天使で悪魔






平穏な日々






  日々は過ぎていく。
  過酷なる時は終わった。今は平穏なる時間。
  だけど私は知っている。
  その平穏は次の戦いの為の橋渡しでしかない事に。
  私は知っている。






  再起動を果たした闇の一党ダークブラザーフッドとの最終決戦。
  闇の神シシスは世界に干渉する力を失った。
  夜母は全ての能力の消失。
  幹部集団ブラックハンドは全滅。
  上層部の壊滅により末端の暗殺者達は統制を失い瓦解。
  こうして闇の一党は終わりを迎えた。


  帝都制圧を目指したブラックウッド団との最終決戦。
  団長リザカール戦死。
  副長ジータム・ジーも同じく戦死。
  本部にいた幹部及び団員達は全滅。その後、世論に動かされた帝都軍の一斉捕殺によりブラックウッド団の全ての支部は壊滅。
  ブラックウッド団を支援していたアルゴニアン王国では戦争強硬派の宰相一派が一網打尽にされ穏健派が実権を握り融和路線に方向展開。
  こうしてブラックウッド団は終わりを迎えた。



  だけどこれは終わりではないのだ。
  シロディールに存在した組織が2つ壊滅しただけであり、まだまだ組織は健在している。
  そして減った分がまた増えるかもしれない。
  それ以上もありえるだろう。
  闇の一党やブラックウッド団の残党も存在しているし、その残党を取り込んで組織力を拡大する者達がいるかもしれない。
  終わりがない。
  終わりがないのだ。
  厳密に言えば終わりはあるのかもしれないけどそれは今だ誰の目にも映らない。


  皇帝暗殺を成し遂げた『深遠の暁』。
  謎の組織『黒の派閥』。
  スカイリム独立を目指すものの当地では壊滅、国境を越えてシロディールに逃げ込んできた過激派集団『スカイリム解放戦線』。
  死霊術師の組織『黒蟲教団』。
  魔王メリディアを信奉する『蒼天の金色』。
  アイレイドの遺産を漁り続ける盗掘集団『レリックドーン』。
  吸血鬼達を操る謎の女性レディ・レッド率いる『深紅の同盟』。
  犯罪結社の連合体である『港湾貿易連盟』。
  さらに冒険者の街フロンティアでは様々な騒動(アルディリア迷宮編参照)が起きているらしい。



  もしかしたらまだいるかもしれない。
  まだ知らない組織が暗躍しているのかもしれない。
  世界には悪意が満ちている。
  そのような悪意の根本はもしかしたら帝国なのかもしれない。帝国が悪意を増殖するのだ。
  そして……。






  「ふぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
  あー。よく寝た。
  私はベッドから身を起こす。窓の外は既に日が高い。お昼ぐらいかなぁ。
  ここはローズソーン邸の自室。
  つまり私はスキングラードにいるわけだ。
  最近は寛ぎまくりな私。
  戦い?
  いえいえ。最近は剣すら持ってない。……いやー、それは嘘か。帯刀はしてます。外を出歩く時には帯刀してる。法律で認められてるし。
  まあ習慣でもある。
  ただ戦いをしていないのは確かだ。
  何日戦いしていないかな?
  ……。
  ……うーん。一週間かなぁ。
  最近はただ街を出歩いて食べ歩きしたり遊び歩いてる。
  ずっと戦い尽くめだったからたまには息抜きが必要。闇の一党とブラックウッド団との激戦、たまには休みと遊びは必要です。
  まあ、生温い毎日だけどさ。
  毎日が日曜日ってのもそろそろ飽きつつある。
  だからといって戦闘大好き人間ではない。適度な刺激と安穏を織り交ぜての日常が好ましい。
  ま、まあ、大抵はどっちか一方オンリーなんだけどさ。
  さて。
  「うー」
  二度寝しようか起きようか迷う。
  昨夜はヴィンセンテお兄様と月光浴……つまりは夜の街を歩いてた。夜は夜で街は楽しいものだ。静かだし。
  眠い。
  もう一度寝ようかなぁ。
  たけど今ここで寝ると夜また眠れないもんなぁ。
  まあいい。
  寝ないけどゴロゴロしよう。これが一番心地良かったりもする。
  「んー」
  ベッドの上で伸び。
  気持ち良いですなぁ。ビバ自侭な生活☆
  こうしていると激戦を忘れられるなぁ。
  闇の神シシスやら夜母やらブラックウッド団とか黒の派閥とか。色々とあったけどこうしていると忘れられる。……少なくとも黒の派閥以外は叩き潰したし。
  黒の派閥とは……まあ、今後は絡みたくないなぁ。
  面倒だし。
  まあ連中は帝国打倒な連中らしいから関わる事はないだろうよ。
  私は帝国関係者じゃないし。
  どっちかと言うと思想的には黒の派閥の側だしさ。
  帝国は良くない。
  今後も帝国の統治が続けばさらに腐敗は進むだろう。……まあ黒の派閥がその後釜に相応しいとは思わないけどさ。
  「考える事はマイナスばっかかもー」
  何気に頭に過ぎるのは面倒な事ばっか。
  魔術師ギルドは……最近よく分からない。ラミナスは謹慎処分にされた。それが不服だったのか屈辱だったのかラミナスは失踪してしまった。私は私で
  どうやらハンぞぅに信頼されていないらしい。感じとしては死霊術師との内通が疑われている節がある。
  正直居辛いので大学には最近顔を出していない。
  嫌だなぁ。
  ……。
  ……まあ戦士ギルドは楽ですねー。業務は全てモドリン・オレインに押し付け……じゃない、任せているし。
  たまに暇潰しにスキングラード支部には顔を出しているけどさ。
  戦士ギルドに専念しようかなー。
  何気に魔術師ギルドでは厄介なお荷物状態の扱いだけど、戦士ギルドでは私はトップだ。
  精神的な待遇も幾分も良い。
  そっちに専念する?
  それもいいかもしれない。
  ただまあ、それよりも先に専念すべき事があるのは確かだ。それは家の増築。
  何故?
  狭いからだ。家が。
  「人数多いもんなぁ」

