戦士ギルドも現在は再建中であり人材が
  足りないので暫定的に手伝ってもらってる。彼はある意味で就職先は戦士ギルドが相応しい。
  ともかく。
  ともかく皆何らかの形で働いている。
  私だけだ。
  無駄飯ぐらいはさ。
  ……。
  ……一応はする事はあるんだけどね。新しい屋敷の買取とかさ。物件はハシルドア伯爵に任せてある。報告待ちだ。
  死霊術師関連もね。
  ラミナスが報告を持ってくるまでは動きようがない。
  城に行く?
  まあ、それはそれでいいかもしれない。
  だけど催促しているようにも取れる。
  まあいい。
  まあいいさ。
  街をぶらつくとしよう。
  「何しようかなぁ」
  服装は普段着。
  だけど愛用の雷の魔力剣は身に付けている。街の外に出ても問題はない。まあ、ぶっちゃけ武器なくても大抵の敵は粉砕出来るけどさ。ヴァルダーグと
  かは武器無しだと無理だけど、そうそうあのクラスが出て来る事はあるまいよ。
  さて。
  「何しよう?」



  スキングラードの外。つまり都市の外。
  スキングラードの西部。
  そこは一面ブドウ園。
  私は小高い丘の上に腰を下ろして色鮮やかなブドウ園を見下ろす。壮観です。
  「良い景色」
  結局。
  結局街をぶらつく事に飽きた私は街の外に出て1人ピクニック。
  サルモのパン屋でパンも買った。
  ジュースもね。
  「おいしー☆」
  もぐもぐ。ごくごく。
  1人の時間を楽しく堪能する。
  基本的に私は1人の方が落ち着く。社交的でフレンドリーなのはあくまで見掛けだけ。……いやまあ適度に明るいしそこまで外面作ってないけどさ。とも
  かく、それなりに過去が悲惨なので人を寄せ付けたくない時が結構ある。
  トラウマですね。
  今がその時かなぁ。
  たまには1人が好きです。
  「ふぅ」
  風が心地良い。
  こういう1日もいいものだ。
  ずーっと戦闘が続いていたし長引いていた。たまにはこういう1日も大切でしょう。
  その時……。


  ざっ。ざっ。ざっ。

  足音が近付いてくる。
  「ちっ」
  私は軽く舌打ち。
  無粋な連中だ。人のリラックスタイムを邪魔しようという輩の登場のようだ。
  血の匂いが漂ってくる気がする。
  つまり。
  つまり私の同類という事だ。
  まあ、私とはレベルが桁外れなんですけどね。
  どっちが上?
  私っす☆
  「ふぅ」
  私は立ち上がる。
  視界に立ちはだかるのは見覚えのある面々。もちろん知った顔、というわけではない。服装に見覚えがあった。
  黒い皮鎧。
  闇の一党の暗殺者達だ。
  そんな中に1人だけ法衣の奴がいる。ブラックハンドの法衣。
  ……。
  ……まあ、自称幹部なんでしょうけど。
  いるのだ、こういう奴が。
  昨日も始末したし。
  「また会ったなっ!」
  「また?」
  法衣の男が叫ぶ。
  またって何?
  皆目見当が付かない。
  「あんた誰?」
  「聞こえし者のルブランテ様だっ! 昨日会っただろうがっ!」
  「知らん」
  「なっ!」
  実際には覚えてる。
  いくらなんでも昨日戦った奴程度の事は覚えてる。
  戦闘で大切なのは平常心。
  挑発は立派な戦略だ。
  にしてもこいつ、生きてたのか。私の裁きの天雷を避け、煉獄すらも避けた。どんな敏捷性だ。……まあ、逃げ足が速いだけかも。
  「あれ?」
  聞こえし者の隣にノルドがいる。
  1人だけ別衣装。
  普通の皮鎧なんだけど、その鎧には熊と鮭の紋章が刻まれていた。
  趣味悪っ!
  「それで? あんたら何がしたいわけ? 死にたいなら首吊って。わざわざ私が手を下すのも面倒だからさ」
  「戯言をっ!」
  「真実よ」
  「我々闇の一党ダークブラザーフッドを敵に回した者には等しく死をっ!」
  「出来るもんならね」

