天使で悪魔






受難体質






  受難体質。
  非常に迷惑な体質だと思う。
  非常に迷惑っ!




  
  魔術師ギルドの混乱。
  内外の折衝役だったラミナス・ボラスは解任、謹慎、そして失踪。行方不明になったから心配してたけど……何故かスキングラードの城にいた。
  ハシルドア伯爵と懇意だったらしい。
  伯爵曰く『我が友』らしい。
  うーん。
  幅広い人脈を築いてるなー。
  まあ、分かる気がする。
  ラミナスの立場としては人とよく会う事が多い。伯爵ともそういう流れで仲良くなったのだろう、多分。
  何か調べているらしい。
  おそらくは死霊術師関連だと推測。


  魔術師ギルドの混乱。
  世慣れたラミナスが解任され、その後釜にクラレンスとかいう奴が据えられたらしい。
  ぶっちゃけどんな奴かは知らん。
  どいつかは知らないけどある評議員の高弟らしい。
  現在評議員達は己の権力を自分の師弟に継がせる事が多い。そうする事で隠居後もリモートコントロールするって寸法だ。
  完全に腐敗してる。
  ともかく。
  ともかくラミナスは失脚。
  彼と近かった私も自動的に失脚したのと同義だ。
  それにしても戦士ギルドの厄介が終わったら今度は魔術師ギルドかよ。
  ……。
  ……面倒だなぁ。
  やれやれ。





  スキングラード城での再会の翌日。
  今日の私は街を散策。
  最近だらけまくりな私です。
  既に市民としての日々を堪能している状況。戦闘の方法忘れちゃったー☆

  「うっまー☆」
  露天から買ったホットドッグを頬張りながら私は街を歩く。
  街並みを見てあるくだけでも楽しい。
  ……。
  ……アンがいないしねー。
  あいつがいると、まあ、楽しいけど身の危険もあるしなぁ。嫌いな相手ではないけどあまり干渉されるのは得意ではない。
  1人の時間は大切です。
  モグモグ。
  「おいしかったなぁ」
  屋敷の豪華な食事もおいしいけど、こういう買い食いしたりするのも楽しいしおいしい。
  旅の醍醐味ですなぁ。
  まあ、ここは旅先ではなく私の地元だけどさ。
  スキングラード在住の私。
  一応は街の名士。
  ハシルドア伯爵とは懇意だし……そうそう、伯爵に新しい屋敷を頼んだ。新しい物件を探している最中っす。
  何故に?
  だってフォルトナの仲間達はローズソーン邸に住めないから。
  さすがに手狭。
  サミットミスト邸に住めればいいんだけどあそこは配達会社である『黒の乗り手』の本社兼倉庫。住めるスペースは皆無。増築するのも考えたけど新しい
  物件を買った方が効率的にはいい。この先も仲間が増える可能性があるし。
  それに。
  それにそれだけの経済力はあるのだから問題ない。
  「うん?」
  街を歩きつつ私は様々な会話を楽しんでいる。
  これはこれで醍醐味だ。
  噂話が聞こえてくる。
  見た感じあの3人は冒険者だ。鉄の鎧に身を固めた3人組のアルトマー。魔法戦士かな。

  「空間から現れて死体を集める魔物かぁ。スキングラードも物騒だな、ディック」
  「そうだな。皇帝亡き後のシロディールはどこもかしこも物騒過ぎる。俺達も気をつけないといけないな。アリシアもそう思うだろ?」
  「ええ。そう思うわ」