  貴族邸宅地区にあるローズソーン邸。
  元々はシャイア家とかいう名門貴族の邸宅だったらしい。借金で差し押さえられたらしいけど。それをハシルドア伯爵から無料で私は貰った。貴族の邸宅
  だけあって広大ではあるものの少々手狭になりつつある。
  何故?
  いやまあ純粋に人数多いし。
  私、シェイディンハル聖域の元暗殺者達が7名、住み込みのメイドのエイジャ、そしてクヴァッチ聖域のフォルトナ。
  計10名だ。
  そう。
  第二部開始時点ではそうだった。……いやまあ第二部ってなんだ、とは言わないお約束。分かり易い説明だ。
  ともかく。
  ともかく10名だった。
  これがギリギリの人数。だけど私が旅をしている間にフォルトナは冒険者集団『フラガリア』を結成。仲間を4名引き連れて戻って来た。
  現在14名。
  ……。
  ……最初にフォルトナの仲間を見た時はさすがにびっくりしたなぁ。
  人間1人もいないし。

  「おお。マスターのマスターですな。我輩はチャッピー、よろしくお願いしますぞ」
  「我はケイティー。見ての通りドレモラ・ケイテフ。無骨な武人ではありますが主の為に尽くす所存。もちろん主の恩人である貴女様のお役にも立ちましょうぞ」
  「俺様はパーパス。イケメンの黒犬だ。夜はいつだって空いてるぜー?」
  「私はシスティナ。姫様の従者。以後よろしく」

  それが3日前だ。
  あれはびっくりしたよなぁ。
  ドラゴニアン、ドレモラ・ケイテフ、魔王クラヴィカス・ヴァイルの魔犬、そして上位マリオネットの『12ナンバーズ』の四番目。
  メンツは凄い。
  というか凄過ぎだろうよ。
  個々の能力が高過ぎる面々だ。……まあ、犬は知らんけど。
  大概シェイディンハル聖域の暗殺者達の前身も驚くものがあるけどフォルトナの仲間達はその比ではない。
  今はいないけどさ。
  どこに?
  冒険だと思う。
  冒険者だものね。
  まさか家を空けている間にフォルトナが冒険者になっているとは思ってたなかったけど。
  フォルトナ達は冒険しているのでローズソーン邸にいる事は少ないものの、まったくいないわけではないわけだから増築するなりしないといけないなぁ。
  ハシルドア伯爵に相談しよう。
  シェイディンハル聖域の面々達は『黒の乗り手』という配達業者を始めた。それが大当たり。現在はサミットミスト邸を買い取って本社(名義はオチーヴァ)にし
  ている。つまり邸宅はもう1つあるわけなんだけどあそこには住めないのよねぇ。
  本社権倉庫だから住むスペースがない。
  つまり。
  つまり増築するしかないわけだ。
  だけどこれ以上、屋敷は上には伸びれない。両隣も無理。後ろも無理。前は当然駄目だ、道だもの。
  下に伸びるしかないかぁ。
  地下を増築。
  建物の建築や改築や増築はスキングラード当局の管轄であり許可が必要。
  ハシルドア伯爵に相談しよう。
  さて。
  「フィー☆」
  ガチャ。バタン。
  毎度毎度のお騒がせ娘が現れました。
  ノックぐらいしてくれ。
  「何、アン?」
  「何、って酷いなぁ」
  「酷い?」
  「……最近抱いてくれないのね。あたしに飽きたの? ……アブノーマルな事だってフィーの言うとおりに我慢してきたのに……」
  「殺すわよっ!」
  「てへ☆」
  「まったく」
  私はベッドから身を起こす。
  こいつの言動は危なっかしい。色んな意味でねー。
  「ところでフィー」
  「何?」
  「そろそろ子供欲しいなぁ☆」
  「そりゃ結構。男と結婚すればいい。ご勝手に。……ああ、ご祝儀は送るわ。金貨3枚でいい?」
  「ぶぅっ!」
  「……」
  疲れる奴。
  懐かれるのは悪い気がしないけど時と場合による。
  目下、私は1人でいたい。
  そして……。