  「殺せっ!」
  号令と同時に闇の一党の残党達が動く。
  数は20。
  完全に残党ね、うん。
  この程度の人数しか繰り出してこない以上は残党だ。組織として成り立っているならもっと繰り出してくるはず。
  それが出来ない。
  つまりは残党。
  問題ない。
  「とっとと片付けるとしましょうかねぇ」
  暗殺者達、一斉に刃物を抜き放って肉薄してくる。
  馬鹿め。
  その程度の能力で私に接近戦を挑むわけ?
  簡単に殺せるのだよ、お前達程度。
  魔法。
  剣術。
  それぞれ相手を殺す為の手段の1つでしかない。雑魚が群れようが私の能力のコラボの前に呆気なく果てるしかないってわけだ。それにそもそもこい
  つらは忍んで殺すのが前提の暗殺者。
  私は無敵の魔法戦士。
  正面切って戦う馬鹿がどこにいる?
  ……。
  ……ああ。ここにいるか。
  馬鹿は死ななきゃ治らない。だったら死ねばいい。
  全員仲良くね。
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  雷の魔法。
  瞬殺っ!
  1発で敵勢は吹っ飛んだ。
  まったく。
  その程度の能力で私に喧嘩を売るなんてもはや喜劇しかない。……まさか私を笑わせる為?
  だとしたら逆に誉めてあげるわ。
  コメディアンとしては最高の死に様でしょうねぇ。
  さて。
  「お、覚えてろっ!」
  「やれやれ」
  聞こえし者、逃亡。
  逃げ足だけは滅茶苦茶速い。瞬く間に見えなくなる。
  あれは人間の脚力ではない。多分魔法で速度を強化しているのだろう。しかしどんなに強化しても逃げ足だけに特化するのであれば意味がない気が
  する。喧嘩売る以上は戦闘に活かしなさいよ。
  残るはただ1人。
  ノルドだ。
  「お仲間は逃げたみたいね」
  「ふん。闇の一党とはこの程度か。兄貴に報告しないとな。組むに値しないと」
  「兄貴?」
  こいつの兄貴が誰かは知らんけど……んー、少なくともこいつとその兄貴とやらは闇の一党ではないらしい。
  何者?
  本気で困るな、敵が多過ぎるとどこの敵か特定するのが難しい。
  わざわざ聞くのもこいつに悪いし。
  うーん。
  モテモテ過ぎても困りものですなー。
  「で? お前は何者?」
  「敵さ」
  「そりゃ知ってる」
  「それ以上に問題があるか?」
  「ある」
  「ほう?」
  「情報得ないまま殺すと後が面倒」
  「ほざくなブレトンっ!」
  すらり。
  熊と鮭の紋章をでかでかと刻んだ皮鎧を着込んだノルドの男はクレイモアを引き抜いて身構えた。
  戦う気満々らしい。
  やれやれ。
  何も喋らずに戦闘突入か。それならそれで仕方あるまい。
  私は宣言する。
  「お前殺すよ」
  「来いっ!」
  「じゃあお言葉に甘えて。……はあっ!」

  「……っ!」
  「不甲斐ないわね。そう思わない?」
  雷の魔力剣は相手の腹をあっさりと薙いでいた。
  さすがは私が錬成しただけある。
  切れ味最強。
  存分に斬ったもののまるで手応えがない。しかし相手は腹を斬られ……いや、完全に両断されていた。フィーちゃん最強っ!
  誰に喧嘩売ったかお分かり?
  ただまあこの魔力剣にも唯一の弱点もある。
  それは強力過ぎるという事。
  相手を生かして捕えるとなると逆に難儀する。……まあ、いいけどね。どっちにしろ最終的には始末するわけだし。
  さて。
  「く、くそぅ。シロディールのクソ住人の分際で生意気言いやがって」
  「そりゃ失礼」
  地面に横たわる上半身のノルド。
  ふぅん。
  なかなか根性がありますな。
  普通は死ぬんですけどね。
  そんなにガッツがあると私としても嬉しくなっちゃう。
  ……。
  ……いや私はサディストではあらず……いや。やっぱサディストかもー。
  ともかく。
  ともかく生きてて嬉しい=情報源として役立つって事だ。
  こいつは闇の一党ではない。
  だとすると何者?
  闇の一党の残党だけでは成り立たないからどっか別の連中を取り込んだとか別の組織と提携を結んでいるのかもしれない。
  可能性的にゼロではないだろう。
  だから死なれては困る。
  大切な情報源。
  「シロディールの住人云々を口にするって事は別の地方から来たのよね?」
  「……」
  「黙秘?」
  「……」
  「どっちにしろすぐに死ぬんだから喋っておいた方がいいわよ。死んだら二度と喋れないんだからさ」
  「……」
  「そう。それが答え?」
  「……」
  「なら別の視点から見てみましょうか」
  男の服装は特に問題はない。
  普通の皮鎧だ。
  ただ鎧の背面にでかでかと熊と鮭の紋章が刻まれている。よく見ると鎧から露出している部分、つまり下に着込んだ服の肩の部分にも同じ紋章。
  ふぅん。
  これがこいつの組織の紋章か。
  それとも信仰?
  よくは分からないけどこいつの関り合いのある連中のトレードマークだろう。
  「私を殺したいわけよね?」
  「……」
  「それぐらい答えてもいいでしょう?」
  「……」
  「ちょっと」
  「……」
  私は無駄を悟った。
  だんまりを決め込んでいるのではなく既に息はない。体を両断されても即死しないだけ頑丈だったわね。
  「ふむ」
  ビリ。
  袖を引き千切る。
  紋章ゲット。
  熊と鮭の紋章って……木彫りの熊の販売推奨組織?
  だとしたら笑うなぁ。
  まあいい。
  物証があれば事情を確定しやすい。ローズソーン邸には大勢寝起きしている。誰か1人ぐらい知ってるだろう。……多分ね。あまり当てにはしてないけど。
  最近は時間がたくさんある。
  有り余ってる。
  暇潰し程度に自分で調べてもいい。
  さて。
  「帰るかな」
  あっさり過ぎる?
  だって別に感慨なんてないし。
  それに死体に興味はない。
  基本的にクールでドライなのだよ私は。それに転がっているのは敵の死体。別に感慨も必要なかろうよ。
  おうちに帰ろう☆
  夕飯だし。