  歩き去る3人組の冒険者。
  気になる噂話だ。
  「死体を集める魔物かぁ」
  少し気になる。
  オブリビオンの悪魔どもなのかシロディールの魔物かは分からないけど……今まで聞いた事もお目に掛かった事もない類だ。
  うーん。
  世の中って広いなぁ。
  まあ基本的に何でもありな世界だから私が知らないだけなのだろうさ。
  「ふぅ」
  今まで忙しかった。
  働き尽くめだった。出来る女は辛いっす。
  闇の一党、ブラックウッド団との戦いの完結。現在進行形でまだ死霊術師の組織とは続いているけどさ。取るに足らない小さな組織やら敵やらともぶつ
  かって来たフィーちゃんだ。しばらくは楽をしたいと思う今日この頃。
  さて。
  「次は何しよう?」
  今日は完全なるオフ。
  ここ最近は戦闘そのものもしていないなぁ。まあ、当然よね。私は元々平和主義だし。
  別に好んで戦闘しているわけではない。
  挑まれるから相手してるだけ。
  もちろん戦う以上は手加減しないと手心も加えない。
  人を殺して心が病む?
  ……。
  ……うーん。それはないなぁ。この間フォルトナにあったときは彼女は気にしてたけど私は自分の所業は気にならない。
  何故?
  まあ、いつだって自分の意思で殺してきたからね。
  闇の一党にいた時もそうだ。
  全て自分の意思。
  自分にとって嫌な任務の時はスルーして来た。
  その結果がシェイディンハル聖域の家族達だ。私の行動は私の意志によるもの。
  だから病む事なんてない。
  抵抗しないのは殺されるって事だしね。
  うん。
  完璧な理論武装よね。
  ほほほ☆
  「息抜き息抜き。戦士ギルドで偉そうに訓示したりしてからかってくるかな」
  私ってば戦士ギルドのマスターですし。
  ほとんどコロールのオレインに任せっきりなんだけどさ、実務は。
  戦士ギルドに冷やかしに行く。
  それから家に帰ろう。
  家に帰ってお昼寝するのも悪くない。
  ……。
  ……ま、まあ、お昼寝はあの屋敷ではデンジャラスな展開になりかねないんだけどさ。
  約1名物騒な奴がいますので。
  おおぅ。
  「ん?」
  視線を感じた。
  行き交う人々から来る視線ではない。……殺し屋か。

  「……」
  すぐに気付く。
  誰かが私を尾行している。あまり気配を読むのは得意ではないけど殺気が発せられているので分かり易い。
  誰かが私を付け狙っている。
  怖い?
  まあ、怖くはない。
  問題は誰が狙っているかという事だ。身に覚えがあり過ぎてまるで見当が付かない。
  誰の差し金だろう?
  数は3。
  殺気を消せていない尾行など私にはまるで意味がない。
  素人かな?
  もしかしたらただの斥候役かもしれない。いずれにしてもあの程度の隠密性の奴がいきなり襲ってくるとは考えられない。やり易い場所に移動してやるか。
  家まで付いて来られても面倒だし。
  途中で脇道に。
  「遊んでやるかなぁ」
  呟きながら私は歩く。
  ゆっくり。
  ゆっくり。
  ゆっくり。
  尾行している相手に気付かれないように私は進む。
  貴族邸宅地区から下町のある区画に。
  「……」
  まだ付いて来ている。
  なるほど。
  完全に私狙いなわけだ。何者なんだろうなぁ。
  まあ、どういう経緯で襲ってくるにしても対処方法は同じだけどさ。
  粉砕。
  非常に分かり易い対処法ですねー。
  ほほほ☆
  私はスキングラード聖堂まで到着。
  ここの裏手は基本的に誰も来ない。てか完全に放置されてる。何でだろ?
  薄暗い聖堂の裏。
  世を拗ねてる不良とかの溜まり場かと思うけど、ここには誰も集まりらない。スキングラード七不思議の1つだ。……他の六つは知らんけど。
  さて。

  「……ふん」
  私は足を止める。
  周囲には人が誰もいない。少なくとも堅気の奴は誰もいない。
  スキングラードの聖堂の裏。
  静寂。
  誰もいない。
  だけど私にはまる分かりだ。
  ……。
  ……本気で隠れているつもりらしい。気配が完全に出まくってる。殺意と敵意がね。
  隠れてるつもり?
  だとしたら笑う。
  その程度の力量で私に喧嘩を売ろうとしているのだからね。
  身の程知らずって怖い。
  「出ておいでよ。やり易い場所まで来てあげたんだからさ」