  「うわああああああああああああああああああああんっ!
  「……またか」
  あー、うるさいっ!
  この展開ですか、またこんな展開ですか。
  確か第二部開始時もこんな感じだったような気がする。
  年中行事?
  これやらないと先に進まないってわけ?
  嫌な流れだなー。
  そしてアンの鳴き声が階下にも響いたのだろう。まあこれだけ盛大なんだから響いて当然よね。

  『なんだなんだ? どうしたどうした?』
  ドタドタ。バタバタ。

  ……はあ。
  階下から足音が響いてくる。
  そして。
  そして家族達が部屋に入って来た。
  何なんだあんたらは?
  悲鳴で駆けつけて来るなんて家族大好き人間か。
  ……。
  ……まあわざわざ口に出して確認するまでもないだろう。
  こいつらは家族大好き人間なのだ。
  そもそもシェイディンハル聖域の面々がこんな感じでなければ私はルシエンに命令された浄化の儀式を実行していたはず。そしてそれさえ実行し
  ていれば闇の一党の再起動の際に命を狙われる事もなかっただろう。
  闇の神シシスも。
  夜母も。
  新生ブラックハンドも。
  300以上もの雑魚暗殺者に狙われる事もなかったはずだ。
  うーん。
  まあ嫌な気はしませんけどね、この家族。
  フレンドリーな暗殺者達。
  嫌いなら迷わず殺してる。それが出来ないって事は好きって事だ。
  さて。
  「どうしたのですか、妹よ」
  「オチーヴァっ!」
  トカゲの長女に抱き付くアン。抱き付きながら言いたい放題のアン。
  「フィーがね、フィーがね、お前の体には飽きたから捨てるって言うのっ!」
  「なんて酷いっ!」
  すいません。
  オチーヴァお姉様その軽蔑に満ちた瞳は何ですか?
  私が悪いのかーっ!
  「フィーに初めて捧げたのにーっ!」

  イライラしてくる。
  言いたい放題言いやがって。
  私は思わず怒鳴る。
  「何が初めて捧げたよっ! 既に初めてじゃなかったじゃないのさっ!」

  しぃぃぃぃぃぃぃぃぃん。

  沈黙。
  沈黙?
  そんな沈黙を申し訳ないような口調で破ったのはカジートのムラージ・ダール。
  「なぁ親友」
  「何よ?」
  「どうして初めてじゃないなんて知ってるんだ?」
  「はあ? それは……」
  ……。
  ……そ、そうか。
  思わず凄い事を口走ってしまったわけだ。てか思慮に欠けた発言よね、今のは。オチーヴァに抱きついて泣いているアン。しかし私は見逃さなかった。
  笑った。
  アンは笑ったのだ。
  抱きついて泣きながらも口元は勝ち誇った笑みを浮かべていた。
  まさかわざと?
  アンはこれを見越してあんな発言をしたわけか?
  既成事実を狙って?

  うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああこいつ頭すげぇいいんじゃないのーっ!
  策士だ。
  策士だこいつっ!
  絶対にこれは孔明の罠だーっ!
  天然娘な感じはきっと演じているんだこいつもしかして私より頭が良いかもーっ!
  なんてこった。
  なんてこったーっ!
  うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ神様こいつの存在を消してくれぇーっ!
  おおぅ。
  「フィーってば本当にエロエロなんだからー。時と場合を弁えてよ。……あたし、恥かしいじゃない」
  「……」
  屈辱です。
  こいつにエロエロと言われるのが一番の屈辱です。
  ……ちくしょう。
  「でもそんながフィー好きー☆」
  むぎゅー。
  抱きついてくるアン。そしてまるでBGMのように家族達は拍手して祝福する。
  アンの魔の手から逃れられないっぽい私。
  こいつ策士だなー。
  「フィーの初めては奪ってあげるからガンバ☆ 落ち込まなくてもいいからねー☆」
  ……ちくしょう。