  「何だろ、これ。誰か知ってる?」
  夕飯の席で私は敵から剥ぎ取った衣服の欠片を見せた。
  衣服の切れ端。
  そこには紋章が刺繍されていた。
  熊と鮭。
  見た事がない。
  ……。
  ……いや厳密にはある。お土産としては有名な木彫りの熊だ。てかどんな組織の紋章だ。
  はぁ。また妙な組織が現れた。
  厄介だなぁ。
  せっかく闇の一党とブラックウッド団が退場したと思ったのに新手か。……まあ、闇の一党は完全に組織としては存在していない。ただの残党だ。
  「誰か知ってる?」
  「知らないねぇ」
  オチーヴァは首を横に振った。
  「俺も知らん」
  オチーヴァの双子の弟(兄なのか弟かは不明)も首を横に振る。ふぅん。本の虫の彼も知らないかぁ。
  ネコはどうだろ?
  元魔術師ギルドのメンバーだったらしいからそれなりに知識があるだろうって……無駄かー。私も魔術師ギルドだった、それも超エリート。私が知らない
  事をネコが知ってるとは思えない。だけど万が一って事もある。
  聞いてみよう。
  「知ってる?」
  「親友、悪いが分からない」
  はい。
  無駄でした。
  テレンドリルも静かに首を横に振る。ゴグロンとアンは……聞くまでもないかー。

  「この紋章なら知ってますよ」
  「ヴィンセンテ」
  吸血鬼の兄が手を差し出す。私はテーブルの上に紋章の刺繍を置く。
  それを彼は手にしてまじまじと眺めた。
  「ふぅむ」
  「……」
  「実に興味深いですね」
  「何なの?」
  「これはっ!」
  ガチャアン。
  給仕の為にテーブルに近付いたエイジャは持っていた陶器の鍋を床に落とした。
  「おいおい大丈夫かよ?」
  「え、ええ」
  ゴグロンの呼び掛けにエイジャは動揺した声で答えた。
  動揺?
  この紋章を彼女も知っているのだろうか?
  ヴィンセンテはエイジャの動揺に心当たりがあるらしく頷いた。
  「なるほど。スカイリム出身のノルドなら誰でも分かる事かもしれませんね」
  「結局どういう事よー?」
  不平の響きを込めてアンが言う。
  私も気になる。
  「それでヴィンセンテお兄様、この紋章は何なの?」
  「これはですね……」











  スカイリム西部。
  都市の外。
  昨夜に続き今日もそこには死体の山が築かれていた。フィッツガルド・エメラルダの留まる場所には必ず死体が築かれるようだ。
  闇の一党の暗殺者達の死体。
  放置されている。
  都市付近とはいえあまり人が通らない場所なので、気付いた衛兵に片付けられるにしても明日まで待たなくてはなるまい。
  大体処理にはそれだけ掛かる。
  だが今回は異なった。

  ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ。

  空間が歪む。
  そして虚空に黒い球体が浮かび上がり、具現化し、漆黒の触手が死体を絡め取っていく。
  漆黒の触手。
  その数は全部で八つ。
  その数は……。