  ざわり。

  殺意が揺れる。
  どうやらプライドを傷付けてしまったらしい。……本気で隠れられているつもり?
  うーん。
  無駄な誇りを有しているらしい。
  そして現れる。
  数は25。
  結構多い。
  少なくとも世間的には大勢に囲まれた、という部類になるだろう。しかし数だけ揃えても力量が最弱過ぎる。これで喧嘩を売るつもりらしい。
  笑える。
  それにしても本気で質が落ちたようね、闇の一党。
  取り囲むのは闇の一党の暗殺者達だった。
  残党に過ぎないけどさ。
  黒い皮鎧に身を包んだ雑魚雑魚の暗殺者達だ。上層部壊滅したのに今さら何しに出てきたんだか意味不明。
  まあいい。
  「お前ら殺すよ」
  宣言。
  どういう展開になろうがここに死骸の山が築かれる事になる。
  誰一人逃がすものか。
  始末する。
  「はあっ!」
  雷の魔力剣を振るう。
  これだけはどんな場合でも手放さない。
  ……。
  ……まあ、家にいる時は帯刀しませんけどねー。ただ、たまぁにハシルドア伯爵に会食に招かれる際にも帯刀はしてます。衛兵が護衛にいようともね。
  ある意味で癖。習慣。
  今まで展開が物騒だったし。
  闇の一党の暗殺者に狙われるは死霊術師も出張ってくるわで忙しかった。
  それに元々サバイバルな生き方してきたし。
  癖。習慣。
  そんな類ですねー。
  もちろん断るまでもなく会食開始の際には剣は預けます。念の為に補足です。
  さて。

  「ぎゃあっ!」
  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
  「……がは……」

  「はっはぁーっ!」
  テンション上がりまくりの私。
  久々に。
  久々に私の剣は血を吸う。
  別に殺しが大好き&戦闘が大好きというわけではないけど、やはりテンション上がる。容赦なく殺戮の刃を振るう私の周りには死骸の山が築かれていく。
  街の住人の反応?
  大丈夫よ。
  聖堂の裏辺りには衛兵も来ないし。
  あっ。まだグラアシアの死体がある(笑)。大分腐乱してるなー、ほとんど骨だー。
  ともかく。
  ともかくここなら衛兵の邪魔は入らない。
  お望みの展開でしょう?
  お互いにさ。
  「ふふん」
  暗殺者どもは怯えたように……まあ、実際怯えているのだろう。ともかく怯えながら後退を始める。ただし逃げるわけではなく包囲したまま遠巻きに私を
  見ている。誰もが二の足を踏んでいる。死に急ぐのは誰かしら?
  それにしても。
  「祟るなぁ」
  闇の一党ダークブラザーフッドの暗殺者。
  いやまあ残党だけどさ。
  まあいいさ。
  組織が全盛期だろうが衰退期だろうが喧嘩を売ってくるなら買うまでだ。そして叩き潰すだけ。
  処方箋はいつだって同じ。
  極めてシンプル。
  圧倒的な私の剣術の前に暗殺者達は次々と死骸へと変わる。
  死骸になれば静かなものだ。
  うーん。
  その方が心地良い。無駄に騒がないし。
  さて。
  「ふぅん」
  法衣を纏った奴が出てくる。
  なるほど。
  指揮官の登場だ。

  「俺は聞こえし者ルブランテ」
  「はいはい」
  はぁ。
  溜息を吐く。
  「聞こえし者ね」
  はぁ。
  再び溜息。
  一応私が知る限りでは初代がウンゴリム、二代目が私、三代目がルシエン(アンのホムンクルスに寄生していた)。そして現在目の前に四代目がいる。それ
  もとことんひ弱そうな奴がだ。私ってば最強に強い。別に初代と三代目を誉めるわけではないけどそれなりに強かった。
  だけどこいつはどう?
  ……。
  ……まあ、上層部は既に存在しない。
  つまり完全なる自称。
  雑魚だろうが自分でそう名乗れば『聞こえし者』で問題ないだろう。組織としては既に崩壊している、内部分裂している、どう名乗ろうと誰も咎めない。
  こういう世間知らずな自称幹部が大勢いるんだろうなぁ。
  闇の一党、完全に時勢から捨てられたっぽい。
  「それで? 何の用?」
  「くっくっくっ」
  聞いてみる。
  特に意味はない質問ではある。すぐに殺すもの。
  なのに何故聞く?
  社交辞令。
  まあ、ついでに誰かの差し金なのかどうかが知りたい。上層部が壊滅している以上、私の首の賞金も無効になっている。黒馬新聞を通じてシロディール
  全域に闇の一党上層部の壊滅を告げた。つまり末端の構成員も私の抹殺指令が無効になったのを知っているはず。
  なのに今さら襲って来た。
  それは何故?
  もしかしたら新聞読んでないだけかもしれないけど……一応は襲って来た経緯が知りたい。
  それが終われば始末するけどさ。
  「何の用?」
  「お前の首を取る。そして組織の仇を討つっ!」
  「ああ。そうですか」
  それだけか。
  ならば消しても問題あるまい。
  それにしても難儀だなぁ。
  闇の一党の残党自体に襲われる身に覚えもあるけど、殺し屋雇われて差し向けられる身に覚えもある。そこら中に恨み買ってるから襲われてもどう
  いう経緯で来たのかわざわざ聞かないとまるで分からない。
  うーん。
  清く正しく生きてるのにどうしてだろ?
  フィーちゃんわかんない☆
  ほほほ☆
  「死に急ぐ理由はそれだけ?」
  「そうだ。くっくっくっ。もちろん死ぬのはお前だがなっ!」
  「そりゃ結構。楽しみ」
  「……」
  自称最高幹部、沈黙。
  私の余裕が予想外らしい。だとしたら甘い認識で襲ってきたものだ。この程度で私がガクブルするものか。
  敵さんは全部で13人。
  一撃だ。
  特に裏があって攻撃しているようではないので粉砕しても問題あるまい。
  それにしても。
  それにしても闇の一党、質が最悪。
  路地裏のチンピラ程度の力量でしかない。最悪な暗殺集団は遠い過去の話。とっとと転職をお勧めします。
  まあ。
  今から死ぬんだけどさっ!
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  『……っ!』

  包囲していた敵が全員、そのまま吹っ飛んだ。
  雷の魔法を私は自分の足元に叩き込んだ。裁きの天雷は何かに直撃したと同時にそこから余波が生じる。その余波をまともに浴びて感電して即死。
  雑魚です雑魚。
  びくとりー☆
  まさに完勝。こいつらが弱過ぎるのもあるけど私が強過ぎるというのもある。
  うーん。
  高見を極めた女って罪ですなー☆
  ほほほ☆
  「ん?」
  「……お、覚えてろ……」
  何だあの脚力。
  雷を浴びたようには見えない……つまりあいつ、雷の余波よりも素早く動いた?
  聞こえし者だ。
  奴は既に遠い場所にいる。そこから叫んでいる。
  ふぅん。
  回避したのか。
  なかなか非常識的な脚力だ。
  まあいい。
  「煉獄」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  ……。
  ……死んだかな?
  「さて。帰るか」
  今日もこれにて終了。
  家に帰ってご飯を食べよう。結局のところ襲って来た連中は私にとってこの程度の相手でしかないわけだ。
  「あー。暴れ足りん」
  まだまだですね。私の相手をするのはさ。
  ラミナスの調査がいつ終わるかは知らないけど伯爵に頼んだ物件の話は2日ぐらいで来るだろう。
  それまでは遊んで過ごそうかな。
  皆でゲームしたりして。
  「お疲れっしたー」
  死体に一礼。
  さてと。
  帰ろう帰ろう☆





  累々と死骸が横たわるスキングラードの聖堂。祀っているのは九大神のジュリアノス。
  静寂が支配していた。
  ここはある意味でこの街の空白地帯。
  衛兵もここまでは来ないし市民も足を踏み入れない。
  フィツツガルと・エメラルドが去った後。

  ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ。

  まるで羽虫が飛ぶような音が響いた。
  空間が歪む。
  黒く。
  黒く。
  黒く。
  空間を捻じ曲げて黒い球体がそこに浮かんだ。そこから無数の黒い触手が伸びて死体を吸い込んでいく。
  そして。
  そして全ての死体を取り込んだ後、球体は虚空へと消えた。